「体の細胞は7年ですべて入れかわる」はウソだった
体と食べ物No.030

「体の細胞は7年ですべて入れかわる」はウソだった

目のレンズの中心は、生まれたときのまま。

ウソFALSE

この判定の対象「体の細胞は7年ですべて入れかわる」

うなり度 読む時間8分 出典6件 確認した事実26件
もくじ
  1. 核実験で増えた炭素14を使うと、細胞が生まれた年が分かる
  2. 細胞が入れ替わる速さは、心臓と脂肪と目のレンズで大きく違う
  3. 体全体では1日に3300億個が入れ替わり、その9割は血液の細胞
  4. 深掘り講義
  5. まとめ
  6. 英語で読む(A2・4択5問)
  7. 出典・ウラ取り

あなたの目の奥、水晶体(レンズ)の真ん中には、あなたが生まれたころにできたタンパク質が、今もそのまま残っています。2008年、デンマークのコペンハーゲン大学などの研究チームが、人の水晶体を調べて、確かめました。研究チームは論文にこう書いています。一生作り直されない体の組織として、それまでに報告があったのは、歯のエナメル質だけだった、と。

「人の体の細胞は7年で全部入れ替わる」という話を、聞いたことがあるかもしれません。けれど、細胞の年齢を実際に測ってみると、話はまったく違いました。数日で入れ替わる細胞もあれば、一生入れ替わらない細胞もあります。「7年」という数字には、はっきりした根拠が見あたりません。

細胞の年齢を測る手がかりになったのは、意外なものでした。冷戦(アメリカとソ連が対立していた時代)のころの核実験で、空気の中にばらまかれた炭素です。

この記事では、まず核実験の炭素で細胞の年齢を測るしくみを説明します。次に、心臓・脂肪・目の水晶体で、細胞の入れ替わる速さを比べます。最後に、体全体で1日に何個の細胞が入れ替わるかを見ます。

01核実験で増えた炭素14を使うと、細胞が生まれた年が分かる

炭素には、ふつうの炭素(炭素12)のほかに、ごくわずかに炭素14という種類がまじっています。地上で核実験がくり返されたころ、空気の中の炭素14がいっきに増えました。そして1963年をさかいに、少しずつ減っていきました。

空気の中の炭素は、植物の光合成をへて食べ物に入ります。そして、私たちの体にとりこまれます。細胞が分裂して新しいDNAを作るとき、そのときの空気とほぼ同じ割合の炭素14が、DNAに組みこまれます。DNAは、いちどできると、中の炭素がほとんど入れ替わりません。

2005年、スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究者たちが、このしくみを使って細胞の年齢を測ろうと考えました。カースティ・スポルディング(Kirsty Spalding)とヨナス・フリセン(Jonas Frisén)らです。まず、細胞のDNAにふくまれる炭素14の量を測ります。次に、空気の中の炭素14がその量だった年をさがします。すると、その細胞が「生まれた年」が分かるのです。

はじめに調べたのは、大人の脳でした。大脳の後ろ側(後頭葉)の神経細胞のDNAには、その人が生まれた年の空気と同じ量の炭素14がふくまれていました。つまり、神経細胞は本人と同じ年齢だったのです。一方、同じ脳でも、神経細胞ではない細胞は、生まれたあとに作られた新しいものに入れ替わっていました。

空気の中の炭素14は、核実験で急に増え、その後ゆっくり減った。細胞のDNAに残る炭素14の量をこの曲線と比べれば、その細胞の「生まれた年」が分かる。
空気の中の炭素14は、核実験で急に増え、その後ゆっくり減った。細胞のDNAに残る炭素14の量をこの曲線と比べれば、その細胞の「生まれた年」が分かる。

02細胞が入れ替わる速さは、心臓と脂肪と目のレンズで大きく違う

この方法で、ほかの細胞の年齢もつぎつぎに測られました。

心臓の筋肉の細胞(心筋細胞)は、2009年の研究で調べられました。1年に入れ替わる心筋細胞の割合は、25歳で約1%、75歳で約0.45%でした。一生のあいだに入れ替わるのは、心筋細胞全体の半分にも届きません。心臓も「まったく入れ替わらない」わけではありません。でも、「7年で全部」とはほど遠いのです。

