
録音した自分の声が変に聞こえるのは、骨を伝わる声が録音に入らないから
録音を自分の声らしく直す加工は、人ごとに違った。
もくじ
スマートフォンで撮った動画を見返したら、自分の声が変に聞こえた。「え、私ってこんな声?」と思った経験がある人は多いでしょう。自分の声だとは分かるのに、ふだん聞いている声とはどこか違います。
2018年、東京大学のキムラ(Marino Kimura)とヨツモト(Yuko Yotsumoto)は、この違いを埋めようとしました。録音した声を機械で加工して、本人が「話しているときの自分の声」に近づけようとしたのです。ところが、いちばん自分の声らしいと選ばれた加工は、人によってばらばらでした。
この記事では、まず、話している自分の声がどうやって自分の耳に届くのかを説明します。次に、録音の声を自分の声らしく直そうとした実験を紹介します。最後に、自分の声だと知らずに聞くと、人は自分の声をどう評価するのか、という研究を見ます。
01話している自分の声は、空気と頭の骨の2つの道を通って耳に届く
ほかの人の声は、空気をふるわせて、あなたの耳に届きます。音が空気を伝わってくるこの道を、気導(きどう)と呼びます。
ところが、自分が話しているときは事情が違います。声は、のどで声帯がふるえて生まれます。そのふるえは、口から出て空気を伝わり、自分の耳に入ります。それと同時に、頭の骨などを伝わって、耳にも届きます。骨を伝わって音が届くこの道を、骨導(こつどう)と呼びます。
キムラとヨツモトの論文は、こう説明しています。話しているときに聞こえる自分の声には、骨導と気導の両方が入っている。でも、録音した声には、気導の音しか入っていない。だから、録音の声は、自分の声だと分かっても、話しているときの声とはかなり違って聞こえるのです。
違いは、骨導だけではありません。同じ論文によると、空気を伝わる音も、録音と話しているときでは少し違うかもしれません。録音は口の近くのマイクで録りますが、話しているときの声は、口の中で鳴っているからです。また、録音を再生するスピーカーの位置が、耳から近いか遠いかでも違いが出るかもしれない、と論文は書いています。
02骨を伝わる自分の声は、1秒に1000〜2000回ふるえる高さの音で、空気を伝わる声より強かった
では、自分の声のうち、骨を伝わる分と空気を伝わる分は、どのくらいの割合なのでしょう。この割合は、それまではっきりとは分かっていませんでした。
2010年、ラインフェルト(Sabine Reinfeldt)らは、この割合を調べました。研究チームは、特別に大きな耳当てを作りました。この耳当ては、外の空気から入る音をさえぎります。耳当てをつけて声を出すと、耳の穴に届く音は、ほぼ骨を伝わってきた音だけになります。一方、耳当てなしで耳の穴の入り口の音を測れば、空気を伝わってきた音が分かります。この2つを比べたのです。
調べたのは、母音や子音など10種類の音です。その結果、ほとんどの音で、1000〜2000ヘルツの範囲では、骨を伝わる分のほうが大きくなりました。ヘルツは、音が1秒間に何回ふるえるかを表す単位です。ただし、どの音を出すかによって、結果は少しずつ違いました。
この研究は、聞こえに困りごとのある人にとっても大事です。補聴器は、骨を伝わる分と空気を伝わる分に、違う影響を与えます。そのため、補聴器をつけると、自分の声の聞こえ方が変わってしまうのです。

03録音を自分の声らしく直す加工は、10人で答えがばらばらだった
骨導の音が録音に入らないなら、録音をうまく加工すれば、自分の声に聞こえるはずだ、と考えられてきました。これまでの研究も、音の高さの帯ごとに音を強めたり弱めたりする加工(フィルター)を試してきました。ただ、研究ごとに使うフィルターが違い、本当に効くかは確かめられていませんでした。
そこでキムラとヨツモトは、日本人の学生10人で実験をしました。年齢は18〜22歳で、聞こえに問題のない人たちです。まず、ふだん使う言葉を録音しました。次に、その録音を5通りの声にしました。
- 何も加工しない録音
- 1000ヘルツより高い音を少し強め、低い音を少し弱めた声
- 低い音だけを通した声
- 300〜1200ヘルツの音だけを通した声
- 本人が、声の高さや、ゆれ(ビブラート)などを自由に調整した声
参加者は、2つずつ聞き比べて、どちらが自分の声に近いかを選びました。
結果は、人によってばらばらでした。2人は、加工しない録音がいちばん自分の声らしいと選びました。残りの8人は、加工した声のどれかを選びました。本人が自由に調整した声を、いちばん自分の声らしいと選んだ人も、2人だけでした。
