日本でいちばん古いころのカレーのレシピには、カエルが入っていた
定番雑学の"その先"No.095

日本でいちばん古いころのカレーのレシピには、カエルが入っていた

明治5年の料理本に、赤ガエルが出てくる。

グレーGRAY

この判定の対象「日本のカレーは、海軍がイギリス海軍から持ちこんで広めた」

うなり度 読む時間8分 出典5件 確認した事実20件
もくじ
  1. カレーは、明治より前から辞書や日記に記録されている
  2. 1872年の料理本には、英語のカレーの料理名がカタカナで書かれていた
  3. 明治のはじめのカレーは長ネギを使い、そのあと日本風の食べ方が増えていった
  4. 海軍の記録にカレーが出てくるのは、料理本より17年あとの1889年
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

鶏、エビ、タイ、カキ、そして赤ガエル。これは、日本に残っているカレーのレシピの中で、いちばん古いものの1つに載っている具です。

その本は、1872年(明治5年)に出た『西洋料理指南(せいようりょうりしなん)』です。国立国会図書館の展示によると、このカレーは、玉ねぎではなく長ネギを使います。そして、「鶏、海老、鯛、蠣赤蛙等ノモノヲ入テ能ク煮」と書いてあります。鶏・エビ・タイ・カキ・赤ガエルなどを入れて、よく煮る、という意味です。バターは大さじ1杯、煮る時間は1時間です。分量や時間まで書かれていました。

「カレーはイギリス経由で日本に来た」「カレーは海軍が広めた」と、よく言われます。けれど、残っている記録を年の順に並べてみると、海軍の記録よりずっと前に、カレーが料理本に載っていたことが分かります。

この記事では、まず明治より前にカレーが出てくる記録を見ます。次に、1872年の料理本から、カレーが英語の国から来たと考えられるわけと、明治のカレーの具を紹介します。最後に、海軍の記録にカレーが出てくる年と比べて、「海軍が広めた」という話がどこまで確かかを考えます。

01カレーは、明治より前から辞書や日記に記録されている

日本の記録にカレーが出てくるのは、実は明治よりも前のことです。

1860年、福沢諭吉はアメリカで、英語と中国語の辞書『華英通語』を買いました。そして帰国してから、日本語の訳と読み方をつけて、本にします。この本に、"Curry" という単語が載っています。海上自衛隊(海自)の年表によると、その読み方は「コルリ」でした。

同じ年表には、1863年の話も載っています。幕府の使節団としてヨーロッパへ向かった三宅秀が、カレーに出会いました。そして、日記に「至って汚きものなり(とても汚いものだ)」と書いたそうです。

記録に残っている限り、カレーライスを最初に食べた日本人は、山川健次郎だと考えられています。のちに物理学者になる人です。1871年、山川は留学のため、船でアメリカへ向かっていました。ひどい船よいで、洋食にもなれず、おなかはぺこぺこでした。山川は迷ったすえに、カレーライスをたのみます。けれど、ご飯の上にかかったカレーは、食べる気になれませんでした。そこで、そえてあった杏の砂糖づけと、ご飯だけを食べたそうです。のちに、本人がそう話しています。

021872年の料理本には、英語のカレーの料理名がカタカナで書かれていた

1872年には、もう1冊、カレーの作り方を載せた本が出ています。仮名垣魯文(かながき・ろぶん)がまとめた『西洋料理通』です。

国会図書館の展示によると、この本には「カリド、ウイル、ヲル、フアウル」と書かれています。その説明は、「カリーの粉にて肉或は鳥を料理するを云」です。カレー粉で肉か鳥を料理すること、という意味です。

このカタカナを英語にもどすと、curried veal or fowl(カレー味の子牛の肉か、鳥)と読めます。英語の料理名を、そのまま音で書きうつしたのでしょう。国会図書館の別の展示も、明治のはじめの西洋料理の本について、こう書いています。こうした本は、欧米のレシピ本を訳したり、外国の人から聞きとったりして作られた、というのです。