脂肪細胞は、2008年の研究で調べられました。大人では、毎年およそ10%の脂肪細胞が入れ替わっていました。ところが、脂肪細胞の「数」そのものは、子どもから思春期のあいだに、ほぼ決まります。大人になってから大きく体重を減らしても、脂肪細胞の数は変わりませんでした。古い脂肪細胞が死ぬぶんだけ、新しい細胞が作られます。だから、数が変わらないのです。

そして、目の水晶体です。水晶体は、袋のような膜に、すっぽり包まれています。そのため、古くなった細胞を、外へ捨てることができません。血管も通っていません。こうした理由で、生まれたころにできた水晶体の真ん中のタンパク質は、一生入れ替わらずに残ります。

水晶体の真ん中を調べれば、その人の生まれ年をかなり正確に計算できます。そこで研究チームは、この方法が法医学(事件や事故の調査に医学を使う分野)にも役立つと考えました。論文の筆頭著者(いちばん先に名前がのる人)も、コペンハーゲン大学の法医学の研究室の所属です。

03体全体では1日に3300億個が入れ替わり、その9割は血液の細胞

では、体全体ではどうなのでしょう。2021年、イスラエルのワイツマン科学研究所の2人が、全身のどの細胞が、どれくらいの数と速さで入れ替わるのかを、1つにまとめました。ロン・ミロ(Ron Milo)とロン・センダー(Ron Sender)です。2人は、細胞の種類ごとの数・重さ・寿命を、これまでの研究から集めました。

その結果、大人の体では、1日におよそ3300億個の細胞が死に、ほぼ同じ数が新しく生まれていました。そのうちおよそ9割は、赤血球や白血球などの血液の細胞です。血液の細胞の寿命は、1日から数か月ほどです。

ただし、血液の細胞は小さくて軽いので、重さで見ると話が変わります。1日に入れ替わる細胞の重さは、全部で80gくらいです。その80gのうち、およそ4割を占めるのが、腸の内側をおおう細胞です。入れ替わる細胞の数で見ると、腸の細胞は約12%しかありません。でも、腸の細胞は1つひとつが大きく、平均して数日ごとに入れ替わっています。

研究チームの計算では、約80日ごとに、体の細胞の総数と同じ数の、新しい細胞が作られます。重さで見れば、およそ1年半で、体重と同じ重さの新しい細胞が作られます。ワイツマン研究所の解説記事は、わざわざ「(7年ではない)」と書きそえています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

核実験で急に増えた炭素14が、細胞の年齢を測る手がかりになった

炭素14を使って年代を測る方法(放射性炭素年代測定)は、もともと遺跡の木や骨の年代を調べる方法です。炭素14はとてもゆっくり減るので、何千年という長い時間を測るのに向いています。けれど、人の一生は数十年です。数十年では、炭素14の量はほとんど変わりません。そのため、ふつうのやり方では、細胞の年齢は測れません。

ここで役に立ったのが、核実験による炭素14の「急な山」でした。空気中の炭素14は、核実験で急に増えました。そして1963年以降は、年ごとに目に見えて減っていきました。そのため、空気中の炭素14の量は、ほぼ毎年違う値になります。DNAに残った炭素14の量をこの曲線と照らし合わせれば、細胞が生まれた年をかなり正確に推定できます。核兵器の実験が、思いがけず、体の中の細胞の年齢を測る手がかりになったのです。

研究者たちはこの方法を「さかのぼって細胞の誕生日を調べる(retrospective birth dating)」と呼びました。2005年の論文は、この方法が人の細胞の入れ替わりを測るのに広く使える、と書いています。ふだんの体でも、病気の体でも使えるというのです。実際、その後の心臓や脂肪の研究は、すべてこの方法を使っています。

「7年で全部」という言い方には、2つの取り違えがある

「7年で全部入れ替わる」という言い方には、2つの取り違えがひそんでいます。

1つは、平均と全体の取り違えです。たとえ細胞の平均年齢が何年だったとしても、それは「全部の細胞がその年数で入れ替わる」ことを意味しません。血液のように数日で入れ替わる細胞と、神経細胞のように一生残る細胞。この2つを平均すれば、どちらでもない中間の数字が出るだけです。

