鳥肌を立てる小さな筋肉は、毛を生やす手助けもしていた
体と食べ物No.128

鳥肌を立てる小さな筋肉は、毛を生やす手助けもしていた

寒い部屋のネズミは、毛が早く生えはじめた。

うなり度 読む時間9分 出典6件 確認した事実27件
もくじ
  1. 鳥肌は、毛の根もとの小さな筋肉が縮んで起きる
  2. ダーウィンは、毛を立てるのは体を大きく見せるためだと考えた
  3. 鳥肌を立てる筋肉は、毛を生やす細胞のそばに神経をつなぎとめていた
  4. 寒い部屋に入れたマウスは、鳥肌を立て、新しい毛も作り始めた
  5. 自分の意思で鳥肌を立てられる人がいる
  6. 深掘り講義
  7. まとめ
  8. 英語で読む(A2・4択5問)
  9. 出典・ウラ取り

イギリスの旅人が、あたたかい低地から連れてきたラバと犬と一緒に、南米アンデスの寒い山で一夜をすごしました。すると、動物たちの毛は全身で逆立っていました。まるで、ひどくおびえたときのようだったといいます。

この旅人は、チャールズ・ダーウィン(Charles Darwin)です。1872年の本『人及び動物の表情について』に、彼はこの思い出を書きました。そして、同じ動きを人間の「goose-skin(ガチョウの皮膚)」にも見ています。日本語で言えば「鳥肌」です。

鳥肌は、毛のない人間に残った「昔のなごり」だと言われがちです。けれど2020年、ハーバード大学の研究チームが、鳥肌を立てる小さな筋肉に、別の仕事を見つけました。毛を生やす細胞に、「働き始めて」という合図を届ける手助けをしていたのです。

この記事では、まず鳥肌が立つしくみと、ダーウィンの考えを紹介します。次に、2020年のマウスの研究で分かったことを見ます。最後に、自分の意思で鳥肌を立てられる人の研究を紹介します。

01鳥肌は、毛の根もとの小さな筋肉が縮んで起きる

皮膚の中で、毛は「毛包」という小さなさやから生えています。その毛包に、ななめに小さな筋肉がついています。これが立毛筋です。名前のとおり、毛を立てる筋肉です。

寒さや怖さを感じると、交感神経が信号を出します。交感神経は、体を「たたかうか、にげるか」の準備に入らせる神経です。信号を受けた立毛筋が、きゅっと縮みます。すると毛が立ち上がり、根もとの皮膚がぷくっと盛り上がります。これが鳥肌です。

毛の多い動物では、立った毛のあいだに空気がたまります。空気は熱を伝えにくいので、ダウンジャケットのように体を温かく保てます。ところが、人間は体の毛が薄くなりました。2020年の論文も、人では鳥肌が体温を保つ役目を失っている、と書いています。それでも、毛包と立毛筋と神経の3つの組み合わせは、人をふくむ哺乳類で、ずっと残ってきました。

02ダーウィンは、毛を立てるのは体を大きく見せるためだと考えた

ダーウィンは、毛や羽を立てる動きの例を、たくさんの動物から集めました。動物園の飼育係によると、チンパンジーやオランウータンは、雷に驚いたときや、からかわれて怒ったときに毛が逆立ちました。ヤマアラシはとげを立て、鳥は求愛のときに飾り羽を広げます。

ダーウィンの考えでは、毛を立てると、体が大きく、恐ろしく見えます。だから、敵やライバルをおどすのに役立つ、というわけです。

ただし、ダーウィンは慎重でした。毛を立てると敵をおどすのに役立つことと、毛を立てるしくみが最初からそのために生まれたことは「別の問題だ」とも書いています。鳥肌は、寒さにも、怒りにも、恐れにも起きます。鳥肌が何のための反応なのか、ダーウィンにも決めきれなかったのです。

03鳥肌を立てる筋肉は、毛を生やす細胞のそばに神経をつなぎとめていた

ハーバード大学のヤーチェ・スー(Ya-Chieh Hsu)の研究室は、マウスの皮膚を詳しく調べました。電子顕微鏡なども使いました。注目したのは、立毛筋がくっついている場所です。

立毛筋は、毛包の「バルジ」という部分についています。ここには、毛包幹細胞がいます。幹細胞は、新しい細胞を生み出すもとになる細胞です。毛が抜けたあと、次の毛を作り出すのは、この毛包幹細胞です。

