店に並ぶバナナの多くは、ほぼ同じ遺伝子をもつクローン
定番雑学の"その先"No.102

店に並ぶバナナの多くは、ほぼ同じ遺伝子をもつクローン

前の品種は、病気で消えてしまった。

グレーGRAY

この判定の対象「店のバナナは、ほぼ全部が同じ1本の株のクローンだ」

うなり度 読む時間9分 出典5件 確認した事実23件
もくじ
  1. 種のないバナナは株分けで増やすので、どの株も遺伝子がほぼ同じになる
  2. 前に世界でいちばん売られていたグロスミッチェルは、土の中のカビの病気で消えた
  3. パナマ病が最初に記録されたのは、1874年のオーストラリア
  4. 今のキャベンディッシュも、同じカビの新しいタイプにおそわれている
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

スーパーのバナナ売り場を思い出してください。黄色くて、少し曲がっていて、どの房もよく似ています。似ているのには、わけがあります。日本の店に並ぶバナナは、ほとんどがキャベンディッシュという1つの品種なのです。

世界には、バナナの品種や、その土地に昔からある種類(在来種)が1000以上あります。赤いバナナ、ずんぐりしたバナナ、料理に使うバナナもあります。それなのに、ほかの国へ輸出されるバナナの99%以上が、キャベンディッシュです。

しかも、キャベンディッシュには種がありません。株分けで増やすので、どの株もほぼ同じ遺伝子をもつクローンです。遺伝子が同じなら、病気への弱さも同じです。1つの病気が広がると、畑のバナナがまとめてやられてしまいます。このことが、バナナの歴史を大きく動かしてきました。

この記事では、まず店のバナナがクローンになるわけを説明します。次に、前に世界でいちばん売られていたバナナが、病気で消えた歴史を見ます。最後に、今のキャベンディッシュをおそう新しい病気と、その対策を紹介します。

01種のないバナナは株分けで増やすので、どの株も遺伝子がほぼ同じになる

私たちが食べるバナナの多くは、種ができません。そして、受粉しなくても実が大きくなります。この性質を「単為結果」と言います。2022年の論文によると、食用バナナの多くは、野生のバナナ2種がまざってできた、種のない雑種です。

種がなければ、種をまいて増やすことはできません。そこで、親の株のわきから出る子株を植えたり、株の一部を取って育てたりして増やします。こうしてできた株は、親とほぼ同じ遺伝子をもちます。つまり、クローンです。

野生の、種のあるバナナは、株ごとに遺伝子がとてもばらばらです。でも、人が種のないバナナを選んで育ててきたので、畑で育つバナナの遺伝子の種類は少なくなりました。2022年の論文は、世界で売り買いされるバナナは、クローンで増やすキャベンディッシュの品種が中心だ、と書いています。

02前に世界でいちばん売られていたグロスミッチェルは、土の中のカビの病気で消えた

キャベンディッシュの前には、別の品種のバナナが、世界でいちばん多く売られていました。グロスミッチェルという品種です。

1800年代の半ばから後半まで、バナナは西洋ではめずらしい果物でした。蒸気船ができると、バナナは北アメリカやヨーロッパへ大量に運ばれるようになります。そこで人気になったのが、グロスミッチェルでした。グロスミッチェルは皮が厚くて、傷がつきにくい品種です。房のまま収穫して、運ぶあいだに熟します。味や食感もよいとされました。

ところが、1890年代半ば、南北アメリカのグロスミッチェルに、ある病気が出はじめます。土の中のカビ(フザリウム菌)が根から入り、株をしおれさせる病気です。この病気は、パナマ病とも呼ばれます。

この病気は、子株を植えることで次々に広がりました。見た目は元気でも、実は菌が入っている子株があったのです。薬で病気を止める方法もありませんでした。20世紀の半ばには、グロスミッチェルを大きな農園で作っても、もうけが出なくなりました。そして農園のバナナは、この病気に強いキャベンディッシュに置きかわったのです。

同じ遺伝子の株が並ぶ畑では、株が1つの病気に弱いと、畑ぜんたいが同じようにやられてしまう。
同じ遺伝子の株が並ぶ畑では、株が1つの病気に弱いと、畑ぜんたいが同じようにやられてしまう。

