「コウモリは目が見えない」はウソ
定番雑学の"その先"No.100

「コウモリは目が見えない」はウソ

遠くの景色は、超音波ではなく目で見ている。

ウソFALSE

この判定の対象「コウモリは目が見えない」

うなり度 読む時間9分 出典6件 確認した事実21件
もくじ
  1. 目をふさいだコウモリでも暗やみを飛べることが、1794年の実験で分かった
  2. コウモリが超音波で大きな物を見つけられるのは、長くても100m先まで
  3. コウモリは、小さな虫は超音波で、遠くの景色は目で見つけている
  4. オオコウモリの多くは、超音波を使わずに目や鼻に頼っている
  5. 一部のコウモリの目には、紫外線を感じる細胞がある
  6. 深掘り講義
  7. まとめ
  8. 英語で読む(A2・4択5問)
  9. 出典・ウラ取り

夕方、日がしずんだばかりの空を、コウモリが飛びはじめます。空には、まだ明るさが残っています。このときコウモリは、超音波を出して虫をさがしながら、目でも景色を見ていると考えられています。

「コウモリは目が見えないから、超音波を頼りに飛ぶ」という話をよく聞きます。でも、アメリカ地質調査所(USGS)の答えは、はっきりしています。「いいえ、コウモリは目が見えなくはありません」というのです。

研究から分かったことは、ほかにもあります。コウモリが超音波で大きな物を見つけられる距離は、長くても100mほどです。遠くの景色を見るのは、むしろ目の仕事だと考えられています。

この記事では、まず「コウモリは目が見えない」と思われるようになった1794年の実験を紹介します。次に、目と超音波のそれぞれが、何を見つけるのが得意かを比べます。最後に、超音波を使わないコウモリや、紫外線が見えるコウモリの研究を紹介します。

01目をふさいだコウモリでも暗やみを飛べることが、1794年の実験で分かった

コウモリと目の話は、18世紀の実験にさかのぼります。実験したのは、ラザロ・スパランツァーニ(Lazzaro Spallanzani)という科学者です。1794年、スパランツァーニは、目をふさいだコウモリも、真っ暗な中でぶつからずに飛べると書きました。

その後、ジュネーブのルイ・ジュリーヌ(Louis Jurine)は、コウモリの耳の穴をふさぐ実験をしました。すると、コウモリは物にぶつかるようになりました。コウモリは、飛ぶのに耳を使っていたのです。1908年にも、別の研究者が「コウモリは飛ぶのに耳を使う」という同じ結論を出しています。

でも、なぜ耳を使うのかは、なぞのままでした。コウモリは、ほとんど音を立てずに飛ぶように見えたからです。1920年、ハートリッジという研究者が、こう考えました。コウモリは、人に聞こえない高い音を出して、そのはね返りを聞いているのではないか、というのです。この考えが確かめられたのは、およそ20年後です。研究者のピアースが、超音波を聞きとる機械を作りました。この機械を使って、ピアースとグリフィンが1938年に確かめたのです。

自分で出した音のはね返り(反響)で、まわりのようすを知ること。これを「反響定位(エコーロケーション)」と言います。

02コウモリが超音波で大きな物を見つけられるのは、長くても100m先まで

超音波には、弱点があります。高い音ほど、空気の中ですぐに弱まってしまうのです。2022年の総説(いくつもの研究をまとめた論文)は、反響定位で物を見つけられる範囲は、数メートルほどに限られると書いています。ただし、森のような大きな物なら、もっと遠くからでも見つけられます。

2013年、イスラエルのボーンマン(Arjan Boonman)らの研究チームが、コウモリの目と超音波を比べた論文を出しました。この論文は、ほかの研究の見積もりを紹介しています。森のへりのような大きな物でも、超音波で見つけられるいちばん遠い距離は約50mです。90mという見積もりもありますが、どの見積もりも100mより近い距離です。

では、目はどうでしょう。論文は、計算の例を挙げています。コウモリの目が、0.5°という角度の細かさまで見分けられるとします。すると、直径5mの球を2km先から見つけられるというのです。遠くの景色や大きな障害物なら、目は超音波の何十倍も遠くまで届くのです。

