
6000〜1万年前に生まれたとされた「青い目の型」は、1万4000年前の骨にもあった
青い目の型は、1万4000年前の骨にもあった。
この判定の対象「青い目の人はみな、6000〜1万年前に生まれた1つの変化を受けついでいる」
もくじ
2008年1月、デンマークのコペンハーゲン大学が、目を引く発表をしました。「青い目の人は、1人の共通の祖先をもつ」。青い目のもとになった遺伝子の変化は、6000〜1万年前に起きた、というのです。
ところが、この話には、あまり知られていない続きがあります。もとになった論文の要旨には、「6000〜1万年前」という年代は書かれていません。そして2016年、約1万4000年前のイタリアの人骨から、青い目と結びつく同じ遺伝子の型が見つかりました。
この記事では、まず青い目が青く見えるしくみを紹介します。次に、2008年の論文で何が分かったのかを見ます。最後に、古い人骨のDNA(古代DNA)の研究で分かったことと、「6000〜1万年前の1人」という話の判定をします。
01青い目には、青い色素は入っていない
目の真ん中の黒い穴(瞳孔)のまわりの、色がついた部分を虹彩といいます。2026年のトロント大学などの論文によると、虹彩の色は、おもにメラニンという色素で決まります。メラニンは、髪や肌の色も作る色素です。
茶色の虹彩には、メラニンがたくさんあります。そのため、入ってくる光の多くを吸収します。一方、青い虹彩では、メラニンが少なくなっています。そして、虹彩の中のコラーゲン(細い繊維の網)が光を散らすことで、青く見えるのです。
つまり、青い目には、青い色素が入っているわけではありません。茶色の色素が少ないことと、光の散らばり方が、青く見せています。
02デンマークの大家族から、目の色の「スイッチ」が見つかった
コペンハーゲン大学のハンス・アイバーグ(Hans Eiberg)教授のチームは、デンマークの大家族を調べました。家族の中で、青い目の人と茶色の目の人のDNAを比べたのです。そして、目の色に関わる場所を、HERC2 という遺伝子の中の、約16万6000塩基(DNAの文字)の範囲まで絞りこみました。
さらに調べると、目の色が青か茶色かと、ぴったり対応する1文字の違いが2か所見つかりました。その1つが、rs12913832 という番号の場所です。
この場所は、HERC2 の中にあります。そして HERC2 のとなりには、OCA2 という遺伝子があります。OCA2 は、メラニンを作るのに大切な遺伝子です。チームは、培養した細胞で実験しました。すると、この場所をふくむ部分は、OCA2 の働きを始めるスイッチの力を弱めていました。また、青い目の型と茶色の目の型では、この部分にくっつく細胞の中の物質が違っていました。
大学の発表文は、このしくみをこう説明しています。この変化は、OCA2 を完全に止めるわけではありません。虹彩でメラニンを作る量を減らすだけです。もし OCA2 が完全に止まれば、髪にも目にも肌にもメラニンがない状態(アルビノ)になります。

03青い目の人162人が、同じDNAの並びを持っていた
チームは、青い目の人の DNA を、もっと広く比べました。すると、162人の青い目の人が、この場所のまわりに、同じ1つのDNAの並びの組み合わせを持っていました。内わけは、デンマークの155人、トルコの5人、ヨルダンの2人です。
遠く離れた国の人たちが、同じ並びを持っている。これは、ずっと昔のある1人に起きた変化を、みんなが受けついだと考えると説明できます。最初に変化が起きた人から、子や孫へと伝わったという考えです。論文は、この「共通の創始者変異」が、青い目の原因ではないか、と結論しています。創始者変異とは、ある1人に起きて、その子孫に広がった変化のことです。
同じころ、オーストラリアのクイーンズランド大学のチームも、同じ場所にたどり着いていました。ヨーロッパ系の300〜3000人を調べ、rs12913832 が目の色をよく予測すると報告したのです。それまでこのチームが目の色の予測に使っていた、OCA2 の中の目印より、よく当たりました。2つのチームが、別々に同じ1文字にたどり着いたことになります。
04「6000〜1万年前」は、大学の発表文に出てくる数字だった
では、「6000〜1万年前」という年代は、どこから来たのでしょうか。この数字は、2008年1月31日のコペンハーゲン大学の発表文に出てきます。発表文は、6000〜1万年前に起きた変化が、今生きているすべての青い目の人の目の色の原因だ、と書いています。
一方、論文の要旨には、変化が起きた年代は書かれていません。要旨が言っているのは、青い目の人たちが共通の創始者変異を持つのではないか、というところまでです。論文の本文は有料です。本文に年代の計算があるかどうかは、この記事では確かめられませんでした。
アイバーグ教授は発表文の中で、もともと人はみな茶色の目だったと述べています。また、茶色から青への変化は、生き残りに有利でも不利でもない、とも話しています。
