救助信号のメーデーは、1923年にロンドンの空港の無線係がフランス語から作った
言葉と語源No.284

救助信号のメーデーは、1923年にロンドンの空港の無線係がフランス語から作った

救助信号のメーデーは、空港の無線係が考えた。

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もくじ
  1. 「メーデー」は、1923年にロンドンのクロイドン空港の無線係が考えた
  2. 1927年、メーデーは世界共通の「助けて」の合図になった
  3. もとのフランス語は「m'aider」で、「(来て)私を助けて」という意味
  4. 無線の合図には、ほかにもフランス語が残っている
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

日本の国の規則の中に、こんな文があります。船が遭難して無線電話で助けを呼ぶときは、まず「メーデー」を3回言うこと。国が定めた「無線局運用規則」の第76条です。

同じ規則には、ほかにも見慣れないカタカナが並んでいます。「パン パン」「セキュリテ」「シーロンス メーデー」。どれも、もとはフランス語です。

なぜ日本の規則に、フランス語の言葉が書かれているのでしょうか。そのうち「メーデー」の始まりは、1923年のロンドンの空港でした。

この記事では、まず「メーデー」がどこで、誰によって作られたかを紹介します。次に、1927年にそれが世界の規則になった経緯を見ます。最後に、今も無線で使われている、ほかのフランス語の合図を紹介します。

01「メーデー」は、1923年にロンドンのクロイドン空港の無線係が考えた

1920年代のはじめ、ロンドンとパリの間には、もう旅客機が定期的に飛んでいました。イギリスには、クロイドン空港の歴史を伝える「ヒストリック・クロイドン・エアポート・トラスト」という団体があります。その説明によると、1919年に、世界で初めての国際定期便が始まりました。いちばん大事な路線は、ロンドンとパリを結ぶものでした。

そのころ、飛行機と地上の連絡は、モールス信号から、声で話す無線電話へと変わりつつありました。モールス信号は、短い音と長い音の組み合わせで文字を送るしくみです。

ところが、声の無線の決まりは、主にモールス信号の決まりをもとにしていました。たとえば「Qコード」です。3文字の略語が約220個あり、1つで長い文の代わりをしました。でも、こうした略語を声で言っても、うまく伝わらないことがありました。モールス信号で助けを求める「SOS」も、その例でした。

この問題に取り組んだのが、クロイドン空港の主任無線係だったF・S・モックフォード(F. S. Mockford)です。モックフォードは、イギリスの航空省に雇われた公務員でした。航空省は、空の仕事を受け持つ国の役所で、クロイドン空港を持ち、運営していました。SOSの代わりに、声の無線で使える言葉を探したのです。

1923年、モックフォードは「メーデー、メーデー、メーデー」という合図を考えました。トラストの説明では、モックフォードはフランス語で「助けて」を意味する言葉から思いついた、と伝えられています。この合図は航空省に認められ、緊急のときに使う決まりになりました。1924年には、イギリスの『エア・パイロット』という航空の案内書に載り、国として正式に広められました。

021927年、メーデーは世界共通の「助けて」の合図になった

1927年、アメリカのワシントンで、無線の国際会議が開かれました。会議では「国際無線電信条約」が結ばれ、無線の使い方を細かく決めた規則がつきました。条約を結んだ国の中には、日本の名前もあります。

その規則の第19条に、メーデーが書かれました。国際電気通信連合(ITU)が公開している当時の文書では、こうなっています。声で送る遭難の呼び出しは、「MAYDAY」という言葉を言うことで行う。この言葉は、フランス語の「m'aider」の発音に当たる、というのです。

遭難の呼び出しには、厳しい決まりがありました。同じ規則によると、遭難の呼び出しは、ほかのどんな通信よりも優先されます。それを聞いた無線局は、すぐに、じゃまになる通信を止めなければなりません。そして、遭難の呼び出しが来た電波に、耳を傾け続けなければなりません。

こうして、1923年にロンドンの空港で生まれた言葉は、4年で世界のルールになりました。今の日本の規則でも、遭難の呼び出しは「メーデー」を3回言ってから、「こちらは」と言います。そのあと、遭難した船の無線局の呼び名を3回続けます。

03もとのフランス語は「m'aider」で、「(来て)私を助けて」という意味

では、もとのフランス語は、どんな言葉だったのでしょうか。

アメリカの辞書『American Heritage 英語辞典』は、メーデーの語源を、フランス語の「(venez) m'aider」と書いています。「venez」は「来てください」、「m'aider」は「私を助ける」という意味です。合わせて「来て、私を助けて」となります。日本の『日本国語大辞典』も、同じく「助けに来て」の意味のフランス語から、と書いています。

メーデーは、このうち「m'aider」の部分の音を、英語のつづりで書いたものです。

ただし、フランス語のつづりは資料によって違います。1927年の国際規則と、今のアメリカの規則は「m'aider」と書いています。一方、クロイドン空港のトラストの説明は「m'aidez」と書いています。

規則が問題にしているのは、つづりではなく音です。1927年の規則も、今のアメリカの規則も、MAYDAY はフランス語の m'aider の「発音」に当たる、と書いています。英語の文字で書いたメーデーは、フランス語の音を写したものなのです。