福沢の辞書も英語で、料理本のカタカナも英語です。このことから、日本に最初にとどいたカレーは、インドから直接ではなく、英語を話す国を通ってきたと考えられます。北九州市立中央図書館が、調べものの質問に答えた記録も、こう紹介しています。イギリスでカレー粉が作られ、明治時代に日本へ伝わったとされる、というのです。

明治5年の料理本には、英語の料理名がカタカナで書かれていた。
明治5年の料理本には、英語の料理名がカタカナで書かれていた。

03明治のはじめのカレーは長ネギを使い、そのあと日本風の食べ方が増えていった

今のカレーのおなじみの具は、玉ねぎ、にんじん、じゃがいもです。けれど、国会図書館の展示によると、明治のはじめには、こうした西洋の野菜はまだ広まっていませんでした。だから、『西洋料理指南』のカレーは長ネギを使っています。

そのあとのレシピ本を見ると、カレーの具は、どんどん変わっていきます。肉とねぎとりんごのカレーがありました。みそとかつおだしを入れた、さばのカレーもありました。1904年の、家庭向けの雑誌には、「カレーの味噌汁」が載っています。1906年には、カレーにウニと海苔をかける食べ方も紹介されました。

1898年には、石井治兵衛が『日本料理法大全』を出しました。石井家は、江戸幕府の料理番を何代もつとめてきた家です。この本は、カレーを「日本料理」の1つとして書いています。カレーは、日本の料理の本にも載るようになっていたのです。

1908年、夏目漱石の『三四郎』が新聞に載りました。その中に、ある学生が、知り合ったばかりの学生を洋食屋へつれていく場面があります。そして、ライスカレーをおごるのです。気がるにおごれるくらい、ライスカレーは身近な料理になっていました。

04海軍の記録にカレーが出てくるのは、料理本より17年あとの1889年

「カレーを日本に広めたのは海軍で、イギリス海軍をまねたもの」という話も、よく聞きます。

海自のサイトは、こう説明しています。明治のはじめ、日本の海軍はイギリス式のしくみを取り入れていた。兵士は、栄養不足からくる脚気(かっけ)という病気に悩んでいた。そこで、イギリス海軍ですでに使われていたカレーを取り入れた、というのです。

佐世保市の図書館も、海軍についての本をもとに、回答をまとめています。それによると、海軍の記録に初めてカレーが出てくるのは、1889年(明治22年)です。「海軍五等厨夫教育規則」という決まりで、入ったばかりの調理係に料理を教えるためのものでした。また、海軍でカレーは特別な料理ではなかったそうです。ときどき出る、ふだんの料理の1つでした。

ここで、年を比べてみます。料理本にカレーが載ったのは、1872年です。海軍の記録にカレーが出てくるのは、1889年です。そのあいだには、17年の差があります。つまり、カレーは海軍より先に、料理本や西洋料理の店を通って、日本に入っていたのです。たとえば、長崎の「自由亭」は、日本人が初めて開いた西洋料理の店とされます。開いたのは1863年です。いつからかは分かりませんが、自由亭でもカレーが出されていました。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

「日本で初めて」は、どれも「記録に残っている中で初めて」という意味

カレーの歴史には、「日本で初めて」がたくさん出てきます。けれど、どれも正確には「記録に残っている中で初めて」です。国立国会図書館の展示も、カレーが日本に入った正確な時期は分かっていない、とはっきり書いています。

たとえば、山川健次郎がカレーライスをたのんだ話は、1931年に出た本人の思い出話がもとです。60年前の思い出を、本人が語ったものです。それに、記録に残らなかった人の中に、もっと早くカレーを食べた人がいてもおかしくありません。「最初」という言葉は、新しい記録が見つかれば書きかえられる、仮の答えです。

