
目には何も見えない場所があり、1668年に報告した学者は見えない理由を間違えていた
人の目には、光を感じない場所が1つずつある。
もくじ
紙に、黒い丸を2つ、横に8cmほど離して描いてください。左目を手でおおい、右目で左の丸だけを見つめます。そのまま顔をゆっくり近づけたり遠ざけたりすると、ある距離で、右の丸がふっと消えます。
右の丸が消えたのは、目の奥にある「盲点」に、丸の像が映ったからです。盲点には、光を感じる細胞がありません。だから、そこに映ったものは見えないのです。盲点は、どの人の目にも1つずつあります。
この見えない場所を実験で確かめ、記録に残したのは、フランスの聖職者で学者のマリオット(Mariotte)です。1668年、マリオットの実験はイギリスの学術雑誌に英語で紹介されました。ところが、マリオットが「なぜ見えないのか」について出した考えは、今から見ると間違っていました。
この記事では、まず盲点を自分で確かめる方法を紹介します。次に、マリオットがどんな実験をして、何を間違えたのかを見ます。最後に、盲点の大きさと、ふだん私たちが盲点に気づかない理由を紹介します。
01片目で1点を見つめると、横にある印が消える距離がある
最初の実験を、もう少し詳しく説明します。盲点は、見つめている点から、目から見た角度で15〜20度ほど耳の側へずれた所にあります。2023年にドイツとアメリカの研究チームが12人を測ったところ、盲点の中心は平均15.5度ほど耳の側にありました。
この角度から計算すると、2つの丸を8cm離した場合、目と紙の距離が30cm前後のときに、右の丸が盲点に入ります。ただし、盲点の位置は人によって少しずつ違います。消える距離も、人によって変わります。
右目で試したら、次は左目でも試せます。今度は右目をおおい、左目で右の丸を見つめます。すると、左の丸が消える距離があります。右目の盲点は視線の右側に、左目の盲点は視線の左側にあるからです。
丸が消えているとき、そこには何が見えているでしょうか。黒い穴は見えず、まわりと同じ白い紙が続いているように見えます。脳が、まわりの色や明るさを使って、見えない場所を埋めているからです。このしくみは、あとで詳しく紹介します。
02マリオットは、壁にはった2枚の紙で盲点を見つけた
マリオットは、人や動物の目を解剖して、あることに気づいていました。目から脳へ信号を運ぶ太い神経を、視神経といいます。視神経は、目の奥の真ん中ではなく、少し上で、鼻の側に寄った所につながっていたのです。
では、ものの像がちょうど視神経のつけ根に映ったら、どう見えるのか。マリオットはそれを確かめるために、次の実験をしました。
まず、暗い色の壁の、目の高さに、小さな丸い紙をはります。次に、その右に約2フィート(約60cm)離して、少し低い所にもう1枚はります。マリオットは左目を閉じ、右目で1枚目の紙を見つめました。そのまま少しずつ後ろへ下がると、約10フィート(約3メートル)の所で、2枚目の紙が完全に見えなくなりました。
マリオットは、紙がななめに見えにくくなっただけではない、とも書いています。2枚目の紙より外側にあるものは、ちゃんと見えたからです。それなのに、2枚目の紙だけは、まるでこっそり取り去られたように消えました。目をほんの少し動かすと、紙はすぐにまた見えました。
マリオットは、左目でも同じことを確かめました。右目を閉じ、2枚目の紙を左側にはると、やはり紙が消えました。

03マリオットは「ものを見ているのは網膜ではないのでは」と考えたが、外れていた
マリオットの友人たちも同じことを確かめましたが、紙が消える距離はいつも同じではありませんでした。マリオットは、この実験を国王の図書館で、学者の集まりの人たちにも見せました。そこでも、人によって違いがありました。3メートルほど離れた所で、幅約20cm(8インチ)の紙が消える人もいれば、もう少し小さい紙でないと消えない人もいました。
目の奥には、網膜という薄い膜が広がっています。今では、網膜にある細胞が光を感じて、ものを見ていることが分かっています。ところがマリオットは、実験の結果から逆の考えを持ちました。
マリオットの考えは、次のようなものです。網膜は、視神経のつけ根の上もおおっている。それなのに、そこでは見えない。だから、ものを見ているのは網膜ではないのではないか。網膜の奥にある「脈絡膜」という別の膜で見ているのではないか、と考えたのです。マリオットは、これを確かな証明ではなく、1つの考えとして示し、ペケに意見を求めました。
手紙を受け取った学者ペケ(Pecquet)は、この考えに反対しました。ペケはまず、マリオットより前にこの見えない場所に気づいた人がいなかったことに、みんな驚いていると書きました。そのうえで、網膜で見ているという説を捨てる理由にはならない、と答えました。ペケは、視神経のつけ根には太い血管があり、それが光をさえぎるのだと考えました。
今の答えは、2人のどちらとも違います。視神経が目の外へ出ていく場所には、光を感じる細胞がそもそもないのです。
04盲点は、視神経が目から出ていく出口にできる
目の奥をのぞくと、視神経が目から出ていく所に、白っぽい円か楕円の部分が見えます。視神経乳頭といい、大きさは約2mm×1.5mmです。網膜の主な血管も、ここから放射状に広がっています。