ばらばらと言っても、でたらめに選んだわけではありません。別の日にもう一度聞いてもらうと、多くの人の選び方は、前の日とよく一致していました。研究チームは、「誰の録音でも自分の声らしくできる共通のフィルターはない」と結論しています。人による違いの理由として、体のつくりの違いや、録音の自分の声を聞き慣れているかどうかの違いが考えられる、と書いています。たとえば俳優や歌手は、ふだんから録音の自分の声を聞いています。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
録音の自分の声の気味悪さは、「不気味の谷」では説明できなかった
録音の自分の声は、自分の声だと分かっても、不快に感じられることがあります。キムラとヨツモトは、この不快さを「不気味の谷」で説明できるかを調べました。不気味の谷は、ロボットの研究の分野で、1970年に森という研究者が提案した考えです。物が人に似てくるほど、親しみは増していきます。ところが、人にそっくりになる手前のどこかで、急に気味悪く感じる点がある、というものです。
研究チームは、12人の学生に、5通りの声について、親しみ、気味悪さ、自分らしさを点数で答えてもらいました。もし不気味の谷があるなら、自分の声に近づくとちゅうで、気味悪さが急に強まる点が見つかるはずです。でも、結果はそうなりませんでした。自分らしさが増すほど、親しみは増え、気味悪さは減っていきました。研究チームは、谷があるという証拠は足りないとまとめています。また、口を動かしながら聞いても、自分らしさの評価は変わりませんでした。
脳は、自分の声のわずかな違いにも反応している
2021年、キムラとヨツモトをふくむ東京大学の研究チームは、自分の声を5種類のフィルターで加工して聞かせ、脳の活動を測りました。すると、脳の中で音を処理する部分の一つ(上側頭回)の働き方が、声によって違いました。本人が「自分の声に最も似ていない」と答えた声では、よく働きました。「最も似ている」と答えた声では、働きが小さくなりました。私たちは、自分と他人の声の違いだけでなく、自分の声のわずかな加工にも気づける、と研究チームは書いています。
話しているときにも、脳は自分の声を特別に扱っています。2025年の論文によると、私たちが体を動かすとき、脳は動かす命令の「写し」を、感覚を受け持つ部分にも送ります。そして、自分の動きで生まれるはずの感覚への反応を、前もって弱めます。このしくみは、「自分」という感覚を生む、脳のしくみの一つだと考えられています。話すときも同じで、脳はこの写しを使って、自分の声の高さへの反応を弱めています。この研究では、50人に、話さずに音を聞き比べてもらいました。すると、自分の声の高さに近い音では、高さの小さな変化に気づきにくくなっていました。研究チームは、話すときに反応を弱めるしくみが長く続いた結果かもしれない、と考えています。
自分の声と知らずに聞くと、人は自分の声をひいきした
録音の自分の声が嫌いだという人は多いかもしれません。でも、自分の声だと知らずに聞くと、話は違うようです。2013年、ヒューズ(Susan Hughes)とハリソン(Marissa Harrison)は、80人の男女に、いろいろな人の録音の声を聞かせました。そして、声の魅力を点数で答えてもらいました。その中に本人の声が入っていることは、知らせていませんでした。
すると参加者は、自分の声に、ほかの人がつけた点数より高い点数をつけました。さらに、自分の声を、ほかの人の声よりも魅力的だと評価しました。研究チームは、人は気づかないうちに自分の声をひいきしているのかもしれない、と考えています。
04まとめ
録音した自分の声が変に聞こえるのは、話しているときに頭の骨を伝わって耳に届く声が、録音には入らないからです。マイクの位置や、再生するスピーカーの位置の違いも関係するかもしれません。2018年の東京大学の実験では、録音を自分の声らしく直す加工の正解が、10人の参加者でばらばらでした。
録音の自分の声が気になったら、2013年の実験を思い出してください。自分の声だと知らずに聞いた人たちは、自分の声に、ほかの人がつけたより高い点数をつけていました。
人に話すなら、こう言おう
録音した自分の声って変に聞こえるよね。あれは、しゃべるときの声が頭の骨を伝わっても耳に届いてるのに、録音には入らないからなんだって。しかも、録音を加工して自分の声らしくする方法は、人によってばらばらだったらしいよ。
英語で読む
Why Does My Voice Sound Strange on a Recording?
