土星の輪は、恐竜より新しいかもしれない
思わず唸るNo.092

土星の輪は、恐竜より新しいかもしれない

2024年、「輪は古い」という研究も出た。

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この判定の対象「土星の輪は、恐竜より新しい」

うなり度 読む時間9分 出典7件 確認した事実19件
もくじ
  1. 輪の年齢は、氷がちりでどれだけ汚れたかから計算されている
  2. カッシーニの観測から、「輪は若い」という計算結果が2つ出た
  3. 輪の物質は今も土星に落ちていて、輪は1億年もたたずになくなるという見積もりもある
  4. 2024年、日本の研究者が「輪は汚れにくいだけかもしれない」と反論した
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

2017年9月、探査機カッシーニは、13年あまり土星を回った任務を終えました。その最後の時期、カッシーニは大胆な飛び方をしていました。土星の雲と、いちばん内側の輪のすき間をくぐりぬけたのです。雲の上わずか2600〜3900kmの高さでした。

このとき測ったデータから、土星の輪は1000万〜1億年前にできたかもしれない、という計算結果が出ました。恐竜が絶滅したのは約6600万年前です。もし輪ができたのが6600万年前より新しければ、輪は恐竜の絶滅よりあとに生まれたことになります。

ただし、この年齢は、時計のように直接測ったものではありません。輪の「重さ」と「汚れ具合」から逆算した推定です。そして2024年、日本の研究者が、「降ってきたちりがどれだけ輪にくっつくか」という計算の前提に、疑問を投げかけました。

この記事では、まず、輪の年齢がどんな考え方で計算されているかを説明します。次に、カッシーニの観測から「若い輪」という結果が出たことを紹介します。最後に、2024年の日本の研究が、なぜ「輪は古いかもしれない」と考えたのかを紹介します。

01輪の年齢は、氷がちりでどれだけ汚れたかから計算されている

土星の輪は、重さで95%以上が水の氷です。氷ではない物質は、体積でおよそ0.1〜2%しかありません。輪はとても白く、きれいなのです。

ところが、宇宙はちりだらけです。太陽系の外側からは、小さな岩のかけら(微小隕石)が、たえず降ってきます。輪は薄く広がっているので、このちりを浴びやすい形をしています。2023年の論文によると、輪の面積は、同じ重さの丸い衛星の表面と比べて、1万〜10万倍も広いのです。

ちりが積もれば、白い氷はだんだん暗くなります。部屋のすみにほこりが積もるのと同じです。ほこりが積もる速さが分かれば、今の汚れ具合から「掃除してから何日たったか」を計算できます。輪の年齢も、この考え方で見積もられてきました。

輪の氷にちりが降り積もると、少しずつ暗くなる。その汚れ具合が、輪の年齢を推定する手がかりになる。
輪の氷にちりが降り積もると、少しずつ暗くなる。その汚れ具合が、輪の年齢を推定する手がかりになる。

02カッシーニの観測から、「輪は若い」という計算結果が2つ出た

カッシーニは、2004年7月から2017年9月まで土星を回りました。最後の時期には、土星と輪のすき間を何度もくぐりました。

2019年、ローマ・サピエンツァ大学のイエス(L. Iess)らのチームが結果を発表しました。チームは、すき間を通った6回分の電波の記録を使いました。そこから、土星の重力と輪の重さを計算したのです。輪の重さは約1.5×10の19乗kgで、土星の衛星ミマスの約0.41倍でした。

輪が軽いと、少しのちりでも汚れが目立ちます。それなのに輪はきれいなので、ちりを浴びた時間は短いことになります。論文は、輪が1000万〜1億年前にできたかもしれないと書きました。

2023年には、アメリカのコロラド大学のザシャ・ケンプ(Sascha Kempf)らが、降ってくるちりの量を報告しました。カッシーニには、飛んでくるちりをつかまえる装置(宇宙塵分析器)がのっていました。ケンプらは、装置がちりをとらえた記録の中から、条件に合う163回を選んで分析しました。土星に降るちりの多くは、ゆっくり飛んでくる粒でした。その粒は、太陽系の外側にあるカイパーベルト(海王星より外で、氷の小さな天体が集まっている所)などから来ていました。

このちりの量から計算すると、輪がちりにさらされた時間は「およそ1億〜4億年以下」になりました。論文は、輪が土星と同じころにできたという説とは合わない、と結論しています。