05約1万4000年前のイタリアの人骨に、同じ型がもうあった
その後、古代DNAの研究が大きく進みました。古代DNAとは、昔の人の骨などに残ったDNAのことです。
2016年、約4万5000年前から7000年前までのユーラシアの51人の古代DNAを調べた研究が発表されました。この研究によると、ヨーロッパの人の明るい目の色のおもな原因である HERC2 の型が、ほぼ同時に2か所で現れていました。約1万4000〜1万3000年前の、イタリアとコーカサス地方(黒海とカスピ海の間)の人骨です。イタリアの人骨は、約1万4000年前のヴィラブルーナという遺跡の人でした。
1万4000年前は、「6000〜1万年前」より4000年以上古い時代です。つまり、この型は、大学の発表文が示した時期より前から、すでにあったことになります。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
「同じ並びを持つ」ことが、なぜ「1人の祖先」の証拠になるのか
DNAの中で、すぐ近くにある違いどうしは、まとまって受けつがれやすい性質があります。アメリカ国立ヒトゲノム研究所の用語集は、このまとまりをハプロタイプと説明しています。
2008年の論文は、HERC2 の後ろ半分にある6か所の違いの組み合わせを調べました。すると、青い目の人は、デンマークでもトルコでもヨルダンでも、同じ1つの組み合わせを持っていました。162人が同じ並びだったので、チームは、共通の1つの変化が受けつがれたと考えました。これが「創始者変異」という考え方です。
発表文によると、アイバーグ教授が初めて OCA2 を目の色と結びつけたのは1996年でした。2008年の論文は、それから10年あまり続けた研究の成果でした。
ただし、論文の要旨は、変化が「いつ」起きたかまでは示していません。年代を確かめる手がかりになるのは、年代の分かる古い人骨から直接DNAを読む、古代DNAの研究です。
目の色のスイッチは、色素を作る遺伝子ではなく、そのとなりの遺伝子の中にあった
目の色のスイッチ rs12913832 は、OCA2 遺伝子の中ではなく、となりの HERC2 遺伝子の中にあります。論文によると、OCA2 のスイッチ部分から21,152文字離れた所です。HERC2 の中の「第86イントロン」と呼ばれる部分にあります。イントロンとは、遺伝子の中にあるのに、たんぱく質の設計図としては使われない部分のことです。
論文によると、茶色の目の型のこの部分は、いろいろな動物で同じ並びのまま保たれていました。クイーンズランド大学のチームも、青い目の型が、この保たれた短い並びを崩していると報告しています。そのため OCA2 の働きが弱まり、とくに虹彩の色素細胞でメラニンが減る、とこのチームは考えました。なお、このチームが調べたヨーロッパ系の人たちでは、この場所の型の78%が、青い目の型でした。
OCA2 のスイッチ部分から約2万1000文字離れた場所の1文字が、OCA2 の働く強さを変えていました。この1文字は、OCA2 の「中身」ではなく、OCA2 が「どのくらい働くか」を変えていたのです。
7000年前のスペインの人は、肌は濃い色で、目は茶色ではなかったらしい
2014年、スペインのレオン県のラ・ブラーニャ遺跡で見つかった、約7000年前の人の骨から、全ゲノム(すべてのDNAの情報)が読まれました。この人は、農業が広まる前の、狩りや採集で暮らす人でした。
この人は、青い目と強く結びつく rs12913832 の型を、両方の親から1つずつ受けついでいました。ほかの場所の遺伝子も合わせて目の色を予測すると、目が茶色ではない確率は、67.2〜82.3%と計算されました。一方、肌の色に関わる遺伝子は昔の型で、肌は濃い色だったと予測されました。
研究チームによると、「濃い肌に、茶色でない目」という組み合わせは、今のヨーロッパの人には見られません。チームは、明るい目の色の型は、明るい肌の型より先に広まったのかもしれないと考えています。目の色と肌の色は、別々の歴史をたどってきた可能性があるのです。
06まとめ
2008年、コペンハーゲン大学のチームは、デンマーク・トルコ・ヨルダンの青い目の人162人が、同じDNAの並びを持つことを示しました。青い目の人が、昔の1人に起きた同じ変化を受けついでいる可能性があると考えられています。
けれど、「6000〜1万年前」という年代は、論文の要旨ではなく大学の発表文に出てくる数字でした。そして、約1万4000年前のイタリアの人骨に、すでに同じ型がありました。「青い目の祖先は6000〜1万年前の1人」という話を聞いたら、「その型は1万4000年前の骨にもあったんだよ」と付け加えられます。
人に話すなら、こう言おう
青い目の人はみんな6000〜1万年前の1人の祖先にさかのぼるって話、その年代は大学の発表文の数字なんだって。あとの研究で、1万4000年くらい前のイタリアの人骨に、もう同じ型があったらしいよ。
英語で読む