調べると、交感神経は、立毛筋だけでなく、幹細胞のすぐそばまで伸びていました。神経の先と幹細胞のあいだには、神経どうしのつなぎ目(シナプス)に似た形がありました。神経は、そこからノルアドレナリンという物質を出して、幹細胞に合図を送っていたのです。

では、立毛筋は何をしているのでしょうか。研究チームは、マウスの立毛筋だけを取りのぞいてみました。すると、幹細胞につながっていた神経も、消えてしまいました。毛が生え始めるのも遅れました。立毛筋は、神経が幹細胞のそばから離れないように、つなぎとめていたのです。

反対に、薬で交感神経だけを壊す実験もしました。このとき、立毛筋は残りました。けれど、毛の成長は大きく遅れました。生後30日で、ふつうの皮膚の毛は、伸びる時期に入っていました。ところが、神経のない皮膚の毛は、ほとんど休んだままでした。神経からの合図がないと、幹細胞は働かずに、長く休んだままになってしまうのです。

ななめの筋肉(立毛筋)が神経をつなぎとめ、神経の先が、毛を作る幹細胞に合図を送る。
ななめの筋肉(立毛筋)が神経をつなぎとめ、神経の先が、毛を作る幹細胞に合図を送る。

04寒い部屋に入れたマウスは、鳥肌を立て、新しい毛も作り始めた

研究チームは、寒さでも試しました。マウスを1匹ずつ、5℃の部屋に入れます。比べるマウスは、暑くも寒くもない30℃の部屋に入れます。

2時間たつと、寒い部屋のマウスでは、交感神経がよく働くようになりました。皮膚のノルアドレナリンも増えました。マウスは、もちろん鳥肌を立てました。

寒い部屋でそのまま過ごさせると、マウスは2週間たたないうちに、新しい毛を作り始めました。研究チームは、寒さが2つの反応を起こすとまとめています。1つは、毛を立てて空気をためること。もう1つは、幹細胞を働かせて、新しい毛を生やすことです。

毛包・立毛筋・神経の組み合わせができる順番も分かりました。生まれたばかりのマウスでは、まず毛包ができます。生まれて1〜2日で、立毛筋ができます。神経は、5日目ごろから立毛筋に届きます。8日目ごろには、幹細胞にも神経がつながりました。立毛筋を作らせる合図を出していたのは、育ちかけの毛包でした。毛包は、のちに自分の毛を育てるのを助ける立毛筋を、自分で作らせていたのです。

05自分の意思で鳥肌を立てられる人がいる

鳥肌は、ふつうは自分で止めたり出したりできません。ところが、思いどおりに鳥肌を立てられる人がいます。

2018年、ヒーザーズ(James Heathers)らは、この能力の記録を調べました。それまでの医学の報告は、1902年、1938年、2010年の3件だけでした。どれも、1人ずつの記録です。そこで研究チームは、この能力をもつ32人を集めました。多くの人は、音楽を聞くときなど、もともと鳥肌が立ちやすい場面で、この能力を使っていました。

日本でも調べられています。関西学院大学の片平建史らは、2020年に、ネットのアンケートの結果を発表しました。答えた4005人のうち、112人(2.8%)が「寒さや感動がなくても鳥肌を立てられる」と答えました。ただし、これは本人がそう答えただけです。そこで、「立てられる」と答えた人のうち18人に、小さなカメラのついた器具を腕につけてもらいました。データがそろったのは15人です。そのうち9人では、画像から、はっきり鳥肌が確かめられました。

感動したときの鳥肌も、調べられています。2011年、ベネデック(Mathias Benedek)とケルンバッハは、人に音楽や映画の音を聞かせて、腕の皮膚をカメラで撮りました。2人は、感情で立つ鳥肌は、「心を動かされた」状態のよい目印になる、とまとめています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

「今は役に立たないなごりだ」と言い切るのは難しい

体の特徴を、「昔は役に立ったが、今は使われないなごり」と呼ぶことがあります。鳥肌は、その代表例とされてきました。けれど、なごりと決めるには、今の役目がないことを示す必要があります。役目が「ない」ことを示すのは、「ある」ことを示すより、ずっと難しい作業です。

ダーウィン自身、この難しさに気づいていました。ダーウィンは、毛を逆立てると体が大きく見えることは認めました。そのうえで、毛を逆立てる能力が、最初からその目的で身についたかは、別の問いだと書いています。今の働きと、その特徴が生まれたいきさつを、分けて考える。これは、進化生物学の基本の考え方です。