03輪の物質は今も土星に落ちていて、輪は1億年もたたずになくなるという見積もりもある

輪は、年齢だけでなく「寿命」も議論されています。輪の物質が、少しずつ土星へ落ちているからです。

1981年、ボイジャー2号は、土星の大気に暗い帯を写しました。1986年、ジャック・コナーニー(Jack Connerney)は、この暗い帯ができる理由を、土星の磁場で説明しました。暗い帯は、輪の物質が磁場にそって大気へ落ちている証拠だ、と考えたのです。

2018年、NASAは新しい研究を紹介しました。輪から降る「輪の雨」の量は、30分でオリンピックのプール1杯分を満たすほどだと見積もられました。輪の雨だけなら、輪は3億年でなくなります。カッシーニが見た、輪から土星の赤道への落下も足すと、輪の残りの寿命は1億年未満です。同じ年の別の論文は、輪から土星へ向かう物質を、毎秒4800〜4万5000kgと見積もりました。

NASAが紹介したこの研究は、輪が1億年より古い可能性は低いとしています。土星そのものの年齢は、40億年をこえます。私たちはたまたま、土星に輪がある短い時代に、土星を見ているのかもしれません。

042024年、日本の研究者が「輪は汚れにくいだけかもしれない」と反論した

2024年12月、日本の研究者たちが、科学誌 Nature Geoscience に論文を出しました。宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの兵頭龍樹(Ryuki Hyodo)さんと、東京科学大学の玄田英典(Hidenori Genda)さんたちです。

兵頭さんたちが注目したのは、ちりが輪にぶつかる瞬間です。ちりは、秒速約30kmで氷の粒に当たります。時速にすると約10万kmです。兵頭さんたちは、この衝突をコンピューターで計算しました。

計算では、ぶつかったちりは完全に蒸発して広がりました。そして、電気を帯びたとても小さな粒(ナノ粒子)や、イオンになりました。これらは、次のどれかの道をたどります。

  • 土星にぶつかる
  • 遠くへ飛び去る
  • 電気と磁気の力で、土星の大気に引きこまれる

つまり、ぶつかったちりは、輪にはほとんど残りません。

それまでの「若い輪」の計算は、ぶつかったちりの10%以上が輪にくっつくと仮定していました。兵頭さんたちの計算では、くっつくのは1%以下でした。論文は、輪が若く見えるのは「汚れにくい」せいかもしれないと書いています。もしそうなら、輪の年齢は数十億年までのびる可能性があります。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

輪の年齢は、「今の汚れの量」を「汚れがたまる速さ」で割って出す

輪の年齢の推定は、次の考え方にもとづいています。

  1. 輪は、初めはまじりけのない氷だったとする
  2. そこに外からちりが一定の速さで降り、その一部が輪に残る
  3. 今の汚れの割合を、汚れがたまる速さで割れば、輪ができてからたった時間が出る

2023年のケンプらの論文には、この時間を表す式がのっています。式の中身はシンプルです。輪ができてからたった時間は、次の2つが大きいほど長くなります。

  • 今の汚れの割合
  • 輪の面積1平方メートルあたりの重さ

逆に、次の3つが大きいほど短くなります。

  • 降ってくるちりの量
  • 土星の重力で、ちりが輪のあたりに集められる度合い
  • ちりが輪にくっつく割合

ここで大きく効いてくるのが、重力でちりが集められる度合いです。土星は重いので、近くを通るちりを引きよせます。ケンプらは、ちりの多くがゆっくり飛んでくることを示しました。ゆっくりした粒ほど、土星に引きよせられやすくなります。ケンプらは、土星の重力のせいで、輪のあたりに降るちりは、重力がない場合の少なくとも約30倍に増えるとしました。以前の計算では、約3倍に増えると仮定されていました。ちりが多く降るほど、今の汚れに達するまでの時間は短くなります。

ちりが輪にくっつく割合が10分の1になれば、年齢の見積もりは10倍になる

式の分母には、「ちりが輪にくっつく割合」が入っています。この割合が10分の1になれば、同じ汚れになるまでの時間は10倍にのびます。若い輪の計算は、くっつく割合を10%以上と仮定していました。兵頭さんたちの計算は、1%以下を示しました。この1つの違いだけで、年齢の見積もりは10倍ほど変わりうるのです。

