「ビルから落とした1セント硬貨で人が死ぬ」はウソで、硬貨は回りながら遅く落ちる
都市伝説ファクトチェックNo.181

「ビルから落とした1セント硬貨で人が死ぬ」はウソで、硬貨は回りながら遅く落ちる

ある物理学者は、気球から落とした1セント硬貨を頭に受けた。

ウソFALSE

この判定の対象「ビルから落とした1セント硬貨で人が死ぬ」

うなり度 読む時間8分 出典6件 確認した事実21件
もくじ
  1. 空気がなければ、硬貨は時速約336kmで歩道に届く
  2. 空気の抵抗が重さとつり合うと、それ以上速くならない
  3. 1セント硬貨はくるくる回るので、時速約40kmより速くならない
  4. 気球から落とした硬貨は、頭に当たっても痛くなかった
  5. 硬貨より危ないのは、先を下にして落ちるボールペン
  6. 深掘り講義
  7. まとめ
  8. 英語で読む(A2・4択5問)
  9. 出典・ウラ取り

「エンパイア・ステート・ビルの上から1セント硬貨を落とすと、下の歩道に穴があく」。アメリカでは、こんな話がよく知られています。歩道に穴があくほどなら、人に当たれば命にかかわりそうです。

エンパイア・ステート・ビルは、ニューヨークにある高いビルです。ビルの公式サイトによると、102階の屋上までで380m、先のアンテナまで入れると443mあります。そんな高さから落ちてくれば、小さな硬貨でもすごい速さになりそうです。

ルイス・ブルームフィールド(Louis A. Bloomfield)は、アメリカのバージニア大学で物理学を教えています。ブルームフィールドは、この話を有名な都市伝説だと書いています。そして、本当かどうかを自分で確かめました。

この記事では、まず、空気がなかったら硬貨がどれくらい速くなるかを見ます。次に、空気の抵抗が硬貨の速さをどう止めるのかを説明します。最後に、ブルームフィールドの実験と、硬貨より危ない物の話を紹介します。

01空気がなければ、硬貨は時速約336kmで歩道に届く

物が落ちるとき、重力は物を1秒ごとに速くしていきます。その速くなり方は、1秒あたり秒速9.8m、時速にすると約35kmずつです。

ブルームフィールドの計算では、空気がなかった場合、ビルの上から落とした硬貨は、歩道に着くときに時速約336kmになります。これは確かに、歩道を傷つけるほどの速さです。

ところが、実際には空気があります。ブルームフィールドは、次のように書いています。落ちてくる石は、高い所から落ちるほど危なくなる。ところが雨つぶや雪、木の葉は、どんなに高い所から落ちても危なくない。この違いを生むのは重力ではなく、空気の抵抗だ、というのです。

02空気の抵抗が重さとつり合うと、それ以上速くならない

落ちている物は、下からの空気に押されます。この力が空気の抵抗です。抵抗の力は、速く落ちるほど強くなります。

落ち始めたばかりの物は、まだ遅いので、抵抗は小さいままです。そのため、重さに引かれてどんどん速くなります。ところが速くなるにつれて、上向きの抵抗も強くなります。そしてある速さで、上向きの抵抗と下向きの重さがちょうどつり合います。

つり合ったあとは、物はそれ以上速くならず、同じ速さで落ち続けます。この速さを「終端速度」といいます。NASAのグレン研究センターの説明でも、抵抗と重さが等しくなると、物は一定の速さで落ちる、とされています。

終端速度は、物によって大きく違います。NASAによると、同じ重さなら、大きく平らな板は、小さな球よりゆっくり落ちます。ブルームフィールドは、重くて、後ろにできる乱れた空気の幅がせまい物ほど終端速度が大きい、と説明しています。逆に、軽くて、後ろの乱れた空気の幅が広い物ほど、終端速度は小さくなります。大きな石は前のほう、雨つぶや雪、木の葉は後のほうです。

