宇宙飛行士が宇宙で見た「ホタル」の正体は、宇宙船についた霜らしい
宇宙と地球No.158

宇宙飛行士が宇宙で見た「ホタル」の正体は、宇宙船についた霜らしい

手袋でたたくと、光る粒が飛び出した。

うなり度 読む時間10分 出典3件 確認した事実33件
もくじ
  1. グレンは日の出のたびに、黄緑に光る粒を何千も見た
  2. グレンはガスを噴いたり向きを変えたりして、粒の出どころを調べた
  3. NASAの学者は、粒は宇宙船から出たものだと計算で示した
  4. 次の飛行士がハッチをたたくと、光る粒が飛び出した
  5. そのあとの飛行士たちも、日の出に光る粒を見た
  6. 深掘り講義
  7. まとめ
  8. 英語で読む(A2・4択5問)
  9. 出典・ウラ取り

1962年2月20日。ジョン・グレン(John Glenn)は、アメリカ人で初めて、地球を回る宇宙船に乗っていました。宇宙船の名前は、フレンドシップ7号です。1周目の夜が明けるころ、太平洋のカントン島の上で、グレンは計器から目を上げました。

窓の外は、光る点でいっぱいでした。グレンは最初、宇宙船がひっくり返って、星空をのぞいているのかと思いました。でも、宇宙船の向きは変わっていません。光る点は、宇宙船の周りをゆっくり流れていたのです。

グレンは、この光る点を「ホタル」と呼びました。地上との交信では「ものすごい数の、とても小さな粒の中にいる」と伝えています。粒は明るく光っていて、こんなものは見たことがない、とも話しました。

光る粒は、いったい何だったのでしょうか。分かったのは3か月後です。次の宇宙飛行士が、手袋をはめた手を、宇宙船のハッチ(出入口のふた)にうっかりぶつけたときでした。

この記事では、NASAが当時まとめた報告書と交信記録をもとに、3つのことを順に見ていきます。グレンが見たものと、その場で試したこと。NASAの学者が計算で突き止めたこと。そして、次の飛行士がハッチをたたいて確かめたことです。

01グレンは日の出のたびに、黄緑に光る粒を何千も見た

飛行の翌日、グレンは大西洋のグランドターク島で、聞き取りを受けました。そのときの話を文字にしたものが、NASAの報告書に残っています。

グレンによると、粒の色は、とても明るいホタルのような、薄い黄緑でした。小さいものは、ピンの頭くらいの大きさです。多くは、1等星(夜空で特に明るい星)くらいに明るく見えました。

粒どうしの間は、2.5〜3メートルほどでした。粒は、宇宙船とほぼ同じ速さで進んでいました。グレンには、自分が時速5〜8キロくらいで、粒の中をゆっくり進んでいるように感じられました。

光る粒が見えたのは、1回の日の出につき約4分でした。太陽が地平線から上がり、背景の空まで明るくなると、粒は見えなくなりました。グレンは地球を3周するあいだに日の出を3回むかえ、3回とも同じ光景を見ています。

02グレンはガスを噴いたり向きを変えたりして、粒の出どころを調べた

グレンは、粒をただながめていただけではありません。報告書には、グレンがその場で考えたことと、試したことが書かれています。

グレンが最初に思いついた候補の一つは、「空軍の、行方が分からなくなった針」でした。宇宙のどこかにあるといわれていたものです。でも、光る粒とは見た目がまったく違いました。

もう一つの候補は、宇宙船の向きを変えるためのガスです。この装置は、過酸化水素という薬品を分解して噴き出します。分解すると水ができるので、その水が凍って雪になるかもしれない、とグレンは考えたのです。

そこでグレンは、わざとガスの噴射口を吹かしてみました。湯気が出るのは見えました。でも、その湯気は、光る粒とは似ていませんでした。

2回目の日の出では、宇宙船の向きを180度変えて、日の出の方を向きました。すると、見える粒の数は、反対向きのときの約10%に減りました。グレンはこの結果から、粒は宇宙船から出ているのではなく、自分が「何かの群れの中を進んでいる」のだと考えました。

グレンは、粒がホタルと違う点も話しています。粒の光は点滅せず、ずっと同じ明るさでした。宇宙船に近づいて、宇宙船の日かげに入った粒は、光らなくなりました。すぐ近くで見えた一つは、白くて、小さな綿のかけらのようだったといいます。

