ホッキョクグマの皮膚は黒く、白く見える毛には色がない
定番雑学の"その先"No.210

ホッキョクグマの皮膚は黒く、白く見える毛には色がない

ホッキョクグマの毛は、光ファイバーではなかった。

ホントTRUE

この判定の対象「ホッキョクグマの皮膚は黒く、毛には色がない」

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もくじ
  1. ホッキョクグマの皮膚は黒く、毛には色素がない
  2. 1978年、動物園のホッキョクグマの毛の空洞に藻が入り、毛が緑色になった
  3. 「毛が光を皮膚まで運ぶ」という説は、1998年の測定で否定された
  4. ホッキョクグマの毛には、毛の油のおかげで氷がつきにくい
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

1978年の夏、アメリカのサンディエゴ動物園で、ホッキョクグマの毛が緑色になりました。大人の3頭の、背中とわき腹の毛です。クマたちは元気でした。研究者が毛を顕微鏡で調べると、緑色の藻(も)が毛の表面ではなく、毛の「中」に入っていました。

ホッキョクグマの外側の毛は、中が空洞の筒になっています。しかも毛そのものには色をつける色素がありません。白く見えるのは、色があるからではないのです。そして、毛の下の皮膚は真っ黒です。

この透明で中が空洞の毛については、「光ファイバーのように太陽の光を黒い皮膚まで運び、体を温めている」という話が広まりました。でもこの話は、1998年の測定で否定されています。

この記事では、まずホッキョクグマの皮膚と毛の色を確かめます。次に、毛が緑色になった1978年の出来事を紹介します。そして「毛が光を運ぶ」説がどう生まれ、どう否定されたかを見ます。最後に、毛に氷がつきにくい理由を調べた2025年の研究を紹介します。

01ホッキョクグマの皮膚は黒く、毛には色素がない

アラスカ大学フェアバンクス校の北極生物学研究所の解説は、ホッキョクグマの皮膚はどこも黒いと書いています。そして、毛は白く見えるけれど、実は色素を含んでいない、とも書いています。

では、なぜ白く見えるのでしょうか。オハイオ州立大学の、学校向けの科学の解説によると、毛の1本1本は透明で、中が空洞の筒です。その空洞が、氷や雪と同じように光をあちこちに散らし、はね返します。そのため、毛は白く見えるのです。

021978年、動物園のホッキョクグマの毛の空洞に藻が入り、毛が緑色になった

サンディエゴ動物園の話に戻ります。1979年に科学雑誌ネイチャーに出た報告によると、緑色になったのは大人の3頭でした。カナダのカルガリーの動物園で1966年に生まれたメス。1951年に北極のスピッツベルゲン島で捕まった、野生生まれのメス。そして1970年にサンディエゴ動物園で生まれたオスです。

緑色は、わき腹や足の外側、腰の帯のような部分でとくに目立ちました。頭やおなか、足の内側の毛は白いままでした。報告によると、同じことは、それまでの何回かの夏にも、ドイツのケルンなどほかの動物園でも見られていました。

研究者は最初、緑の藻が毛の表面にくっついたのだと考えました。クマのプールには、約1万2500ガロン(約4万7000リットル)の水道水が入っていました。週に2回、水を抜いて掃除していたプールです。

ところが、顕微鏡で毛を見ると、表面はきれいでした。藻は、毛の中の空洞に入りこんでいたのです。カリフォルニア州フレズノの動物園で緑になったクマの毛も、同じでした。

藻が入っていたのは、外側の太く硬い毛(さし毛)です。さし毛の太さは0.05〜0.2mmで、中が空洞になっていました。一方、内側に生える細い毛(下毛)は太さ0.02mm未満で、中は空洞ではなく、色もありませんでした。

外側の太い毛は中が空洞。1978年、この空洞に藻が入って、動物園のクマが緑色に見えた。
外側の太い毛は中が空洞。1978年、この空洞に藻が入って、動物園のクマが緑色に見えた。

