ニュートンは本当にリンゴの話をしたが、頭に当たったとは言っていない
歴史のウソ・ホントNo.020

ニュートンは本当にリンゴの話をしたが、頭に当たったとは言っていない

リンゴの話をしたのは、亡くなる前の年だった。

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この判定の対象「ニュートンは、リンゴが落ちるのを見て重力を考えた」

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もくじ
  1. リンゴの話は、ニュートン本人が友人に語っていた
  2. ニュートンは「リンゴも地球を引っぱっている」と話していた
  3. スタクリのほかに2人が、リンゴの話を書き残した
  4. 生家の「ニュートンのリンゴの木」は、嵐で倒れても生きている
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

1726年4月15日、ロンドンのケンジントン。友人のウィリアム・スタクリ(William Stukeley)が、83歳のアイザック・ニュートン(Isaac Newton)の下宿を訪ねました。2人は一緒に食事をして、その日を2人きりで過ごしました。

食後、暖かい日だったので、2人は庭に出ました。そしてリンゴの木の陰でお茶を飲みました。

話の途中で、ニュートンはこう言ったといいます。リンゴの木の陰にいる今の様子は、昔、重力(物を地面へ引っぱる力)の考えが頭に浮かんだときと同じだ、と。

これが、あの有名な「ニュートンのリンゴ」の話の、いちばん詳しい記録です。ニュートンが亡くなる、1年足らず前のことでした。

この記事では、まずスタクリの記録に何が書かれているかを見ます。次に、ほかの2人が書いたリンゴの話と比べます。最後に、「ニュートンのリンゴの木」とされる木の話と、記録をどこまで信じてよいかを考えます。

01リンゴの話は、ニュートン本人が友人に語っていた

「ニュートンのリンゴ」は、後の人が作った「いい話」だと思われることがあります。でも記録をたどると、少なくともニュートン本人がこの話をしていたことは確かめられます。

スタクリは、この日のことを手書きの原稿に書き残しました。『アイザック・ニュートン卿の生涯の回想録』(1752年)です。原稿はいま、ロンドンの王立協会(イギリスの科学者の団体)が持っています。オックスフォード大学などの「ニュートン・プロジェクト」が、その全文を読めるようにしています。

スタクリによると、ニュートンが重力のことを考え始めたきっかけは、リンゴが落ちたことでした。ニュートンが物思いにふけって座っていたときのことです。ニュートンは、こう考えたといいます。

なぜリンゴは、いつもまっすぐ下に落ちるのだろう。なぜ横や上には行かず、必ず地球の中心に向かうのか。それは、地球がリンゴを引っぱっているからに違いない。

ニュートンがリンゴの話をしたのは、リンゴの木の下のお茶の時間だった
ニュートンがリンゴの話をしたのは、リンゴの木の下のお茶の時間だった

02ニュートンは「リンゴも地球を引っぱっている」と話していた

スタクリの記録には、続きがあります。その続きは、有名なリンゴの話では、あまり語られません。

ニュートンの考えでは、物には引っぱる力がある。その力は物の量に比例する。だから地球がリンゴを引くのと同じように、リンゴも地球を引いている。

「地球がリンゴを引く」だけなら、物に重さがある理由の説明にすぎません。でも「リンゴも地球を引く」となると、話はもっと大きくなります。あらゆる物どうしが引き合っている、という考えです。スタクリは続けて、こう書いています。ニュートンは、この「物どうしが引き合う」性質を、地球や星の動きにも少しずつ当てはめていった、と。

03スタクリのほかに2人が、リンゴの話を書き残した

リンゴの話を書き残したのは、スタクリだけではありません。

ジョン・コンデュイット(John Conduitt)も、草稿(下書きの原稿)にこの話を書いています(1727〜28年ごろ)。コンデュイットは、ニュートンが亡くなった直後に、ニュートンの生涯の記録を書き始めた人です。草稿の内容は、こうです。疫病(人から人へうつる重い病気)がはやったため、ニュートンはケンブリッジを離れ、リンカンシャーの母のもとにいた。そのころ、庭で物思いにふけっていた。そして、こう考えた。リンゴを木から地面に落とす重力の力は、地球の近くだけで止まらないのではないか。もっと遠く、月の高さまで届くのではないか。そう考えて、計算を始めた。