日の光が当たった粒だけが、明るく光って見えた
日の光が当たった粒だけが、明るく光って見えた

03NASAの学者は、粒は宇宙船から出たものだと計算で示した

グレンの話を分析したのは、NASAゴダード宇宙飛行センターのジョン・オキーフ(John A. O'Keefe)です。オキーフは報告書の付録で、この光る粒の現象を「グレン効果」と呼びました。ソ連の側も、同じ名前で呼んでいたと記録されています。

オキーフは、まず粒の動きに注目しました。宇宙船は、秒速約8000メートルで飛んでいます。一方で、グレンが見た粒と宇宙船の速さの差は、秒速1.3〜2.2メートルほどでした。8000メートルのうち、2メートルほどしか違いません。つまり粒は、宇宙船とほぼ同じ速さで、同じ向きに動いていたのです。速さのずれは、宇宙船の速さの4000分の1ほどしかありません。

そのとき宇宙船は、高さ約160キロのところにいました。この高さでは空気がとても薄く、物が空気にのって漂うことはできません。たまたまそこにあった粒が、宇宙船とぴったり同じ動きをするとは考えにくいのです。

宇宙船を打ち上げたロケットの本体も、粒の出どころの候補から外されました。グレンが最初に粒を見たとき、ロケットはすでに100キロ以上離れていたからです。オキーフは、粒は宇宙船そのものから少し前に出たものに違いない、とまとめました。

ただし、この時点では、粒が何でできているかはまだ分かりません。オキーフは、宇宙船の外側の塗料がはがれたものか、冷房装置から出た水が凍ったものだろう、と予想しました。

04次の飛行士がハッチをたたくと、光る粒が飛び出した

3か月後の1962年5月24日。スコット・カーペンター(Scott Carpenter)が、オーロラ7号で地球を3周しました。カーペンターも、日の出のたびに「ホタル」を見ました。

ただ、カーペンターの目には、粒はホタルより雪のように見えました。粒は自分で光っているのではなく、日光をはね返しているだけだと感じたのです。粒の大きさや明るさ、色はばらばらで、灰色のものも白いものもありました。

一つは、長さ1.3センチほどの、くるくる巻いた形でした。カーペンターは、旋盤という機械で金属をけずったときに出る、らせん形のくずのようだと話しています。

3周目の夜明けに、粒の出どころが分かりました。カーペンターが、光を測る道具に手を伸ばしたときです。手袋の手が、出入口のハッチに当たりました。すると、粒の雲が窓の前をさっと横切ったのです。

もう一度ハッチをたたくと、また粒が出ました。壁をたたいても出ました。宇宙船の外側に、霜がついていたらしいのです。こうして、グレンの「ホタル(ファイアフライ)」は、カーペンターの「フロストフライ(霜のハエ)」になりました。

カーペンターは、写真も撮っていました。19コマのうち2コマに、粒が写っていました。

05そのあとの飛行士たちも、日の出に光る粒を見た

1962年10月3日に飛んだウォルター・シラー(Walter Schirra)も、粒を見ました。シラーは交信で、「ジョン・グレンにうれしい報告がある。ホタルが見える」という意味のことを話しています。シラーも壁をたたいて、カーペンターと同じように粒が飛び出すのを確かめました。

1963年5月に飛んだゴードン・クーパー(Gordon Cooper)も、「ホタル」を見たと報告しています。こうして、日の出に見える「ホタル」は、マーキュリー計画の宇宙船ではおなじみの光景になりました。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

粒が遠くまで広がっていないことは、明るさの計算で分かる

オキーフの分析で一番見事なのは、粒がどれだけ遠くまで広がっていたかを、明るさから計算した部分です。

グレンによると、粒どうしの間は2.5〜3メートルほどでした。窓から3メートル以内には、明るい粒が2つか3つありました。

ここで、粒が同じ濃さで、ずっと遠くまで続いていたとします。窓の周りを、玉ねぎの皮のように3メートルずつの層に分けて考えます。窓から3メートルまでが1つめの層、その外の3メートルが2つめの層です。外側の層ほど広いので、入っている粒の数は多くなります。一つ一つの粒は遠いぶん暗く見えますが、数が多いので、1つの層全体の明るさは、1つめの層と同じになります。そして、層を重ねるほど、明るさは足されていきます。

この計算で、もし粒の群れが10キロも続いていたら、全体の光は、近くの粒1つの約3000倍になったはずです。そうなれば、グレンは「明るく光る霧の中にいる」と話したでしょう。しかもグレンは、粒が見えていた4分間に、約1920キロ進んでいます。この長さ全部に粒があれば、空一面が雪原のように見えたはずです。でも、グレンはそうは話していません。