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
You watch a video on your phone and hear your own voice.スマートフォンで動画を見て、自分の声を聞いたとします。 "Is that really me?" you think.「これ、本当に私?」と思います。 You know it is your voice, but it sounds different.自分の声だとは分かるのに、違って聞こえるのです。
Other people's voices come to your ears through the air.ほかの人の声は、空気を通ってあなたの耳に届きます。 But when you talk, your voice takes two roads.でも、あなたが話すとき、あなたの声は2つの道を通ります。 One road goes through the air from your mouth to your ears.1つは、口から空気を通って耳へ行く道です。 The other road goes through the bones of your head.もう1つは、頭の骨を通る道です。 A recording only has the sound from the air.録音には、空気を通った音しか入っていません。
In 2010, scientists measured the two parts of people's own voices.2010年、科学者たちは、自分の声の2つの部分を測りました。 They used a big ear cover to block the sound from the air.空気から来る音をさえぎるために、大きな耳当てを使いました。 For most sounds, the bone part was stronger between 1,000 and 2,000 hertz.ほとんどの音で、1000〜2000ヘルツの範囲では、骨を通る部分のほうが強くなりました。 Hertz tells us how many times a sound shakes in one second.ヘルツは、音が1秒間に何回ふるえるかを表します。
In 2018, two scientists at the University of Tokyo tried to fix recordings.2018年、東京大学の2人の科学者が、録音を直そうとしました。 They changed the sound of the recordings in five ways.2人は、録音の音を5通りに変えました。 Ten students chose the version that sounded most like their own voice.10人の学生が、いちばん自分の声らしく聞こえるものを選びました。 Their answers were very different.答えは人によって大きく違いました。 Two students chose the recording with no changes.2人の学生は、何も変えていない録音を選びました。 The scientists said that no single change works for everyone.科学者たちは、誰にでも効く1つの加工はない、と述べました。
In 2013, 80 people rated the voices of many people.2013年、80人がたくさんの人の声に点数をつけました。 They did not know that their own voice was in the list.その中に自分の声が入っていることは知りませんでした。 They gave their own voice higher scores than other people did.参加者は、ほかの人がつけたより高い点数を自分の声につけました。 So maybe you like your voice more than you think.だから、あなたは思っているより自分の声が好きなのかもしれません。
4択問題 Reading Quiz
-
Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B Why our recorded voice sounds strange to us
第1段落で録音の自分の声が違って聞こえることを示し、第2段落以降でその理由と実験を説明しているので正解はB。Dの骨は、声が伝わる道として出てくるだけ。
-
Q2How many students chose the recording with no changes?
何も変えていない録音を選んだ学生は何人ですか。
正解:A Two
第4段落5文目に Two students chose the recording with no changes. とあるので正解はA。Cの10人は参加した学生全員、Dの80人は2013年の研究の人数。
-
Q3Why does a recording of your voice sound different to you?