03「毛が光を皮膚まで運ぶ」という説は、1998年の測定で否定された

「毛が光ファイバーのように光を運ぶ」という説のもとには、1980年の論文があります。グロージャン(Grojean)らは、ホッキョクグマの毛皮を、太陽の熱を集める装置と比べて考えました。そして、毛皮の中を光がどう通るかを説明する考え(モデル)を出しました。のちのクーンの論文によると、それは透明な毛が紫外線を皮膚まで導くというモデルでした。紫外線とは、目に見えない、日焼けの原因になる光です。

光ファイバーは、細い線の中に光を閉じこめて、遠くまで運ぶ線です。もし毛が光ファイバーなら、毛の中を進む光はあまり弱まらないはずです。

1998年、アメリカのセントローレンス大学の物理学者ダニエル・クーン(Daniel Koon)が、これを確かめました。クーンは、ホッキョクグマの毛の中を進む光が、どれくらい弱まるかを直接測りました。結果は、目に見える光で、1mm進むごとに2〜8デシベルも弱まるというものでした。

デシベルは、光などの強さが何分の1になったかを表す単位です。10デシベル弱まると、光は10分の1になります。この数字から計算すると、1mm進むだけで、光は元の63%〜16%に減ります。1cm進むと、100分の1から1億分の1にまで弱まります。光ファイバーとはとても呼べない数字です。

クーンは、ほかの研究チームが以前に出したデータも分析し直しました。そして、毛が紫外線を皮膚まで運ぶというモデルは、成り立ちそうにないと結論しました。アラスカ大学の解説によると、紫外線の場合、毛の片方のはしから入った光のうち、約5mm先まで届くのは1000分の1%より少なかったそうです。約5mmとは、普通の毛の長さ(1インチ=約2.5cm)の5分の1です。

04ホッキョクグマの毛には、毛の油のおかげで氷がつきにくい

では、ホッキョクグマは何で寒さを防いでいるのでしょう。オハイオ州立大学の解説によると、本当の防寒具は、びっしり生えた毛と、厚さが最大で約11cmにもなる脂肪の層です。むしろ、暑くなりすぎることのほうが大きな問題だそうです。

2025年には、ホッキョクグマの毛について、別の性質が分かりました。アイルランドのトリニティ・カレッジ・ダブリンやノルウェー極地研究所などの研究チームが、毛に氷がつきにくい理由を調べたのです。

ホッキョクグマは、北極にすむ陸の哺乳類の中で、ただ1種、狩りのために水にもぐる動物です。それなのに、毛皮には普通は氷がついていません。毛皮の断熱がとてもよいので、乾いた毛の表面の温度は、周りの雪や空気とほぼ同じになります。氷がすぐにつきそうな条件です。

研究チームは、ホッキョクグマの毛皮に氷をつけて、はがすのにどれくらいの力がいるかを測りました。すると、フッ素の化合物でコーティングしたスキー用の「シール」と同じくらい、氷がはがれやすいと分かりました。シールとは、スキー板の裏に貼る毛の布で、雪山を登るときに使う道具です。

ところが、毛を洗って毛の油(皮脂)を落とすと、氷はがっちりくっついて、なかなかはがれなくなりました。毛に氷をつきにくくしていたのは、この皮脂だったのです。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

ホッキョクグマの毛は、雪と同じように光を散らして白く見える

オハイオ州立大学の解説は、ホッキョクグマの毛の空洞も、氷や雪と同じように光を散らしてはね返すと説明しています。毛そのものが白い色をしているのではなく、透明な毛が光を散らすので、白く見えるのです。

「毛が光ファイバー」という説は、18年後の測定で否定された

1980年のグロージャンらの論文は、ホッキョクグマやアザラシの毛皮を、太陽の熱を集める装置と比べました。論文は、ある種の動物の毛皮で「温室効果」のようなことが起きているという証拠も見直しています。

これに対して1998年のクーンは、毛の中で光が弱まる割合を、自分で直接測りました。さらに、ほかの研究チーム(トリブッチ〔Tributsch〕ら)が以前に出したデータも分析し直しました。そのうえでクーンは、グロージャンらのモデルを手直しして守ろうとするなら、そのモデルが満たさなければならない4つの条件を示しました。説を否定するだけでなく、どんな条件を満たせば説が成り立つのかまで書いたのです。