コウモリの超音波(波の輪)が届くのは近くだけ。遠くの森や山は、目で見ている。
コウモリの超音波(波の輪)が届くのは近くだけ。遠くの森や山は、目で見ている。

03コウモリは、小さな虫は超音波で、遠くの景色は目で見つけている

では、超音波は何を見つけるのが得意なのでしょう。ボーンマンらは、日がしずんだ直後に狩りをはじめる、2種のコウモリを調べました。どちらも、まだ10ルクス(明るさの単位)より明るいうちに、ねぐらを出ます。そして、暗くなるまで、少なくとも1時間は狩りができます。

計算すると、1〜10ルクスのうす明かりでも、蚊のような小さな虫を見つけるのは、超音波のほうが得意でした。超音波で虫を見つけられる距離は、目の最大で2倍ほどです。また、目で虫をさがすときは、虫のうしろにある景色も問題になります。うしろが空ではなく草や木だと、虫とうしろの景色の明るさの差が3〜5分の1になり、虫を見つけにくくなるのです。

そこで研究チームは、コウモリは2つの感覚を同時に使っている、と考えました。飛ぶ方向を決めたり、大きな障害物をよけたりするのは、おもに目です。小さな獲物をさがすのは、おもに超音波です。たとえば、虫を超音波で追いかけながら、目で近くの木や建物の位置をつかんでいる、というわけです。

04オオコウモリの多くは、超音波を使わずに目や鼻に頼っている

コウモリといっても、いろいろな種類がいます。オオコウモリの仲間(果物を食べる大型のコウモリ)の多くは、反響定位を使いません。目や鼻などに頼って暮らしています。

オオコウモリの中で例外なのが、ルーセットオオコウモリの仲間です。ほかのコウモリは、のどから声を出して反響定位をします。でも、この仲間は、舌を鳴らして短い「カチッ」という音を出し、反響定位をします。

2019年、イスラエルのテルアビブ大学のダニロビッチ(S. Danilovich)とヨベル(Yossi Yovel)が、論文を出しました。2人は、エジプトルーセットオオコウモリで、3つの実験をしました。1つ目に、目と超音波の両方が使える場面でも、コウモリは物の立体の形を、目で見た情報だけで覚えていました。2つ目に、コウモリは超音波で調べた物の形を、頭の中で「目で見た形」に置きかえることもできました。3つ目の飛ぶ実験では、どこへ飛ぶかを決めるときは、目をおもに頼りにしました。障害物に近づくときは、超音波をおもに頼りにしました。

05一部のコウモリの目には、紫外線を感じる細胞がある

目の奥にある網膜には、光を感じる細胞(視細胞)が2種類あります。暗いところで働く「桿体(かんたい)」と、明るいところで色を見る「錐体(すいたい)」です。昔、コウモリの目を切り開いて調べた研究は、コウモリには錐体がまったくないと結論していました。

2009年、ドイツのマックス・プランク研究所のミュラー(Brigitte Müller)らは、ヘラコウモリの仲間2種の網膜を調べました。そのうち1種は、花のみつを吸うコウモリです。調べると、どちらにも錐体があり、錐体は視細胞全体の2〜4%でした。

錐体には、2種類ありました。1つは、紫外線(波長400nm未満の光)に感じる「S錐体」です。もう1つは、紫外線より波長の長い光に感じる「L錐体」です。目に電極を当てて電気の反応を記録すると、目が紫外線によく反応することが確かめられました。また、目の表面の角膜と、レンズの役目をする水晶体も、紫外線をよく通していました。

紫外線が見えると、何の役に立つのでしょう。研究チームは、3つの候補を挙げています。夕暮れに方向を知ること、天敵を避けること、紫外線をはね返す花を見つけることです。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

目は遠くを広く見るのが得意で、超音波は小さな虫を見つけるのが得意

感覚を比べるときは、2つのことを分けて考えます。「どれだけ遠くまで届くか」と、「どれだけ細かく分かるか」です。ボーンマンらの論文は、書き出しで目の強みをこう説明しています。目は、何十万個ものセンサーが平らに並んだカメラのようなものだ。だから、一度にたくさんの場所の情報を受けとれる。耳は、それに比べると、受けとれる場所の情報が少ない。また、音は光より波長がずっと長いので、音が来た方向を細かく見分けにくい、というのです。

それでも、多くのコウモリが反響定位を発達させました。その理由として、論文は「小さな虫を見つける力」を挙げています。夕暮れの1〜10ルクスほどの光でも、蚊のような小さな虫は、超音波のほうが見つけやすいのです。しかも反響定位は、物までの距離や、物が動く速さを正確に知るのが得意です。論文は、こう考えています。小さな虫をとらえる力があったから、コウモリは夜の空で暮らせるようになったのかもしれない、というのです。