もう1つは、数と重さの取り違えです。体の細胞の総数と同じ数が入れ替わるのは、約80日。体重と同じ重さが入れ替わるのは、約1年半。同じ体でも、細胞を数で数えるか、重さで数えるかで、答えが大きく変わります。数で数えると、小さな血液の細胞が9割を占めます。重さで数えると、大きな腸の細胞が目立ってきます。数で数えるのか、重さで数えるのかを決めないまま、「何年で入れ替わる」と1つの数字で言うと、話が食い違ってしまいます。

脂肪細胞は、数が変わらなくても、中身は入れ替わっていた

脂肪細胞の研究は、「数が変わらないなら、中身も変わっていない」という思いこみも崩しました。大人になると、脂肪細胞の数は、やせた人でも太った人でも、それぞれほぼ一定に保たれます。大きく減量しても、数は減りません。数だけを見れば「変わらない組織」に見えます。ところが、炭素14で年齢を測ると、毎年約10%の脂肪細胞が死に、同じくらいの数が新しく生まれていました。

脂肪細胞の数が一定なのは、新しく作られる速さと死ぬ速さが、つり合っているからです。お風呂を思いうかべてください。蛇口から水が入り、同じだけ排水口から出ていれば、水位は変わりません。それでも、中の水は入れ替わっていきます。

また、同じ脳の中でも、細胞の種類によって違いがあります。後頭葉の神経細胞は、本人と同じ年齢でした。でも、そのまわりの神経以外の細胞は、入れ替わっていました。外から見て同じ「臓器」でも、細胞の種類ごとに、入れ替わる速さが違うのです。

細胞が入れ替わる体は、板を取りかえ続ける「テセウスの船」に似ている

ワイツマン研究所の解説は、細胞の入れ替わりを「テセウスの船」にたとえています。テセウスの船は、頭の中だけで考える実験(思考実験)として、歴史上もっとも古いものの1つです。船の板を1枚ずつ取りかえていったら、最後にそれは同じ船なのか、という問いです。人の体も、船の板を取りかえるように、毎日ものすごい数の細胞を取りかえています。それでも、細胞の割合や体の形を保ち続けています。ただし、水晶体の中心や一部の神経細胞のように、最初の板がずっと残っている場所もあります。私たちの体は、全部が新しい船でも、全部が古い船でもないのです。

04まとめ

「人の体の細胞は7年で全部入れ替わる」は誤りです。血液や腸の細胞は、数日から数か月で入れ替わります。心臓の筋肉の細胞は、一生で半分も入れ替わりません。目の水晶体の中心は、生まれたころのまま残ります。

体全体では、1日に約3300億個の細胞が入れ替わります。重さで見れば、約1年半で、体重と同じ重さの細胞が入れ替わります。鏡で自分の目をのぞきこんだら、その奥には、あなたが赤ちゃんだったころから変わらない部分があります。

人に話すなら、こう言おう

「細胞は7年で全部入れ替わる」ってよく聞くけど、ウソなんだって。核実験で増えた炭素を使って細胞の年齢を測ったら、目の水晶体の中心は生まれた時のままで、心臓も一生で半分も入れ替わらないらしいよ。
READ IN ENGLISH

英語で読む

Do All Your Cells Change Every Seven Years?

CEFR A2230 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Many people say that all the cells in your body change every seven years.体の細胞は7年ごとに全部入れ替わる、と言う人はたくさんいます。 It sounds nice, but it is not true.すてきな話に聞こえますが、本当ではありません。 Some parts of you are as old as you are.あなたの体には、あなたと同じ年齢の部分があるのです。

How do scientists know the age of a cell?科学者は、どうやって細胞の年齢を知るのでしょう。 During the Cold War, countries tested nuclear bombs, and a kind of carbon called carbon-14 increased in the air.冷戦の時代、国々が核爆弾の実験をして、炭素14という種類の炭素が空気中で増えました。 After 1963, the amount slowly went down.1963年のあと、その量はゆっくり減っていきました。 When a cell is born, it takes in carbon from food, and the carbon stays in its DNA.細胞が生まれるとき、食べ物から炭素を取りこみ、その炭素はDNAの中に残ります。 So scientists can measure carbon-14 in DNA and find the cell's birth year.だから科学者は、DNAの中の炭素14を測って、細胞の生まれた年を知ることができます。