031セント硬貨はくるくる回るので、時速約40kmより速くならない

では、1セント硬貨はどちらに近いのでしょう。ブルームフィールドによると、硬貨は石より木の葉に近い仲間です。

硬貨は、落ちながらくるくる回ります。すると、後ろに広く乱れた空気ができて、大きな抵抗を受けます。そのため、硬貨の終端速度は時速約40kmしかありません。

ブルームフィールドは、これを実験で確かめました。扇風機とプラスチックの管を使って、下から上へ風をふき上げる小さな装置を作ったのです。こうした装置を「風洞」といいます。硬貨が落ちる代わりに、空気のほうを下から当てるしくみです。

管の中に硬貨を入れて、風の強さを変えていきました。風が弱いと、硬貨は管の底に落ちました。風が強すぎると、硬貨は管の外に吹き飛ばされました。ちょうどよい強さのとき、硬貨は管の中でふわふわと浮きました。そのときの風の速さが、時速約40kmでした。これが硬貨の終端速度です。

管の中の硬貨は、やはりくるくる回っていました。ブルームフィールドによると、硬貨は空気の流れの中で、同じ向きを保つことができません。風が当たる側が、すぐに反対側へ回ってしまうのです。

下から風をふき上げる管の中では、風が時速約40kmのとき、硬貨が宙に浮いた(イメージ)。
下から風をふき上げる管の中では、風が時速約40kmのとき、硬貨が宙に浮いた(イメージ)。

04気球から落とした硬貨は、頭に当たっても痛くなかった

ブルームフィールドは、最後の確かめとして、もう一つ実験をしました。無線で動かせる「硬貨落とし装置」を作り、ヘリウムを入れた気象観測用の気球につるしたのです。気球は、高さ数百フィート(1フィートは約30cm)まで上がりました。

近所の公園で、少し風のある日でした。合図を送ると、装置は硬貨を1枚ずつ落としていきます。ブルームフィールドは、下でそれを手で受けようとしました。

手では、うまく受けられませんでした。何枚かは手に当たってはね、1枚は頭に当たってはねました。それでも、硬貨はとてもゆっくり落ちてきたので、まったく痛くなかったといいます。ブルームフィールドは、硬貨に当たるより、でこぼこの地面で足首をひねるほうが危なかった、と書いています。

05硬貨より危ないのは、先を下にして落ちるボールペン

ブルームフィールドは、硬貨は危なくないと結論しました。けれども、どんな物でも安全だと言っているわけではありません。

ボールペンは、硬貨より重く、細長い形のものが多くあります。ブルームフィールドが風洞にボールペンを入れると、ほとんどどれも下まで落ちてしまいました。管の中で浮かせられるほど、強い風を作れなかったのです。

ペンが先を下に向けたまま落ちると、空気の抵抗をあまり受けません。矢や小さなロケットが、羽根やひれで先を前に向けて飛ぶのと同じです。ブルームフィールドによると、重くて細長く、先を下にして落ちるペンなら、歩道に着くときもまだ速くなり続けています。速さは時速約336km近くになり、歩道を傷つけるだろう、といいます。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

空気の抵抗には、「こする抵抗」と「後ろにできる渦の抵抗」がある

ブルームフィールドは、空気の抵抗を2種類に分けて説明しています。

1つ目は、物の表面を空気がこすっていく抵抗です。けむりやほこりのような、とても小さな粒には大事ですが、硬貨くらいの大きさの物には弱すぎて、あまり効きません。

2つ目は、物の後ろに、乱れた空気のかたまりができることによる抵抗です。空気は物の横を回りこみますが、物の後ろまでは回りきれずに、表面から離れてしまいます。すると物の後ろに、ぐるぐる乱れた空気ができます。物は、この乱れた空気を引きずりながら進むことになります。

この抵抗の大きさは、後ろにできる乱れた空気の広さ(後ろから見たときの断面の大きさ)と、速さの2乗に比例します。乱れた空気の広さが同じなら、速さが2倍になると、抵抗は4倍になります。硬貨は回りながら落ちるので、後ろに広い乱れができて、大きな抵抗を受けるのです。

