「あくびは脳を冷やすため」という説は本当か
体と食べ物No.131

「あくびは脳を冷やすため」という説は本当か

暑すぎても寒すぎても、あくびは減る。

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この判定の対象「あくびは、脳を冷やすために出る」

うなり度 読む時間8分 出典8件 確認した事実20件
もくじ
  1. 「酸素が足りないとあくびが出る」という説は、1987年の実験で否定された
  2. 鼻で息をしたり、おでこを冷やしたりすると、あくびはうつりにくくなった
  3. ラットの脳では、あくびのあとに温度が下がった
  4. あくびは、気温が体温に近い暑い日にも、とても寒い日にも、うつりにくかった
  5. 脳が大きい動物ほど、あくびは長い
  6. 深掘り講義
  7. まとめ
  8. 英語で読む(A2・4択5問)
  9. 出典・ウラ取り

2010年6月と2011年2月、アメリカ・アリゾナ州ツーソンの歩道で、研究者たちが通りかかった人に声をかけました。手渡したアンケートには、人があくびをしている写真が20枚のっていました。写真を見て、あくびがうつるかどうかを調べる実験でした。

結果は、季節でちがいました。気温22℃の冬は、45%の人が「あくびが出た」と答えました。ところが、気温37℃の初夏には、24%に減りました。季節ごとに80人ずつ調べた結果です。37℃は、ほぼ人の体温と同じ温度です。

なぜ、気温によって、あくびがうつる人の割合が変わるのでしょう。研究者たちが考えたのは、あくびは「脳を冷やすため」にある、という説でした。

この記事では、まず「酸素が足りないからあくびが出る」という説が、実験で否定されたいきさつを見ます。次に、「脳を冷やすため」説を支える実験を、人、ラット、たくさんの動物の順に紹介します。最後に、この説への反対の意見と、まだ分かっていないことをまとめます。

01「酸素が足りないとあくびが出る」という説は、1987年の実験で否定された

あくびが出るのは、体の酸素が足りないから。そう聞いたことがある人は多いでしょう。けれど、この説は長いあいだ、ちゃんと確かめられていませんでした。

1987年、ロバート・プロヴァイン(Robert Provine)たちが、大学生に協力してもらって実験しました。学生たちに、酸素100%の空気や、二酸化炭素を3%か5%ふくむ空気を吸ってもらったのです。比べる相手は、ふつうの空気を吸ったときです。

もし酸素不足であくびが出るなら、酸素100%を吸えば、あくびは減るはずです。二酸化炭素が多い空気なら、増えるはずです。ところが、どちらでも、あくびの回数や長さは変わりませんでした。どちらの空気でも、呼吸の回数はちゃんと増えていたのに、です。

2つ目の実験では、呼吸の回数が2倍になるくらい、運動をしてもらいました。それでも、あくびは増えませんでした。プロヴァインたちは、あくびと呼吸は別のしくみで動いている、とまとめています。

02鼻で息をしたり、おでこを冷やしたりすると、あくびはうつりにくくなった

酸素の説に代わって出てきたのが、体温、とくに脳の温度とあくびの関係です。脳は、決まったせまい温度の範囲で、いちばんよく働きます。

2007年、ギャラップ(Andrew Gallup)らが、あくびのビデオを見てもらう実験をしました。ふつうに息をした人や、口で息をした人では、約48%があくびをしました。ところが、鼻で息をするように言われた人は、一人もあくびをしませんでした。研究者たちが鼻で息をすることに注目したのは、こんな報告があるからです。鼻から冷たい空気を入れると、脳の表面の温度が下がるというのです。

同じ論文の2つ目の実験では、おでこにパックを当ててもらいました。46℃の温かいパックか、室温のパックでは、あくびがうつった割合は41%でした。4℃の冷たいパックでは、9%に下がりました。脳がすでに冷やされていると、あくびが出にくくなる。そう考えると、この結果は説明がつきます。

03ラットの脳では、あくびのあとに温度が下がった

本当に、あくびで脳が冷えるのでしょうか。人の脳に温度計を入れるわけにはいきません。そこで2010年、別のチームがラットで調べました。

チームは、ラット7匹の脳の前のほうに、細い温度計を入れました。実験中にあくびをしたのは、そのうち4匹でした。記録を見ると、あくびは、脳の温度が上がっていく途中で起きていました。そして、あくびのあと、脳の温度は元にもどりました。下がり方は、3分間で平均0.11℃でした。

