アメリカの最高裁は1893年、トマトを「野菜」と決めた
定番雑学の"その先"No.036

アメリカの最高裁は1893年、トマトを「野菜」と決めた

判決文には「植物学では果実」とも書いてある。

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もくじ
  1. 1887年、アメリカのトマト輸入業者が、税金を取り返そうと「トマトは果物だ」と訴えた
  2. アメリカの最高裁は、トマトを「植物学では果実」と認めたうえで、税金の上では野菜と判断した
  3. 植物学には、「野菜」のきちんとした定義がない
  4. 日本の農林水産省の統計では、イチゴもメロンも「野菜」に入る
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

1893年5月10日、アメリカの最高裁判所が、トマトについての判決を出しました。その判決文には、こんな一文があります。「植物学的に言えば、トマトは、キュウリやカボチャの仲間、豆やエンドウと同じく、つる植物の果実である」(グレイ判事、Nix対Hedden事件の判決文)。

「トマトは野菜か果物か」。その答えとして、「アメリカでは裁判で野菜と決まった」という話はよく知られています。でも、その判決文そのものが「植物学では果実」と書いていたことは、あまり知られていません。法廷では、30年も野菜や果物を売ってきた商人が、こんなことまで証言していました。商売で果物と呼ぶのは、種の入った部分だけだ、と。

それでも、最高裁の結論は「野菜」でした。最高裁が理由にしたのは、辞書でも植物学でもありません。トマトが食卓でどう出されるか(デザートとしてか、おかずとしてか)、でした。判決文を順に読むと、物を分けるときは「何のために分けるのか」が大事だと分かります。

この記事では、まず裁判のきっかけと、法廷でのやりとりを紹介します。次に、最高裁がトマトを野菜とした理由を見ます。最後に、植物学や日本の役所での分け方と比べます。

011887年、アメリカのトマト輸入業者が、税金を取り返そうと「トマトは果物だ」と訴えた

始まりは、1883年3月3日にできたアメリカの関税法です。関税とは、外国から品物を入れるときにかかる税のことです。この法律では、輸入する野菜に値段の10%の税金がかかりました。いっぽう、果物(生のもの、熟したもの、乾かしたもの)は、税金のかからない「無税品」のリストに入っていました。

ニックス家(ジョン・ニックスら4人)は、1886年の春に、西インド諸島からトマトを輸入しました。ニューヨーク港で税を集める役人、エドワード・L・ヘッデン(Edward L. Hedden)は、これを野菜として税金をとりました。ニックス家は、いったんは払いました。そのうえで1887年2月4日、払った税金を返せと訴えます。

法廷では、両方の弁護士が、辞書を読み合うことになりました。判決文の記録では、まず原告(訴えた側)の弁護士が、3つの辞書から「果物」「野菜」「トマト」の定義を読みました。ウェブスター、ウスター、インペリアルの3つです。次は、被告(訴えられた側)の番です。ウェブスターの辞書から、エンドウ、ナス、キュウリ、カボチャの仲間(スクワッシュ)、トウガラシの定義を読みます。すると原告側が、ジャガイモ、カブ、パースニップ、カリフラワー、キャベツ、ニンジン、豆の定義を読み返しました。

証人は、30年にわたって果物と野菜を売ってきた商人2人です。2人とも、原告側の弁護士が呼びました。1人目は、商売では「果物」という言葉を、種の入った植物やその部分だけに使う、と述べました。トマトの中には、種がたくさん入っています。2人目は、1883年3月の時点で、果物と野菜という言葉に、辞書のほかの特別な意味はなかった、と証言しました。

第一審(最初の裁判)の裁判所は、被告の申し立てを受けて、陪審員(裁判に参加する市民)に、被告を勝たせる評決(結論)を出すよう指示しました。つまり、最初の裁判ではニックス家が負けたのです。ニックス家はこれに納得せず、最高裁まで争います。

02アメリカの最高裁は、トマトを「植物学では果実」と認めたうえで、税金の上では野菜と判断した

判決が出たのは、1893年5月10日。訴えから、6年あまりがたっていました。裁判所の意見を書いたのは、グレイ判事(Justice Gray)です。

まず判決は、辞書の扱いをはっきりさせました。辞書は証拠ではなく、裁判官の記憶と理解をたすける道具に過ぎない。商売の世界で特別な意味があると示されない限り、法律の言葉は「普通の意味」(ふだん人が使う意味)で読む。判決は、そういう立場をとりました。

