
コーンフレークの最初の特許では、トウモロコシより先に小麦が書かれていた
特許に名前があったのは、兄1人だけ。
この判定の対象「コーンフレークは、放置して乾いた生地から偶然できた」
もくじ
1896年4月14日、アメリカで特許第558393号が登録されました。題名は「薄片にした穀物とその製法」。穀物を薄いフレークにする作り方の特許です。発明者は、のちに「朝食シリアル産業の父」と呼ばれる人物でした。
ところが、特許の中身を読むと、「コーンフレーク」という名前から思い浮かべるものとは、ずいぶん違います。特許が材料として最初に挙げている穀物は、トウモロコシではなく小麦でした。発明者の欄にあるのは、医師ジョン・ハーヴェイ・ケロッグ(John Harvey Kellogg)1人の名前だけです。
いっぽう、今のケロッグの会社の公式年表には、「1894年、W.K.ケロッグがコーンフレークを作った」と書かれています。こちらは弟のウィル・キース・ケロッグ(Will Keith Kellogg)の名前だけ。同じ発明を、2つの記録がそれぞれ別の人の手柄にしているのです。
この記事では、まず「生地を放っておいたらフレークができた」というよく知られた話を見ます。次に、特許に書かれた作り方と材料を読みます。最後に、兄と弟がそれぞれ何をしたのかをたどります。
01「ゆでた生地を放っておいたらフレークになった」という話は、確かめられない
コーンフレークが生まれたときの話として、有名なものがあります。場所は、ケロッグ兄弟が働いていたミシガン州バトルクリークの療養所(サナトリウム。病気を治すために長く泊まる施設)です。そこで、ゆでた穀物の生地を、うっかり放っておいてしまいました。乾いてしまった生地を捨てずにローラーに通したら、薄いフレークになった、という話です。
話によって、だれがその場にいたか、なぜ放っておいたのか、だれが思いついたのかは変わります。こうした細かい点は、兄弟それぞれの側の思い出話や伝記にたよる部分が大きいのです。この「放っておいた生地」の話は、今回確認できた特許や公的な資料では、確かめられませんでした。
では、確かめられる記録には何が書いてあるのでしょうか。いちばん確かなのは、特許そのものです。
021896年の特許には、生地を放っておく話はなく、温度と時間をきっちり決めた作り方が書かれていた
特許の出願は1895年5月31日。書かれている作り方は、次のとおりです。
まず、穀物を8〜12時間、水に浸します。水の温度は、約4〜16℃か、約43〜60℃にたもちます。穀物の中には、セレアリンという酵素があります。酵素とは、生き物の中で、物を別の物に変える働きをする物質です。特許の説明では、こうすると、セレアリンがでんぷんを変えはじめます。甘みと風味が出るいっぽうで、発酵は起きない、と説明されています。
次に約1時間ゆで、でんぷんが水を十分に吸うまで火を通します。さまして少し乾かしたら、冷たいローラーではさみます。こうして、半透明の膜のような、ごく薄い薄片にします。最後に蒸してから焼き、乾いてカリカリの、薄茶色の薄片に仕上げます。
特許の中に、生地を放置して乾かした話は出てきません。もし偶然の出来事がきっかけだったとしても、特許に書かれたのは、温度と時間をきっちり決めた工程でした。

03特許が材料として最初に挙げた穀物は小麦で、トウモロコシは「使える穀物」の1つにすぎなかった
特許は、材料の穀物として、まず小麦を挙げています。小麦は自然のままのものがよく、少し削って白くしてあってもかまわない、と細かい注文までついています。そのあとに、大麦やオート麦、トウモロコシ、そのほかの穀物が並んでいるだけです。権利の範囲を書いた部分でも、小麦が例に出されています。できあがる食品は「小麦のような穀物から」作るもの、というのです。つまり最初の特許は「コーン(トウモロコシ)フレーク」の特許というより、穀物を薄片にする方法の特許でした。
特許には、この食品の目的も書かれています。前もって料理しなくても、すぐに消化できること。病気の人や、病気から回復しつつある人に特に向いていること。殺菌されていて、長く保存できること。そして、何の準備もなくすぐ食べられること。最初のフレークは、療養所の医師が考えた「消化しやすい食べ物」だったのです。
04兄は療養所の医師で、弟はコーンフレークの会社を作った
兄のジョン・ハーヴェイ・ケロッグは1852年生まれの医師です。百科事典ブリタニカによると、彼はバトルクリーク療養所の責任者でした。そこでは、穀物の食品が健康によいものとして勧められていたといいます。彼はキリスト教のセブンスデー・アドベンチスト教会の信者でした。しかし1907年に、考え方の違いから、教会を除名されて(会員から外されて)います。
兄のジョン・ハーヴェイは1893年に、シカゴの貧しい地区に伝道所(キリスト教を広めるための場所)を開いたと伝えられます。そこでは無料の医療や入浴、洗濯の場を用意し、1ペニーの昼食を1日に500〜600人へ出していたそうです。
弟のW.K.ケロッグは1860年生まれ。兄と一緒に働いたあと、1906年2月に「バトルクリーク・トーステッド・コーンフレーク社」を始めました。ブリタニカによると、この会社は最初、トーストしたコーンフレークだけを作っていました。JSTORの解説記事によると、W.K.は売り出すとき、兄の医学的な主張の一部を宣伝に使いませんでした。こうしてW.K.は、コーンフレークを、療養所の食事から、だれもが店で買う商品へと変えたのです。
