
平均寿命が42.8歳だった明治の男性も、20歳からはあと約40年生きる計算だった
「昔の人は30歳で死んだ」は平均の読み違い。
この判定の対象「昔の人は、30〜40歳くらいで死ぬのがふつうだった」
もくじ
「昔の人は30歳くらいで死んだ」。そんな話を聞いたことがあるかもしれません。確かに、昔の平均寿命の数字を見ると、とても短く見えます。
日本の国の生命表(年齢ごとの死に方をまとめた表)の第1回は、1891〜1898年の分です。このころの平均寿命は、男性が42.8歳、女性が44.3歳でした。
でも、同じ表には別の数字も書かれています。20歳の男性は、そこから平均であと39.8年生きる、という数字です。つまり、20歳まで生きた男性は、平均で約60歳まで生きる計算でした。
平均寿命は42.8歳なのに、20歳まで生きた人は約60歳まで生きる計算になる。この食い違いは、なぜ起きるのでしょうか。この記事では、まず「平均寿命」という数字が何を表しているのかを見ます。次に、1899年の日本で、亡くなった人のうち赤ちゃんがどれくらいいたのかを計算します。最後に、中世の人の年齢を骨から調べるときの落とし穴を紹介します。
01平均寿命とは、生まれたばかりの赤ちゃんが、平均であと何年生きるかという数字
厚生労働省は、「生命表」という表を作っています。生命表は、ある時期の年齢ごとの死に方が、この先も変わらないと仮定して作る表です。その仮定のもとで、各年齢の人が平均してあと何年生きられるかを計算します。この「あと何年」を「平均余命」といいます。
そして、0歳の平均余命のことを「平均寿命」と呼びます。つまり平均寿命は、生まれたばかりの赤ちゃんが、平均であと何年生きるかという数字です。大人が何歳で亡くなるかを、直接表した数字ではありません。
平均は、ほかから大きく離れた数がまざると、その数に大きく引っぱられます。たとえ話で考えてみましょう。10人の赤ちゃんのうち、3人が0歳で亡くなり、7人が60歳まで生きたとします。全員の亡くなった年齢を足して10で割ると、平均は42歳です。でも、42歳で亡くなった人は1人もいません。
021890年代の日本では、20歳の男性はあと39.8年生きる計算だった
厚生労働省の資料には、第1回生命表の数字ものっています。そこから、年齢ごとの「あと何年」を並べてみます。
1890年代の20歳の男性は、平均で約60歳まで生きる計算です。65歳の男性なら、あと10.2年、つまり約75歳まで生きる計算でした。女性は、20歳からあと40.8年で、約61歳までです。
ここで大事なのは、大人も今より早く亡くなっていたことです。2020年の生命表では、20歳の男性はあと61.90年、つまり約82歳まで生きる計算です。1890年代の20歳と比べると、約22年長くなっています。
だから、「昔の大人も今と同じくらい長生きだった」というのも正しくありません。正しいのは、「昔の大人は今より早く亡くなったが、30代や40代でみんなが亡くなったわけではない」ということです。
031899年に亡くなった人の約4人に1人は、1歳になる前の赤ちゃんだった
では、平均寿命を大きく下げていたのは何でしょうか。厚生労働省の人口動態統計には、1899年(明治32年)からの数がのっています。
1899年に日本で生まれた赤ちゃんは、138万6981人でした。同じ年に亡くなった人は、93万2087人です。そのうち、1歳になる前に亡くなった赤ちゃん(乳児)は、21万3359人でした。さらに、そのうち10万8077人は、生まれて1か月もたたないうちに亡くなっています。
計算すると、1899年に亡くなった人の約23%、つまり約4人に1人が、1歳前の赤ちゃんでした。また、この年に亡くなった1歳前の赤ちゃんの数を、この年に生まれた赤ちゃんの数で割ると、1000人あたり約154人になります。約6.5人に1人の割合です。

0歳で亡くなる人が多いと、平均寿命は大きく下がります。さっきのたとえ話と同じしくみです。オックスフォード大学の研究者たちが内容を書いているデータサイトに、「Our World in Data」があります。このサイトも、昔の寿命が短かったことには、子どもの死亡の多さが大きく関わっていたと説明しています。
ただし、同じサイトは、こうも書いています。平均寿命が延びたのは、子どもの死亡が減ったからだけではない。大人やお年寄りも含めて、すべての年齢で延びたのだ、と。
04昔からの方法で骨から年齢を調べると、お年寄りが若く見積もられやすい
では、もっと昔の中世はどうでしょうか。中世の人の寿命を調べるとき、研究者は、税の記録などの古い文書や、墓地から出た骨を手がかりにします。
骨から年齢を調べる方法には、落とし穴があります。アメリカのサウスカロライナ大学の人類学者シャロン・ドゥウィット(Sharon DeWitte)さんは、2014年の論文で、こう指摘しています。骨から年齢を推定する昔からの方法は、年をとった大人の年齢を低く、若い大人の年齢を高く見積もりがちだ。しかも、「50歳以上」のように、最後をひとまとめにしてしまう、と。
