おしりの袋で水の中の酸素を取りこむカメは、本当にいる
生き物No.235

おしりの袋で水の中の酸素を取りこむカメは、本当にいる

おしりの袋で酸素を取るカメは、10時間以上もぐることがある。

ホントTRUE

この判定の対象「おしりの袋で水の中の酸素を取りこむカメがいる」

うなり度 読む時間8分 出典8件 確認した事実26件
もくじ
  1. カメの「おしり」は、ふんと尿と卵が出る1つの出口
  2. 野生のフィッツロイ川のカメは、1回に平均33分もぐっていた
  3. 水の流れが速い場所では、息つぎの回数が20分の1に減った
  4. このカメは、おしりだけで呼吸しているわけではない
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

オーストラリアの川の底で、1匹のカメが石の上にじっと伏せています。息つぎに水面へ上がってくる気配は、なかなかありません。

このカメは、英語で「フィッツロイ川のカメ(Fitzroy River turtle)」と呼ばれています。学名は Rheodytes leukops です。1980年に、オーストラリアのクイーンズランド州で見つかった新しい種として発表されました。

フィッツロイ川のカメは、水の中で、おしりの出口につながる袋を使って、水から酸素を取りこみます。研究者が野生のカメにもぐった時間を記録する機械をつけると、1回の潜水は平均33.1分でした。1匹ごとの一番長い潜水は、平均で623分、つまり約10時間20分もありました。

「おしりで呼吸するカメ」と聞くと、冗談のようです。でも、これはクイーンズランド大学などの研究者が、何年もかけて調べてきた本当の話です。この記事では、まずカメの「おしり」が何なのかを説明します。次に、このカメがどれだけ長くもぐれるかを、研究の数字で紹介します。最後に、「おしりだけで呼吸している」わけではない、という大事な点を確かめます。

01カメの「おしり」は、ふんと尿と卵が出る1つの出口

カメの「おしり」の出口は、正しくは総排泄腔(そうはいせつこう)と呼ばれます。腸の終わりと、尿の通り道と、卵や精子の通り道が、1本の管にまとまった場所です。出口も1つだけです。

総排泄腔は、カエルなどの両生類や、ヘビ・トカゲ・カメなどのは虫類、そして鳥に広く見られます。

水にすむカメの多くは、この総排泄腔から左右に1つずつ、袋がのびています。この袋を「総排泄腔のう」と呼びます。

2001年に出た、カメの総排泄腔のうについての論文によると、この袋は2世紀以上も研究されてきました。それでも、何のための袋なのか、研究者の意見はまとまっていませんでした。種によって、袋の役目が違うらしいのです。論文によると、一部のカメがこの袋を水中での呼吸に使うことが、近年になって分かってきました。

02野生のフィッツロイ川のカメは、1回に平均33分もぐっていた

2002年、マシュー・ゴードス(Matthew Gordos)とクレイグ・フランクリン(Craig Franklin)は、野生のカメ2種に小さな記録計をつけました。ゴードスは、クイーンズランド大学の研究者です。記録計は、カメがいる深さと時刻を記録し続けます。比べたのは、フィッツロイ川のカメと、もう1種のオーストラリアのカメ(学名 Emydura macquarii)です。

もう1種のカメも、水の中で少しは酸素を取りこみます。ただし、その量は少ないとされています。結果は、次のようにはっきり分かれました。

  • 1日にもぐる回数は、フィッツロイ川のカメが平均39.3回、もう1種が112.2回。
  • 1回の潜水の長さは、平均33.1分と9.6分。
  • 1匹ごとの一番長い潜水の平均は、623分と67.1分。

つまり、フィッツロイ川のカメは、もぐる回数が3分の1ほどで、1回あたり3倍以上長くもぐっていました。研究チームは、この違いを、水の中での呼吸にどれだけ頼っているかの違いだと考えています。

2008年には、同じ研究グループが、オーストラリアのカメ5種の子ガメと若いカメを比べました。フィッツロイ川のカメがもぐっていた時間は、ほかの種の17倍でした。2匹の子ガメは、記録した72時間、つまり3日間ずっと、一度も水面に上がりませんでした。

