指の中には筋肉がほとんどなく、腕の筋肉が長い腱で指を引っぱっている
体と食べ物No.241

指の中には筋肉がほとんどなく、腕の筋肉が長い腱で指を引っぱっている

指を曲げる大きな筋肉は、指ではなく腕にある。

うなり度 読む時間7分 出典8件 確認した事実30件
もくじ
  1. 指そのものの中には、目立った筋肉がない
  2. 前腕の皮膚に電気を流すと、指が1本ずつ動いた
  3. 指を曲げる腱は、骨にそった5つの輪で押さえられている
  4. 指先の関節を反らせて持つクライマーは、指の輪を痛めやすい
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

手をにぎったり開いたりしながら、反対の手で、ひじと手首の間(前腕)をさわってみてください。指を動かすたびに、前腕の皮膚の下で何かが動くのを感じられるかもしれません。指を動かす大きな筋肉は、実は腕のほうにあるのです。

2024年、アメリカのカリフォルニア大学デービス校の研究チームは、クライミングの論文の中でこう書きました。指そのものの中には、目立った筋肉の組織がない。指の力にかかわる主な組織は、前腕の筋肉や、指を曲げる腱、腱を骨に押さえる輪のような靭帯などだ、というのです。

この記事では、まず、指を動かす筋肉が腕にあることを示した、電気の実験を紹介します。次に、腱を指の骨に押さえる5つの輪と、その輪を痛めやすいクライマーの話を見ます。最後に、中指や薬指を1本だけ動かしにくい理由と、手のひらにある小さな筋肉の話をします。

01指そのものの中には、目立った筋肉がない

筋肉は、縮むことで力を出します。その力を骨に伝えるのが、腱という丈夫なひものような組織です。

指の場合、その筋肉の本体が、指の中にはほとんどありません。2024年の論文によると、指の力にかかわる主な組織は、次のものです。前腕の筋肉、指を曲げる腱、腱を押さえる輪のような靭帯、関節の手のひら側を支える板のような組織、そして関節をつなぐ靭帯です。指の中にあるのは、骨と、腱と、それを支える組織が中心なのです。

前腕の筋肉は、長い腱を指までのばしています。筋肉が前腕で縮むと、腱が引っぱられ、指が曲がります。ちょうど、操り人形の手足が、上の糸で引っぱられて動くのと似ています。

02前腕の皮膚に電気を流すと、指が1本ずつ動いた

指を動かす筋肉が前腕にあることは、電気の実験でも確かめられます。2018年、中国の東南大学の研究チームは、健康な23〜30歳の8人で実験をしました。

研究チームは、前腕の皮膚の上に、400個以上の点を格子のように決めました。そして、1つずつの点に、皮膚の上から電気を流しました。電気が流れると、その下の筋肉が縮みます。どの点に電気を流すと、どの指が動くかを調べたのです。

その結果、ほとんどの指を、1本ずつ伸ばしたり曲げたりすることができました。前腕だけを刺激しても、指は動くのです。ただし、中指を伸ばすことと、小指を曲げることは、1本だけ動かすのが難しかったといいます。

研究チームは、前腕の筋肉のつくりにも注目しています。指を伸ばす筋肉と、指を曲げる筋肉の一部は、1つの筋肉から何本もの腱が出ています。そして、人さし指から小指までの4本の指を動かします。一方、親指を動かす筋肉は、腱が1本ずつの筋肉で、これも前腕にあります。研究チームは、そのために親指がいちばん1本だけで動かしやすかったのではないか、と考えています。

03指を曲げる腱は、骨にそった5つの輪で押さえられている

腱で指を引っぱるしくみには、1つ問題があります。指を曲げたときに、腱が骨からはなれて、弓のつるのようにぴんと浮き上がってしまうことです。英語ではこれを、弓のつるにたとえて bowstringing と呼びます。この記事では「弓づる」と呼びます。

これを防いでいるのが、指の骨にそって並ぶ輪のような靭帯です。英語では滑車という意味で「プーリー」と呼ばれます。指を曲げる腱には、輪の形の靭帯が5つ(A1〜A5)、十字の形の靭帯が3つ(C1〜C3)、つらなって付いています。これらが、指を曲げる腱を骨に押さえつけています。中でもA2とA4がいちばん強く、腱を押さえるうえでいちばん大事だとされています。

指を曲げる腱は、骨にそった輪のような靭帯(プーリー)に押さえられて、骨からはなれないようになっている。
指を曲げる腱は、骨にそった輪のような靭帯(プーリー)に押さえられて、骨からはなれないようになっている。

04指先の関節を反らせて持つクライマーは、指の輪を痛めやすい

この輪に大きな力がかかるのが、岩や人工の壁を登るクライミングです。2022年の論文によると、クライミングのけがの42〜65%は指と手のけがです。中でも、指を曲げる腱と輪の部分のけがが最も多く、けが全体の15〜20%を占めます。