2020年の研究は、この問いに新しい手がかりを加えました。立毛筋は、毛を立てるために動く筋肉です。同時に、神経を幹細胞のそばにつなぎとめる役もしていました。1つの筋肉が、2つの仕事をしていたのです。人で鳥肌が体温を保たなくなっても、毛包・立毛筋・神経の組み合わせが消えずに残った理由は、ここにあるのかもしれません。ただし、それが本当の理由かは、まだ確かめられていません。

人の鳥肌は、寒さだけでなく、感情でも立ちます。ベネデックらの測定では、鳥肌が立つ瞬間に、皮膚の汗の反応が強まり、呼吸も深くなっていました。体全体が、「心を動かされた」状態に切りかわっているのです。感情で立つ鳥肌に役目があるのかどうかも、まだ答えの出ていない問いです。

幹細胞が働くかどうかは、まわりの神経と立毛筋が決めていた

幹細胞は、ひとりで働くわけではありません。まわりの細胞が、「いつ休むか、いつ働くか」を決める合図を出しています。この、幹細胞を取りまく環境を、ニッチと呼びます。もとは「生き物のすみか」を意味する、生態学の言葉です。

今回の研究で分かったのは、毛包幹細胞のニッチが、神経と立毛筋の2つでできていることです。神経が合図を出し、立毛筋がその神経を支えます。しかも、大人の毛を育てるこのニッチを作らせたのは、子どものころの毛包でした。毛包がニッチを作り、そのニッチが毛を育てる。おたがいに頼りあう関係です。

交感神経は、危ないときだけでなく、ふだんも弱く働いている

交感神経には、危ないときに働く神経というイメージがあります。けれど、実際は、ふだんから弱く働き続けています。心臓の拍動や血圧も、この弱い働きで調節されています。

毛包幹細胞は、神経の先から1〜2マイクロメートルという近さにいます。だから、ふだんの弱い合図や、寒さで少し強まった合図にも反応できます。

一方、同じ毛包には、毛に色をつける幹細胞もいます。こちらは神経から少し離れていて、ふだんの合図は届きにくいと考えられています。同じ研究室は、2020年1月に、交感神経が激しく働きすぎると、毛に色をつける幹細胞が減ってしまうことを報告していました。同じ交感神経でも、幹細胞からの距離と合図の強さによって、幹細胞を働かせることも、減らしてしまうこともあるのです。

「寒いところにいると髪が伸びる」とは言えない

寒さで毛が生え始めたのは、マウスの背中の話です。人の毛包幹細胞については、体から取り出して育てた細胞に、神経の合図と似た働きをする薬を加えると、細胞が増えた、という実験があるだけです。「寒いところにいると髪が伸びる」とは、この研究からは言えません。

06まとめ

鳥肌は、毛の根もとの立毛筋が、交感神経の合図で縮んで起きます。2020年のマウスの研究で、立毛筋が神経をつなぎとめ、その神経が毛を生やす幹細胞に合図を届けていることが分かりました。寒い部屋のマウスは、鳥肌を立てたうえに、2週間たたずに新しい毛を作り始めました。

鳥肌は何のためにあるのか。ダーウィンが決めきれなかったこの問いに、150年ほどたって、「鳥肌を立てる筋肉は、毛を生やすのも助けている」という答えの候補が出たことになります。次に鳥肌が立ったら、腕の毛の根もとで、筋肉と神経と幹細胞の3つが一緒に動いていることを思い出してみてください。

人に話すなら、こう言おう

鳥肌って、毛の根もとの小さい筋肉が縮んで起きるんだけど、その筋肉と神経が「毛を生やせ」って合図する係もしてたんだって。寒い部屋のネズミは2週間たたずに新しい毛が生え始めたらしいよ。
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英語で読む

The Tiny Muscle Behind Goosebumps

CEFR A2229 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Charles Darwin's mules and dogs once spent a cold night high in the mountains of South America.チャールズ・ダーウィンのラバと犬は、あるとき南米の高い山で寒い一夜をすごしました。 The next day, their hair stood up all over their bodies.次の日、動物たちの毛は全身で逆立っていました。 In a book from 1872, Darwin saw the same thing in people and called it "goose-skin."1872年の本で、ダーウィンは人間にも同じことが起きると考え、それを「ガチョウの皮膚」と呼びました。

Goosebumps come from very small muscles in the skin.鳥肌は、皮膚の中のとても小さな筋肉から生まれます。 Each muscle is attached to the root of one hair.それぞれの筋肉は、1本の毛の根もとにくっついています。 When we feel cold or afraid, a nerve sends a signal, and the muscle pulls the hair up.寒さやこわさを感じると、神経が合図を送り、筋肉が毛を引き起こします。 In furry animals, the standing hair holds warm air.毛の多い動物では、立った毛が暖かい空気をためます。 But humans have little body hair, so many people thought goosebumps were useless.でも人間は体の毛が少ないので、鳥肌は役に立たないと考える人が多くいました。