1920年代のクロイドン空港のような、草地の飛行場(イメージ)。
1920年代のクロイドン空港のような、草地の飛行場(イメージ)。

04無線の合図には、ほかにもフランス語が残っている

メーデーだけではありません。無線の合図には、ほかにもフランス語がたくさん残っています。アメリカの連邦規則(海の無線の規則)は、それぞれの合図を「フランス語のように発音する」と、はっきり書いています。

  • パン パン:「メーデー」ほどではないが、急いで知らせたいことがあるときの合図です。アメリカの規則は、フランス語の「panne」のように発音する、としています。フランスの辞書ラルースによると、panne は、機械や乗り物が突然、思いがけず止まること、つまり故障のことです。
  • セキュリテ:安全にかかわる知らせを送るときの合図です。フランス語の「sécurité」のように発音します。
  • シーロンス メーデー:遭難の通信をじゃましないよう、ほかの局に通信を止めるよう求める合図です。フランス語の「silence, m'aider」のように発音します。
  • シーロンス フィニィ:遭難の通信が終わったことを知らせる合図です。フランス語の「silence fini」のように発音します。

日本の「無線局運用規則」にも、これらがカタカナで書かれています。「パン パン」(又は「緊急」)、「セキュリテ」(又は「警報」)、「シーロンス メーデー」(又は「通信停止遭難」)、「シーロンス フィニィ」(又は「遭難通信終了」)です。かっこの中の日本語で言ってもよいのですが、規則では、フランス語から来た言い方が先に書かれています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

日本語の「メーデー」は、もとの違う2つの言葉が同じ音になったもの

日本語で「メーデー」と言うと、5月1日の労働者の祭りを思い浮かべる人も多いでしょう。実は、日本の辞書では、この2つは別々の言葉として扱われています。

『日本国語大辞典』によると、5月1日のメーデーは、英語の「May Day」から来ています。もともとは、ヨーロッパで春の訪れを祝う5月1日の祭りでした。のちに、1886年5月1日にアメリカの労働者が8時間労働を求めて行ったストライキをきっかけに、国際的な労働者の祭典になりました。日本では1920年に、東京の上野公園で第1回が行われました。

一方、救助信号のメーデーは、英語の「Mayday」です。もとはフランス語の「(venez) m'aider」でした。

同じ辞典は、日本語の文章で使われた古い例も挙げています。労働者の祭りのメーデーは、1921年の新しい言葉の辞典に出てきます。救助信号のメーデーは、1958年の菊村到の小説『紅の翼』に、「メイ・デイ、メイ・デイ」とSOSを発した、という形で出てきます。英語では「May Day」と「Mayday」でつづりが違いますが、日本語ではどちらも「メーデー」になったのです。

1927年の「PAN」は、飛行機のための合図だった

1927年の国際規則には、「PAN」という合図も書かれています。規則によると、PAN は、飛行機の無線で使う緊急の合図でした。飛行機が故障して着陸しなければならないが、すぐに助けは要らない、と知らせるときに使うものです。

フランス語の panne は、ラルースの辞書の説明どおり、機械や乗り物が突然止まることです。1927年の PAN は、まさに故障した飛行機のための合図でした。今は、アメリカや日本の規則で、船の無線にも「パン パン」が使われています。1927年の規則に書かれた合図は「PAN」でしたが、今の規則では「PAN PAN」と、2語を重ねた形です。

声の合図は、だれが聞いても分かる音であることが大事

アメリカの連邦規則は、この決まった合図を使う目的も書いています。遭難のときにこの合図を送るのは、どの国の無線局にも、それが遭難の呼び出しだと確実に分かってもらうためだ、というのです。

つまり、メーデーは、どこの国の言葉かよりも、世界中で同じ音として決まっていることに意味がある合図なのです。日本の規則は、「メーデー」の代わりに日本語の「遭難」と言ってもよい、としています。それでも、規則の文では「メーデー」が先に書かれています。

メーデーを3回くり返す決まりは、1927年の国際規則にもう書かれていた

1927年の規則では、モールス信号の遭難の呼び出しは、遭難信号を3回送ることになっていました。そして、声で送るメーデーにも、同じ決まりが当てはまる、と書かれています。今の日本の規則も、アメリカの規則も、メーデーを3回言うことを決めています。

クロイドン空港のトラストの説明でも、モックフォードが考えた合図は「メーデー、メーデー、メーデー」と3回続く形でした。1923年の形が、今もそのまま使われているのです。

05まとめ

無線で助けを呼ぶ「メーデー」は、1923年に、ロンドンのクロイドン空港の主任無線係モックフォードが考えた合図です。もとは、フランス語の「(venez) m'aider(来て、私を助けて)」でした。1927年にワシントンで結ばれた条約の規則に書かれ、世界共通の合図になりました。今の日本の「無線局運用規則」にも、「メーデー」を3回言うことが書かれています。同じ規則には、フランス語の「故障」から来た「パン パン」や、「シーロンス フィニィ」も並んでいます。そして、遭難の通信が終わった知らせは、最後に「さようなら」と言って締めくくることになっています。