ほかの前提もあります。たとえば、昔もちりの量は今と同じだったのか。ケンプらは、太陽系の初めのころは今よりちりが多かった可能性に触れています。そうなら、古い輪はもっと汚れているはずだ、というのが若い輪の説の側の考えです。輪の年齢という1つの数字は、いくつもの仮定の上に成り立っています。

岩石の年齢は直接測れるが、土星の輪の年齢は推定するしかない

岩石の年齢は、放射性元素が壊れる速さを使って、かなり直接に測れます。恐竜を絶滅させた天体衝突の年代を、6603万8000年前と細かく出せるのは、この方法のおかげです。ところが、土星の輪のかけらを地球に持ち帰ったことは、まだありません。

クリダらが2019年に強調したのは、この点です。輪の年齢は、そもそも直接測ることができません。観測できるのは、輪の重さ、汚れの割合、ちりの量です。そこから年齢を出すには、どうしても計算のための仮定(モデル)が必要になります。

この記事に出てきた言葉の意味

  • 微小隕石:宇宙をただよう、ちりほどの小さな岩や氷のかけら
  • 重力集束:重い天体が、周りを通る粒を引きよせて集める効果
  • 付着効率:ぶつかった物質のうち、どれだけがその場に残るかの割合
  • 輪の雨:輪の物質が、土星の磁場や重力で大気へ落ちていく現象

決着には、ちりが氷に当たったとき何が残るかを確かめる必要がある

若い輪の説と古い輪の説は、どちらも同じカッシーニのデータを使っています。違うのは、データから年齢を計算するときの仮定です。決着には、ちりが氷に当たったときに何が残るかを、実験や別の観測で確かめる必要があります。年齢の答えは、計算の仮定が確かめられて、初めて決まります。

05まとめ

土星の輪が「恐竜より新しいかもしれない」という説は、カッシーニの観測から出てきた、本物の科学の仮説です。輪の重さからは1000万〜1億年前、ちりの量からは1億〜4億年以下という数字が出ています。

けれど、その年齢は、輪の「汚れ具合」から逆算したものです。2024年の日本の研究は、輪がそもそも汚れにくい可能性を示しました。輪は本当に若いのか、それとも汚れにくいだけなのか。答えは、秒速30kmでぶつかるちりが、氷の上に何を残すかにかかっています。

人に話すなら、こう言おう

土星の輪って、恐竜がいたころより新しいかもって説があるんだよ。輪がきれいすぎるからなんだって。でも2024年に、日本の研究者が「汚れにくいだけかも」って言い出して、まだ決着してないらしい。
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英語で読む

How Old Are Saturn's Rings?

CEFR A2232 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

In 2017, the spacecraft Cassini flew through the gap between Saturn and its rings.2017年、探査機カッシーニは土星と輪のすき間を飛びぬけました。 From this data, scientists found the weight of the rings.このデータから、科学者たちは輪の重さを知りました。 The rings were light, only about 0.41 times the mass of Mimas, a small moon.輪は軽く、小さな衛星ミマスの約0.41倍の質量しかありませんでした。

Saturn's rings are more than 95 percent water ice, so they look very clean and white.土星の輪は95%以上が水の氷なので、とてもきれいで白く見えます。 But tiny rocks called micrometeoroids fall on the rings all the time.でも、微小隕石と呼ばれる小さな岩がいつも輪に降っています。 Over time, this dust should make the ice darker, like dust on a floor.時間がたつと、このちりは床のほこりのように氷を暗くするはずです。 So scientists can estimate the age of the rings from how dirty they are.だから科学者は、輪がどれだけ汚れているかから年齢を推定できます。

In 2023, a team counted the dust with an instrument on Cassini.2023年、あるチームがカッシーニの装置を使ってちりの量を数えました。 They said the rings are no more than about 100 to 400 million years old.彼らは、輪の年齢はおよそ1億〜4億年以下だと述べました。 An earlier study gave 10 to 100 million years.それより前の研究は1000万〜1億年という数字を出しました。 Dinosaurs died out about 66 million years ago, so the rings might be younger than that event.恐竜は約6600万年前に絶滅したので、輪はその出来事より新しいかもしれません。