兄弟の仲は、のちに大きく悪くなったと伝えられています。兄と弟のどちらの手柄とするかの違いは、2つの記録の書き方にも表れています。法律の書類である特許には、兄の名前だけがあります。会社の年表には、弟の名前だけがあります。どちらも、自分の側から見た「始まり」を記録しているのです。
05ケロッグ社はのちに2つに分かれ、それぞれ別の大企業の一部になった
コーンフレークの会社は、のちにケロッグ社となり、大きな食品会社に育ちました。W.K.ケロッグ財団の説明によると、その後、元のケロッグ社は2つに分かれました。そのうちケラノヴァ社はマース社の一部に、WKケロッグ社はフェレロ・グループの一部になったといいます。
W.K.ケロッグ財団は、W.K.ケロッグが始めたものです。自分の財産を、子どもたちの健康と幸せのために使おうとしたのです。財団の収入は、1931年に作られた信託(財産をあずけて運用してもらうしくみ)から得ています。財団と会社は、今は別々の組織です。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
朝食のシリアルは、19世紀の健康運動から生まれた
19世紀のアメリカでは、食べ物で体と心を整えようとする健康運動が広がっていました。その代表の一人が、グラハムクラッカーに名前を残すシルベスター・グラハムです。JSTORの解説記事によると、彼は菜食や、気持ちを刺激しない食べ物を勧めました。ジョン・ハーヴェイ・ケロッグも、規則正しい生活と、味の薄い食事を中心にした「生物学的な生き方」を勧めました。その食事の中に、コーンフレークがありました。
ただし、当時の健康運動の考えには、今の医学では否定されているものも含まれていました。歴史を読むときは、「当時の人がそう信じていた」ことと、「それが正しかった」ことを分けて考える必要があります。
特許に挙げられた利点は、工場で大量に作る商品にぴったりだった
特許に挙げられた利点を、並べ直してみましょう。料理しなくてよい。すぐ食べられる。殺菌されていて長く保存できる。そして、ほぼ同じ厚さの薄片がそろう。工場で大量に作り、袋や箱に入れて遠くの店まで運ぶ。そして各家庭で、好きなときに食べる。料理しなくてよい、長く保存できるといった利点は、そんな商品に必要な性質そのものです。
療養所で病人のために考えられた食べ物が、そのまま大量生産の商品の条件を満たしていました。弟W.K.は、兄の医学的な主張の一部を宣伝から外し、だれでも買える食品として売りました。こうして、朝食のシリアルという新しい産業が生まれました。
浸す・ゆでる・焼くの工程ごとに、穀物のでんぷんに起きること
特許の作り方では、工程ごとに、穀物の中で化学の変化が起きています。生のでんぷんは、つぶがかたくまとまっていて、消化しにくい状態です。水と一緒に十分に加熱すると、つぶが水を吸ってふくらみ、くずれます。これを糊化(こか)と呼び、消化しやすくなります。特許が「でんぷんが水を十分に吸うまで」ゆでると書いているのは、この状態を目指していると読めます。
その前の浸す工程では、酵素がでんぷんを分解しはじめ、甘みが出ると書かれています。特許によると、水の温度は低め(約4〜16℃)か高め(約43〜60℃)のどちらかにします。そうすると、酵素は働くのに、本当の発酵は起こらない、と書かれています。
最後の焼く工程で、薄片は水分が抜けてカリカリになり、薄茶色に色づきます。特許は、こうして焼いた薄片が甘い風味をもつようになると書いています。乾いているので、カビや細菌も増えにくくなります。
発明した人の名前は、記録を作った目的によって変わる
記録がどこまで信用できるかを調べることを、史料批判といいます。その目で、特許と会社の年表を比べてみましょう。どちらも「公式」の記録ですが、作られた目的が違います。特許は、権利を持つ人を法律上はっきりさせるための書類です。会社の年表は、創業者をたたえ、会社の物語を伝えるためのものです。ですから、同じ発明でも、名前が出てくる人が違ってもおかしくありません。発明の物語を読むときは、その記録がだれのために、何のために作られたかを確かめることが欠かせません。
記録の「年」にも注意が必要です。会社の年表はコーンフレークの誕生を1894年としますが、特許の出願は1895年、登録は1896年です。思いついた日、出願した日、権利が認められた日。どれを「発明の年」とするかで、数字は変わります。年号が食い違うときは、それぞれが何の日付なのかを確かめましょう。そうすると、食い違って見えた年号が、説明できることがあります。
06まとめ
コーンフレークは、療養所で放置した生地から偶然生まれた、とよく言われます。しかし1896年の特許にその話はなく、書かれていたのは温度と時間をきっちり決めた工程でした。特許が最初に挙げた穀物は小麦で、発明者として名前があるのは兄ジョン・ハーヴェイ1人です。
いっぽう、会社の年表は、弟W.K.ケロッグをコーンフレークを作った人として書いています。法律の書類である特許と、会社の年表という2つの公式な記録が、コーンフレークの始まりを、別々の人の手柄にしているのです。
朝食のコーンフレークの箱を手に取ったら、思い出してください。その最初の特許番号は558393、最初に名前が出てくる穀物は小麦でした。