平らな円板の落ち方は、4種類ある

平らな物が、空気や水の中をどう落ちるか。この問題は、少なくともニュートンやマクスウェルの時代から研究されてきました。

1997年、アメリカのコロラド州立大学とミシガン大学の研究者たちは、水とグリセリンを混ぜた液体の中で円板を落とし、4種類の落ち方を見つけました。その後の研究では、硬貨や薄い円板の落ち方は、次の4つに分けられています。

  • まっすぐ落ちる
  • 左右にゆらゆらゆれながら落ちる
  • 決まった形のない、でたらめな動きで落ちる
  • くるくる回りながら落ちる

どの落ち方になるかは、円板の回りにくさと、まわりの流れの速さや大きさ(レイノルズ数という数)で決まります。1セント硬貨が空気の中で見せたのは、4つ目のくるくる回る落ち方でした。

穴のあいた円板は、落ち方が落ち着く

2016年、ある研究チームは、真ん中に穴のある円板の落ち方を、実験で調べました。日本の5円玉のような形です。

穴を大きくしていくと、円板の落ち方は、くるくる回る落ち方から、でたらめな落ち方、そしてゆらゆらの落ち方へと変わりました。研究チームは、これを落ち方の「安定化」と呼んでいます。

なぜでしょう。円板の外側のふちには、輪の形の渦ができます。穴のある円板では、さらに穴のふちにも、逆向きに回る輪の渦ができました。この内側の渦が、円板の落ち方を落ち着かせていたのです。研究チームは、この結果が、空を飛ぶロボットの設計に役立つかもしれない、と書いています。

ひょうの落ちる速さと比べると

空から落ちてくる氷のつぶ、ひょうも、終端速度で落ちてきます。NSSLによると、直径約2.5cmより小さなひょうは時速約14〜40kmで落ちます。1セント硬貨の時速約40kmは、この小さなひょうの速さの上のほうと同じくらいです。

ひょうは大きいほど速く落ちます。直径約5〜10cmのひょうは時速約71〜116km、10cmをこえると時速約160kmをこえることもあります。ただしNSSLは、ひょうの形やとけ具合、風によって、落ちる速さは大きく変わるとも書いています。

06まとめ

「ビルから落とした1セント硬貨で人が死ぬ」はウソです。1セント硬貨は、落ちながらくるくる回り、後ろに広い乱れた空気を作って、大きな抵抗を受けます。そのため、時速約40kmより速くなりません。

ブルームフィールドが気球から落とした硬貨は、頭に当たってはねても、痛くありませんでした。エンパイア・ステート・ビルの上から落とした硬貨は、空気がなければ時速約336kmになるはずです。それを空気が、約8分の1の時速約40kmにおさえるのです。

人に話すなら、こう言おう

ビルから落とした硬貨で人が死ぬって話、ウソなんだって。1セント硬貨はくるくる回って空気のブレーキを受けるから、時速40kmくらいにしかならない。気球から落とした硬貨は、頭に当たっても痛くなかったって。
READ IN ENGLISH

英語で読む

The Falling Penny

CEFR A2217 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

There is a famous story about the Empire State Building in New York.ニューヨークのエンパイア・ステート・ビルについて、有名な話があります。 People say a penny dropped from the top could make a hole in the sidewalk.ビルの上から落とした1セント硬貨が、歩道に穴をあけることがある、というのです。 Some even say it could kill a person.人を死なせることさえある、と言う人もいます。

The building is 443 meters tall, including its antenna.このビルは、アンテナまで入れて高さ443メートルです。 Without air, a penny falling that far would reach about 336 kilometers per hour.空気がなければ、その高さから落ちる硬貨は時速約336キロメートルになります。 But there is air, and air pushes back on falling things.でも空気はあり、空気は落ちてくる物を押し返します。 This push is called drag.この押し返す力を、空気の抵抗といいます。