ただし、これはラット4匹の結果です。あくびが温度を下げたのか。それとも、温度が下がるタイミングに、あくびが重なっただけなのか。この実験だけでは、そこまでは区別できません。

「脳を冷やす」説では、あくびの深い吸い込みで入る空気と、顔や頭の血の流れの変化が、脳の熱を逃がすと考える
「脳を冷やす」説では、あくびの深い吸い込みで入る空気と、顔や頭の血の流れの変化が、脳の熱を逃がすと考える

04あくびは、気温が体温に近い暑い日にも、とても寒い日にも、うつりにくかった

もし、あくびが外の空気で脳を冷やすしくみなら、外の気温によって効き目が変わるはずです。気温が体温に近いと、空気を吸いこんでも脳は冷えません。だから、あくびは減るはずです。記事の初めに紹介したツーソンの実験は、この予想どおりの結果でした。暑い外に長くいた人ほど、あくびをしにくかったのです。

では、寒いときはどうでしょう。2014年、ギャラップとマッセン(Jorg Massen)らは、冬と夏に通行人120人を調べました。今度の調査では、冬の気温は1.4℃、夏は19.4℃でした。あくびが出た人は、冬が18.3%、夏が41.7%でした。今度は冬のほうが、あくびが少なかったのです。

研究者たちは、この考え方を「温度の窓」と呼びました。脳を冷やす必要がないほど寒くても、冷やせないほど暑くても、あくびは減る。ちょうどよい気温の範囲でだけ、あくびがよく出る、という考え方です。ただし、2014年の調査では、あくびをしたかどうかは本人の答えにもとづいています。

05脳が大きい動物ほど、あくびは長い

2021年には、あくびの研究で最大の調査が発表されました。哺乳類55種と鳥46種、あわせて101種の動物の、1291回のあくびの長さを測ったのです。

すると、脳が重く、神経細胞が多い動物ほど、あくびが長いことが分かりました。大きな脳ほど熱をたくさん出すので、冷やすにも長いあくびが必要になる。この予想と合う結果です。また、同じくらいの脳の大きさなら、哺乳類のあくびは、鳥よりずっと長くなりました。

一つだけ、目立つ例外がいました。ハダカデバネズミです。脳は小さいのに、あくびは4.12秒。脳が約300倍も大きいジャガーの4.13秒と、ほぼ同じでした。ハダカデバネズミは、汗を出す汗腺がありません。体温を周りの温度にたよる、哺乳類では珍しい動物です。体を冷やす方法が少ないぶん、あくびにたよっているのかもしれない、と研究チームは考えています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

研究者は、「うつるあくび」を使って、あくびを起こさせている

あくびの研究の難しさは、あくびがいつ出るか予想できないことです。研究者が待っていても、あくびは出てくれません。そこで多くの研究は、「うつるあくび」を利用してきました。あくびの写真やビデオを見せると、一部の人があくびをします。これを使えば、決まった時間に、決まった条件で、あくびを起こせます。

ただし、この方法には弱点もあります。測っているのは「うつるあくび」で、眠いときなどに自然に出るあくびではありません。研究者たちは、二つのあくびは同じしくみで起きると考えています。けれど、その考えも、まだ確かめる余地があります。

「脳を冷やす」説の証拠は3種類あるが、人の脳が冷えることを直接測ったものはない

「脳を冷やす」説を支える証拠は、種類がばらばらです。

1つ目は、操作する実験です。鼻で息をさせる、おでこを冷やす、といった条件を変えて、あくびの割合を比べました。条件を研究者が決めるので、原因と結果をつかみやすい方法です。

2つ目は、観察です。季節や気温とあくびの関係を見るときは、ほかの条件(日ざしの強さ、外にいた時間、人通り)も同時に変わります。ツーソンの研究でも、外にいた時間の長さが結果に関わっていました。

3つ目は、たくさんの種類の動物を比べる種をまたいだ比較です。脳の大きさとあくびの長さの関係は、101種で調べた強い結果です。けれど、関係があることと、冷やすことがあくびの目的であることは、別の問題です。