2021年の論文は、指の輪のけがは、クライミング以外ではめったに起きないと書いています。原因になるのは、「クリンプ」という持ち方です。指先の関節を反らせ、ほかの関節は曲げて持つ持ち方です。このとき、A2、A3、A4の輪がいちばん痛みやすいとされています。

クライミングでは、A2の輪に、ふだんから最大380ニュートンの力がかかります。約39kgの物をのせた重さに当たります。足がすべったときのように急に力がかかると、450ニュートン、約46kgの重さに当たる力になることもあります。

指の輪は、使ううちに太くもなります。2024年の論文は、クライマーのA2とA4の輪が、クライミングをしない人より平均でそれぞれ63%と68%厚かった、という研究を紹介しています。こうした変化は、数年かけて起きるとされています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

中指や薬指を1本だけ動かしにくい理由は、3つ考えられている

2000年、ヘーガー=ロス(Charlotte Häger-Ross)とシーバー(Marc Schieber)は、右ききの10人に、指を1本ずつ動かしてもらいました。そして、ビデオと、センサー付きの手袋で、5本の指の動きを同時に記録しました。

結果、1本だけ動かそうとしても、ほかの指も一緒に動いてしまいました。親指、人さし指、小指は、ほかの指から独立して動きやすい指でした。一方、中指と薬指は、動かすとほかの指も一緒に動きやすい指でした。ききての手のほうが、指が独立して動くわけではありませんでした。自分のペースで1秒に約2回動かすほうが、1秒に3回の合図に合わせて動かすより、指は独立して動きました。

研究チームは、ほかの指まで動いてしまう理由を3つ挙げています。指どうしが体の組織でつながっていること。1つの筋肉が何本もの腱をもち、何本もの指につながっていること。そして、脳が手を動かすときの命令の出し方です。2つ目の理由は、前腕の電気の実験のところで見た「1つの筋肉から何本もの腱が出ている」つくりのことです。

手のひらには、腱から始まる小さな筋肉がある

指の中に目立った筋肉はありませんが、手のひらには小さな筋肉があります。そうした手の中の筋肉が弱ると、指の細かい動きや、物をつまむ力が落ちることがあります。

その中に、虫様筋(ちゅうようきん)という細い筋肉があります。2026年の論文によると、人さし指の虫様筋は、手のひらの中で、人さし指へ行く腱から始まっています。この腱は、前腕の深いところにある、指を曲げる筋肉(深指屈筋)の腱です。虫様筋は、骨ではなく、ほかの筋肉の腱から始まっているのです。

持ち方を変えるだけで、指の輪の1つにかかる力が36倍も違った

2006年、ヴィグルー(Laurent Vigouroux)らは、クライミングの2つの持ち方で、腱と輪にかかる力を計算しました。1つは、指の関節をどれも曲げて持つ「スロープ持ち」です。もう1つは、指先の関節を反らせる「クリンプ持ち」です。

計算すると、A2の輪にかかる力は、スロープ持ちではクリンプ持ちの36分の1しかありませんでした。A4の輪では4分の1でした。クリンプ持ちでは、指先の関節を曲げる筋肉(深指屈筋)の腱にかかる力が、もう1つの指を曲げる筋肉(浅指屈筋)の腱の1.75倍でした。同じ指の力でも、関節の角度しだいで、輪にかかる力は大きく変わるのです。

指の輪を支えるテーピングの効き目は、まだはっきりしていない

クライマーは、指の輪を守るために、指にテープを巻くことがあります。2022年、ラーション(Robin Larsson)らは、この効き目を調べた研究をまとめました。その結果、テープを巻くと、腱が骨から浮き上がる弓づるが15〜22%減るかもしれない、という結果でした。ただし、研究チームは、この証拠の確かさは「低い〜中くらい」だと書いています。2021年の論文は、よくウォーミングアップをすると、けがを防ぐと考えられている、と紹介しています。指の輪を守る方法は、まだ研究が続いているのです。

05まとめ

指そのものの中には、目立った筋肉がありません。指を曲げ伸ばしする大きな筋肉は前腕にあり、長い腱で指を引っぱっています。2018年の実験では、前腕の皮膚の上から電気を流すだけで、指を1本ずつ動かすことができました。指を曲げる腱は、骨にそった5つの輪に押さえられています。

クライミングの映像を見る機会があったら、指先の関節を反らせて持つ「クリンプ持ち」に注目してみてください。この持ち方では、指の輪の1つ(A2)にかかる力が、指の関節をどれも曲げて持つ「スロープ持ち」のときの36倍になると計算されています。

人に話すなら、こう言おう

指の中って、実は筋肉がほとんどないんだって。指を曲げる大きな筋肉はひじと手首の間にあって、長い腱っていうひもで指を引っぱってるらしいよ。腕に電気を流すと、指が1本ずつ動いたんだって。
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英語で読む