フランスの思想家ヴォルテール(Voltaire)も、この話を紹介しています。ヴォルテールは、1726年8月から3年間イギリスに滞在していました。ニュートンが亡くなったときも、ロンドンにいました。1733年に英語で出た『イギリス書簡』には、こう書かれています。1666年、ニュートンは疫病を避けて引きこもっていた。庭を歩いていて、木から果物が落ちるのを見た。そして、重力について深く考えこんだ、と。

ただしヴォルテールは、引きこもった場所を「ケンブリッジの近く」と書いています。実際にニュートンが戻っていたのは、リンカンシャーの生家ウールスソープでした。落ちた物も「リンゴ」ではなく「果物」です。ヴォルテールの話からは、人から人へ伝わるうちに、細かいところが少しずつずれていく様子が分かります。

04生家の「ニュートンのリンゴの木」は、嵐で倒れても生きている

ニュートンが生まれた家は、ウールスソープ・マナーといいます。今は、イギリスの自然・歴史保護団体ナショナル・トラストが管理しています。果樹園には「フラワー・オブ・ケント」という品種のリンゴの木があります。この木は、ニュートンのリンゴの木として大切にされています。

ヨーク大学の解説によると、この木は1816年の嵐で倒れました。それでも木の大部分が残り、もう一度根を張りました。1820年ごろには、牧師のチャールズ・ターナー(Charles Turnor)が、この木から苗木を増やしました。その子孫の木は、ケンブリッジやキュー植物園を経て、1976年にヨーク大学にも贈られています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

60年近く前のことを語った本人の話は、どこまで信じてよいか

リンゴの話の出どころは、ニュートン本人です。これは強い証拠です。でも歴史学では、本人の証言だから正しい、とは考えません。

注意が必要な理由の1つめは、時間がたちすぎていることです。疫病の時期は1660年代半ば、スタクリに話したのは1726年。60年近く前の記憶です。2つめは、年をとった人が若いころを語るとき、話が分かりやすい形に整えられがちなことです。重力の考えは、長い時間をかけて少しずつ育ったのかもしれません。その長い道のりが、「リンゴが落ちた瞬間」という1つの場面にまとめられた可能性もあります。

その一方で、スタクリとコンデュイットという別々の2人が、どちらもリンゴと重力の話を書き残しています。2人の記録は、細かいところが違います。スタクリは「なぜ真下に落ちるのか」、コンデュイットは「重力は月まで届くのか」に重点があります。同じ人の話が別々の人に伝わると、こうしたずれが生まれるのは自然です。晩年のニュートンの身の周りで、リンゴの話がくり返し語られていたことは、かなり確かだといえます。

リンゴが地球を引く力は、地球がリンゴを引く力と同じ大きさ

ニュートンの言葉にある「リンゴも地球を引く」は、のちに運動の法則としてまとめられる考え方につながります。2つの物が引き合うとき、引く力は両方に同じ大きさで働きます。地球がリンゴを引く力と、リンゴが地球を引く力は、同じ大きさです。

それなのにリンゴだけが動いて見えるのは、地球がとてつもなく重いからです。同じ力で引かれても、重い物ほど動きにくいのです。リンゴが地面まで落ちるあいだ、地球もリンゴの方へ動いています。でも、その動きは小さすぎて測れません。

コンデュイットの草稿にある「月まで届くのでは」という発想は、「リンゴも地球を引く」という考えを、さらに先へ進めたものです。リンゴを落とす力と、月を地球の周りに回らせ続ける力は、同じものではないか。地上で物が落ちることと、月や星の動きを、1つの法則で説明する。これが「万有」引力の「万有(すべてのものにある)」の意味です。