フィッツロイ川のカメの子ガメや若いカメが使う酸素のうち、63〜73%は、水の中から取りこんだものでした。ただし、これは水の中から取りこんだ酸素全体の割合で、総排泄腔のうだけの割合ではありません。カメによっては、皮膚やのどからも水の中の酸素を取りこむからです。

総排泄腔からのびる2つの袋に水を出し入れして、水にとけた酸素を血管に取りこむ。
総排泄腔からのびる2つの袋に水を出し入れして、水にとけた酸素を血管に取りこむ。

03水の流れが速い場所では、息つぎの回数が20分の1に減った

フィッツロイ川のカメは、川の中でも「瀬」と呼ばれる、浅くて流れの速い場所の近くで暮らしています。2004年、ゴードスたちは、実験で水の流れの速さと深さを変えて、カメが息つぎに上がる回数を調べました。

  • 水の流れは、1秒に5cm、15cm、30cmの3通り。
  • 水の深さは、50cm、100cm、150cmの3通り。

水の流れを速くすると、カメが水面に上がる回数は、20分の1に減りました。一方、水の深さを変えても、上がる回数は変わりませんでした。どの条件でも、90分を超える潜水がよく見られました。

研究チームは、こう考えています。流れの速い場所で水面まで泳いで息をするには、時間もエネルギーもかかる。そこでは、水の中で酸素を取るほうが得なのかもしれない、ということです。

04このカメは、おしりだけで呼吸しているわけではない

ここまでの論文は、どれもこのカメを「二つのしかたで呼吸するカメ」と呼んでいます。1つは、水面に顔を出して、肺で空気を吸う呼吸です。もう1つは、水の中で、総排泄腔のうなどで酸素を取りこむ呼吸です。

2006年、ゴードスらは、水にとけている酸素の量を変えて、25℃の水でカメを調べました。

  • 酸素の多い水では、カメが3日に及ぶ潜水をしても、心臓の鼓動はゆっくりになりませんでした。
  • 酸素の少ない水では、もぐる時間が長くなるほど、心臓の鼓動が遅くなりました。総排泄腔に水を出し入れする回数も、減っていたようです。

研究チームは、カメがやり方を切りかえていると考えました。水に酸素が多いときは、水から酸素を取りこむ。少ないときは、酸素を節約する。そういう切りかえです。そして、水面に上がったときには、心臓の鼓動が速くなりました。肺の中の空気と血の間で、酸素や二酸化炭素を急いで入れかえて、水面にいる時間を短くするためだろうと、研究チームは考えています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

水中で酸素を取る場所は、皮膚・のど・総排泄腔の3つが考えられてきた

カメが水の中で酸素を取りこむ場所として、研究者は3つを考えてきました。皮膚、のど(口の奥)、そして総排泄腔です。では、それぞれがどれくらい働いているのでしょうか。

2010年、フィッツギボンとフランクリンは、別のオーストラリアのカメ(学名 Elseya albagula)で、この割合を調べました。結果は次のとおりです。

  • このカメが必要とする酸素のうち、平均70%(ばらつきは±8%)を水中から取りこんでいた。
  • 水中から取りこむ酸素のうち、48%が総排泄腔のうからだった。

つまり、総排泄腔のうは、水中での呼吸で一番大事な場所でした。ただし、それでも水中呼吸の半分ほどです。残りは皮膚やのどが担っていることになります。また、このカメでは、体が大きいほど、水中から取る酸素の割合が小さくなっていました。

最長12時間の潜水でも、このカメは酸素を使ってエネルギーを作り続けていた

動物は、普通は酸素を使ってエネルギーを作ります。酸素が足りなくなると、酸素を使わないやり方に切りかえます。このとき体にたまるのが、乳酸という物質です。乳酸がたまると、血が酸性にかたむきます。

2004年、ゴードスらは、最長12時間の潜水の間に、フィッツロイ川のカメの血を調べました。

  • もぐる時間が長くなるほど、血の中の酸素は減った。それでも、血の中で酸素を運ぶ成分(ヘモグロビン)のうち、酸素と結びついているものの割合は、どのカメでも30%を下回らなかった。
  • 2時間を超える潜水をくり返しても、乳酸は血1Lあたり3ミリモル未満のままだった。
  • 血の酸性の度合い(pH)や二酸化炭素の量も、もぐる時間が長くなっても変わらなかった。