資料には、どれくらい信用できるかの差がある

この記事で使った情報は、どれくらい信用できるかがちがいます。

  • 一次史料:1872年の料理本そのもの。何が書かれているかを、だれでも確かめられる
  • 本人の回想:山川健次郎の話。本人の言葉だが、時間がたってからの記憶
  • 後の時代の説明:海上自衛隊のサイトや、図書館の回答。多くの本をもとにしたまとめで、便利だが、もとの記録を自分で確かめる必要がある

「海軍がイギリス海軍からカレーを取り入れた」という説明は、3つ目の「後の時代の説明」にあたります。筋の通った説明です。でも、それを書いた当時の命令書や記録の名前は、今回の出典には出てきませんでした。当時の記録で確かめられる、海軍のいちばん古いカレーの記録は、1889年の規則です。

カレーは、日本の材料や食べ方に合わせて形を変えながら広まった

明治のカレーの変わり方は、外国の料理が受け入れられるときの、よくある流れです。最初は、外国の本を訳した料理として入ってきます。西洋野菜がまだ広まっていなかったので、玉ねぎの代わりに長ネギが使われました。具には、カエルや魚も入っていました。

やがて、みそ汁にしたり、ウニを載せたりと、日本の食べ方に合わせた工夫が生まれます。1898年には、「日本料理」の本にもカレーが載りました。そして、西洋野菜が広まると、玉ねぎ・にんじん・じゃがいもを使う、今のカレーに近づいていきます。外国の言葉が、日本語に取り入れられてなじんでいくのと同じように、外国の料理も、日本に合わせて形を変えながら根づいていくのです。

この記事に出てきた言葉の意味

  • 一次史料:その出来事の時代に書かれた、もとの記録
  • 回想:本人が後になって思い出して語った記録。一次史料に近いが、記憶ちがいがありうる
  • 脚気:明治の海軍が悩んだ病気。海上自衛隊の説明では、栄養不足が原因とされる
  • 受容:外から来た文化を、自分たちのものとして取りこむこと

05まとめ

日本に残っているカレーのレシピの中で、いちばん古いものの1つは、1872年の『西洋料理指南』です。具は、鶏、エビ、タイ、カキ、赤ガエルでした。玉ねぎの代わりに、長ネギを使っていました。同じ年の『西洋料理通』には、英語の料理名がカタカナのまま残っています。これは、カレーが英語を話す国を通って日本に来たことを示す、大きな手がかりです。

海軍の記録にカレーが出てくるのは、その17年後の1889年です。カレーライスを食べる日には、明治のはじめのカレーにカエルが入っていたことを、思い出してみてください。

人に話すなら、こう言おう

日本でいちばん古いころのカレーのレシピって、カエルが入ってたんだって。明治5年の料理本で、玉ねぎじゃなくてネギを使ってたらしい。海軍がカレーを広めたって話より、ずっと前のことなんだよ。
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英語で読む

The First Curry Recipe in Japan Had Frogs

CEFR A2225 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Chicken, shrimp, fish, oysters, and red frogs.鶏肉、エビ、魚、カキ、そして赤ガエル。 These are the ingredients in one of the oldest curry recipes in Japan.これらは、日本で最も古いカレーのレシピの一つにある材料です。 It appeared in a cookbook in 1872.それは1872年の料理本にのりました。 The recipe used long green onions, because Western onions were not common in Japan yet.西洋の玉ねぎがまだ日本で一般的ではなかったので、そのレシピは長ネギを使いました。

Another cookbook from the same year wrote an English name in Japanese letters.同じ年の別の料理本は、英語の名前を日本の文字で書きました。 It sounds like "curried veal or fowl," which means curry with young cow meat or bird meat.それは「curried veal or fowl」のように聞こえ、子牛の肉か鳥の肉のカレーという意味です。 Earlier, in 1860, the word "curry" was in an English and Chinese dictionary that Fukuzawa Yukichi bought in America.それより前の1860年には、福沢諭吉がアメリカで買った英語と中国語の辞書に「curry」という単語がありました。 So curry probably came to Japan through the English-speaking world.だからカレーは、おそらく英語を話す世界を通って日本に来たのです。

