
体の中の鉄は、星の爆発で作られた
金がどこで作られたかは、まだ決着していない。
この判定の対象「宇宙の金は、主に中性子星の合体で作られた」
もくじ
私たちの血が赤いのは、酸素を運ぶたんぱく質に鉄が入っているからです。その鉄は、地球ができるよりずっと前に、どこかの星の中で作られました。
「私たちは星のかけらでできている」。よく聞く言葉です。NASAの説明も、星と超新星が作った元素が、星や惑星、そして私たちの体を作っていると書いています。
では、指輪の金はどうでしょう。実は、金がどこで生まれたのかは、2025年になっても決着していません。2017年には、金のような重い元素が作られる現場が、宇宙で初めて観測されました。でも、その後も、金が作られる場所の新しい候補がつぎつぎに出てきているのです。
この記事では、まず、鉄が星のどこで作られたかを説明します。次に、金を作るには何が必要か、2017年に何が観測されたかを紹介します。最後に、金のふるさとのほかの候補を紹介します。
01重い星は、中心に鉄ができると光るためのエネルギーを作れなくなり、つぶれて大爆発する
星は、軽い元素をくっつけて重い元素に変えながら光っています。これを核融合と言います。
NASAによると、太陽のおよそ8倍より重い星は、中心で順番に重い元素を作っていきます。水素からヘリウム、ヘリウムから炭素、というぐあいです。そして最後に、中心に鉄のかたまりができます。核融合は、そこで止まります。
なぜ鉄で止まるのでしょう。鉄より重い元素を作る核融合では、出てくるエネルギーより、いるエネルギーのほうが大きいからです。そのため、ふつうの星の中では、鉄より先に進めません。太陽くらいの星だと、鉄よりずっと手前で止まってしまいます。
中心の鉄のかたまり(芯)が太陽のおよそ1.4倍より重くなると、芯は自分の重さを支えきれず、一気につぶれます。つぶれた反動で、星は大爆発します。これが超新星です。
02鉄は、一生を終えた小さな星(白色矮星)が丸ごと爆発するときにも作られる
超新星には、もう一つの種類があります。太陽くらいの星が一生を終えると、白色矮星という小さく重い星が残ります。この白色矮星が、ほかの星と組になっていると、あるとき丸ごと爆発することがあります。これをIa型超新星と言います。
この爆発では、放射性のニッケルなどができます。ニッケルは、壊れながらたくさんの光を出します。壊れたニッケルはコバルトに変わり、コバルトもさらに壊れて、最後は鉄になります。NASAのチャンドラX線観測所の説明は、このIa型超新星を「宇宙の鉄の大部分のもと」と書いています。
こうして、重い星の中心と2種類の超新星で作られた鉄が、宇宙にまき散らされました。その鉄が、ずっと後にできた地球や、私たちの血の中にあるのです。
ちなみに、宇宙全体で見ると、鉄のような重い元素はとても少ないものです。NASAの資料では、太陽の表面の原子の数のうち、水素がおよそ91%、ヘリウムがおよそ9%です。鉄は、100万個のうち43個しかありません。
03金を作るには、原子の芯に「中性子」という粒をつぎつぎにぶつける必要がある
金は、鉄よりずっと重い元素です。星の中の核融合では、作れません。金を作るには、原子の芯に中性子という粒を、つぎつぎに、ものすごい速さでぶつけていかなければなりません。そうして、原子の芯を重くしていくのです。
この仕組みを、r過程(速い中性子捕獲)と言います。中性子をすばやく取りこむ仕組み、という意味です。2019年の論文によると、宇宙にある鉄より重い元素の半分は、このr過程で作られました。r過程の理論ができたのは、60年ほど前です。でも、r過程が宇宙のどこで起きているのかは、ずっと謎でした。
NASAの説明によると、金のような元素を作るには、とてもたくさんの中性子がいります。ふつうの星の中や、よく知られた超新星では、それだけの中性子を用意するのが難しいのです。
そこで目をつけられたのが、中性子星です。中性子星は、超新星のあとに残る、ほとんど中性子だけでできた星です。2つの中性子星がぶつかれば、たくさんの中性子が飛び出して、金ができるかもしれない。そう考えられてきました。
042017年8月17日、中性子星どうしの合体が初めて観測された
2017年8月17日、重力波望遠鏡LIGO(ライゴ)が、空間のゆがみの波(重力波)をとらえました。ほぼ同時に、NASAのフェルミ衛星などが、ガンマ線の閃光を観測しました。中性子星どうしの合体を、初めて直接とらえた瞬間です。
場所は、およそ1億3000万光年先の銀河NGC 4993です。世界じゅうの望遠鏡がそこを向き、新しく光りだした天体を見つけました。この天体を、キロノバと言います。キロノバの光は、できたての重い元素が壊れながら出す光だと考えられています。
研究チームは、キロノバの光から、重い元素がたくさんできたと計算しました。NASAの説明は、できた金の量ははっきりしないものの、地球1個分くらいかもしれないと書いています。