03パナマ病が最初に記録されたのは、1874年のオーストラリア

「パナマ病」という名前から、この病気はパナマで見つかったと思うかもしれません。でも、2019年の総説(いくつもの研究をまとめた論文)によると、世界で最初の報告はオーストラリアです。

1874年、ジョセフ・バンクロフト(Joseph Bancroft)という医師が、ブリスベン近くの農地で、しおれたバナナを見つけました。「シュガー」という品種でした。バンクロフトは、この病気が株分けで簡単に広がることに気づいていました。そして、病気のない苗を注意して選ぶよう勧めています。

1912年には、別の研究者が、こう記録しました。シュガーとグロスミッチェルはこの病気に弱く、キャベンディッシュは強い、というのです。グロスミッチェルが南北アメリカで消える何十年も前に、どの品種がこの病気に強いかは、書き残されていたのです。

この病気のもとになる菌は、とてもしぶといことでも知られます。だれも手入れしなくなった畑で、40年生きのびたという記録があります。もっと長く生きるとも言われます。畑を休ませても、ほかの作物を植えても、この菌はほとんど消せません。

04今のキャベンディッシュも、同じカビの新しいタイプにおそわれている

この病気のカビには、いくつかのタイプがあります。タイプのことを「レース」と呼びます。キャベンディッシュは、グロスミッチェルを消したタイプ(レース1)には強い品種です。ところが、キャベンディッシュもおそう、新しいタイプのカビが現れました。「熱帯レース4」、略してTR4です。

TR4が現れた年は、資料によって書き方がずれています。2019年の総説は、台湾でのTR4の広がりを1967年から追っています。この年、病気のキャベンディッシュが台湾で初めて見つかりました。1976年には、病気は50万株、1200ヘクタールに広がりました。一方、2018年の総説は、熱帯のキャベンディッシュをおそう新しいタイプが報告されたのは1990年だ、と書いています。2025年の論文は「1990年代に台湾で最初に記録された」としています。台湾で病気が見つかった年(1967年)と、新しいタイプとして報告された年(1990年)がちがうのです。

TR4はその後、オーストラリア、南アジアと東南アジア、中東、アフリカ、南アメリカへと広がりました。バナナの輸出が多いフィリピンやコロンビア、生産が多いインドや中国でも見つかっています。2025年の論文は、ある心配の声を紹介しています。キャベンディッシュは、遺伝子の種類がとても少ない1つの品種を、広い畑で育てている。それは、グロスミッチェルの歴史とよく似ている、という心配です。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

クローンのバナナは、実の性質がそろうかわりに、同じ病気に全部がやられやすい

クローンには、はっきりした強みがあります。親と同じ性質の実が、毎回確実にとれることです。味も、大きさも、熟し方もそろいます。遠くへ運んで売る商品には、とても都合のよい性質です。グロスミッチェルもキャベンディッシュも、この強みがあったので、世界の店に並ぶようになりました。

弱みは、病気への強さ・弱さまで「みんな同じ」になることです。遺伝子がばらばらな集まりなら、ある病気に弱い株もあれば、強い株もあります。だから、全部がやられることはありません。でも、遺伝子がほぼ同じ株が何万ヘクタールも並ぶと、全部の株が、同じ1つの病気に弱いことになります。たとえば、台湾のキャベンディッシュの畑は、1960年代半ばに5万ヘクタールありました。それが、1999年には6000ヘクタールになっていました。そのあいだ、病気の広がった面積は30年以上増えつづけ、1999年には3000ヘクタールになりました。

「パナマ病」の最初の報告は、パナマではなくオーストラリア

病気の名前は、その病気が見つかった場所を示すとは限りません。2019年の総説は、この病気についての世界で最初の報告を、オーストラリアのものとしています。病気は1874年に見つかり、1876年に報告されました。総説によると、これはクイーンズランドで記録された、最初の植物の病気の調査でもありました。

バンクロフトの記録で注目したいのは、この病気の性質を見抜いていた点です。1つは、株分けで病気が広がりやすいことです。もう1つは、病気のない苗を選ぶことの大切さです。のちに、グロスミッチェルの病気は、感染した子株と一緒に各地へ運ばれました。それを思うと、19世紀のバンクロフトの注意は、まさに当たっていたことになります。