How Old Are Blue Eyes?
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
In January 2008, the University of Copenhagen in Denmark made big news.2008年1月、デンマークのコペンハーゲン大学が大きなニュースを発表しました。 It said that all blue-eyed people share one common ancestor.青い目の人はみな、1人の共通の祖先をもっている、というのです。 The change behind blue eyes happened 6,000 to 10,000 years ago, it said.青い目のもとになった変化は、6000〜1万年前に起きた、と大学は言いました。
First, blue eyes do not have blue pigment.まず、青い目には青い色素はありません。 Brown eyes have a lot of melanin, a dark pigment.茶色の目には、メラニンという濃い色の色素がたくさんあります。 Blue eyes have less melanin, and tiny fibers in the eye scatter light, so the eye looks blue.青い目はメラニンが少なく、目の中の細い繊維が光を散らすので、青く見えます。
A team led by Hans Eiberg studied a large Danish family.ハンス・アイバーグが率いるチームは、デンマークの大家族を調べました。 They found one small change in the DNA that works like a switch.彼らは、スイッチのように働く、DNAの小さな変化を1つ見つけました。 It lowers the amount of melanin in the eye.それは、目の中のメラニンの量を減らします。 Then they looked at 162 blue-eyed people from Denmark, Turkey, and Jordan.次に、デンマーク、トルコ、ヨルダンの青い目の人162人を調べました。 All of them had the same pattern of DNA around the switch.その全員が、スイッチのまわりに同じDNAの並びを持っていました。
But the paper's summary does not give the date of the change.でも、論文の要旨には、変化の年代は書かれていません。 The number of 6,000 to 10,000 years was in the university's news.6000〜1万年という数字は、大学の発表に出てくるものでした。 Later, scientists read DNA from very old bones.その後、科学者たちはとても古い骨からDNAを読みました。 In 2016, a study found the same eye color type in a person from Italy who lived about 14,000 years ago.2016年、ある研究が、約1万4000年前に生きていたイタリアの人から、同じ目の色の型を見つけました。
So the change is probably older than the news said.つまり、この変化は、ニュースが言っていたより古いと考えられます。 Also, eye color is decided by many genes.また、目の色は多くの遺伝子で決まります。 In a Canadian study, one in three people with two copies of the blue-eye type did not say their eyes were blue.カナダの研究では、青い目の型を2つ持つ人の3人に1人が、自分の目を青とは答えませんでした。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B Where blue eyes came from and how old the change is
第1段落で青い目の祖先についての発表を紹介し、第3〜5段落でその変化と年代を調べた研究を説明しているので正解はB。Aは本文にない。
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Q2How many blue-eyed people did the team compare from Denmark, Turkey, and Jordan?