ただし、初めの観測では、光の中から元素の名前を一つもはっきり特定できませんでした。2019年、ワトソン(Darach Watson)らのチームがデータを調べなおし、ストロンチウムを見つけました。中性子星の合体で作られた元素の名前が、こうして特定されたのです。

深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
中性子星の合体のほかに、重い星がつぶれる「コラプサー」も候補になった
2017年の観測のあと、カセン(Daniel Kasen)らは、キロノバの光を詳しく計算しました。合体で飛び散ったものは、2つに分かれていました。
- 質量数(原子の芯の粒の数)が140より小さい元素が中心のもの
- 質量数が140より大きい元素が中心のもの
金は、重いほうの仲間です。チームは、中性子星の合体が、宇宙の重い元素の主な作り手だと考えました。
ところが、話はそこで終わりませんでした。
2019年、シーゲル(Daniel Siegel)らは、計算をもとに、別の候補を強く推しました。コラプサーです。コラプサーは、高速で回る重い星がつぶれて起きる、特別な超新星のことです。
手がかりは、天の川銀河の近くにある小さな銀河、レティクルムIIの星でした。この銀河には、r過程の元素を多く含む星があります。チームは、こうした星がある理由は、中性子星の合体よりも、まれにしか起きない特別な超新星のほうがうまく説明できる、と考えました。
シーゲルらが目をつけたのは、ブラックホールの周りにできる円盤です。2017年の合体では、合体のあとにブラックホールが生まれたと考えられていました。そして、その周りの円盤から流れ出たものが、重い元素の主な出どころだと考えられていました。これと似た円盤は、コラプサーでもできます。
コラプサーは、中性子星の合体より、起きる回数が少ないです。そのかわり、1回にまき散らす重い元素の量が多いのです。計算では、宇宙のr過程の元素の80%以上をコラプサーが作るかもしれない、という結果になりました。
2004年に、磁場がとても強い中性子星が出した閃光から、重い元素ができた証拠が見つかった
2025年、もう一つの候補が加わりました。マグネターです。マグネターは、とても強い磁場をもつ中性子星です。
2004年12月、SGR 1806–20というマグネターが、巨大な閃光(巨大フレア)を出しました。その約10分後、別のガンマ線が強くなり、数時間かけて消えていきました。このガンマ線が何なのかは、長い間謎のままでした。
パテル(Anirudh Patel)らは、このガンマ線を次のように説明しました。
- 巨大フレアで、中性子星の表面がはぎとられる
- はぎとられたものの中で、r過程によって重い元素ができる
- その元素が壊れるときに、ガンマ線を出す
この考えで予想したガンマ線と、観測された信号が、よく合ったのです。できた重い元素の量は、太陽の重さの100万分の1ほどで、地球の約3分の1の重さです。
チームは、マグネターの巨大フレアが、天の川銀河にあるr過程の重い元素の、少なくとも1〜10%を作っていると見積もりました。約20年前のデータが、重い元素がどこで生まれたかを調べる、新しい証拠になったのです。
重い元素は、何種類もの星のできごとで、少しずつ作られてきたのかもしれない
ここまでの3つの候補は、互いに相手を全部否定するものではありません。中性子星の合体、コラプサー、マグネター。それぞれが、違う時代、違う場所で、重い元素を少しずつ作ってきた可能性があります。
ジョンソン(Jennifer Johnson)は、2019年に研究をまとめた論文(総説)で、こう書いています。元素を作る仕組みは、それぞれ、かかる時間の長さも、作る元素の組み合わせも違う。だから、宇宙の元素の割合は、時代とともに変わってきました。
指輪の金の一粒一粒も、別々の星のできごとから来たのかもしれません。どのできごとが、いちばん多くの金を作ったのか。それを決めるには、もっと多くの中性子星の合体や、マグネターの閃光を観測する必要があります。
05まとめ
血の中の鉄は、重い星の中心と超新星で作られ、宇宙にまき散らされたものです。星の中の核融合は鉄で止まります。だから、鉄より重い金を作るには、たくさんの中性子を原子の芯にぶつける必要がありました。
2017年、中性子星の合体で重い元素ができる現場が、初めて観測されました。でもその後、巨大な星の崩壊(コラプサー)や、2004年のマグネターの閃光も、金のふるさとの候補になりました。
指輪の金が、どの星のできごとから来たのか。その答えを出すための研究が、今も続いています。
人に話すなら、こう言おう
血の中の鉄って、大昔の星の中や星の爆発で作られたものなんだって。でも金がどこで生まれたかはまだ決着してなくて、2025年には20年前に観測された星の閃光が新しい候補になったらしいよ。
英語で読む
Where Did Our Gold Come From?