そして、いちばん大事な「人の脳が、あくびで本当に冷えるのか」は、まだ直接測られていません。ラットの0.11℃という結果も、4匹分です。

「あくびは脳を冷やすため」には、反対の意見もある

2010年、グギスベルク(Adrian Guggisberg)らは、あくびについての研究をまとめた総説(研究のまとめの論文)を出しました。結論は、呼吸の説も、目を覚ます説も、体温を調節する説も、どれも証拠が足りないというものでした。そのかわり、眠気や退屈を周りに伝える「合図」としての役目には、支持が集まってきていると書いています。

2011年には、エロ(Hannu Elo)が、「あくびは人の体温を大きく下げられない」という題の短い反論を、医学雑誌に出しました。題名のとおり、あくびぐらいで人の体の温度がはっきり下がるとは考えにくい、という主張です。

あくびには、体のための役目と、周りに何かを伝える役目の両方があるのかもしれません。一つの行動に、答えが一つだけとは限らないのです。

「あくびはなぜ出るのか」には、「どうやって出るか」と「何の役に立つか」の2つの問いがある

「あくびはなぜ出るのか」という問いは、実は二つに分けられます。一つは、「どんなきっかけで、体のどこが動いて出るのか」という、しくみの問いです。もう一つは、「あくびがあることで、生き物は何か得をしてきたのか」という、進化の問いです。

1987年の酸素の実験が答えたのは、しくみの問いの一部でした。あくびは、呼吸を調節するしくみとは別のスイッチで動いている、ということです。一方、脳を冷やす説は、進化の問いにも答えようとしています。

グギスベルクらの総説によると、あくびは、背骨のある多くの動物(脊椎動物)に見られます。おなかの中の赤ちゃんからお年寄りまで出る、とても古い行動です。これほど広く残ってきたのなら、何かの役に立っているのではないか。そう考えたくなります。けれど、広く見られることだけでは、役目の証明にはなりません。しくみの問いと進化の問いを、それぞれ別の証拠で確かめる必要があるのです。

06まとめ

「あくびは酸素が足りないから出る」という説は、1987年の実験で否定されました。今有力なのは、「脳を冷やすため」という説です。鼻で息をしたり、おでこを冷やしたりすると、あくびがうつりにくくなります。気温が体温に近い夏にも、寒すぎる冬にも、あくびは減りました。

ただし、人の脳があくびで冷えることは、まだ直接は確かめられていません。おでこを冷たいタオルで冷やしながらあくびの動画を見て、つられるかどうか試してみてください。

人に話すなら、こう言おう

あくびって酸素が足りないから出るんじゃないんだって。酸素を吸わせても回数は変わらなかったらしい。今は「脳を冷やすため」って説が有力で、暑すぎる夏はあくびがうつりにくかったんだよ。
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英語で読む

Do We Yawn to Cool Our Brains?

CEFR A2214 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Many people say we yawn because our bodies need more oxygen.多くの人は、体がもっと酸素を必要としているからあくびが出る、と言います。 In 1987, a team of scientists tested this idea.1987年、ある科学者のチームがこの考えを確かめました。 They gave college students pure oxygen or air with extra carbon dioxide.彼らは大学生に、純粋な酸素や、二酸化炭素を多くふくむ空気を吸わせました。 The students breathed faster, but they did not yawn more or less.学生たちの呼吸は速くなりましたが、あくびは増えも減りもしませんでした。 So the oxygen idea was wrong.つまり、酸素の考えはまちがっていたのです。

Then some scientists had a new idea.その後、新しい考えをもつ科学者たちが現れました。 Maybe yawning helps to cool the brain.あくびは脳を冷やすのに役立っているのかもしれない、というものです。 In one test, people watched videos of other people yawning.ある実験では、人々がほかの人のあくびのビデオを見ました。 When they held a cold pack on their forehead, only 9 percent yawned.おでこに冷たいパックを当てていると、あくびをしたのは9%だけでした。 With a warm pack, 41 percent yawned.温かいパックだと、41%があくびをしました。