そのうえで判決は、初めに紹介した一文を書きます。植物学でいえば、トマトはキュウリやカボチャの仲間、豆やエンドウと同じく、つる植物の果実だ、と。

しかし、売る人も買う人も、ふだんの言葉ではこれらをすべて「野菜」と呼んでいる。家の畑で育てられるのも、ジャガイモやニンジン、キャベツやレタスと同じ。食事のときには、スープや魚、肉と一緒に出される。果物のように、デザートとして出されることはない。これが、トマトを野菜とした判決の理由でした。

判決は、少し前の別の裁判にも触れています。1889年の、ロバートソン対サロモン事件です。この事件では、白い豆が「種」として無税になるかが争われました。最高裁は、豆は植物学では種だと認めました。でも、豆は商売でもふだんの言葉でも種とは呼ばれず、野菜として食べられている、と判断していました。トマトの判決は、こう述べています。トマトを果物に入れようとする主張は、豆を種に入れようとした主張とよく似ている。

03植物学には、「野菜」のきちんとした定義がない

では、植物学でいう「果実」とは何でしょう。ニューヨーク植物園の研究者に、ローレンス・ケリー(Lawrence M. Kelly)がいます。ケリーの解説では、果実とは、熟した子房とその中身のことです。子房は、花のめしべの根もとにある、ふくらんだ部分です。中に、種のもとが入っています。

この定義で見ると、トマトもナスもオクラも果実です。どれも、花がさいたあとに子房がふくらみ、中に種ができるからです。

では、「野菜」の植物学的な定義は? ケリーは、きちんとした定義はないと書いています。私たちが野菜と呼ぶものは、植物のいろいろな部分のよせ集めです。葉(レタス)、茎(アスパラガス)、根(ニンジン)、花のつぼみ(ブロッコリー)などです。

つまり、「果実」と「野菜」は、同じ基準で分けた2つのグループではありません。「果実」は、植物の体のどの部分かを表す言葉。「野菜」は、台所や食卓での使われ方を表す言葉です。トマトは、植物の部分としては果実で、使われ方としては野菜。どちらも正しいのです。

トマトの実は、花の根もとにある「子房」がふくらんだもの。植物学ではこれを果実と呼ぶ。
トマトの実は、花の根もとにある「子房」がふくらんだもの。植物学ではこれを果実と呼ぶ。

04日本の農林水産省の統計では、イチゴもメロンも「野菜」に入る

日本ではどうでしょう。農林水産省は、おおむね2年以上育てる草や木のうち、果実を食べるものを「果樹」として扱っています。

この基準だと、栗や梅は果樹に入ります。ふだん、「果物」とはあまり呼ばないものです。逆に、メロン、イチゴ、スイカは、一年生の草(1年のうちに育って実をつける草)です。そのため、野菜として扱われます。農林水産省の作況調査(作物のでき具合の調査)では、この3つを「果実的野菜」というグループに入れています。

トマトは、「果菜類」です。実を食べる野菜のグループで、キュウリ、ナス、ピーマン、カボチャ、枝豆などと同じ仲間になっています。作況調査の野菜は、5つに分けられています。根菜類・葉茎菜類・果菜類・香辛野菜・果実的野菜です。

同じ日本の役所でも、輸入品を扱う税関の表は、分け方が違います。財務省の関税率表では、トマトは第7類「食用の野菜」です。いっぽう、スイカやメロンは第8類「食用の果実」。イチゴも、第8類の「ストロベリー」に入っています。イチゴは、農林水産省の統計では野菜、税関の表では果実というわけです。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

トマトが果実か野菜かは、何の目的で分けるかで変わる

トマトをめぐる4つの分類を、並べてみます。植物学では果実。1893年の米最高裁の判決(1883年の関税法の上での分け方)では野菜。日本の農林水産省の統計では、果菜類という野菜。EUのジャム指令では果実。どれかが間違っているわけではありません。それぞれ、違う目的のための分け方だからです。