網膜の上で、視神経乳頭は、視線の中心が当たる場所から約17度、鼻の側に離れています。この部分には、光を感じる細胞がありません。ここが、見えない場所、つまり盲点になります。網膜の上では鼻の側にありますが、見ている景色の中では、盲点は耳の側にできます。
2023年の研究によると、盲点の面積は、視野の真ん中で最もよく見える小さな部分の50倍以上です。見つめている点から、たった15度ほどしか離れていない所に、それだけ大きな穴があるのです。
05盲点に気づかないのは、もう片方の目と脳が穴を埋めるから
これほど大きな穴があるのに、ふだん私たちは気づきません。アメリカ眼科学会は、理由を2つ挙げています。
1つ目は、もう片方の目が補うことです。片目で見える範囲は、見つめる点から鼻の側に約60度、耳の側に約100度あります。右目の盲点は視線の右側に、左目の盲点は視線の左側にあり、場所がずれています。そのため、右目の盲点に入ったものも、左目にはふつうに見えます。左目の盲点に入ったものも、同じように右目で見えます。両目を開けていれば、片方の目の穴は、もう片方の目が見ている像でふさがるのです。
2つ目は、脳がまわりの情報から、見えない場所を埋めることです。最初の実験で、消えた丸の所に白い紙が見えたのは、このためです。脳が見えない場所を埋めるこのしくみは、「充填(じゅうてん)」または「フィリング・イン」と呼ばれます。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
網膜の神経の線は、光が来る側を通って、1か所から目の外へ出ていく
人の網膜は、何層にも重なった薄い膜です。光を感じる細胞(視細胞)は、いちばん奥の層にあります。一方、視細胞の信号を脳へ送る神経の細胞は、レンズに近い手前の層にあります。
網膜研究者ヘルガ・コルブ(Helga Kolb)の解説によると、光は網膜の厚みを通りぬけてから、視細胞に届きます。神経の細胞から伸びた線(神経線維)は、網膜の手前の面を走り、視神経乳頭へ向かって集まります。その束が、目から脳へ向かう視神経になります。
神経の束が目の外へ出ていく出口には、視細胞がありません。そのため、出口がそのまま見えない場所になります。アメリカ眼科学会も、視神経がつながるこの場所は、だれの目にもあると説明しています。
盲点のふちは、くっきりではなく、少しずつ見えなくなる
盲点のふちで、見える所から見えない所へどう切りかわるのか。これを細かく測るのは、簡単ではありません。人は1点を見つめているつもりでも、目は数百ミリ秒(0.数秒)ごとに小さく動いているからです。目が動くと、盲点の位置も一緒に動きます。
2023年、ドイツのミュンスター大学やアメリカのロチェスター大学などのチームが、この問題に取り組みました。チームは、20〜28歳の12人の目の動きを、とても細かく記録しました。そして、目の動きに合わせて、盲点のふちのねらった場所に、ごく小さな点を一瞬だけ映しました。参加者は、点が見えたかどうかを答えました。
結果、盲点のふちは、くっきりした線ではありませんでした。見える所から見えない所へは、少しずつ切りかわっていたのです。少しずつ切りかわる帯の幅は、耳の側も鼻の側も約0.7度でした。2つを合わせると、盲点の横幅(約5度)の約25%になります。盲点の横幅の4分の1ほどは、「見えたり見えなかったりする」境目だったことになります。
盲点を受け持つ脳の細胞も、穴を埋めるときに反応していた
脳の中で、目から届いた信号を処理する場所の1つに、「第1次視覚野」があります。第1次視覚野では、視野の場所ごとに、受け持つ神経細胞が決まっています。盲点の場所を受け持つ神経細胞もあります。けれど、盲点からは目の信号が来ません。では、脳が盲点を埋めるとき、この神経細胞は何をしているのでしょうか。
2000年、生理学研究所(愛知県岡崎市)のチームが、この問いを調べました。チームは、起きているサルの第1次視覚野で、盲点を受け持つ場所を見つけました。そして、そこの神経細胞の活動を1個ずつ記録しました。
サルに、盲点全体をおおう大きな図形を見せると、脳が穴を埋める条件になります。すると、盲点を受け持つ場所の神経細胞の一部が反応しました。こうした神経細胞の多くは、盲点の外まで広がる大きな範囲の情報を、両目から受け取っていました。また、小さい図形より大きい図形によく反応し、色によっても反応が変わりました。
チームは、これらの神経細胞が「盲点の場所に大きな面がある」という信号を送っていると結論しています。少なくともサルの脳は、盲点の場所を空白のまま放っておくのではないようです。まわりの情報をもとに、「そこに面がある」という信号を出していると考えられます。
06まとめ
人の目には、視神経が目から出ていく所に、光を感じる細胞のない「盲点」があります。マリオットは、壁にはった2枚の紙で盲点を見つけました。その実験は、1668年にイギリスの雑誌で紹介されました。ただし、「ものを見ているのは網膜ではないのでは」というマリオットの考えは外れていました。
盲点の大きさは、目から見た角度で横5〜7度、縦7.5〜10度もあります。それでも気づかないのは、もう片方の目が補い、脳が見えない場所を埋めているからです。今日、紙に黒い丸を2つ、8cm離して描いて、片目で試してみてください。目と紙の距離が30cm前後のときに、片方の丸がふっと消えるはずです。