The weather seems to matter, too.天気も関係しているようです。 In Arizona, people caught yawns more often in winter, at 22 degrees Celsius, than in summer, at 37 degrees.アリゾナでは、夏(37℃)よりも冬(22℃)のほうが、人々はあくびにつられやすかったのです。 Air that is as hot as the body cannot cool anything.体と同じくらい熱い空気では、何も冷やせません。 But in very cold weather, people also yawned less.でも、とても寒い天気でも、人々はあくびをしにくくなりました。 Yawning seems to happen most in a middle range of temperature.あくびは、ちょうど中くらいの温度でいちばんよく起きるようです。

Animals with bigger brains also have longer yawns.脳が大きい動物ほど、あくびも長くなります。 A 2021 study measured yawns from 101 kinds of mammals and birds.2021年の研究では、101種類の哺乳類と鳥のあくびが測られました。

Still, nobody has measured a human brain getting cooler after a yawn.それでも、人の脳があくびのあとに冷えることを測った人はまだいません。 Some scientists think yawning is mainly a social signal, like saying "I am sleepy."あくびは主に、「眠いよ」と伝えるような、まわりへの合図だと考える科学者もいます。 The answer is not clear yet.答えはまだはっきりしていません。 So the next time you yawn, think about the temperature around you.だから次にあくびをしたときは、まわりの温度のことを考えてみてください。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2What happened when students breathed pure oxygen?

    学生が純粋な酸素を吸ったとき、何が起きましたか。

  3. Q3How many people yawned when they held a cold pack on their forehead?

    おでこに冷たいパックを当てたとき、あくびをした人はどれくらいでしたか。

  4. Q4In paragraph 5, the word "signal" is closest in meaning to ...

    第5段落の "signal" に最も近い意味はどれですか。

  5. Q5Which is true about yawning and temperature?

    あくびと温度について正しいものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • yawn動詞・名詞
    あくびをする、あくび

    I yawned three times during the movie.

    映画のあいだに3回あくびをした。

    💡 catch a yawn で「あくびがうつる」。

  • oxygen名詞
    酸素

    Fish get oxygen from water.

    魚は水から酸素をとり入れる。

    💡 発音は[アクシジェン]。

  • breathe動詞
    息をする

    Breathe slowly through your nose.

    鼻からゆっくり息をしなさい。

    💡 名詞は breath(息)。つづりと発音のちがいに注意。

  • forehead名詞
    ひたい、おでこ

    She put her hand on her son's forehead.

    彼女は息子のおでこに手を当てた。

    💡 fore(前)+head(頭)。

  • temperature名詞
    温度、気温

    The temperature dropped at night.

    夜になって気温が下がった。

    💡 have a temperature で「熱がある」。

  • measure動詞
    測る

    The nurse measured my height.

    看護師が私の身長を測った。

    💡 名詞では「ものさし、対策」。

  • signal名詞
    合図

    A green light is a signal to go.

    青信号は進めの合図だ。

    💡 send a signal で「合図を送る」。

  • range名詞
    範囲、はば

    This store sells a wide range of shoes.

    この店ではいろいろな靴を売っている。

    💡 a range of ~で「さまざまな~」。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 20件)。

  1. Provine, R. R. ほか (1987) Yawning: No effect of 3-5% CO2, 100% O2, and exercise, Behavioral and Neural Biology 48:382-393doi.org
  2. Gallup, A. C., Gallup, G. G. (2007) Yawning as a Brain Cooling Mechanism, Evolutionary Psychology 5(1)doi.org
  3. Shoup-Knox, M. L. ほか (2010) Yawning and stretching predict brain temperature changes in rats, Frontiers in Evolutionary Neuroscience 2:108doi.org
  4. Gallup, A. C., Eldakar, O. T. (2011) Contagious Yawning and Seasonal Climate Variation, Frontiers in Evolutionary Neuroscience 3:3doi.org
  5. Massen, J. J. M. ほか (2014) A thermal window for yawning in humans, Physiology & Behavior 130:145-148doi.org
  6. Massen, J. J. M. ほか (2021) Brain size and neuron numbers drive differences in yawn duration across mammals and birds, Communications Biology 4:503doi.org
  7. Guggisberg, A. G. ほか (2010) Why do we yawn?, Neuroscience & Biobehavioral Reviews 34:1267-1276doi.org
  8. Elo, H. (2011) Yawning cannot cause significant temperature decreases in humans, Sleep Medicine 12:102doi.org

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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