「この木がニュートンのリンゴの木だ」という記録は、1806年が最初

話の中のリンゴの木が「どの木か」という問題もあります。これも、記録が書かれた時代ごとに分けて考える必要があります。スタクリもコンデュイットも、どの木だったかまでは書いていません。

ヨーク大学の解説によると、ウールスソープにある決まった1本の木について書いた、いちばん古い記録は1806年のものです。エドマンド・ターナー(Edmund Turnor)が出した、グランサムの町の歴史の本の脚注でした。1830年には、サー・デイヴィッド・ブルースターという人がこの家を訪れました。そして、庭にリンゴの木が1本しかないことを書き留めました。このことは、物理学者ジョージ・フォーブズが書いた文章で伝わっています。出来事から140年ほどたってから、「この木だ」という言い伝えが文字になったわけです。

もちろん、生家の果樹園に古いリンゴの木があり、地元で大切にされてきたことには意味があります。ただ、「話が本当か」と「木が本物か」は、別々に確かめるべき問いです。

リンゴの「ひらめき」から『プリンキピア』の出版までは、20年以上かかった

科学の歴史では、リンゴのような「ひらめきの瞬間」の物語がよく語られます。でもニュートンの場合、リンゴの時期から『プリンキピア』の出版(1687年)までには、20年以上かかっています。スタクリ自身も、ニュートンが「少しずつ」この性質を天体に当てはめていったと書いています。「ひらめきの瞬間」の物語だけを聞くと、その後の長い計算と検討の時間が見えにくくなります。この点に注意が必要です。

05まとめ

ニュートンのリンゴの話は、ニュートン本人が語ったものとして記録に残っています。いちばん詳しい記録は、1726年4月15日のものです。83歳のニュートンが、リンゴの木の陰でお茶を飲みながら、友人スタクリに話しました。

そこでニュートンは、地球がリンゴを引くだけでなく、リンゴも地球を引いていると語っていました。リンゴは頭に当たったのではありません。次にリンゴが木から落ちるのを見たら、その小さなリンゴも、地球をほんの少し引っぱっていることを思い出してください。

人に話すなら、こう言おう

ニュートンのリンゴの話って、本人が83歳のとき、リンゴの木の下でお茶を飲みながら友だちに話したんだって。しかも「リンゴも地球を引っぱってる」って言ってたらしいよ。頭に当たったとは言ってないんだって。
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英語で読む

Tea Under the Apple Trees

CEFR A2223 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

On April 15, 1726, William Stukeley visited his friend Isaac Newton in London.1726年4月15日、ウィリアム・スタクリはロンドンにいる友人アイザック・ニュートンを訪ねました。 Newton was 83 years old.ニュートンは83歳でした。 After dinner, the weather was warm, so they went into the garden.食事のあと、暖かい日だったので、2人は庭に出ました。 They drank tea under some apple trees.2人はリンゴの木の下でお茶を飲みました。

Then Newton told a story.そのとき、ニュートンはある話をしました。 Many years before, he was sitting in a garden and thinking.何年も前、彼は庭に座って考えごとをしていました。 An apple fell from a tree.すると、木からリンゴが落ちました。 He asked himself, "Why does an apple always fall straight down?彼は自分に問いかけました。「なぜリンゴはいつもまっすぐ下に落ちるのだろう。 Why doesn't it go sideways, or up?"なぜ横や上には行かないのだろう」 His answer was that the Earth pulls it.彼の答えは、地球がリンゴを引っぱっているから、というものでした。

Newton also said something that few people know.ニュートンは、あまり知られていないこともこう言っていました。 The apple pulls the Earth, too.リンゴも地球を引っぱっている、と。 Everything pulls everything else.あらゆる物が、ほかのあらゆる物を引っぱっているのです。 This idea became part of his famous law of gravity.この考えは、彼の有名な万有引力の法則の一部になりました。 He published his great book in 1687.彼は1687年に、偉大な本を出版しました。

