X線を見つけたレントゲン本人は、一生「レントゲン線」と呼ばなかった
失敗から生まれたNo.168

X線を見つけたレントゲン本人は、一生「レントゲン線」と呼ばなかった

レントゲン本人は「レントゲン線」と呼ばなかった。

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もくじ
  1. X線は、黒い厚紙で包んだ管の外で、薬をぬった紙が光ったことから見つかった
  2. 「どう思ったか」と聞かれたレントゲンは、「考えなかった。調べた」と答えた
  3. 最初の論文は、本も木も通り抜ける放射線を、ていねいに調べていた
  4. 「レントゲン線」と呼ぶ人が増えても、本人は一生「X線」と呼んだ
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

1896年1月23日、ドイツのヴュルツブルクで、医学と物理の学者が集まる協会の会合が開かれました。物理学者のヴィルヘルム・コンラート・レントゲン(Wilhelm Conrad Röntgen)が、新しく見つけた放射線について話したのです。レントゲンは話の途中で、協会の名誉会長だった解剖学の教授ケリカーの手を、その場でX線で写しました。

ヴュルツブルク大学図書館が会合の記録について出した発表によると、ケリカーはその会合で、この放射線を「レントゲン線」と呼ぼうと提案しました。ところがレントゲン本人は、一生そう呼びませんでした。自分では最後まで「X線」と呼び続けたのです。日本語の辞書では、「レントゲン」は「レントゲン写真(X線写真)」や「レントゲン線(X線)」の略だと説明されています。発見した本人が使わなかった呼び方が、日本でも広まったのです。

この記事では、まずX線が見つかった1895年11月8日の実験を紹介します。次に、レントゲンが雑誌の記者に語った言葉と、最初の論文の中身を見ます。最後に、発見のあとレントゲンが特許や賞金をどうしたかを、記録からたどります。

01X線は、黒い厚紙で包んだ管の外で、薬をぬった紙が光ったことから見つかった

1895年、レントゲンはドイツのヴュルツブルク大学の教授でした。そのころ調べていたのは、空気をほとんど抜いたガラス管に、高い電圧をかけたときに起こる現象です。管の中には、電気の流れが生まれます。これは「陰極線(いんきょくせん)」と呼ばれていました。陰極線は、クルックスやヘルツ、レーナルトなど、何人もの学者がすでに研究していました。

ノーベル財団の伝記によると、1895年11月8日の夕方、レントゲンはこんな実験をしていました。ガラス管を、光が通らない黒い厚紙の箱で包みます。部屋も真っ暗にします。そして管の近くに、シアン化白金バリウムという薬をぬった紙を置きました。この薬は、放射線などが当たると光る性質があります。

管に電気を流すと、紙が光りました。管は黒い厚紙で包んであるので、光は外に出ないはずです。それなのに、何かが厚紙を通り抜けて、紙を光らせていたのです。紙は、管から2m離しても光りました。

レントゲンの論文によると、光る紙の前に手をかざすと、骨の影が濃く、周りの肉はうっすらと見えた。
レントゲンの論文によると、光る紙の前に手をかざすと、骨の影が濃く、周りの肉はうっすらと見えた。

02「どう思ったか」と聞かれたレントゲンは、「考えなかった。調べた」と答えた

発見から5か月ほどたった1896年4月、アメリカの雑誌『マクルーア』に、レントゲンへのインタビューがのりました。記者のデイムが、ヴュルツブルクの研究室を訪ねて聞いた話です。

デイムが発見のいきさつを聞くと、レントゲンは「いきさつなどない」と答えました。ヘルツやレーナルトが調べた、真空管から出る放射線に、前から興味があった。時間ができたら、自分でも調べようと決めていた。10月の終わりに時間ができて、数日実験していたら、新しいものを見つけた。レントゲンは、そう説明しています。

日付を聞かれると、レントゲンは「11月8日」と答えました。黒い厚紙の覆いをかけた管に電流を流していたら、台の上の紙に「奇妙な黒い線」が見えた、と語っています。ノーベル財団の伝記は「紙が光った」と書いているので、本人の言い方とは少し違います。覆いは、知られているどんな光も通さないはずのものでした。

「そのとき、どう思いましたか」と聞かれて、レントゲンはこう答えました。「考えなかった。調べた」。数分で、放射線が管から出ていることに疑いがなくなったそうです。紙を2mまで離しても、紙は光りました。