Louis Bloomfield, a physics professor in the United States, tested pennies.アメリカの物理学の教授ルイス・ブルームフィールドは、1セント硬貨を調べました。 He made a tube with a fan that blew air up.彼は、扇風機で空気を上へふき上げる管を作りました。 When the air moved at about 40 kilometers per hour, a penny floated in the tube.空気が時速約40キロメートルで動いたとき、硬貨は管の中で浮きました。 So a falling penny does not go faster than about that speed.つまり、落ちてくる硬貨は、だいたいその速さより速くならないのです。 A penny tumbles as it falls, and this makes a lot of drag.硬貨は落ちながらくるくる回り、そのせいで大きな抵抗を受けます。 Raindrops and leaves also fall slowly because of drag.雨つぶや木の葉がゆっくり落ちるのも、空気の抵抗のためです。

Then he tied a penny dropper to a big balloon and sent it high into the air.次に彼は、硬貨を落とす装置を大きな気球につけて、空高く上げました。 The pennies fell slowly.硬貨はゆっくり落ちてきました。 One even hit him on the head, but it did not hurt at all.1枚は彼の頭に当たりましたが、まったく痛くありませんでした。

A heavy pen that falls point first is a different story.でも、先を下にして落ちる重いペンは、話が別です。 It could still be speeding up when it reaches the ground.地面に着くときも、まだ速くなり続けているかもしれないのです。 So pennies are safe, but please do not drop things from high places.ですから、硬貨は安全ですが、高い所から物を落とすのはやめましょう。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2At what speed did the penny float in the tube?

    硬貨は、管の中でどれくらいの速さの風のときに浮きましたか。

  3. Q3Why does a penny fall slowly?

    硬貨がゆっくり落ちるのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "tumbles" is closest in meaning to

    第3段落の "tumbles" に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true according to the story?

    本文の内容に合うものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • sidewalk名詞
    歩道

    Children were drawing on the sidewalk with chalk.

    子どもたちがチョークで歩道に絵をかいていた。

    💡 アメリカ英語。イギリス英語では pavement。

  • drag名詞
    (空気や水の)抵抗

    A parachute uses drag to slow down.

    パラシュートは空気の抵抗を使って速さを落とす。

    💡 動詞の drag は「引きずる」。物が空気を引きずるイメージで覚える。

  • tumble動詞
    くるくる回る、転がり落ちる

    The box tumbled down the stairs.

    箱が階段を転がり落ちた。

    💡 洗濯物を回して乾かす機械は tumble dryer。

  • tube名詞
    管、筒

    Put the paper in a long tube.

    その紙を長い筒に入れてください。

    💡 ロンドンの地下鉄も the Tube と呼ばれる。

  • float動詞
    浮く、浮かぶ

    A feather can float in the air for a long time.

    羽根は長い間空中に浮かんでいられる。

    💡 水に浮く、空中に浮く、どちらにも使える。

  • balloon名詞
    気球、風船

    The red balloon flew away into the sky.

    赤い風船が空へ飛んでいった。

    💡 l と o を2つずつ書く。weather balloon で「気象観測用の気球」。

  • professor名詞
    (大学の)教授

    My aunt is a professor of history.

    私のおばは歴史学の教授だ。

    💡 a professor of ~ で「~の教授」。

  • point名詞
    (とがった)先

    Be careful with the point of the knife.

    ナイフの先に気をつけて。

    💡 point first で「先を前(下)にして」。「点」「要点」の意味もある。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 21件)。

  1. Bloomfield, L. A. (2012) How dangerous is a penny falling from the Empire State Building?, How Everything Works(バージニア大学物理学教授の解説サイト)howeverythingworks.org
  2. Terminal Velocity(NASA グレン研究センター)grc.nasa.gov
  3. Field, S. B. et al. (1997) Chaotic dynamics of falling disks, Naturedoi.org
  4. Vincent, L., Shambaugh, W. S. & Kanso, E. (2016) Holes stabilize freely falling coins, Journal of Fluid Mechanicsdoi.org
  5. Severe Weather 101: Hail(アメリカ国立暴風雨研究所 NSSL)nssl.noaa.gov
  6. Facts & Figures(エンパイア・ステート・ビル公式)esbnyc.com

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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