植物学の分類は、花のどの部分から育ったかという体のつくりで分けます。農林水産省は、2年以上育てるかどうかという育て方で分けます。果樹園と畑では、必要な土地も、働き方も、統計の取り方も違うからです。関税は、国境で税を取るためのものです。だから、商売の現場で通じる言葉で分けます。ジャム指令は、ジャムの品質の基準をつくるためのものです。だから、原料として何を使えるかで分けます。

生物の進化のつながりにもとづく分類と、人間の使い道にもとづく分け方(たとえば「薬草」「雑草」「果物」)は、性質が違います。使い道にもとづく分け方は、文化や目的によって境目が動きます。「果物」と「野菜」は、どちらも使い道にもとづく分け方の代表です。

最高裁は、法律の言葉を、ふだん人が使う意味で読んだ

Nix対Hedden判決には、法律の読み方の基本が出てきます。法律の言葉は、特別な意味が証明されない限り、普通の人が使う意味で読む。辞書は証拠ではなく、裁判官が普通の意味を思い出すための道具。この考え方は、法律学で「通常の意味」による解釈と呼ばれるものの一例です。

なぜ、植物学の定義を使わないのでしょう。関税法は、港で働く役人と商人が、毎日使う決まりです。商人は「野菜」と言って売り、客は「野菜」と思って買います。そこに学者の定義を当てはめると、港や店で働く人たちが混乱します。1889年の豆の判決も、同じ考え方でした。豆は植物学では種です。でも、商売でもふだんの言葉でも「種」とは呼ばれず、野菜として食べられています。そのことを理由に、豆は野菜とされました。

ただ、法律の言葉を「普通の意味」で読む方法にも、弱点があります。「普通の意味」は、時代と地域で変わるからです。判決は、トマトがデザートではなく、スープや肉と一緒に出されることを理由にしました。食べ方が変われば、同じ理屈で別の答えが出るかもしれません。

用語のミニ整理

  • 子房:めしべの根もとのふくらんだ部分。受粉すると育って果実になる
  • 果菜類:実を食べる野菜。トマト、キュウリ、ナス、ピーマンなど
  • 従価税:品物の値段に対して何%という形でかける税。1883年法の「10%」がこれにあたる
  • 無税品リスト:関税をかけない品物の一覧。1883年法では果物がここに入っていた

分け方を見たら、「誰が、何のために分けたか」を確かめる

「トマトは本当は果物なんだよ」という言い方は、植物学の分類だけを「本当」と考えています。でも、植物学の分類も道具です。植物の体のつくりと進化を調べる、という目的のための道具です。統計をとる人、税をかける人、ジャムを作る人には、それぞれに合った道具があります。分類に出会ったら、まず「誰が、何のために分けたのか」を確かめる。そうすると、「どちらが正しいか」という言い争いの多くは、なくなっていきます。

05まとめ

1893年、アメリカの最高裁は、トマトを植物学では果実と認めました。そのうえで、関税法の上では「野菜」だと判断しました。理由は、人々がふだんそう呼び、スープや肉と一緒に食べているからです。植物学の「果実」と、食卓の「野菜」は、そもそも別の基準で分けた言葉でした。

日本でも、分け方は目的によって変わります。農林水産省の統計では、イチゴもメロンもスイカも「野菜」。夏にスイカを切り分けるとき、「これ、国の統計では野菜なんだよ」と言ってみてください。

人に話すなら、こう言おう

トマトを野菜と決めた1893年のアメリカの判決、判決文には「植物学ではトマトは果実」ってちゃんと書いてあるんだって。それでも野菜になった理由は「スープや肉と一緒に出すから」らしいよ。
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英語で読む

The Court That Called a Fruit a Vegetable

CEFR A2225 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

In the spring of 1886, a family named Nix brought tomatoes to the port of New York.1886年の春、ニックスという一家がトマトをニューヨーク港に運び入れました。 A tax officer made them pay a tax of 10 percent, because a law from 1883 put a tax on vegetables.1883年の法律が野菜に税金をかけていたので、税関の役人は一家に10%の税金を払わせました。 But fruit was free.でも、果物は無税でした。

The family said that a tomato is a fruit, and they went to court.一家は「トマトは果物だ」と主張し、裁判を起こしました。 One witness had sold fruit and vegetables for 30 years.証人の一人は、30年間果物と野菜を売ってきた人でした。 He said that in his business, the word "fruit" meant a plant part with seeds inside.彼は、自分の商売では「果物」という言葉は中に種がある植物の部分を指す、と言いました。 A tomato has many seeds.トマトには種がたくさんあります。