But in 2024, scientists in Japan used computers to study dust hitting ice.しかし2024年、日本の科学者たちはコンピューターを使って、ちりが氷に当たる様子を調べました。 The dust hits at about 30 kilometers per second.ちりは秒速約30kmでぶつかります。 In their model, it turns into gas and tiny charged pieces, and most of it leaves the rings.彼らのモデルでは、ちりは気体と電気を帯びた小さな粒に変わり、そのほとんどが輪から出ていきます。 So the rings may stay clean even if they are very old.だから、輪はとても古くてもきれいなままなのかもしれません。

Nobody has measured the age of the rings directly.輪の年齢を直接測った人は誰もいません。 Are they young, or do they just stay clean?輪は若いのでしょうか、それともきれいなままでいるだけなのでしょうか。 The answer depends on what a speck of dust leaves behind on the ice.答えは、ひと粒のちりが氷の上に何を残すかにかかっています。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2According to the 2023 study, how old are the rings at most?

    2023年の研究によると、輪は最大で何歳ですか。

  3. Q3Why can dust tell us the age of the rings?

    なぜちりから輪の年齢が分かるのですか。

  4. Q4In paragraph 5, the word "directly" is closest in meaning to ...

    第5段落の "directly" に最も意味が近いのは…

  5. Q5Which is true about the 2024 study from Japan?

    2024年の日本の研究について正しいものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • spacecraft名詞
    宇宙船、探査機

    The spacecraft sent photos back to Earth.

    その探査機は地球に写真を送ってきた。

    💡 単数も複数も spacecraft。craft は「乗り物」。aircraft(航空機)も同じ仲間。

  • ring名詞
    輪、環

    She wears a silver ring on her finger.

    彼女は指に銀の指輪をしている。

    💡 惑星の「環」も指輪も同じ ring。動詞では「(ベルが)鳴る」。

  • mass名詞
    質量、かたまり

    The mass of this rock is 2 kilograms.

    この岩の質量は2キログラムだ。

    💡 weight(重さ)は場所で変わるが、mass は変わらない。mass media の mass は「大衆」。

  • estimate動詞
    推定する、見積もる

    We estimate the trip will take three hours.

    その旅は3時間かかると見積もっている。

    💡 名詞も同じつづり(発音は「エスティメット」)。guess より根拠のある推測。

  • micrometeoroid名詞
    微小隕石(宇宙のとても小さな岩のかけら)

    A micrometeoroid is smaller than a grain of sand.

    微小隕石は砂粒よりも小さい。

    💡 micro(とても小さい)+ meteoroid(宇宙の岩)。地球に落ちて残ったものが meteorite(隕石)。

  • die out句動詞
    絶滅する、すたれる

    Many old customs have died out.

    多くの古い習慣がすたれてしまった。

    💡 生き物にも習慣にも使う。名詞の「絶滅」は extinction。

  • charged形容詞
    電気を帯びた

    Charged pieces can be pulled by a magnet.

    電気を帯びた粒は磁石に引っぱられることがある。

    💡 charge は「充電する」「料金」。電池の充電は charge a battery。

  • directly副詞
    直接に、じかに

    Please talk to the teacher directly.

    先生に直接話してください。

    💡 direct(まっすぐな)+ -ly。反対は indirectly(間接的に)。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 19件)。

  1. Iess, L. et al. (2019) Measurement and implications of Saturn's gravity field and ring mass, Science 364:eaat2965doi.org
  2. Kempf, S. et al. (2023) Micrometeoroid infall onto Saturn's rings constrains their age to no more than a few hundred million years, Science Advances 9:eadf8537doi.org
  3. Hyodo, R., Genda, H. & Madeira, G. (2024) Pollution resistance of Saturn's ring particles during micrometeoroid impact, Nature Geoscience 18:44–49doi.org
  4. Crida, A. et al. (2019) Are Saturn's rings actually young?, Nature Astronomy 3:967–970doi.org
  5. NASA Research Reveals Saturn is Losing Its Rings at "Worst-Case-Scenario" Rate(NASA, 2018)science.nasa.gov
  6. Waite, J. H. et al. (2018) Chemical interactions between Saturn's atmosphere and its rings, Science 362:eaat2382doi.org
  7. New evidence comet or asteroid impact was last straw for dinosaurs(UC Berkeley News, 2013)news.berkeley.edu

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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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