Your Fingers Have Almost No Muscles

CEFR A2225 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Open and close your hand.手を開いたり閉じたりしてみてください。 Now touch your arm between your elbow and your wrist.では、ひじと手首の間の腕をさわってみましょう。 You may feel something move under the skin.皮膚の下で何かが動くのを感じるかもしれません。 The big muscles that bend your fingers are not in your fingers.指を曲げる大きな筋肉は、指の中にはありません。 They are in your arm.それは腕にあるのです。

Scientists say there is almost no muscle inside the fingers themselves.科学者たちは、指そのものの中には筋肉がほとんどないと言います。 Instead, long tendons go from the arm muscles to the fingers.そのかわり、腕の筋肉から指まで、長い腱がのびています。 A tendon is a strong cord, like a string.腱は、ひものような丈夫なすじです。 When a muscle in the arm gets shorter, it pulls the tendon, and the finger bends.腕の筋肉が縮むと腱が引っぱられ、指が曲がります。

In 2018, scientists in China tested this with electricity.2018年、中国の科学者たちが、電気を使ってこれを確かめました。 They put small electric signals on the skin of the arm in eight people.8人の腕の皮膚に、小さな電気の信号を流したのです。 Most of the fingers could move one by one.ほとんどの指を、1本ずつ動かすことができました。

There is a problem with long tendons.長い腱には、1つ問題があります。 When you bend a finger, the tendon can pull away from the bone.指を曲げると、腱が骨からはなれてしまうことがあるのです。 So the finger has five rings that hold the tendon close to the bone.そこで指には、腱を骨の近くに押さえる5つの輪があります。 Rock climbers often hurt these rings.ロッククライマーは、この輪をよく痛めます。 During climbing, one ring often gets forces of up to 380 newtons.クライミング中、輪の1つには、ふだんから最大380ニュートンの力がかかります。 That is like the weight of about 39 kilograms.これは、約39キログラムの物の重さくらいです。

Try one more thing.もう1つ、試してみましょう。 Can you move only your ring finger?薬指だけを動かせますか。 Other fingers often move with it.ほかの指も一緒に動いてしまうことがよくあります。 In a 2000 study, other fingers moved too when people tried to move just one.2000年の研究では、人が1本だけ動かそうとしても、ほかの指も動きました。 Scientists think one reason is that our fingers are connected to each other.科学者たちは、その理由の1つは、指どうしがつながっていることだと考えています。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How many people took part in the 2018 study?

    2018年の研究には何人が参加しましたか。

  3. Q3Why does the finger have five rings?

    指に5つの輪があるのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 2, the word "bends" is closest in meaning to

    第2段落の bends という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話について正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • muscle名詞
    筋肉

    Swimming is good for your muscles.

    水泳は筋肉によい。

    💡 c は発音しない。「マスル」に近い。

  • tendon名詞
    腱

    He hurt a tendon in his foot.

    彼は足の腱を痛めた。

    💡 Achilles tendon で「アキレス腱」。

  • wrist名詞
    手首

    She wears a watch on her left wrist.

    彼女は左の手首に時計をしている。

    💡 w は発音しない。「リスト」。

  • bend動詞
    曲げる、曲がる

    Bend your knees a little.

    ひざを少し曲げなさい。

    💡 過去形は bent。

  • pull動詞
    引く、引っぱる

    Pull the door to open it.

    ドアを引いて開けなさい。

    💡 反対語は push(押す)。

  • electricity名詞
    電気

    This car runs on electricity.

    この車は電気で走る。

    💡 形容詞は electric(電気の)。

  • climber名詞
    登る人、登山者

    The climbers reached the top of the mountain.

    登山者たちは山の頂上に着いた。

    💡 climb の b は発音しない。

  • connect動詞
    つなぐ、つながる

    This bridge connects the two towns.

    この橋は2つの町をつないでいる。

    💡 名詞は connection(つながり)。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 30件)。

  1. Gilmore, N. K. ほか (2024) Effects of different loading programs on finger strength in rock climbers, Sports Medicine - Open 10:125doi.org
  2. Bao, X. ほか (2018) Electrode placement on the forearm for selective stimulation of finger extension/flexion, PLOS ONE 13:e0190936doi.org
  3. Häger-Ross, C., Schieber, M. H. (2000) Quantifying the independence of human finger movements, Journal of Neuroscience 20:8542-8550doi.org
  4. Larsson, R., Nordeman, L., Blomdahl, C. (2022) To tape or not to tape: annular ligament (pulley) injuries in rock climbers, BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation 14:148doi.org
  5. Miro, P. H. ほか (2021) Finger flexor pulley injuries in rock climbers, Wilderness & Environmental Medicine 32:247-258doi.org
  6. Vigouroux, L. ほか (2006) Estimation of finger muscle tendon tensions and pulley forces during specific sport-climbing grip techniques, Journal of Biomechanics 39:2583-2592doi.org
  7. Verma, A. ほか (2026) Bilateral accessory head of first lumbrical, Acta Medica Lituanica 33:177-183doi.org
  8. Burahee, A. S. ほか (2021) Cubital tunnel syndrome, EFORT Open Reviews 6:743-750doi.org

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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