これでは、80歳の人の骨も「50歳以上」の箱に入ってしまいます。そのうえ、年をとった人の年齢が低く見積もられると、骨のデータの上では、お年寄りが実際より少なく見えてしまいます。
ドゥウィットさんは、中世ロンドンの墓地の骨を調べました。使ったのは、お年寄りの骨でも年齢を1つの数で推定できる「トランジション分析」という方法です。比べたのは、黒死病(ペスト)の前の時代の464人と、あとの時代の133人です。黒死病は、1347〜1351年に、ヨーロッパの人口の30〜50%を死なせたと推定される病気です。結果は、黒死病のあとの時代のほうが、50歳をこえた大人の割合が高く、死亡の危険も低かったというものでした。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
「平均」「中央値」「最頻値」は、同じ集まりから違う答えを出す
年齢の「真ん中あたり」を表す数には、いくつか種類があります。平均は、全員の年齢を足して人数で割ったものです。中央値は、全員を年齢の順に並べたときに、ちょうど真ん中にくる人の年齢です。最頻値は、いちばん多くの人が亡くなった年齢です。
記事の初めのたとえ話では、亡くなった年齢が「0歳」と「60歳」の2か所に分かれていました。こういうとき、平均は、その間のだれも亡くならなかった年齢(42歳)に落ちます。一方、中央値と最頻値は、どちらも60歳です。同じ10人なのに、どの数を使うかで「何歳で亡くなったか」の答えが大きく変わるのです。
人類学者のガーベン(Michael Gurven)とカプラン(Hillard Kaplan)は、2007年の論文で、世界各地の、狩りや木の実集めで暮らす小さな集団(狩猟採集民)や、小さな規模で畑を作って暮らす人々の、死亡のデータを調べました。そして、大人が亡くなる年齢でいちばん多いところ(最頻値)などを比べ、人間が進化の中で備えてきた寿命は68〜78年ほどだと論じています。2人は、子どもを産み育てる年齢をこえて長く生きることは、衛生や医療が進んだ最近だけのものではない、と書いています。
生命表の「平均寿命」は、その年の死に方が続くと仮定した計算
生命表の平均寿命には、もう1つ注意点があります。厚生労働省の説明のとおり、生命表は、ある時期の死に方がこの先も変わらないと仮定して作ります。つまり、1891〜1898年の平均寿命42.8歳は、「そのころの死に方が一生続いたら」という計算の答えです。
実際に1891年に生まれた人が生きた時代に、死に方は年とともに変わっていきました。たとえば平均寿命は、1947年には男性50.06歳になっています。だから、1891年生まれの人が実際に何歳まで生きたかは、生命表の平均寿命と同じとは限りません。生命表の平均寿命は、「その時期の死に方」を1つの数にまとめたものなのです。
墓地の骨は、生まれた子どもの数にも左右される
ドゥウィットさんは、墓地の骨を使うときの、別の落とし穴も挙げています。墓地にある骨の年齢の分布は、死に方の変化よりも、生まれる子どもの数の変化に強く左右される、というのです。
たとえば、ある町で生まれる子どもが年ごとに増えていくと、亡くなる子どもの数も増えます。死に方が同じでも、墓地には子どもの骨が多くなります。そのため、骨の年齢の分布だけを見て「この時代は若死にだった」と決めることはできません。ドゥウィットさんは、子どもの生まれる数の変化を調べる指標も使い、黒死病の前後の違いが、生まれる数の違いのせいではないことを確かめています。
「平均寿命」と「人の一生の長さ」を分けて考える
ここまでをまとめると、昔の平均寿命の短さには、2つの面がありました。1つは、赤ちゃんや子どもが多く亡くなったこと。もう1つは、大人も今より早く亡くなったことです。
1890年代の日本の数字で言えば、20歳の男性の「あと何年」は39.8年で、2020年の61.90年より約22年短くなっています。一方で、0歳の平均寿命の42.8歳と、20歳の人が届く約60歳との間には、約17年の差があります。この差を作っているのは、20歳になる前に亡くなった人たちです。その中でも、1歳前の赤ちゃんの死がとても多かったことは、1899年の数字が示しています。
05まとめ
「昔の人は30〜40歳で死んだ」という話は、平均寿命の読み違いです。1891〜1898年の日本の平均寿命は男性42.8歳でしたが、20歳の男性はあと39.8年、約60歳まで生きる計算でした。平均を大きく下げていたのは、赤ちゃんや子どもの死でした。
1899年に日本で亡くなった93万2087人のうち、21万3359人は1歳になる前の赤ちゃんでした。約4人に1人です。昔の大人も今より早く亡くなっていましたが、40歳ごろにみんなが亡くなっていたわけではありません。
人に話すなら、こう言おう
明治の日本の平均寿命は、男で42.8歳。でも20歳まで生きた人は、平均で60歳くらいまで生きる計算だったんだって。赤ちゃんがたくさん亡くなって、平均をぐっと下げてたんだよ。