記者が「電気ですか」と聞くと、レントゲンは「知られている形のものではない」と答えました。「では何ですか」と聞かれると、「分からない」と答えています。記者がレントゲン本人の写真を撮らせてほしいと頼むと、「忙しい」と断りました。

記者は、暗くした実験用の箱の中で、実験を見せてもらいました。光る紙と管の間に、厚さ2インチ(約5cm)の本を置いても、光は弱くなりませんでした。記者は放射線に目を向けてみましたが、何も見えず、何も感じなかったと書いています。

03最初の論文は、本も木も通り抜ける放射線を、ていねいに調べていた

レントゲンは、1895年12月28日に、ヴュルツブルクの物理医学協会に論文の原稿を出しました。題は「新しい種類の放射線について」です。この論文は、その年の協会の会報にのりました。同じ年の終わりには、論文だけを印刷した冊子も出ました。冊子はすぐに売り切れ、1896年にさらに4回刷られました。

論文には、X線が何を通り抜け、何で止まるかが書かれています。光る紙は、千ページの本の後ろに置いても光りました。トランプ2組の後ろでも光りました。厚さ15mmのアルミの板は通り抜けましたが、光は弱くなりました。厚さ1.5mmの鉛の板は、ほとんど通しませんでした。

手を紙の前にかざすと、骨の影が濃く写り、周りの肉はうっすらとしか見えませんでした。英語訳の論文には、指輪をはめた手の骨の写真と、金属の箱に入った方位磁針の写真ものっています。一方、人の目は、この放射線を感じません。装置に目を近づけても、何も見えないと書かれています。

「X線」という名前は、この論文の注に出てきます。レントゲンは「短くするために」、この放射線を「X線」と呼ぶと書きました。ノーベル財団の伝記によると、「X」とつけたのは、この放射線が何なのか、当時は分からなかったからです。

論文には、こんな注意も書かれています。写真の乾板(かんばん。ガラスに薬をぬった、写真用の板)も、X線に反応する。だから、まだ使っていない乾板を、箱に入れたまま管の近くに置いてはいけない。箱に入れていても、X線は箱を通り抜けてしまうからです。

04「レントゲン線」と呼ぶ人が増えても、本人は一生「X線」と呼んだ

1896年1月23日の会合で、ケリカーが「レントゲン線」という名前を提案したことは、すでに書きました。この呼び方は広まりました。1901年、レントゲンはノーベル物理学賞を受けます。ノーベル財団が示した受賞の理由は、「のちに彼の名で呼ばれるようになった、すばらしい放射線の発見」でした。それでもレントゲン本人は、最後まで「X線」と呼びました。

ドイツ歴史博物館の解説によると、レントゲンは人前に出るのを好みませんでした。ノーベル賞の講演の招待を断り、発見の特許も取りませんでした。賞金の5万クローネは、ヴュルツブルク大学に寄付しています。ノーベル財団の伝記も、レントゲンをとても控えめな人だったと書いています。助手を持つのを好まず、一人で実験し、装置の多くを自分で作りました。

レントゲンの若いころの話もあります。ノーベル財団の伝記によると、オランダのユトレヒトの技術学校にいたとき、先生をからかう似顔絵を描いたと疑われて、学校を追い出されました。実際に描いたのは、別の人でした。そのため、大学に入るための資格(アビトゥーア)を取れませんでした。それを理由に、ヴュルツブルク大学は、大学で教える資格を一度は認めませんでした。そのヴュルツブルク大学で、レントゲンは1888年に教授になり、1893年には学長に選ばれています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

X線が陰極線とは別のものだと、レントゲンは磁石を使って確かめた

論文でレントゲンが確かめたことの一つは、「これは陰極線が管の外に漏れただけではないか」という疑問です。陰極線は、磁石を近づけると曲がることが知られていました。そこでレントゲンは、強い磁石をX線に近づけてみました。X線は曲がりませんでした。

次に、管の中の陰極線を磁石で曲げてみました。すると、X線が出てくる場所も、陰極線が当たった新しい場所に移りました。この二つの結果から、レントゲンはこう結論しています。X線は陰極線そのものではない。陰極線がガラスに当たった所で、新しく生まれるものだ、と。「紙が光った」という一つの出来事を見つけたあと、ほかの説明を一つずつ確かめて消していく。その手順が、論文にはっきり書かれています。