新しいタイプの病気に強いキャベンディッシュを作る方法は、大きく4つある

2025年の論文は、TR4に強いキャベンディッシュを作る方法として、4つを挙げています。1つ目は、ふつうとちがう性質をもった株を選ぶこと。2つ目は、かけ合わせること。3つ目は、遺伝子組換え。4つ目は、ゲノム編集(遺伝子の一部を書きかえる技術)です。1つ目の例として、台湾の取り組みがあります。株の一部を取って育てるとちゅうで性質が変わった株(GCTCV)から、病気にある程度強いものが選ばれ、植えられています。

遺伝子組換えでも、成果が出ました。2024年2月、オーストラリアは「QCAV-4」というバナナの栽培を認めました。食品として食べることも認めました。QCAV-4は、TR4に強い野生バナナから取り出した遺伝子(MamRGA2)を、キャベンディッシュのグランドネインという品種に入れたものです。畑で5回続けて育てた試験で、病気になった株の割合は、ふつうのグランドネインが66%、ウィリアムズが84%でした。QCAV-4は2%でした。QCAV-4は、売るための栽培と食べることの両方が認められた、初めての遺伝子組換えバナナです。

品種を変えるのではなく、育て方を工夫する方法もあります。コロンビアには、グロスミッチェルを2回育てるごとに、畑の場所を変える農家もいます。土の中の菌が増える前に、別の畑へ移るのです。

この記事に出てきた言葉の意味

  • 単為結果:受粉しなくても実が大きくなること。種のないバナナはこの性質をもつ
  • クローン:遺伝子がほぼ同じ個体の集まり。株分けで増やすとできる
  • フザリウム萎凋病(パナマ病):土の中のカビが根から入り、株をしおれさせる病気
  • 単一栽培(モノカルチャー):広い畑で1つの品種だけを育てること

05まとめ

店のバナナの多くはキャベンディッシュという1つの品種で、株分けで増やすクローンです。前に世界でいちばん売られていたグロスミッチェルは、土の中のカビの病気で消えました。この病気の最初の記録は、1874年のオーストラリアです。そして今、キャベンディッシュをおそう新しいタイプの病気TR4が、世界に広がっています。

次にバナナを買うとき、思い出してください。そのバナナと、となりの房のバナナは、遺伝子がほぼ同じです。世界には1000をこえる種類のバナナがあるのに、私たちはほとんど1つの品種だけを食べているのです。

人に話すなら、こう言おう

スーパーのバナナって、ほとんどキャベンディッシュっていう品種なんだって。種がないから株分けで増やしてて、遺伝子がほぼ同じクローン。昔の主役のバナナは病気で消えちゃって、今のバナナも新しい病気でピンチらしいよ。
READ IN ENGLISH

英語で読む

One Banana for the Whole World

CEFR A2229 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

There are more than 1,000 kinds of bananas in the world.世界には1000種類以上のバナナがあります。 Some are red, and some are short and fat.赤いものもあれば、短くて太いものもあります。 But more than 99 percent of the bananas sold to other countries are one kind, Cavendish.でも、ほかの国へ売られるバナナの99%以上は、キャベンディッシュという1つの種類です。

Cavendish bananas have no seeds.キャベンディッシュのバナナには種がありません。 So farmers grow new plants from small shoots that come up next to an old plant.そこで農家の人は、古い株のとなりに出てくる小さな芽から新しい株を育てます。 The new plants have almost the same genes as the old one.新しい株は、古い株とほとんど同じ遺伝子をもっています。 They are clones, or copies.それらはクローン、つまりコピーなのです。

This has happened before.同じことは前にも起きました。 Before Cavendish, the top banana was Gros Michel.キャベンディッシュの前、いちばん人気のバナナはグロスミッチェルでした。 In the 1890s, a disease from a fungus in the soil began to kill Gros Michel plants in the Americas.1890年代、土の中のカビによる病気が、南北アメリカでグロスミッチェルの株を枯らしはじめました。 All the plants were weak in the same way.どの株も同じように弱かったのです。 By the middle of the 1900s, farmers changed to Cavendish, which was strong against this disease.1900年代の半ばまでに、農家はこの病気に強いキャベンディッシュに切りかえました。