コウモリが超音波を使って飛ぶと確かめられるまで、1794年の実験から140年以上かかった

1794年のスパランツァーニの実験から、1938年に超音波が確かめられるまで、140年以上かかりました。大きな理由の1つは、当時の技術では、人の耳に聞こえない音をはかれなかったことです。

2013年のブリンクロフらの総説は、こんな話を紹介しています。スパランツァーニの実験の約20年後に、フンボルトがベネズエラの洞くつで、アブラヨタカという鳥の音を聞いていました。この鳥は、カチカチ鳴きながら暗い洞くつを飛んでいたのです。アブラヨタカの音は、人にも聞こえる音でした。総説は、もしスパランツァーニとフンボルトがやりとりしていれば、なぞはもっと早く解けたかもしれない、と書いています。

この歴史からは、もう1つ大事なことが分かります。「目をふさいでも飛べた」という事実は、「目は役に立たない」という意味ではなかった、ということです。スパランツァーニの実験が答えたのは、「暗やみで何を使って飛ぶか」という問いでした。「明るいときに何を使うか」は、まったく別の問いです。

コウモリは、やることに合わせて目と超音波の使い方を変えている

ダニロビッチとヨベルの研究は、「感覚の統合」という研究の分野につながっています。感覚の統合とは、目や耳など、いくつもの感覚の情報を、脳でまとめることです。人の場合、物がどこにあるかを判断するときは、目の情報が優先されやすいことが知られています。いつ起きたかを判断するときは、耳の情報が優先されやすいです。さらに、ある感覚の情報がぼやけると、別の感覚がより重く使われます。2人の論文も、こうした先の研究を紹介しています。

エジプトルーセットオオコウモリは、目と超音波という同じ2つの感覚を、やることによって使い分けていました。どこへ飛ぶかを大まかに決めるときは目、障害物の直前では超音波です。2人は、次のようにまとめています。コウモリが目と超音波のどちらをどれくらい頼りにするかの決め方は、これまで考えられていたより複雑だ、というのです。

この記事に出てきた言葉の意味

  • 反響定位(エコーロケーション):自分の出した音のはね返りで、まわりのようすを知ること
  • 錐体:明るいところで色を見る視細胞。ミュラーらが調べたコウモリには、SとLの2種類があった
  • ルクス:明るさの単位。日がしずんだ直後の薄明かりは、1〜10ルクスほど
  • 感覚の統合:目・耳など、いくつもの感覚の情報を脳でまとめること

06まとめ

コウモリは、目が見えないわけではありません。コウモリが超音波で大きな物を見つけられるのは、長くても100mほどです。遠くの景色や大きな障害物は、目のほうがずっと遠くから見つけられます。小さな虫をさがすのは超音波、遠くを見わたすのは目です。コウモリは、この2つを同時に使っています。

超音波を使わずに目で暮らすオオコウモリもいれば、紫外線が見えるコウモリもいます。夕方の空を飛ぶコウモリを見かけたら、思い出してください。その小さな目も、ちゃんとあなたを見ているかもしれません。

人に話すなら、こう言おう

コウモリって目が見えないと思われてるけど、ちゃんと見えてるんだって。超音波で森のはしを見つけられるのは50mくらいまで。遠くの景色は目で見てるらしい。紫外線が見えるコウモリまでいるんだよ。
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英語で読む

Bats Can See

CEFR A2228 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

People often say, "Bats are blind, so they fly with sound."「コウモリは目が見えないから、音で飛ぶ」とよく言われます。 But the U.S. Geological Survey gives a clear answer.でも、アメリカ地質調査所ははっきり答えています。 No, bats are not blind.いいえ、コウモリは目が見えなくはありません。 They have small eyes that work well in low light.コウモリには、暗い光の中でもよく働く小さな目があります。

Many bats use echolocation.多くのコウモリは反響定位を使います。 They make very high sounds and listen for the echoes, the sounds that come back.とても高い音を出して、反響、つまりはね返ってくる音を聞くのです。 This is great for finding small insects.これは小さな虫を見つけるのにとても向いています。 But high sounds become weak very quickly in the air.でも、高い音は空気の中ですぐに弱くなります。