この考え方は、天文学で「オルバースのパラドックス」と呼ばれるなぞと同じです。星が宇宙のどこまでも同じようにあるなら、夜空は昼のように明るくなるはずだ、というなぞです。オキーフはこの考え方を使い、粒の群れは宇宙船から遠くまでは広がっていなかったと、はっきり示しました。

直径1ミリの白い粒は、2メートル先のホタルと同じくらい明るい

グレンは、粒をホタルにたとえました。オキーフは、このたとえを数字で確かめました。スミソニアン協会の研究者によると、北アメリカ東部の普通のホタルが光るとき、明るさはろうそく1本の50分の1から400分の1です。

一方、白い粒が日光を受けたときの明るさも、計算できます。直径1ミリほどの白い粒を2メートル先に置くと、同じ距離のホタルと同じくらいの明るさになりました。グレンの「ホタル」というたとえは、明るさの面でも、ミリ単位の粒とよく合っていたのです。

粒は、宇宙船のすき間でできた雪だと考えられた

カーペンターの飛行のあと、オキーフとウィニフレッド・キャメロン(Winifred Sawtell Cameron)は、粒ができる仕組みを説明しました。

宇宙船の外側のパネルの温度は、日の出の直前に−35℃まで下がり、日の出のあとに10℃まで上がっていました。また、宇宙船から外へ出ていく物の中で、一番多いのは水です。生命維持装置(乗っている人が息をしたりするための装置)は、湯気を外へ捨てていました。

二人は、雪の粒ができる場所も考えました。宇宙船の外は、気圧がほとんどゼロなので、そこで雪の粒ができるとは考えにくい。そのため二人は、熱よけの盾と、宇宙船の中の空気をもらさないための壁とのあいだにある、すき間に注目しました。

このすき間には、直径1センチの穴が18個あります。それでも、すき間の中の気圧は、外よりずっと高く保たれます。このすき間に湯気がこもって雪の粒ができ、ふくらむ湯気に押されて穴から外へ出た、という説明です。粒の多くは、宇宙船の表面にもくっついていて、たたくとはがれたと考えられました。カーペンターも、粒はたたいた場所の近くから出てきたと確信していました。

二人は、ほかの候補も一つずつ消しています。宇宙船に積んであった、着水したときに海に色をつける染料と、サメよけの薬は、どちらも緑色です。そこで、この2つを真空の中で試験しましたが、どちらも容器から出てきませんでした。ガラス繊維の断熱材のくずなら、とても軽いので、すぐに吹き飛ばされるはずです。ただ、カーペンターが見たらせん形の一つは、金属のくずか、ほつれた断熱材だったかもしれないとしています。

記録を読むと、グレンたちは原因を一つずつしぼっていた

この話は、「グレンは宇宙で正体不明の光を見た」という、不思議な話として語られがちです。でも、記録をたどると、ようすは違います。

グレン本人が、その場で宇宙船の向きを変えたり、噴射口を吹かしたりして、原因をしぼりこんでいました。地上の学者は、粒の速さと明るさから「粒は宇宙船から出た」と示しました。そして3か月後、手袋で壁をたたくという、一番簡単な実験で、粒が宇宙船の表面から出ることが確かめられたのです。

06まとめ

ジョン・グレンが宇宙で見た「ホタル」は、宇宙船から出た氷の粒などが、日の出の光を受けて光って見えたものでした。グレン自身の観察と、NASAの学者の計算と、次の飛行士の実験によって、3か月で粒の出どころが分かりました。

決め手になったのは、カーペンターの手袋の手がハッチにコツンと当たったことです。そのとき粒がわっと飛び出し、宇宙の「ホタル」は「霜のハエ」と呼ばれるようになりました。

人に話すなら、こう言おう

アメリカで初めて地球を回ったグレンは、宇宙で「ホタルの群れ」を見たんだって。次の飛行士がうっかり手で宇宙船の壁をたたいたら、その「ホタル」がわっと飛び出して、霜だと分かったらしいよ。
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英語で読む

Fireflies in Space

CEFR A2220 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

On February 20, 1962, John Glenn became the first American to fly around the Earth.1962年2月20日、ジョン・グレンは、地球を回って飛んだ最初のアメリカ人になりました。 As the sun came up over the Pacific, he looked out of his window.太平洋の上で太陽がのぼったとき、彼は窓の外を見ました。 Thousands of tiny lights were floating around his spaceship.何千もの小さな光が、宇宙船のまわりにただよっていました。