In 1871, a young student named Yamakawa Kenjiro ordered curry rice on a ship to America.1871年、山川健次郎という若い学生が、アメリカへ向かう船でカレーライスを注文しました。 He was seasick, and he could not eat the curry.彼は船よいしていて、カレーを食べられませんでした。 He ate only the rice with some sweet fruit.彼は、甘い果物と一緒にご飯だけを食べました。

Many people say the Japanese navy spread curry because it copied the British navy.日本の海軍がイギリスの海軍をまねてカレーを広めたと言う人はたくさんいます。 But the first navy record of curry is from 1889.しかし、海軍の記録にカレーが初めて出てくるのは1889年です。 That is 17 years after the cookbooks.それは料理本の17年後です。 Also, we could not find an old document that shows the British navy link.また、イギリス海軍とのつながりを示す古い記録は見つけられませんでした。

Later, people added miso, sea urchin, and seaweed to curry.その後、人々はカレーにみそやウニ、海苔を加えました。 In a 1908 novel, a student buys curry rice for a new friend, so it was already a common dish.1908年の小説では、学生が新しい友だちにカレーライスをおごっています。もう身近な料理になっていたのです。 The next time you eat curry, remember that it once had frogs in it.次にカレーを食べるときは、かつてカエルが入っていたことを思い出してください。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When did the first navy record of curry appear?

    海軍の記録にカレーが初めて出てきたのはいつですか。

  3. Q3Why did the 1872 recipe use long green onions?

    1872年のレシピはなぜ長ネギを使ったのですか。

  4. Q4In paragraph 4, the word "copied" is closest in meaning to ...

    第4段落の "copied" に最も意味が近いのは…

  5. Q5Which is true about Yamakawa Kenjiro?

    山川健次郎について正しいものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • recipe名詞
    レシピ、作り方

    My grandmother gave me her recipe for apple pie.

    祖母がアップルパイの作り方を教えてくれた。

    💡 発音は「レサピ」。a recipe for 〜 で「〜の作り方」。

  • ingredient名詞
    材料

    Rice is the main ingredient of this dish.

    米がこの料理の主な材料だ。

    💡 料理の材料。比ゆ的に「成功の要素」の意味でも使う。

  • cookbook名詞
    料理本

    She bought a cookbook about Italian food.

    彼女はイタリア料理の本を買った。

    💡 cook(料理する)+ book。イギリス英語では cookery book とも言う。

  • dictionary名詞
    辞書

    Look up the word in your dictionary.

    その単語を辞書で調べなさい。

    💡 look up 〜 in a dictionary で「辞書で〜を調べる」。

  • seasick形容詞
    船よいした

    I always get seasick on small boats.

    小さな船ではいつも船よいする。

    💡 sea(海)+ sick(気分が悪い)。carsick は「車よい」。

  • navy名詞
    海軍

    His father worked in the navy for ten years.

    彼の父は海軍で10年働いた。

    💡 navy blue(濃い紺色)は海軍の制服の色から。army は「陸軍」。

  • spread動詞
    広める、広がる

    The news spread quickly through the school.

    そのニュースはすぐに学校中に広がった。

    💡 過去形・過去分詞も spread(不規則変化で形が変わらない)。

  • copy動詞
    まねる、写す

    Young children often copy their parents.

    小さな子どもはよく親のまねをする。

    💡 「コピー機で写す」以外に「まねる」の意味でよく使う。過去形は copied。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 20件)。

  1. 第129回常設展示「暮らしを変えた新製品」展示資料リスト(国立国会図書館, 2004)dl.ndl.go.jp
  2. 小さな科学・レシピ本(国立国会図書館 NDLギャラリー)ndl.go.jp
  3. 海上自衛隊カレーの秘密(海上自衛隊)mod.go.jp
  4. 海軍カレーの歴史について知りたい(レファレンス協同データベース・佐世保市立図書館)crd.ndl.go.jp
  5. カレーライスの由来を知りたい(レファレンス協同データベース・北九州市立中央図書館)crd.ndl.go.jp

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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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