In 2013, scientists in Israel compared bat eyes and echolocation.2013年、イスラエルの科学者たちが、コウモリの目と反響定位を比べました。 With sound, a bat can find the edge of a forest from only about 50 meters away.音では、コウモリは森のはしを約50メートル先からしか見つけられません。 With its eyes, it may see a large object from 2 kilometers away.目なら、大きな物を2キロメートル先から見ることができるかもしれません。 So the scientists think bats use both.そこで科学者たちは、コウモリは両方を使っていると考えています。 They use sound for small insects and their eyes for faraway places.小さな虫には音を、遠くの場所には目を使うのです。

Some bats do not use echolocation at all.反響定位をまったく使わないコウモリもいます。 Most large fruit bats find their way with their eyes and noses.大型のフルーツバットの多くは、目と鼻をたよりに進みます。 In 2009, scientists also found special cells in the eyes of two kinds of small bats.2009年には、科学者たちが2種類の小さなコウモリの目に特別な細胞も見つけました。 These cells react to ultraviolet light, a kind of light that people cannot see.その細胞は、人には見えない光である紫外線に反応します。 One of these bats drinks nectar from flowers.そのうち1種は、花のみつを飲むコウモリです。

Long ago, in 1794, a scientist covered the eyes of bats.ずっと昔の1794年、ある科学者がコウモリの目をおおいました。 The bats still flew without hitting things.それでもコウモリは物にぶつからずに飛びました。 But that only showed that bats can fly with their ears in the dark.でもそれは、コウモリが暗やみでは耳で飛べることを示しただけでした。 It never showed that their eyes are useless.目が役に立たないことを示したわけではなかったのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2From how far can a bat find the edge of a forest with sound?

    コウモリは音で、森のはしをどのくらい先から見つけられますか。

  3. Q3Why can't bats find faraway things with echolocation?

    コウモリが反響定位で遠くの物を見つけられないのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 2, the word "echoes" means

    第2段落の "echoes" の意味はどれですか。

  5. Q5What did the 1794 study really show?

    1794年の研究が本当に示したのは何ですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • blind形容詞
    目の見えない

    The old dog is almost blind, but it can still smell well.

    その老犬はほとんど目が見えないが、まだにおいはよくわかる。

    💡 go blind で「目が見えなくなる」。窓の「ブラインド」も同じつづり。

  • echo名詞
    反響、こだま

    We heard an echo in the mountains.

    山でこだまが聞こえた。

    💡 複数形は echoes。echolocation は echo+location(位置)。

  • insect名詞
    昆虫、虫

    Ants and bees are insects.

    アリとハチは昆虫だ。

    💡 クモは足が8本なので、ふつう insect には入らない。

  • compare動詞
    比べる

    Let's compare the prices of these two bags.

    この2つのかばんの値段を比べよう。

    💡 compare A with B で「AとBを比べる」。

  • ultraviolet形容詞・名詞
    紫外線(の)

    Sunscreen protects your skin from ultraviolet light.

    日焼け止めは紫外線からはだを守る。

    💡 ultra(こえた)+violet(紫)。略して UV。

  • react動詞
    反応する

    The cat reacted to the sound of the door.

    ネコはドアの音に反応した。

    💡 react to ~ で「~に反応する」。名詞は reaction。

  • nectar名詞
    (花の)みつ

    Bees collect nectar from flowers.

    ハチは花からみつを集める。

    💡 ジュースの「ネクター」もこの語から。

  • useless形容詞
    役に立たない

    This old phone is useless now.

    この古い電話は今では役に立たない。

    💡 use+less(ない)。反対は useful(役に立つ)。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 21件)。

  1. Are bats blind?(U.S. Geological Survey)usgs.gov
  2. Boonman, A. et al. (2013) It's not black or white—on the range of vision and echolocation in echolocating bats, Frontiers in Physiology 4:248doi.org
  3. Müller, B. et al. (2009) Bat eyes have ultraviolet-sensitive cone photoreceptors, PLoS ONE 4(7):e6390doi.org
  4. Danilovich, S. & Yovel, Y. (2019) Integrating vision and echolocation for navigation and perception in bats, Science Advances 5(6):eaaw6503doi.org
  5. Beetz, M. J. & Hechavarría, J. C. (2022) Neural Processing of Naturalistic Echolocation Signals in Bats, Frontiers in Neural Circuits 16doi.org
  6. Brinkløv, S., Fenton, M. B. & Ratcliffe, J. M. (2013) Echolocation in Oilbirds and swiftlets, Frontiers in Physiology 4:123doi.org

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