研究チームは、このカメが水中の呼吸を使って、長い潜水の間も酸素を使うやり方のままでいられる、と結論づけました。

もぐれる長さは、水の温度でも変わる

水の温度も、カメがもぐれる長さに関わります。

2008年、別の研究で、メアリー川のカメ(学名 Elusor macrurus)の子ガメを調べました。17℃の水に慣らした子ガメは、28℃の水に慣らした子ガメより、長くもぐりました。1匹は、2.5日を超えてもぐり続けました。この研究では、冷たい水に慣らした子ガメは、水中から取りこむ酸素の量を増やしていました。

東オーストラリアの別のカメ(学名 Myuchelys bellii)は、冬の野外で、15日を超えてもぐり続けた記録があります。この研究は、長い潜水ができた理由を、総排泄腔のうで酸素を取りこめることと、冬の水温が低いことだと説明しています。

「おしりの袋で呼吸する」のは、カメ全体の中では一部だけ

2001年の論文は、カメの総排泄腔のうについて、いくつかの役目が考えられると整理しています。この論文の研究チームは、アカミミガメの仲間(学名 Trachemys scripta)で、袋から水を飲んでいるかどうかを試しました。結果は、飲んでいませんでした。

論文の整理によると、アカミミガメをふくむ仲間のカメでは、袋の主な役目は、水の中での浮き沈みの調整などだと考えられています。呼吸に使うことが示されたのは、この記事で紹介したオーストラリアのカメのような、一部の種です。

つまり、「カメはおしりで呼吸する」と、カメ全体について言うのは正しくありません。正確には、「おしりの袋で呼吸できるカメが、一部にいる」です。

05まとめ

オーストラリアのフィッツロイ川のカメは、総排泄腔からのびる2つの袋で、水の中の酸素を取りこみます。野生では1回に平均33.1分もぐり、1匹ごとの一番長い潜水は平均で約10時間でした。2匹の子ガメは、記録した72時間ずっと水面に上がりませんでした。

ただし、このカメは肺でも空気を吸います。また、カメによっては、水の中の酸素を皮膚やのどからも取りこみます。そして、おしりの袋で呼吸できるカメは、カメ全体の中では一部だけです。

人に話すときは、「おしりでも呼吸できるカメがいる」と言うのが正確です。「でも」の一言で、このカメが肺でも息をしていることが伝わります。

人に話すなら、こう言おう

オーストラリアに、おしりの袋で水から酸素を取りこむカメがいるんだって。野生だと1回の潜水が平均30分以上で、長いと10時間くらいもぐるらしいよ。でも肺でも息はするんだって。
READ IN ENGLISH

英語で読む

The Turtle That Breathes Through Its Bottom

CEFR A2207 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

In a river in Australia, a turtle sits quietly on a rock under the water.オーストラリアの川の水の中で、1匹のカメが岩の上でじっとしています。 It does not come up for air for a long time.長い間、息をしに水面へ上がってきません。 People call it the Fitzroy River turtle.このカメは「フィッツロイ川のカメ」と呼ばれています。

This turtle has a special trick.このカメには特別なわざがあります。 It takes oxygen from the water through its cloaca, the one opening for waste and eggs.ふんや卵が出る1つの出口である総排泄腔を通して、水から酸素を取りこむのです。 Two small bags come out from the cloaca inside its body.体の中では、総排泄腔から2つの小さな袋がのびています。 Water goes in and out of these bags, and the turtle gets oxygen from it.この袋に水が出入りし、カメはその水から酸素を得ます。

Scientists put small recorders on wild turtles.科学者たちは、野生のカメに小さな記録装置をつけました。 On average, one dive lasted about 33 minutes.1回の潜水は平均で約33分続きました。 The longest dives were about 10 hours on average.一番長い潜水は、平均で約10時間でした。 In another study, two baby turtles stayed under the water for the whole 72 hours of the test.別の研究では、2匹の子ガメが、72時間の試験の間ずっと水中にいました。

The turtles also came up less often when the water moved fast.水の流れが速いときは、カメが水面に上がる回数も減りました。 Swimming up in a fast river takes time and energy.流れの速い川で上まで泳ぐには、時間とエネルギーがかかります。 So taking oxygen from the water may be easier there.だから、そこでは水から酸素を取るほうが楽なのかもしれません。

But this turtle does not breathe only through its bottom.でも、このカメはおしりだけで呼吸しているわけではありません。 It also has lungs, and it breathes air at the surface.肺も持っていて、水面で空気を吸います。 Some turtles can also take oxygen from the water through their skin and throat.カメによっては、皮膚やのどからも水の酸素を取りこめます。 So the best way to say it is this: some turtles can breathe through their bottoms, too.だから一番正確な言い方はこうです。「おしりでも呼吸できるカメがいる」。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How long did one dive last on average?