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
There is iron in your blood.あなたの血の中には鉄があります。 That iron was made inside stars long before the Earth was born.その鉄は、地球が生まれるずっと前に、星の中で作られました。 But scientists are still not sure where gold comes from.でも、金がどこから来たのかは、科学者たちもまだはっきり分かっていません。
Stars shine by joining light elements together to make heavier ones.星は、軽い元素をくっつけてより重い元素を作ることで光っています。 Big stars can make elements up to iron in their centers.大きな星は、中心で鉄までの元素を作ることができます。 Then the process stops, and the star blows up as a supernova.そこで反応は止まり、星は超新星として爆発します。 The explosion sends iron and other elements out into space.その爆発が、鉄やほかの元素を宇宙へ送り出します。
Gold is much heavier than iron, so stars cannot make it in the normal way.金は鉄よりずっと重いので、星はふつうのやり方ではそれを作れません。 To make gold, you need a huge number of neutrons, tiny parts of atoms.金を作るには、原子の小さな部品である中性子が、ものすごくたくさん必要です。 Neutron stars are made almost only of neutrons.中性子星は、ほとんど中性子だけでできています。 On August 17, 2017, scientists saw two neutron stars crash together for the first time.2017年8月17日、科学者たちは2つの中性子星がぶつかるのを初めて見ました。 It made many heavy elements, maybe even an Earth's weight of gold.その衝突はたくさんの重い元素を作り、もしかすると地球1個分の重さの金さえ作ったかもしれません。
But the story did not end there.でも、話はそこで終わりませんでした。 In 2019, a team said that some rare supernovae might make more than 80 percent of these heavy elements.2019年、あるチームは、ある種のまれな超新星がこうした重い元素の80パーセント以上を作るかもしれないと言いました。 Then in 2025, another team looked again at a flash from 2004.そして2025年、別のチームが2004年の閃光をもう一度調べました。 It came from a magnetar, a neutron star with a very strong magnetic field.それはマグネター、つまりとても強い磁場をもつ中性子星から来たものでした。
A strange signal after the flash had been a mystery for about 20 years.その閃光のあとの不思議な信号は、およそ20年間なぞのままでした。 The team showed that it came from new heavy elements.チームは、それが新しくできた重い元素から来たことを示しました。 So the gold in a ring may come from more than one kind of star event.だから、指輪の金は、1種類ではない星のできごとから来ているのかもしれません。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B Where iron and gold in the universe come from
第1段落で鉄と金の出どころの話を始め、その後、星の中で鉄ができること、金の候補の場所について説明しているので正解はB。Cの血は鉄の例として出てくるだけ。
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Q2When did scientists first see two neutron stars crash together?
科学者が2つの中性子星の衝突を初めて見たのはいつですか。
正解:D On August 17, 2017
第3段落4文目に「2017年8月17日、2つの中性子星がぶつかるのを初めて見た」とあるので正解はD。Aの2004年はマグネターの閃光の年。
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Q3Why can't stars make gold in the normal way?