録音した自分の声が、自分には違って聞こえるのはなぜですか。
正解:D It only has the sound that comes through the air.
第2段落で、自分の声は空気と頭の骨の2つの道を通るが、録音には空気を通った音しか入っていないと書かれているので正解はD。A〜Cのようなことは本文にない。
-
Q4In paragraph 3, the word "block" is closest in meaning to
第3段落の block という語に最も意味が近いのはどれですか。
正解:C stop
第3段落2文目は「空気からの音を block するために大きな耳当てを使った」という意味で、音をさえぎるということなので正解はC。
-
Q5Which is true about the 2013 study?
2013年の研究について正しいのはどれですか。
正解:A People gave their own voice high scores without knowing it was theirs.
第5段落2〜3文目に、自分の声が入っていると知らずに、ほかの人より高い点数を自分の声につけたとあるので正解はA。Dの10人は2018年の実験の人数。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
-
recording名詞録音、録画
I listened to a recording of the concert.
私はそのコンサートの録音を聞いた。
💡 動詞は record(録音する)。
-
voice名詞声
She has a soft voice.
彼女はやわらかい声をしている。
💡 in a loud voice で「大きな声で」。
-
bone名詞骨
The dog is eating a bone.
犬が骨を食べている。
💡 bone conduction で「骨伝導」。
-
measure動詞測る
We measured the height of the tree.
私たちはその木の高さを測った。
💡 名詞 measurement は「測定」。
-
block動詞さえぎる、ふさぐ
A big truck blocked the road.
大きなトラックが道をふさいだ。
💡 名詞では「かたまり、街の一区画」。
-
version名詞(作り変えたものの)型、バージョン
This is the new version of the game.
これはそのゲームの新しいバージョンだ。
💡 日本語の「バージョン」と同じ。
-
rate動詞評価する、点数をつける
Please rate the movie from 1 to 5.
その映画を1から5で評価してください。
💡 名詞では「割合、速さ」の意味もある。
-
score名詞点数
I got a good score on the test.
テストでよい点数をとった。
💡 動詞では「得点する」。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 31件)。
- Kimura, M., Yotsumoto, Y. (2018) Auditory traits of "own voice", PLOS ONE 13:e0199443doi.org
- Reinfeldt, S. ほか (2010) Hearing one's own voice during phoneme vocalization—Transmission by air and bone conduction, Journal of the Acoustical Society of America 128:751-762doi.org
- Neamaalkassis, H. ほか (2025) The fundamental frequencies of our own voice, Royal Society Open Science 12:241081doi.org
- Hughes, S. M., Harrison, M. A. (2013) I like my voice better: self-enhancement bias in perceptions of voice attractiveness, Perception 42:941-949doi.org
- Hosaka, T., Kimura, M., Yotsumoto, Y. (2021) Neural representations of own-voice in the human auditory cortex, Scientific Reports 11:591doi.org
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
NEXT TRIVIAこの雑学にうなった人は、これにもうなる
No.029お風呂で指がシワシワになるのは、ふやけたからではなく神経の働き
神経が切れた指は、お風呂でシワにならない。
No.030ウソFALSE「体の細胞は7年ですべて入れかわる」はウソだった
目のレンズの中心は、生まれたときのまま。
No.128鳥肌を立てる小さな筋肉は、毛を生やす手助けもしていた
寒い部屋のネズミは、毛が早く生えはじめた。
No.228ホントTRUEデンキウナギが水から飛び上がって敵を感電させる行動は、実験中に偶然見つかった
金属の網を近づけたら、デンキウナギが飛びかかってきた。
No.003電子レンジの発明者は、ポップコーンを作る特許も取っていた
電子レンジの最初の特許は、ベルトコンベア式。
No.274ウソFALSE「強気のポーズを2分とるとホルモンが変わる」は、その論文を書いた1人が否定した
「強気のポーズ」の論文を書いた1人が、効果を否定した。