Stukeley wrote about this day in his memoir, and the paper is still kept in London today.スタクリはこの日のことを回想録に書き、その原稿は今もロンドンに保管されています。 Another man, John Conduitt, also wrote down Newton's apple story.もう1人、ジョン・コンデュイットという人も、ニュートンのリンゴの話を書き残しました。 In his version, Newton wondered if the same power could reach as high as the Moon.彼の書いた話では、ニュートンは、同じ力が月の高さまで届くのではないかと考えました。 Newton died less than a year after that tea in the garden.ニュートンは、あの庭でのお茶から1年もたたずに亡くなりました。

But did the apple hit Newton on the head?では、リンゴはニュートンの頭に当たったのでしょうか。 No record says that.そう書いた記録はありません。 Newton only watched the apple fall.ニュートンは、リンゴが落ちるのを見ただけなのです。 A tree known as Newton's apple tree still grows at Woolsthorpe, the house where he was born.ニュートンのリンゴの木として知られる木が、彼の生家ウールスソープで今も育っています。 A storm knocked it down in 1816, but it grew roots again.1816年の嵐で倒れましたが、もう一度根を張ったのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How old was Newton when Stukeley visited him?

    スタクリが訪ねたとき、ニュートンは何歳でしたか。

  3. Q3According to Newton, why does an apple fall straight down?

    ニュートンによると、リンゴはなぜまっすぐ下に落ちるのですか。

  4. Q4In paragraph 4, the word "memoir" is closest in meaning to

    第4段落の「memoir」という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話について正しいものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • visit動詞
    訪ねる

    I will visit my grandmother this weekend.

    今週末、祖母を訪ねるつもりだ。

    💡 visit は他動詞なので visit to ~ としない(名詞なら a visit to ~)。

  • weather名詞
    天気

    The weather was cold and rainy yesterday.

    昨日は寒くて雨の天気だった。

    💡 whether(~かどうか)と発音が同じ。

  • sideways副詞
    横に、横向きに

    The crab walked sideways on the sand.

    カニは砂の上を横向きに歩いた。

    💡 side(横)+ ways(方向)。

  • pull動詞
    引く、引っぱる

    Pull the door to open it.

    ドアは引いて開けてください。

    💡 反対語は push(押す)。

  • gravity名詞
    重力、引力

    Gravity keeps us on the ground.

    重力のおかげで私たちは地面にいられる。

    💡 law of gravity(万有引力の法則)。grave(重大な)と同じ語源で「重さ」が元の意味。

  • publish動詞
    出版する

    The writer published her first book last year.

    その作家は去年、最初の本を出版した。

    💡 public(公の)と同じ語源。publisher は出版社。

  • memoir名詞
    回想録

    The old soldier wrote a memoir about the war.

    その老兵は戦争についての回想録を書いた。

    💡 フランス語の mémoire(記憶)から。memory と同じ仲間。

  • storm名詞
    嵐

    The storm knocked down many trees.

    嵐で多くの木が倒れた。

    💡 knock down(倒す)とよく一緒に使う。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 10件)。

  1. Stukeley, W. (1752) Memoirs of Sir Isaac Newton's Life(Royal Society MS/142、ニュートン・プロジェクト翻刻)newtonproject.ox.ac.uk
  2. Conduitt, J. (c.1727-8) Draft account of Newton's life at Cambridge(Keynes Ms. 130.04、ニュートン・プロジェクト翻刻)newtonproject.ox.ac.uk
  3. Voltaire, Letters on England, Letter XV: On Attraction(Project Gutenberg)gutenberg.org
  4. Woolsthorpe Manor(ナショナル・トラスト)nationaltrust.org.uk
  5. Newton's apple tree(ヨーク大学 物理学科)york.ac.uk

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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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