人に話すなら、こう言おう
コーンフレークの最初の特許って、最初に名前が出てくる穀物はトウモロコシじゃなくて小麦なんだって。しかも特許はお兄さんの名前だけなのに、会社の年表には弟の名前だけが出てくるらしいよ。
英語で読む
Two Brothers, Two Records, One Flake
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
In 1896, the United States gave a patent to a doctor named John Harvey Kellogg.1896年、アメリカはジョン・ハーヴェイ・ケロッグという医師に特許を与えました。 It was for a new way to make thin, dry flakes from grain.それは、穀物から薄くて乾いたフレークを作る新しい方法の特許でした。 It is part of the corn flake story.この特許は、コーンフレークの物語の一部です。 But the patent named wheat first, not corn.でも特許が最初に挙げていた穀物は、トウモロコシではなく小麦でした。
There is a famous story about how the flakes began.フレークの始まりについては、有名な話があります。 At a health center in Battle Creek, Michigan, some cooked grain was left out and became dry.ミシガン州バトルクリークの療養所で、ゆでた穀物が置きっぱなしになり、乾いてしまいました。 Someone rolled it, and it broke into flakes.だれかがそれをローラーにかけると、フレークになったのです。 But the patent does not tell this story.でも、特許にはこの話は書かれていません。
Instead, it gives careful steps.そのかわりに、ていねいな手順が書かれています。 Soak the grain for 8 to 12 hours.穀物を8〜12時間、水に浸す。 Boil it for about an hour.約1時間ゆでる。 Press it between rollers into very thin flakes.ローラーではさんで、とても薄いフレークにする。 Then bake the flakes until they are dry and crisp.それから、乾いてカリカリになるまでフレークを焼く。 The patent says the food was good for sick people and easy to eat.特許には、この食べ物は病気の人に向いていて、食べやすいと書かれています。
John's younger brother, Will Keith Kellogg, worked with him.ジョンの弟、ウィル・キース・ケロッグは、兄と一緒に働いていました。 In 1906, Will started his own company to sell corn flakes.1906年、ウィルはコーンフレークを売る自分の会社を始めました。 Today, the company's history page says that Will created corn flakes in 1894.今、その会社の歴史のページには、ウィルが1894年にコーンフレークを作ったと書かれています。 It does not name John.ジョンの名前は出てきません。 The patent names only John.一方、特許にはジョンの名前しかありません。
So who made corn flakes?では、コーンフレークを作ったのはだれなのでしょう。 The two records give two different answers.2つの記録は、2つのちがう答えを出しています。 A patent is a legal paper, and a company history tells the company's story.特許は法律の書類で、会社の歴史はその会社の物語を伝えるものです。 When you read about an invention, ask who wrote the record and why.発明について読むときは、だれが、なぜその記録を書いたのかを考えてみましょう。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B Two records that tell the start of corn flakes in different ways
第1〜3段落で特許の中身、第4段落で会社の歴史のページ、第5段落で2つの記録の答えがちがうことを説明しているので正解はB。Cは特許の一部の内容にすぎない。
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Q2How long does the patent say to soak the grain?