The case reached the Supreme Court, and the judges decided on May 10, 1893.この裁判は最高裁判所まで進み、判事たちは1893年5月10日に判決を出しました。 Their decision said something many people do not know.その判決には、多くの人が知らないことが書かれていました。 In botany, the science of plants, a tomato is a fruit.植物の科学である植物学では、トマトは果実だ、というのです。 But people call it a vegetable in everyday language.でも人々は、ふだんの言葉ではトマトを野菜と呼んでいます。 We eat it with soup, fish, or meat, not as a dessert.私たちはトマトをスープや魚や肉と一緒に食べ、デザートとしては食べません。 So for the tax law, it was a vegetable.だから税金の法律の上では、トマトは野菜だとされたのです。

The answer can change with the purpose.答えは、目的によって変わることがあります。 In Japan, the farm ministry counts plants that people grow for about two years or more, like plums, as fruit trees.日本では、農林水産省が、梅のようにおよそ2年以上育てる植物を果樹として数えています。 Melons, strawberries, and watermelons grow in one year, so the ministry counts them as vegetables.メロン、イチゴ、スイカは1年で育つので、農林水産省はこれらを野菜として数えています。 But Japanese customs lists strawberries and melons as fruit.でも日本の税関の表では、イチゴやメロンは果実として載っています。 So next summer, when you cut a watermelon, you can tell your friends that it is a vegetable in government farm data.だから次の夏にスイカを切るとき、友達に「これは国の農業の統計では野菜なんだよ」と教えてあげられます。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When did the Supreme Court make its decision?

    最高裁判所はいつ判決を出しましたか。

  3. Q3Why did the court say the tomato was a vegetable?

    裁判所はなぜトマトを野菜だと言ったのですか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "botany" is closest in meaning to

    第3段落の "botany" という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about strawberries in Japan?

    日本のイチゴについて正しいものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • tax名詞
    税金

    We pay a tax when we buy things at a store.

    お店で物を買うとき、私たちは税金を払う。

    💡 pay a tax(税金を払う)の形でよく使う。関税は tariff とも言う。

  • port名詞
    港

    Many ships come into the port every morning.

    毎朝たくさんの船が港に入ってくる。

    💡 airport(空港)は「空の港」。passport も「港を通る」が語源。

  • court名詞
    裁判所、法廷

    She went to court to get her money back.

    彼女はお金を取り戻すために裁判を起こした。

    💡 go to court で「裁判に訴える」。テニスのコートと同じつづり。

  • witness名詞
    証人、目撃者

    The witness told the judge what he saw.

    証人は見たことを裁判官に話した。

    💡 動詞では「目撃する」。eyewitness(目撃者)もよく出る。

  • seed名詞
    種

    Watermelons have many black seeds.

    スイカには黒い種がたくさんある。

    💡 plant a seed で「種をまく」。比ゆ的に「きっかけ」の意味もある。

  • decision名詞
    決定、判決

    It was a hard decision for our team.

    それは私たちのチームにとって難しい決定だった。

    💡 動詞 decide の名詞形。make a decision で「決める」。

  • botany名詞
    植物学

    My sister studies botany at college.

    姉は大学で植物学を勉強している。

    💡 botanical(植物の)、botanical garden(植物園)も一緒に覚える。

  • purpose名詞
    目的

    What is the purpose of this meeting?

    この会議の目的は何ですか。

    💡 on purpose で「わざと」。for the purpose of ~ で「~のために」。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 23件)。

  1. Nix v. Hedden, 149 U.S. 304 (1893)(Cornell Law School LII)law.cornell.edu
  2. Robertson v. Salomon, 130 U.S. 412 (1889)(Cornell Law School LII)law.cornell.edu
  3. 野菜の区分について教えてください。(農林水産省 消費者の部屋)maff.go.jp
  4. Kelly, L. M. (2014) What is a Fruit?(ニューヨーク植物園 Science Talk)nybg.org
  5. 実行関税率表 第7類・第8類(財務省 税関)customs.go.jp
  6. Council Directive 2001/113/EC, Annex III(legislation.gov.uk)legislation.gov.uk

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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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