なぜ星はふつうのやり方では金を作れないのですか。
正解:A Because gold is much heavier than iron
第3段落1文目に「金は鉄よりずっと重いので、星はふつうのやり方では作れない」とあるので正解はA。Dは第2段落で大きな星は鉄まで作れるとあるので誤り。
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Q4In paragraph 5, the word "mystery" is closest in meaning to
第5段落の "mystery" に最も意味が近いのはどれですか。
正解:C something nobody could explain
第5段落1〜2文目で、信号は20年間 mystery だったが、チームがその正体を示したとあるので、「だれも説明できないもの」の意味で正解はC。Bの明るい光は閃光のことで、mystery の意味ではない。
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Q5Which is true about the story?
この話について正しいのはどれですか。
正解:B A magnetar is a star with a very strong magnetic field.
第4段落4文目に、マグネターはとても強い磁場をもつ中性子星とあるので正解はB。Aは第4・5段落でほかの候補もあるとあり、Cは第1段落で星の中で作られたとあり、Dは約20年なぞだったとあるので誤り。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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iron名詞鉄
This old bridge is made of iron.
この古い橋は鉄でできている。
💡 発音は「アイアン」。r は読まない。アイロン(iron)も同じ語。
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element名詞元素、要素
Oxygen is an important element for life.
酸素は生命にとって大切な元素だ。
💡 elementary school(小学校)の element は「基本」の意味。
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heavy形容詞重い
This box is too heavy for me.
この箱は私には重すぎる。
💡 比較級 heavier。反対語は light(軽い)。
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supernova名詞超新星(星の大爆発)
A supernova can be brighter than a whole galaxy.
超新星は銀河全体より明るくなることがある。
💡 super(超)+ nova(新しい星)。複数形は supernovae や supernovas。
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neutron名詞中性子
An atom has protons and neutrons in its center.
原子は中心に陽子と中性子をもつ。
💡 neutral(中立の)と同じ仲間。電気をもたない粒。
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crash動詞・名詞ぶつかる/衝突
Two cars crashed on the icy road.
凍った道で2台の車がぶつかった。
💡 crash into 〜 で「〜にぶつかる」。
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flash名詞閃光、ぱっと光ること
We saw a flash of light in the sky.
空にぱっと光が見えた。
💡 カメラの「フラッシュ」も同じ語。
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mystery名詞なぞ
Why the cat left home is still a mystery.
ネコがなぜ家を出たのかはまだなぞだ。
💡 形容詞は mysterious(なぞめいた)。推理小説も mystery と言う。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 21件)。
- Johnson, J. A. (2019) Populating the periodic table: Nucleosynthesis of the elements, Science 363doi.org
- Supernovae(NASA, Imagine the Universe!)imagine.gsfc.nasa.gov
- Gold Metal(NASA HEASARC, High Energy Astrophysics Picture of the Week, 2018)heasarc.gsfc.nasa.gov
- Kasen, D. et al. (2017) Origin of the heavy elements in binary neutron-star mergers from a gravitational-wave event, Nature 551doi.org
- Watson, D. et al. (2019) Identification of strontium in the merger of two neutron stars, Nature 574doi.org
- Siegel, D. M., Barnes, J. & Metzger, B. D. (2019) Collapsars as a major source of r-process elements, Nature 569doi.org
- Kepler's Supernova Remnant(NASA Chandra X-ray Observatory, 2007)chandra.harvard.edu
- Patel, A. et al. (2025) Direct Evidence for r-process Nucleosynthesis in Delayed MeV Emission from the SGR 1806–20 Magnetar Giant Flare, The Astrophysical Journal Letters 984doi.org
公式ページで見てみよう
- Sun Fact Sheet(NASA)nssdc.gsfc.nasa.gov
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
NEXT TRIVIAこの雑学にうなった人は、これにもうなる
No.021ホントTRUEクレオパトラとピラミッドの年の差は、クレオパトラと私たちの年の差より大きい
クレオパトラにとっても、ピラミッドは大昔の遺跡。
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録音を自分の声らしく直す加工は、人ごとに違った。
No.158宇宙飛行士が宇宙で見た「ホタル」の正体は、宇宙船についた霜らしい
手袋でたたくと、光る粒が飛び出した。