1980年の論文から1998年の測定までに、18年がたっていました。アラスカ大学の解説は、この話が20年以上語りつがれてきたと書いています。

デシベルで光の弱まり方を計算する

デシベルは、強さの比を表す単位です。10デシベルで10分の1、20デシベルで100分の1、30デシベルで1000分の1と、10デシベルごとに10分の1になります。クーンが測った「1mmあたり2〜8デシベル」は、1cm(10mm)では20〜80デシベルです。つまり、1cm進むと光は100分の1から1億分の1になります。ホッキョクグマの毛は、光を遠くまで運ぶ線としては働かないことが分かります。

ホッキョクグマの皮脂には、人の皮脂にある成分がない

2025年の研究チームは、野生のホッキョクグマ6頭の毛から皮脂を集めて、成分を調べました。人の皮脂には、スクアレンという油の成分がたくさん含まれます。ラッコやビーバー、アシカなど、水辺にすむ哺乳類の皮脂にもあります。ところが、ホッキョクグマの皮脂には、スクアレンがありませんでした。

研究チームは、コンピューターの計算で、皮脂の成分が氷とどれくらいくっつきやすいかを予測しました。スクアレンは、氷とくっつきやすいと予測されました。実際の測定でも、人の髪は、洗っても洗わなくても氷が強くくっつきました。スキー用のシールに使われてきたフッ素の化合物は、環境への影響が問題になっています。研究チームは、ホッキョクグマの皮脂の成分が、フッ素を使わない氷よけの材料の手がかりになると考えています。

用語ミニ整理

  • さし毛:外側に生える太く硬い毛。ホッキョクグマでは中が空洞
  • 下毛:内側に生える細くやわらかい毛
  • デシベル:強さの比を表す単位。10デシベルで10分の1
  • 皮脂:毛の根もと近くから出る油。ホッキョクグマでは氷をつきにくくする

05まとめ

ホッキョクグマの皮膚は黒く、毛には色素がありません。外側の太い毛は透明で中が空洞の筒で、光を散らすので白く見えます。1978年には、その空洞に藻が入って、動物園のクマが緑色になりました。

「毛が光ファイバーのように光を皮膚まで運ぶ」という説は、1998年の測定で否定されました。その測定では、毛の中を進む目に見える光は、1cm進むと100分の1以下にまで弱まりました。ホッキョクグマの毛が白く見えるのは、雪が白く見えるのと同じく、透明なものが光を散らすからなのです。

人に話すなら、こう言おう

ホッキョクグマの皮膚って黒いんだって。毛には色がなくて、白く見えるだけ。昔、動物園で毛の中の空洞に藻が入って、クマが緑色になったこともあるらしいよ。
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英語で読む

The Green Polar Bears

CEFR A2216 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

In the summer of 1978, three polar bears at the San Diego Zoo turned green.1978年の夏、サンディエゴ動物園のホッキョクグマ3頭が緑色になりました。 The bears were healthy, but the fur on their backs and sides was green.クマたちは元気でしたが、背中とわき腹の毛が緑色だったのです。 Scientists looked at the hairs with a microscope.科学者たちは、その毛を顕微鏡で見ました。 They found tiny green algae inside the hairs, not on them.小さな緑色の藻が、毛の表面ではなく、毛の中に入っていました。

The outer hairs of a polar bear are hollow, like thin straws.ホッキョクグマの外側の毛は、細いストローのように中が空洞です。 They have no color of their own.毛そのものには色がありません。 The hollow hairs scatter light, so the fur looks white, just like snow.空洞のある毛が光を散らすので、雪と同じように毛は白く見えます。 Under the fur, the skin is black.毛の下の皮膚は黒いのです。