特許では、穀物を水に浸す時間はどれくらいとされていますか。
正解:A 8 to 12 hours
第3段落2文目に Soak the grain for 8 to 12 hours. とあるので正解はA。約1時間はゆでる時間なのでBは違う。
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Q3Why does the writer say the two records give different answers?
筆者が「2つの記録はちがう答えを出している」と言うのはなぜですか。
正解:D The patent names John, but the company history names Will.
第4段落3〜5文目に、会社の歴史はウィルが作ったと書き、ジョンの名前はなく、特許にはジョンの名前しかないとあるので正解はD。
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Q4In paragraph 3, the word "crisp" is closest in meaning to:
第3段落の "crisp" に最も意味が近いのはどれですか。
正解:B dry and hard so it breaks easily
dry and crisp と並べられ、焼いて仕上げる場面なので、乾いてカリカリした状態を表す。正解はB。Aは反対の意味。
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Q5Which is true about the story?
この話について正しいのはどれですか。
正解:C Will started a company to sell corn flakes in 1906.
第4段落2文目に、1906年にウィルが自分の会社を始めたとあるので正解はC。第2段落4文目に特許にはその話がないとあるのでAは違い、第1段落4文目のとおり特許が最初に挙げたのは小麦なのでDも違う。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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patent名詞特許
The company has a patent for this new phone.
その会社はこの新しい電話の特許を持っている。
💡 patent office(特許庁)。「パテント」として日本語でも使う。
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grain名詞穀物、粒
Rice and wheat are kinds of grain.
米と小麦は穀物の一種だ。
💡 a grain of sand(砂粒ひとつ)のように「粒」の意味もある。
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wheat名詞小麦
Bread is usually made from wheat.
パンはふつう小麦から作られる。
💡 wheat flour(小麦粉)。発音は「ウィート」。
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soak動詞(液体に)浸す
Soak the beans in water overnight.
豆を一晩水に浸しておきなさい。
💡 be soaked で「びしょぬれになる」。
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crisp形容詞カリカリした、パリッとした
I like crisp apples.
私はシャキッとしたリンゴが好きだ。
💡 イギリス英語では potato crisps が「ポテトチップス」。
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record名詞記録
The school keeps a record of every student.
学校は生徒一人ひとりの記録を残している。
💡 動詞は「記録する」で、アクセントの位置が変わる(re-CORD)。
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legal形容詞法律の、合法の
A passport is a legal paper.
パスポートは法的な書類だ。
💡 反対は illegal(違法の)。
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create動詞作り出す、創造する
She created a new game for her class.
彼女はクラスのために新しいゲームを作り出した。
💡 名詞は creation、形容詞は creative(創造的な)。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 13件)。
- Kellogg, J. H. 米国特許 US558393 "Flaked Cereals and Process of Preparing Same"(1896)patents.google.com
- Our Story(WK Kellogg Co 公式)wkkellogg.com
- W.K. Kellogg(Encyclopaedia Britannica)britannica.com
- Wills, M. (2019) The Strange Story Behind Your Breakfast Cereal(JSTOR Daily)daily.jstor.org
- Who We Are(W.K. Kellogg Foundation)wkkf.org
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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