人に話すなら、こう言おう
片目をつぶって、紙に描いた2つの印の片方を見つめて顔を近づけると、もう片方がふっと消えるんだって。目の奥の「盲点」っていう見えない場所で、フランスの学者の紙2枚の実験が1668年に紹介されたらしいよ。
英語で読む
The Hole in Every Eye
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
Draw two black dots on paper, about 8 centimeters apart.紙に黒い丸を2つ、8cmほど離して描いてください。 Cover your left eye and look at the left dot with your right eye.左目をおおい、右目で左の丸を見つめます。 Move your face slowly closer.顔をゆっくり近づけてみましょう。 At one point, the right dot will disappear.ある所で、右の丸が消えます。
The reason is the blind spot.理由は盲点です。 The optic nerve carries signals to the brain, and it leaves the eye at one place.視神経は脳へ信号を運ぶ神経で、ある1か所から目の外へ出ていきます。 There are no cells that sense light there.そこには、光を感じる細胞がありません。 So we cannot see things that fall there.だから、そこに映ったものは見えません。
A French scholar named Mariotte did a test with two papers on a dark wall.マリオットというフランスの学者が、暗い壁にはった2枚の紙で実験をしました。 A report on it came out in 1668.その報告は1668年に出ました。 He closed one eye and walked slowly back.彼は片目を閉じ、ゆっくり後ろへ下がりました。 At about 10 feet, the second paper was gone.約10フィート(約3メートル)の所で、2枚目の紙が消えました。 But Mariotte thought that maybe we do not see with the retina, the thin layer at the back of the eye.でもマリオットは、私たちは目の奥の薄い膜である網膜で見ているのではないかもしれない、と考えました。 Today we know that he was wrong.今では、彼が間違っていたことが分かっています。
The area of the blind spot is more than 50 times bigger than the part of the eye that sees most clearly.盲点の面積は、目の中でいちばんはっきり見える部分の50倍以上です。 So why don't we notice it?では、なぜ私たちは気づかないのでしょうか。 First, the other eye sees what falls in the blind spot.1つ目に、盲点に入ったものは、もう片方の目には見えています。 Second, the brain fills the hole with the colors around it.2つ目に、脳がまわりの色で穴を埋めています。
In 2000, scientists in Japan studied monkey brains.2000年、日本の科学者たちがサルの脳を調べました。 Some brain cells for the blind spot became active when a large shape covered it.大きな図形が盲点をおおうと、盲点を受け持つ脳の細胞の一部が活発になりました。 The brain was working to fill the hole.脳は、穴を埋めようと働いていたのです。 Try the dots tonight and watch one vanish.今夜、2つの丸で試して、片方が消えるのを見てみてください。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B A place in every eye that cannot see, and why we miss it
第2段落で盲点のしくみ、第3段落で発見の歴史、第4〜5段落で気づかない理由を述べているので正解はB。Aは導入の実験の手順だけで、話の中心ではない。
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Q2In what year did a report on Mariotte's test come out?