In 2020, a team at Harvard University studied the skin of mice.2020年、ハーバード大学のチームがマウスの皮膚を調べました。 They found that the nerve also touches stem cells, the cells that make new hair.その神経は、新しい毛を作る細胞である幹細胞にもふれていると分かりました。 The tiny muscle holds the nerve in the right place, like an anchor.小さな筋肉は、いかりのように、神経を正しい場所につなぎとめています。 When the scientists removed the muscles, the nerves went away, and new hair grew later.科学者たちが筋肉を取りのぞくと、神経も消え、新しい毛が生えるのが遅れました。

Then the team put some mice in a room at 5 degrees Celsius.次に、チームは何匹かのマウスを5℃の部屋に入れました。 The mice got goosebumps.マウスは鳥肌を立てました。 In less than two weeks, they also started to grow new hair.そして2週間たたないうちに、新しい毛も生やし始めました。 The cold woke up the stem cells.寒さが幹細胞を目覚めさせたのです。

This study used mice, so we do not know if cold makes human hair grow.この研究はマウスを使ったものなので、寒さで人間の毛が伸びるかどうかは分かりません。 But the little muscle is not as useless as people thought.でも、この小さな筋肉は、人々が思っていたほど役立たずではありません。 And some people can make goosebumps whenever they want.それに、自分の好きなときに鳥肌を立てられる人もいるのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2What temperature was the cold room for the mice?

    マウスを入れた寒い部屋は何℃でしたか。

  3. Q3What happened when the scientists removed the tiny muscles?

    科学者たちが小さな筋肉を取りのぞくと、何が起きましたか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "anchor" is closest in meaning to ...

    第3段落の "anchor" に最も近い意味はどれですか。

  5. Q5Which is true about the study?

    この研究について正しいものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • goosebumps名詞
    鳥肌

    The scary movie gave me goosebumps.

    そのこわい映画で鳥肌が立った。

    💡 goose(ガチョウ)+bumps(ぶつぶつ)。get goosebumps で「鳥肌が立つ」。

  • muscle名詞
    筋肉

    You use many muscles when you smile.

    笑うときにはたくさんの筋肉を使う。

    💡 c は発音しない[マスル]。

  • nerve名詞
    神経

    Nerves carry signals to the brain.

    神経は脳へ信号を運ぶ。

    💡 nervous(緊張して)と同じ語源。

  • signal名詞
    合図、信号

    The red light is a signal to stop.

    赤いライトは止まれの合図だ。

    💡 send a signal で「合図を送る」。sign(しるし)の仲間。

  • stem cell名詞
    幹細胞

    Stem cells can become new skin cells.

    幹細胞は新しい皮膚の細胞になれる。

    💡 stem は植物の「茎・幹」。そこから枝分かれするイメージ。

  • anchor名詞
    いかり、つなぎとめるもの

    The ship dropped its anchor near the island.

    船は島の近くでいかりを下ろした。

    💡 ch は[k]の音で[アンカー]。リレーの最終走者も anchor。

  • remove動詞
    取りのぞく

    Please remove your shoes at the door.

    入り口でくつをぬいでください。

    💡 re(はなして)+move(動かす)。

  • useless形容詞
    役に立たない

    This old phone is useless now.

    この古い電話はもう役に立たない。

    💡 use(使う)+less(〜がない)。反対は useful。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 27件)。

  1. Shwartz, Y. ほか (2020) Cell Types Promoting Goosebumps Form a Niche to Regulate Hair Follicle Stem Cells, Cell 182:578-593doi.org
  2. Darwin, C. (1872) The Expression of the Emotions in Man and Animals(Project Gutenberg 版)gutenberg.org
  3. Heathers, J. A. J. ほか (2018) The voluntary control of piloerection, PeerJ 6:e5292doi.org
  4. Katahira, K. ほか (2020) Volitional Control of Piloerection: Objective Evidence and Its Potential Utility in Neuroscience Research, Frontiers in Neuroscience 14:590doi.org
  5. Benedek, M., Kaernbach, C. (2011) Physiological correlates and emotional specificity of human piloerection, Biological Psychology 86:320-329doi.org
  6. Zhang, B. ほか (2020) Hyperactivation of sympathetic nerves drives depletion of melanocyte stem cells, Nature 577:676-681doi.org

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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