英語で読む
Did People in the Past Really Die at Forty?
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
Some people say that people in the past died at about 30 or 40.昔の人は30歳か40歳くらいで死んだ、と言う人がいます。 The numbers seem to agree.数字も、それを裏づけているように見えます。 In Japan in the 1890s, the average life expectancy for men was only 42.8 years.1890年代の日本では、男性の平均寿命はたった42.8年でした。
But the same table shows another number.でも、同じ表には別の数字ものっています。 A man who was 20 years old could expect to live 39.8 more years.20歳の男性は、あと39.8年生きると見込まれていました。 So by this calculation, men who reached 20 could expect to live to about 60.つまり、この計算では、20歳まで生きた男性は、平均で約60歳まで生きると見込まれていました。 Why is the average so low, then?では、なぜ平均はこんなに低いのでしょうか。
The answer is babies.答えは、赤ちゃんです。 Life expectancy at birth is an average for newborn babies.平均寿命は、生まれたばかりの赤ちゃんについての平均です。 In 1899, about one in four people who died in Japan was a baby under one year old.1899年に日本で亡くなった人の約4人に1人は、1歳未満の赤ちゃんでした。 Also, for every 1,000 babies born that year, about 154 babies under age one died.また、その年に生まれた赤ちゃん1000人あたり、1歳前の赤ちゃんが約154人亡くなりました。 When many people die at age zero, the average becomes much lower.0歳で亡くなる人が多いと、平均はずっと低くなります。
Here is a simple example.簡単な例を挙げます。 Think about ten babies.10人の赤ちゃんで考えてみましょう。 Three die at age zero, and seven live to 60.3人が0歳で亡くなり、7人が60歳まで生きます。 The average age at death is 42, but nobody died at 42.亡くなった年齢の平均は42歳ですが、42歳で亡くなった人は1人もいません。
Still, adults in the past did die earlier than today.それでも、昔の大人が今より早く亡くなっていたのは事実です。 In 2020, a 20-year-old Japanese man could expect to live to about 82.2020年には、20歳の日本人男性は、約82歳まで生きると見込まれています。 That is about 22 years longer than in the 1890s.1890年代より約22年長いのです。 Studies of old bones also need care, because old methods often guessed that older people were younger than they really were.古い骨の研究にも注意が必要です。昔の方法では、お年寄りを実際より若く見積もることが多かったからです。
4択問題 Reading Quiz
-
Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B Why a low average life expectancy does not mean adults died young
第2〜4段落で、平均寿命が低いのは赤ちゃんの死が多かったためで、20歳の人は約60歳まで生きたと説明しているので正解はB。Cの骨は第5段落の最後に少し出てくるだけ。
-
Q2In the 1890s, how many more years could a 20-year-old Japanese man expect to live?