マリオットの実験の報告が出たのは何年ですか。
正解:C 1668
第3段落2文目に "A report on it came out in 1668." とあるので正解はC。Aの2000年は、日本の科学者がサルの脳を調べた年。
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Q3Why can't we see things that fall on the blind spot?
盲点に映ったものが見えないのはなぜですか。
正解:A There are no cells that sense light there.
第2段落3〜4文目に "There are no cells that sense light there. So we cannot see things that fall there." とあるので正解はA。Dの網膜の厚さは本文に書かれていない。
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Q4In paragraph 1, the word "disappear" is closest in meaning to
第1段落の "disappear" に最も意味が近いのはどれですか。
正解:D become impossible to see
第1段落4文目の "disappear" は、丸が見えなくなること。第3段落の "was gone" や第5段落の "vanish" も同じ意味で使われているので正解はD。
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Q5Which is true about the blind spot?
盲点について正しいものはどれですか。
正解:C It is bigger than the part of the eye that sees most clearly.
第4段落1文目に、盲点の面積はいちばんはっきり見える部分の50倍以上とあるので正解はC。Bは第3段落6文目で間違っていたとあり、Dは第4・5段落で脳が穴を埋めるとあるので誤り。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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blind spot名詞盲点
The driver did not see the bike in his blind spot.
運転手は死角にいた自転車が見えなかった。
💡 blind は「目の見えない」。車の「死角」や、考えの「盲点」の意味でも使う。
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nerve名詞神経
Nerves carry messages around the body.
神経は体じゅうに信号を運ぶ。
💡 get on my nerves で「いらいらさせる」。
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retina名詞網膜
Light makes a picture on the retina.
光は網膜の上に像を作る。
💡 ラテン語の「網」から。複数形は retinas。
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sense動詞感じとる
Dogs can sense danger.
犬は危険を感じとることができる。
💡 名詞では「感覚」。the five senses で「五感」。
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scholar名詞学者
The scholar read many old books.
その学者はたくさんの古い本を読んだ。
💡 school と同じ語源。scholarship は「奨学金」。
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notice動詞気づく
Did you notice her new bag?
彼女の新しいかばんに気づいた?
💡 名詞では「お知らせ、掲示」。without notice で「予告なしに」。
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fill動詞満たす、埋める
Please fill the glass with water.
コップに水を満たしてください。
💡 fill A with B で「AをBで満たす」。fill in は「書きこむ、埋める」。
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vanish動詞消える
The rabbit vanished into the hole.
ウサギは穴の中へ消えた。
💡 disappear とほぼ同じ意味。vanish into thin air で「跡形もなく消える」。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 32件)。
- Mariotte (1668) A New Discovery touching Vision, Philosophical Transactions of the Royal Society 3:668-671doi.org
- Meermeier, A. ほか (2023) Fine-scale measurement of the blind spot borders, Vision Research 211:108208doi.org
- Komatsu, H., Kinoshita, M., Murakami, I. (2000) Neural Responses in the Retinotopic Representation of the Blind Spot in the Macaque V1 to Stimuli for Perceptual Filling-In, Journal of Neuroscience 20:9310-9319doi.org
- Kolb, H. Simple Anatomy of the Retina(Webvision)webvision.pitt.edu
- Blind Spot(American Academy of Ophthalmology)aao.org
- Phu, J. ほか (2017) The value of visual field testing in the era of advanced imaging, Clinical and Experimental Optometrydoi.org
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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