Glenn called them fireflies.グレンはそれを「ホタル」と呼びました。 They were light yellowish green, and they moved slowly past the window.それはうすい黄緑色で、窓の前をゆっくり通り過ぎていきました。 He saw them for about 4 minutes at every sunrise.彼は日の出のたびに、約4分間それを見ました。 He turned his spaceship around and even fired a small jet, but he could not find the answer.彼は宇宙船の向きを変え、小さな噴射口を吹かしてもみましたが、答えは見つかりませんでした。

A NASA scientist named John O'Keefe studied his report.ジョン・オキーフというNASAの科学者が、彼の報告を調べました。 The lights moved at almost exactly the same speed as the spaceship.光は、宇宙船とほとんどまったく同じ速さで動いていました。 So O'Keefe decided that they probably came from the spaceship itself.そこでオキーフは、それはたぶん宇宙船そのものから出たのだと判断しました。 But nobody knew what they were.でも、それが何なのかはだれにも分かりませんでした。

Three months later, Scott Carpenter flew the next flight.3か月後、スコット・カーペンターが次の飛行をしました。 He saw the lights too, but to him they looked like snowflakes.彼もその光を見ましたが、彼の目には雪のように見えました。 At sunrise on his third trip around the Earth, his hand hit the door by accident.地球を回る3周目の日の出のとき、彼の手がうっかり出入口のドアに当たりました。 Suddenly, a cloud of the little lights flew past his window.すると突然、小さな光の雲が窓の前を飛んでいきました。 He hit the door and the wall again, and more came out.もう一度ドアやかべをたたくと、さらに出てきました。

The fireflies were bits of frost, a kind of ice, from the outside of the spaceship.ホタルの正体は、宇宙船の外側についた霜、つまり氷の一種のかけらでした。 They did not make their own light.それは自分で光っていたのではありません。 They were shining in the morning sun.朝の太陽の光を受けて、かがやいていたのです。 So Glenn's fireflies got a new name from Carpenter: frostflies.こうしてグレンのホタルは、カーペンターから新しい名前をもらいました。「フロストフライ(霜のハエ)」です。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How long did Glenn see the lights at each sunrise?

    グレンは日の出のたびに、どれくらいの時間その光を見ましたか。

  3. Q3Why did O'Keefe think the lights came from the spaceship?

    オキーフはなぜ、光が宇宙船から出たと考えたのですか。

  4. Q4In paragraph 4, the words "by accident" are closest in meaning to ...

    第4段落の "by accident" に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the "fireflies"?

    「ホタル」について正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • firefly名詞
    ホタル

    We saw many fireflies by the river last night.

    昨夜、川のそばでたくさんのホタルを見た。

    💡 fire(火)+ fly(ハエ・飛ぶ虫)。複数形は fireflies。

  • float動詞
    浮かぶ、ただよう

    A leaf was floating on the water.

    1枚の葉が水に浮かんでいた。

    💡 float in the air(空中にただよう)。名詞 float は「浮き」。

  • spaceship名詞
    宇宙船

    The spaceship went around the Moon.

    その宇宙船は月のまわりを回った。

    💡 spacecraft もほぼ同じ意味で、こちらは複数形も spacecraft。

  • sunrise名詞
    日の出

    We got up early to watch the sunrise.

    私たちは日の出を見るために早起きした。

    💡 反対は sunset(日の入り)。at sunrise で「日の出に」。

  • scientist名詞
    科学者

    My sister wants to be a scientist.

    姉は科学者になりたいと思っている。

    💡 science(科学)+ -ist(〜する人)。pianist と同じ作り。

  • by accident熟語
    偶然に、うっかり

    I broke the cup by accident.

    うっかりカップを割ってしまった。

    💡 反対は on purpose(わざと)。名詞 accident は「事故」。

  • frost名詞
    霜

    There was frost on the car window this morning.

    今朝は車の窓に霜がついていた。

    💡 frosty で「霜の降りた、とても寒い」。

  • shine動詞
    光る、かがやく

    The stars were shining in the night sky.

    夜空に星がかがやいていた。

    💡 過去形は shone。形容詞 shiny は「ぴかぴかの」。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 33件)。

  1. Swenson, L. S., Grimwood, J. M. & Alexander, C. C. (1966) This New Ocean: A History of Project Mercury, NASA SP-4201(NASA)nasa.gov
  2. Results of the First United States Manned Orbital Space Flight, February 20, 1962(NASA, 1962)ntrs.nasa.gov
  3. Results of the Second United States Manned Orbital Space Flight, May 24, 1962, NASA SP-6(NASA, 1962)ntrs.nasa.gov

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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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