11月8日に気づいてから、原稿を出した12月28日までは、約7週間です。その間にレントゲンは、紙、木、金属、手、磁石と、条件を変えて試し続けました。英語訳の論文では、結果が17の番号に分けて並んでいます。

レントゲンの予想は外れ、X線は光の仲間だった

論文の最後で、レントゲンはX線が何なのかを考えています。当時、光は「エーテル」の中を伝わる「横波」(波の進む向きと直角にゆれる波)だと説明されていました。エーテルとは、当時、あらゆる物にしみわたっていて、光を伝えると考えられていたものです。レントゲンは、X線はエーテルの「縦波」(波の進む向きにゆれる波)ではないかと考えました。ただし、この考えにはまだしっかりした土台が必要だ、とも書いています。

この予想は外れました。ノーベル財団の伝記によると、のちにラウエと弟子たちが、X線は光と同じ電磁波の仲間だと示しました。光との違いは、1秒あたりの振動の回数(振動数)が多いことだけでした。

「まったく新しい発見」かどうかは、当時から議論された

論文の英語訳がのった1896年1月23日号の学術誌『ネイチャー』には、ロンドンのスウィントンの記事も並んでいます。スウィントンは、新聞にのったウィーンからの電報を手がかりに、レントゲンの実験をくり返して成功したと書きました。発見から2か月半で、ドイツの外でも同じ実験が試されていたのです。

スウィントンは、発見はまったく新しいわけではないようだ、とも書いています。レーナルトはすでに、一部に薄いアルミの板の「窓」をつけた管で、レントゲンとほとんど同じ影の写真を得ていたからです。一方でスウィントンは、レントゲンが二つの点で先へ進んだと認めています。アルミの窓がなくてもよいことを示した点と、骨が肉よりずっと通しにくいことを見つけた点です。

目に見えず、何も感じない放射線は、危なさに気づくのも遅れた

レントゲンの論文は、人の目はX線を感じないと書いています。インタビューの記者も、目を放射線に向けて、何も見えず何も感じなかったと書きました。ドイツ歴史博物館の解説によると、X線の、しばしば命にかかわる害は、長い間知られませんでした。そして、X線を使い始めた多くの人が命を落としました。何も感じないことと、安全であることは、別の話だったのです。

05まとめ

X線は1895年11月8日、黒い厚紙で包んだガラス管の外で、薬をぬった紙が光ったことから見つかりました。発見したレントゲンは、どう思ったかと聞かれて「考えなかった。調べた」と答えています。そして最初の論文で、X線が本や木を通り抜け、鉛でほとんど止まることを、ていねいに書きました。

ほかの学者は「レントゲン線」という名前を提案し、その呼び方は広まりました。日本語の「レントゲン」も、その呼び方から来ています。けれどもレントゲン本人は、一生「X線」と呼び続けました。発見の特許も取らず、ノーベル賞の賞金はヴュルツブルク大学に寄付しています。病院で「レントゲンを撮りましょう」と言われたら、本人はその呼び方を使わなかったことを思い出してみてください。

人に話すなら、こう言おう

X線って、見つけたレントゲン本人は「レントゲン線」とは一度も呼ばなかったんだって。何なのか分からないから「X」。しかも特許も取らないで、ノーベル賞の賞金は大学に寄付したらしいよ。
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英語で読む

The Man Who Called It X

CEFR A2224 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

On November 8, 1895, a German scientist named Wilhelm Röntgen was working in a dark room.1895年11月8日、ヴィルヘルム・レントゲンというドイツの科学者が、暗い部屋で実験をしていました。 He covered a glass tube with thick black cardboard so that no light could get out.彼は、光が外に出ないように、ガラスの管を黒い厚紙で包みました。 Then he sent electricity through the tube.それから、管に電気を流しました。 A piece of paper with special paint near the tube began to glow.管の近くにあった、特別な薬をぬった紙が光り始めました。 It glowed even two meters away.紙は、2メートル離れていても光りました。