人に話すなら、こう言おう

飛行機や船が無線で助けを呼ぶ「メーデー」って、フランス語の「助けに来て」から来てるんだって。1923年にロンドンの空港の無線係が考えたらしいよ。日本の国の規則にも「メーデー」って書いてあるんだ。
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英語で読む

A French Cry for Help

CEFR A2209 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

When a ship or a plane is in danger, the crew may call one word into the radio.船や飛行機が危険なとき、乗っている人は無線に向かって、ある1つの言葉を言うことがあります。 "Mayday, Mayday, Mayday!"「メーデー、メーデー、メーデー!」 But where does this word come from?でも、この言葉はどこから来たのでしょうか。

The story starts in 1923 at Croydon Airport in London.話は、1923年のロンドンのクロイドン空港から始まります。 At that time, people were starting to talk to planes by radio.そのころ、人々は無線で飛行機と話し始めていました。 Before that, they used Morse code, and the call for help was SOS.それまではモールス信号を使っていて、助けを呼ぶ合図はSOSでした。 But short codes like that did not always work well in spoken messages.でも、そうした短い記号は、声で伝えるとうまくいかないことがありました。

A radio officer at the airport, F. S. Mockford, looked for a new word.空港の無線係だったF・S・モックフォードは、新しい言葉を探しました。 He chose "Mayday."彼が選んだのは「メーデー」でした。 It comes from French words that mean "come and help me."これは、「来て、私を助けて」という意味のフランス語から来ています。 The British government accepted it, and in 1927 it became part of world rules for radio.イギリス政府がこれを認め、1927年には、無線の世界の規則の一部になりました。

Other radio words also come from French.ほかの無線の言葉にも、フランス語から来たものがあります。 "Pan pan" is used when a message is urgent but less serious.「パン パン」は、急ぎの知らせだけれど、それほど深刻ではないときに使います。 It sounds like the French word "panne," which means a sudden breakdown of a machine.これは、機械が突然故障することを意味するフランス語の「panne」のように発音します。 In 1927, it was a signal for planes that had to land because of damage.1927年には、故障のために着陸しなければならない飛行機のための合図でした。

You can even find these words in Japanese law.こうした言葉は、日本の国の決まりの中にさえ見つかります。 The rules for radio stations say that a ship in danger should say "Mayday" three times.無線局の規則には、危険にあった船は「メーデー」を3回言うように、と書かれています。 So a French cry for help from 1923 is still in use in Japan today.つまり、1923年のフランス語の「助けて」が、今も日本で使われているのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2Where did the story of "Mayday" start?

    「メーデー」の話はどこで始まりましたか。

  3. Q3Why did people need a new word for help?

    人々が「助けて」を表す新しい言葉を必要としたのは、なぜですか。

  4. Q4In paragraph 4, the word "urgent" is closest in meaning to ...

    第4段落の urgent という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about "pan pan"?

    「パン パン」について、正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • danger名詞
    危険

    The sign says the river is a danger to swimmers.

    看板には、その川は泳ぐ人に危険だと書いてある。

    💡 in danger で「危険な状態で」。形容詞は dangerous。

  • radio名詞
    無線、ラジオ

    The captain talked to the airport by radio.

    機長は無線で空港と話した。

    💡 by radio で「無線で」。by の後は a や the をつけない。

  • officer名詞
    係官、役人

    A police officer helped the lost child.

    警察官が迷子の子どもを助けた。

    💡 a radio officer は「無線係」。

  • accept動詞
    受け入れる、認める

    The teacher accepted my idea.

    先生は私の考えを受け入れた。

    💡 名詞は acceptance。except(〜を除いて)と混同しないこと。

  • urgent形容詞
    急を要する

    I have an urgent message for you.

    あなたに急ぎの伝言があります。

    💡 名詞は urgency(緊急)。

  • breakdown名詞
    故障

    Our car had a breakdown on the way home.

    帰る途中で車が故障した。

    💡 動詞 break down(故障する)から。

  • signal名詞
    合図、信号

    The teacher gave a signal to start.

    先生は始めの合図をした。

    💡 traffic signal は「交通信号」。

  • law名詞
    法律

    It is against the law to drive without a license.

    免許なしで運転するのは法律違反だ。

    💡 against the law で「法律に反して」。lawyer は「弁護士」。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 18件)。

  1. Genesis of Air Traffic Control(Historic Croydon Airport Trust)historiccroydonairport.org.uk
  2. International Radiotelegraph Convention of Washington, 1927(General Regulations を含む。ITU 図書館・公文書館の電子版)search.itu.int
  3. 47 CFR Part 80 Stations in the Maritime Services(米国連邦規則集、eCFR)ecfr.gov
  4. 無線局運用規則(昭和25年電波監理委員会規則第17号、e-Gov 法令検索)laws.e-gov.go.jp
  5. mayday(The American Heritage Dictionary of the English Language)ahdictionary.com
  6. メーデー(精選版 日本国語大辞典/デジタル大辞泉 ほか、コトバンク)kotobank.jp
  7. panne(Dictionnaire de français Larousse)larousse.fr

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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