The disease was first reported in Australia in 1874.この病気が最初に報告されたのは、1874年のオーストラリアでした。 A doctor named Joseph Bancroft found sick banana plants near Brisbane.ジョセフ・バンクロフトという医師が、ブリスベンの近くで病気のバナナを見つけたのです。 He warned people to choose clean young plants.彼は、病気のない若い株を選ぶよう人々に注意しました。

Now a new type of the fungus, called TR4, can kill Cavendish too.今、TR4と呼ばれる新しいタイプのカビが、キャベンディッシュも枯らしています。 It has spread to Asia, Africa, and South America.それはアジア、アフリカ、南アメリカに広がっています。 In 2024, Australia approved a new Cavendish banana with a gene from a wild banana.2024年、オーストラリアは、野生のバナナの遺伝子をもつ新しいキャベンディッシュを承認しました。 In a field test, only 2 percent of these plants got sick.畑の試験では、この株のうち病気になったのは2%だけでした。 So the next time you eat a banana, remember that it is almost the same as the one next to it.だから次にバナナを食べるときは、それがとなりのバナナとほとんど同じだということを思い出してください。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2Where was the banana disease first reported?

    このバナナの病気が最初に報告されたのはどこですか。

  3. Q3Why did farmers change from Gros Michel to Cavendish?

    農家がグロスミッチェルからキャベンディッシュに切りかえたのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 2, the word "clones" is closest in meaning to

    第2段落の "clones" という語にもっとも意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話の内容と合っているのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • seed名詞
    種

    This watermelon has no seeds.

    このスイカには種がない。

    💡 seedless は「種のない」。

  • clone名詞
    クローン、そっくりのコピー

    These two plants are clones of the same parent.

    この2つの植物は、同じ親のクローンだ。

    💡 動詞でも使い、clone a sheep で「羊のクローンを作る」。

  • gene名詞
    遺伝子

    Your genes come from your parents.

    あなたの遺伝子は両親から来ている。

    💡 発音は「ジーン」。ジーンズ(jeans)と同じ音。

  • disease名詞
    病気

    Washing your hands helps stop disease.

    手を洗うことは病気を防ぐのに役立つ。

    💡 illness とほぼ同じ意味。heart disease は「心臓病」。

  • fungus名詞
    菌類、カビ

    A fungus can grow on old bread.

    古いパンにはカビが生えることがある。

    💡 複数形は fungi。キノコもカビも fungus の仲間。

  • spread動詞
    広がる、広げる

    The news spread quickly at school.

    そのニュースは学校ですぐに広まった。

    💡 活用は spread - spread - spread(形が変わらない)。

  • approve動詞
    承認する、認める

    The school approved our plan.

    学校は私たちの計画を認めた。

    💡 名詞は approval。

  • warn動詞
    注意する、警告する

    My mother warned me about the ice.

    母は氷に気をつけるよう私に注意した。

    💡 名詞は warning(警告)。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 23件)。

  1. Harding, R. et al. (2025) QCAV-4, the first genetically modified Cavendish (cv. Grand Nain) banana resistant to Fusarium wilt tropical race 4…, Plant Biotechnology Journal 23(9):3628–3637doi.org
  2. Pegg, K. G. et al. (2019) The Epidemiology of Fusarium Wilt of Banana, Frontiers in Plant Science 10:1395doi.org
  3. Dita, M. et al. (2018) Fusarium Wilt of Banana: Current Knowledge on Epidemiology and Research Needs Toward Sustainable Disease Management, Frontiers in Plant Science 9:1468doi.org
  4. van Westerhoven, A. C. et al. (2022) Uncontained spread of Fusarium wilt of banana threatens African food security, PLoS Pathogens 18(9)doi.org
  5. The Chatsworth Banana(Chatsworth House Trust 公式、2022年)chatsworth.org

公式ページで見てみよう

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

NEXT TRIVIAこの雑学にうなった人は、これにもうなる