    1回の潜水は平均でどれくらい続きましたか。

  3. Q3Why may taking oxygen from the water be easier in a fast river?

    流れの速い川では、なぜ水から酸素を取るほうが楽なのかもしれないのですか。

  4. Q4In paragraph 2, the word "trick" is closest in meaning to

    第2段落の trick という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話の内容と合っているのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • oxygen名詞
    酸素

    Plants make oxygen in the daytime.

    植物は昼間に酸素を作る。

    💡 発音は「アクスィジェン」に近い。carbon dioxide は二酸化炭素。

  • cloaca名詞
    総排泄腔

    Birds and frogs also have a cloaca.

    鳥やカエルにも総排泄腔がある。

    💡 ふん・尿・卵の出口が1つになった所。複数形は cloacae。

  • dive名詞・動詞
    潜水、もぐる

    The duck made a quick dive into the pond.

    カモが池にさっともぐった。

    💡 過去形は dived(米では dove も)。diver は「潜水する人」。

  • surface名詞
    表面、水面

    Leaves were floating on the surface of the lake.

    湖の水面に葉が浮かんでいた。

    💡 sur(上)+ face(面)。動詞で「浮上する」の意味もある。

  • lung名詞
    肺

    Running makes your lungs stronger.

    走ると肺が強くなる。

    💡 左右にあるので複数形 lungs でよく使う。

  • recorder名詞
    記録装置

    The plane has a flight recorder.

    飛行機には飛行記録装置がある。

    💡 record(記録する)+ -er(〜するもの)。

  • average名詞
    平均

    On average, I sleep seven hours a night.

    平均すると、私は一晩に7時間寝る。

    💡 on average で「平均して」。above average は「平均以上」。

  • breathe動詞
    呼吸する

    Breathe slowly and relax.

    ゆっくり呼吸してリラックスして。

    💡 名詞 breath(息)と発音・つづりが違うので注意。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 26件)。

  1. Gordos, M. & Franklin, C. E. (2002) Diving behaviour of two Australian bimodally respiring turtles, Rheodytes leukops and Emydura macquarii, in a natural setting, Journal of Zoology 258:335-342doi.org
  2. Clark, N. J., Gordos, M. A., Franklin, C. E. (2008) Diving behaviour, aquatic respiration and blood respiratory properties: a comparison of hatchling and juvenile Australian turtles, Journal of Zoology 275:399-406doi.org
  3. Gordos, M. A. ほか (2004) Effect of water depth and water velocity upon the surfacing frequency of the bimodally respiring freshwater turtle, Rheodytes leukops, Journal of Experimental Biology 207:3099-3107doi.org
  4. Gordos, M. A. ほか (2004) Blood-respiratory and acid-base changes during extended diving in the bimodally respiring freshwater turtle Rheodytes leukops, Journal of Comparative Physiology B 174:347-354doi.org
  5. Gordos, M. A., Limpus, C. J., Franklin, C. E. (2006) Response of heart rate and cloacal ventilation in the bimodally respiring freshwater turtle, Rheodytes leukops, to experimental changes in aquatic PO2, Journal of Comparative Physiology B 176:65-73doi.org
  6. FitzGibbon, S. & Franklin, C. (2010) The importance of the cloacal bursae as the primary site of aquatic respiration in the freshwater turtle, Elseya albagula, Australian Zoologist 35:276-282doi.org
  7. Peterson, C. C. & Greenshields, D. (2001) Negative test for cloacal drinking in a semi-aquatic turtle (Trachemys scripta), with comments on the functions of cloacal bursae, Journal of Experimental Zoology 290:247-254doi.org
  8. Marchetti, L. ほか (2026) The evolutionary significance of the earliest cloacal opening in Synapsida, iScience 29:116752doi.org

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