For many years, people told an interesting story.長い間、人々はある話をしてきました。 They said the clear hairs worked like optical fibers, the thin lines that carry light.透明な毛が、光を運ぶ細い線である光ファイバーのように働く、というのです。 The hairs carried sunlight down to the black skin and kept the bear warm, they said.毛が太陽の光を黒い皮膚まで運んで、クマを温めている、という話でした。

In 1998, a physicist named Daniel Koon tested this idea.1998年、ダニエル・クーンという物理学者がこの考えを確かめました。 He measured how much light was lost inside the hairs.彼は、毛の中でどれだけ光が失われるかを測りました。 The light became weaker very fast, and after one centimeter, only one percent or less was left.光はとても速く弱まり、1センチメートル進むと、1%以下しか残りませんでした。 So the hairs were not good optical fibers at all.つまり、毛は光ファイバーとしてはまったく役に立たなかったのです。

Polar bear fur has another secret.ホッキョクグマの毛には、もう1つのひみつがあります。 In 2025, scientists found that ice does not stick well to it.2025年、科学者たちは、その毛に氷がくっつきにくいことを発見しました。 When they washed the oil off the hairs, the ice stuck strongly.毛から油を洗い落とすと、氷は強くくっつきました。 So the oil on the hairs helps the bears stay free of ice.つまり、毛についた油のおかげで、クマに氷がつかないのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When did the polar bears at the San Diego Zoo turn green?

    サンディエゴ動物園のホッキョクグマが緑色になったのはいつですか。

  3. Q3Why did the bears look green?

    クマたちはなぜ緑色に見えたのですか。

  4. Q4In paragraph 2, the word "hollow" is closest in meaning to ...

    第2段落の "hollow" という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話の内容と合っているのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • fur名詞
    (動物の)毛、毛皮

    The cat has soft gray fur.

    その猫は柔らかい灰色の毛をしている。

    💡 人の髪の毛は hair、動物の体をおおう毛は fur と言うことが多い。

  • microscope名詞
    顕微鏡

    We looked at a leaf with a microscope.

    私たちは顕微鏡で葉を見た。

    💡 micro(小さい)+ scope(見る道具)。telescope は「望遠鏡」。

  • algae名詞
    藻、藻類

    Green algae grew in the old fish tank.

    古い水そうに緑の藻が生えた。

    💡 複数形。1つは alga。発音は「アルジー」に近い。

  • hollow形容詞
    中が空洞の

    The old tree was hollow inside.

    その古い木は中が空洞だった。

    💡 反対は solid(中がつまった)。

  • scatter動詞
    まき散らす、散らばらせる

    The wind scattered the leaves.

    風が葉っぱを散らした。

    💡 光が散らばることにも使う。scatter light で「光を散乱させる」。

  • physicist名詞
    物理学者

    The physicist studies light and sound.

    その物理学者は光と音を研究している。

    💡 physics(物理学)+ -ist(〜する人)。physician(医者)とまちがえやすい。

  • measure動詞
    測る

    Let's measure the length of this desk.

    この机の長さを測ろう。

    💡 名詞の measurement は「測定」。

  • stick動詞
    くっつく

    This tape does not stick to wet paper.

    このテープはぬれた紙にはくっつかない。

    💡 過去形は stuck。stick to 〜 で「〜にくっつく」。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 26件)。

  1. Facts about polar bears(アラスカ大学フェアバンクス校 Institute of Arctic Biology)uaf.edu
  2. Polar Bears: Much More than a Polar Pin-Up(オハイオ州立大学 Beyond Penguins and Polar Bears、2011年)beyondpenguins.ehe.osu.edu
  3. Lewin, R. A. & Robinson, P. T. (1979) The greening of polar bears in zoos, Nature 278:445–447doi.org
  4. Grojean, R. E. et al. (1980) Utilization of solar radiation by polar animals: an optical model for pelts, Applied Optics 19:339doi.org
  5. Koon, D. W. (1998) Is polar bear hair fiber optic?, Applied Optics 37:3198doi.org
  6. Carolan, J. et al. (2025) Anti-icing properties of polar bear fur, Science Advances 11:eads7321doi.org

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