In 2005, a team in Sweden used this method on the brain.2005年、スウェーデンの研究チームがこの方法を脳に使いました。 Some brain cells were as old as the person.脳の細胞の一部は、その人と同じ年齢でした。 In 2008, a team in Denmark found that the center of the eye's lens does not change after birth.2008年、デンマークのチームは、目のレンズの中心が生まれたあと変わらないことを見つけました。 Heart muscle cells change very slowly.心臓の筋肉の細胞は、とてもゆっくり入れ替わります。 Fewer than half of them are replaced in a whole life.一生のうちに入れ替わるのは、その半分にも届きません。

Other cells change fast.ほかの細胞は、速く入れ替わります。 Blood cells live from one day to a few months.血液の細胞が生きるのは、1日から数か月です。 Cells inside the gut change every few days.腸の内側の細胞は、数日ごとに入れ替わります。 Scientists in Israel found that about 330 billion cells are replaced every day.イスラエルの科学者たちは、毎日約3300億個の細胞が入れ替わっていることを明らかにしました。 Most of them are blood cells.そのほとんどは血液の細胞です。

So your body is not all new, and not all old.つまり、あなたの体は全部が新しいわけでも、全部が古いわけでもありません。 Next time you look in a mirror, remember this.今度鏡を見るときは、このことを思い出してください。 The center of your eyes has been with you since you were a baby.あなたの目の中心は、赤ちゃんのころからずっとあなたと一緒にあるのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2About how many cells are replaced every day?

    毎日およそいくつの細胞が入れ替わっていますか。

  3. Q3How can scientists find a cell's birth year?

    科学者はどうやって細胞の生まれた年を知ることができますか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "replaced" is closest in meaning to

    第3段落の replaced に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話の内容と合っているのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • cell名詞
    細胞

    Your body is made of many cells.

    あなたの体はたくさんの細胞でできている。

    💡 もとは「小部屋」の意味。cell phone(携帯電話)の cell も同じ語。

  • replace動詞
    取りかえる、入れ替える

    We need to replace this old battery.

    この古い電池を取りかえる必要がある。

    💡 replace A with B(AをBと取りかえる)。名詞は replacement。

  • carbon名詞
    炭素

    Diamonds are made of carbon.

    ダイヤモンドは炭素でできている。

    💡 carbon dioxide(二酸化炭素)でおなじみ。

  • nuclear形容詞
    核の、原子力の

    Many people want a world without nuclear weapons.

    多くの人が核兵器のない世界を望んでいる。

    💡 nucleus(核)の形容詞。nuclear power(原子力)。

  • measure動詞
    測る

    Let's measure the length of this desk.

    この机の長さを測ろう。

    💡 名詞 measurement(測定)。

  • lens名詞
    レンズ、(目の)水晶体

    The camera has a very good lens.

    そのカメラにはとてもよいレンズがついている。

    💡 複数形は lenses。目の中にも「レンズ」がある。

  • muscle名詞
    筋肉

    Swimming is good for your muscles.

    水泳は筋肉によい。

    💡 c は読まない。発音は「マスル」。

  • billion名詞
    10億

    About eight billion people live on Earth.

    地球には約80億人が住んでいる。

    💡 million(100万)の1000倍。330 billion は3300億。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 26件)。

  1. Spalding, K. L. ほか (2005) Retrospective birth dating of cells in humans, Cell 122:133-143doi.org
  2. Sender, R., Milo, R. (2021) The distribution of cellular turnover in the human body, Nature Medicine 27:45-48doi.org
  3. Cell Replacement by the Numbers(ワイツマン科学研究所)wis-wander.weizmann.ac.il
  4. Lynnerup, N. ほか (2008) Radiocarbon dating of the human eye lens crystallines reveal proteins without carbon turnover throughout life, PLOS ONE 3:e1529doi.org
  5. Bergmann, O. ほか (2009) Evidence for cardiomyocyte renewal in humans, Science 324:98-102doi.org
  6. Spalding, K. L. ほか (2008) Dynamics of fat cell turnover in humans, Nature 453:783-787doi.org

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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