チームは、デンマーク・トルコ・ヨルダンの青い目の人を何人比べましたか。
正解:D 162
第3段落4文目に "162 blue-eyed people from Denmark, Turkey, and Jordan" とあるので正解はD。Bの1万4000は人骨の年代(年)の数字。
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Q3Why do blue eyes look blue?
青い目が青く見えるのはなぜですか。
正解:A They have less melanin, and fibers in the eye scatter light.
第2段落3文目に "Blue eyes have less melanin, and tiny fibers in the eye scatter light" とあるので正解はA。Bは第2段落1文目で否定されている。
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Q4In paragraph 1, the word "ancestor" is closest in meaning to
第1段落の "ancestor" に最も意味が近いのはどれですか。
正解:C a person in your family who lived long ago
第1段落で、青い目の人がみな「1人の共通の ancestor」を持ち、変化が何千年も前に起きたとあるので、ancestor は「祖先」。正解はC。Bは逆の意味。
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Q5Which is true according to the story?
本文の内容と合うものはどれですか。
正解:D The same eye color type was found in a person who lived about 14,000 years ago.
第4段落4文目に、約1万4000年前のイタリアの人から同じ型が見つかったとあるので正解はD。Aは第4段落1文目、Cは第5段落3文目と合わない。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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ancestor名詞祖先
My ancestors came from a small village.
私の祖先は小さな村の出身だ。
💡 反対は descendant(子孫)。
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pigment名詞色素
Plants use a green pigment to catch sunlight.
植物は日光を受け取るのに緑の色素を使う。
💡 paint(絵の具)と同じ語源のラテン語から。
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scatter動詞散らす、ばらまく
The wind scattered the leaves.
風が葉をまき散らした。
💡 空が青いのも、空気が光を scatter するから。
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switch名詞スイッチ
Turn off the light switch, please.
電気のスイッチを切ってください。
💡 動詞では「切りかえる」。switch to 〜 で「〜に切りかえる」。
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pattern名詞型、並び方、模様
This shirt has a nice pattern.
このシャツはいい模様だ。
💡 「いつもの行動の型」の意味でも使う。
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summary名詞要約、要旨
Write a short summary of the story.
その話の短い要約を書きなさい。
💡 動詞は summarize(要約する)。
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gene名詞遺伝子
Genes are passed from parents to children.
遺伝子は親から子へ受けつがれる。
💡 形容詞は genetic(遺伝の)。
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copy名詞(遺伝子の)1組、写し
Each person has two copies of most genes.
人はほとんどの遺伝子を2つずつ持っている。
💡 ふつうは「コピー、写し」。本や雑誌の「1部」の意味もある。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 31件)。
- Eiberg, H. ほか (2008) Blue eye color in humans may be caused by a perfectly associated founder mutation in a regulatory element located within the HERC2 gene inhibiting OCA2 expression, Human Genetics 123:177-187doi.org
- Blue-eyed humans have a single, common ancestor(University of Copenhagen 発表文、2008年1月31日、ScienceDaily 掲載)sciencedaily.com
- Sturm, R. A. ほか (2008) A single SNP in an evolutionary conserved region within intron 86 of the HERC2 gene determines human blue-brown eye color, American Journal of Human Genetics 82:424-431doi.org
- Olalde, I. ほか (2014) Derived immune and ancestral pigmentation alleles in a 7,000-year-old Mesolithic European, Nature 507:225-228doi.org
- Fu, Q. ほか (2016) The genetic history of Ice Age Europe, Nature 534:200-205doi.org
- Haplotype(Talking Glossary of Genomic and Genetic Terms、アメリカ国立ヒトゲノム研究所)genome.gov
- Abbatangelo, C. L. ほか (2026) A comparative GWAS of eye colour in light and dark eye genetic backgrounds defined by HERC2 rs12913832 polymorphism, Scientific Reports 16:14610doi.org
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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