1890年代、20歳の日本人男性はあと何年生きると見込まれていましたか。
正解:D 39.8 years
第2段落2文目に「39.8 more years」とあるので正解はD。Bの42.8年は0歳の平均寿命、Cの22年は2020年との差。
-
Q3Why was the average life expectancy so low in the past?
昔の平均寿命がとても低かったのはなぜですか。
正解:A Many babies died before they were one year old.
第3段落で、1899年に亡くなった人の約4人に1人が1歳未満の赤ちゃんで、0歳で亡くなる人が多いと平均が下がると説明しているので正解はA。Bは第4段落の例と逆の内容。
-
Q4In paragraph 3, the word "newborn" is closest in meaning to
第3段落の "newborn" に最も意味が近いのはどれですか。
正解:B just born
new(新しい)+born(生まれた)で「生まれたばかりの」なのでBが正解。Aは反対の意味。
-
Q5Which is true, according to the story?
本文の内容と合うのはどれですか。
正解:C Old ways of reading bones made older people look younger.
第5段落の最後の文に、昔の方法はお年寄りを実際より若く見積もることが多かったとあるので正解はC。Aは第5段落1〜3文目と逆、Dは第3段落2文目と合わない。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
-
average名詞・形容詞平均(の)
The average score on the test was 70.
テストの平均点は70点だった。
💡 on average で「平均して」。
-
life expectancy名詞平均余命、平均寿命
Life expectancy in Japan is very high.
日本の平均寿命はとても高い。
💡 expect(予想する、見込む)から。life expectancy at birth=生まれたときの平均余命=平均寿命。
-
expect動詞予想する、見込む
We expect rain this afternoon.
今日の午後は雨になりそうだ。
💡 expect to ~ で「~するつもりだ、~すると見込む」。
-
reach動詞(年齢・場所に)達する、着く
My grandmother reached the age of 90 last year.
祖母は去年90歳になった。
💡 reach the station=駅に着く。to は不要。
-
newborn形容詞・名詞生まれたばかりの(赤ちゃん)
The nurse held the newborn baby.
看護師は生まれたばかりの赤ちゃんを抱いた。
💡 new+born。born は bear(産む)の過去分詞。
-
example名詞例
Can you give me an example?
例を挙げてくれますか。
💡 for example=たとえば。
-
adult名詞大人
Tickets are 1,000 yen for adults.
チケットは大人1000円です。
💡 child(子ども)の反対。形容詞では「大人の」。
-
bone名詞骨
He broke a bone in his arm.
彼は腕の骨を折った。
💡 skeleton は「骨格、全身の骨」。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 21件)。
- 第23回生命表(完全生命表)の概況(厚生労働省)mhlw.go.jp
- 令和6年 人口動態統計(確定数)の概況 第2表 人口動態総覧の年次推移(厚生労働省)mhlw.go.jp
- DeWitte, S. N. (2014) Mortality risk and survival in the aftermath of the medieval Black Death, PLoS ONE 9(5): e96513doi.org
- Gurven, M., Kaplan, H. (2007) Longevity among hunter-gatherers: a cross-cultural examination, Population and Development Review 33(2): 321-365doi.org
- Life Expectancy(Our World in Data)ourworldindata.org
公式ページで見てみよう
- 厚生労働省 生命表(完全生命表)mhlw.go.jp
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
NEXT TRIVIAこの雑学にうなった人は、これにもうなる
No.016ウソFALSEナポレオンの身長は約169cmで、当時のフランス人の平均より高かった
「背の低いナポレオン」は、イギリス発のイメージ。
No.017ウソFALSE「パンがなければお菓子を」は、マリー・アントワネットの言葉ではなかった
いちばん古い記録は、ルソーの自伝にある。
No.018グレーGRAYガリレオがピサの斜塔で球を落とした実験は、本当にあったのか
斜塔の実験は、約60年後の記録にしか出てこない。
No.210ホントTRUEホッキョクグマの皮膚は黒く、白く見える毛には色がない
ホッキョクグマの毛は、光ファイバーではなかった。
No.246グレーGRAY6000〜1万年前に生まれたとされた「青い目の型」は、1万4000年前の骨にもあった
青い目の型は、1万4000年前の骨にもあった。
No.174スコッチガードは、ジェット機の燃料ホース用のゴム液が助手の靴にこぼれて生まれた
最初のスコッチガードは、羊毛にしか効かなかった。