Something was passing through the black cardboard.何かが、黒い厚紙を通り抜けていたのです。 Röntgen did not know what it was, so he called it "X rays."レントゲンはそれが何なのか分からなかったので、「X線」と呼びました。 The rays went through a book of one thousand pages.その放射線は、千ページの本を通り抜けました。 But a sheet of lead, only 1.5 millimeters thick, almost stopped them.けれども、厚さわずか1.5ミリの鉛の板は、ほとんど通しませんでした。 When he put a hand in front of the paper, he could see the shadows of the bones.紙の前に手をかざすと、骨の影が見えました。

A few months later, a reporter asked him, "What did you think?"数か月後、ある記者が彼に「どう思いましたか」とたずねました。 Röntgen answered, "I did not think. I investigated."レントゲンは「考えなかった。調べた」と答えました。 He also said that he did not know what the rays were.彼は、その放射線が何なのか分からない、とも言いました。

Another scientist suggested the name "Röntgen rays."ある別の学者が、「レントゲン線」という名前を提案しました。 That name became popular, and in Japan people still say "rentogen" for an X-ray picture.その名前は広まり、日本では今もX線写真のことを「レントゲン」と言います。 But Röntgen himself used the name "X rays" all his life.しかしレントゲン本人は、一生「X線」という名前を使いました。

In 1901, he won the Nobel Prize in Physics.1901年、彼はノーベル物理学賞を受けました。 He did not take a patent for his discovery.彼は、自分の発見の特許を取りませんでした。 He gave his prize money to the University of Würzburg.賞金は、ヴュルツブルク大学に寄付しました。 He liked to work alone, and he made much of his own equipment.彼は一人で実験するのを好み、装置の多くを自分で作りました。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How far away from the tube did the paper still glow?

    紙は、管からどれくらい離れていても光りましたか。

  3. Q3Why did Röntgen call the rays "X rays"?

    レントゲンはなぜその放射線を「X線」と呼んだのですか。

  4. Q4In paragraph 1, the word "glow" is closest in meaning to

    第1段落の "glow" に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about Röntgen?

    レントゲンについて正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • glow動詞
    (ぼうっと)光る

    The cat's eyes glowed in the dark.

    暗やみでねこの目が光った。

    💡 炎を出さずに光る感じ。shine はもっと明るく輝くとき。

  • ray名詞
    光線、放射線

    A ray of sunlight came through the window.

    窓から一筋の日の光が差しこんだ。

    💡 X-ray(X線)、sun ray(日光)。

  • tube名詞
    管、筒

    Put the toothpaste tube back in the box.

    歯みがきのチューブを箱にもどしなさい。

    💡 日本語の「チューブ」と同じ語。

  • cover動詞
    覆う、包む

    She covered the cake with a cloth.

    彼女はケーキを布で覆った。

    💡 cover A with B で「AをBで覆う」。

  • lead名詞
    鉛

    Old water pipes were sometimes made of lead.

    昔の水道管は、鉛でできていることがあった。

    💡 金属の「鉛」は[レッド]と読む。動詞の lead(導く)は[リード]。

  • shadow名詞
    影

    My shadow is long in the evening.

    夕方は私の影が長い。

    💡 光がさえぎられてできる形。shade は「日かげ(の場所)」。

  • investigate動詞
    調べる、調査する

    The police investigated the accident.

    警察はその事故を調べた。

    💡 名詞は investigation(調査)。look into と言いかえられる。

  • patent名詞
    特許

    He got a patent for his new toy.

    彼は新しいおもちゃの特許を取った。

    💡 take out a patent / get a patent で「特許を取る」。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 45件)。

  1. Röntgen, W. C.(Stanton, A. 訳)(1896) On a New Kind of Rays, Nature 53doi.org
  2. Dam, H. J. W. (1896) The New Marvel in Photography, McClure's Magazine 6(5)(Internet Archive)archive.org
  3. Swinton, A. A. C. (1896) Professor Röntgen's Discovery, Nature 53doi.org
  4. Wilhelm Conrad Röntgen – Biographical(ノーベル財団)nobelprize.org
  5. The Nobel Prize in Physics 1901(ノーベル財団)nobelprize.org
  6. Wilhelm Conrad Röntgen 1845-1923(ドイツ歴史博物館 LeMO)dhm.de
  7. Pressemitteilung 14.01.2021(ヴュルツブルク大学図書館)bibliothek.uni-wuerzburg.de
  8. 「レントゲン」(デジタル大辞泉・日本大百科全書、コトバンク)kotobank.jp

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