
WD-40の名前の「40」は、40回目の配合からきている
会社によると、39回の失敗のあとにできた。
もくじ
1953年、アメリカ西海岸のサンディエゴ。小さな研究室で、3人だけの会社が、ある液体を作ろうとしていました。会社の名前は、ロケット・ケミカル社です。作ろうとしていたのは、飛行機やロケットを作る工場で使う、さび止めとよごれ落としでした。
1回目の液体は、うまくいきませんでした。2回目も、3回目もだめでした。材料の組み合わせ(配合)を変えては試し、また変えては試しました。会社の説明によると、思いどおりの液体ができたのは、40回目でした。
その液体の名前が「WD-40」です。WDは、Water Displacement(水を追い出す)の頭文字です。40は、40番目の配合という意味です。会社のページによると、この名前は、開発した化学者の実験ノートに書かれた名前を、そのまま使ったものです。
ここまでは、知っている人もいるかもしれません。でも、WD-40が家庭に広まったきっかけは、あまり知られていません。会社の説明では、工場の社員たちが、WD-40をこっそり弁当箱に入れて家に持ち帰ったことでした。この記事の年や数字は、おもにWD-40の会社が公開している歴史のページによります。
この記事では、まずWD-40が最初に何に使われたかを紹介します。次に、家庭用として売られ、大きな会社になるまでの流れを見ます。最後に、配合が秘密にされている理由と、会社の記録どうしのずれを説明します。
01WD-40が最初に使われたのは、ミサイルの外側をさびから守る仕事
ロケット・ケミカル社をつくったのは、ノーマン・ラーセン(Norman Larsen)たち3人です。会社の記録では、1953年9月23日に会社ができました。WD-40の生みの親は、ラーセンとされています。
会社によると、WD-40を最初に仕事で使ったのは、飛行機やロケットを作る会社のコンベアでした。使い道は、アトラス・ミサイルというミサイルの外側をおおう金属の皮を、さびやいたみから守ることです。
さびは、鉄が水や酸素と触れることで進みます。金属の表面から水を追い出して、うすい膜でおおえば、さびにくくなります。「水を追い出す」という名前は、このはたらきをそのまま表しています。
02社員が弁当箱で家に持ち帰ったことが、家庭用のきっかけになった
会社の説明によると、WD-40はとてもよく効きました。あまりによく効くので、工場の何人かの社員が、缶を弁当箱に入れて、こっそり持ち帰るようになりました。家で使うためです。
社員が持ち帰っていると知って、ラーセンは考えました。家の作業場や車庫でも、WD-40を使いたい人がいるはずだ、と考えたのです。そこでラーセンは、WD-40をスプレー缶に入れる実験を始めます。1958年、スプレー缶のWD-40が、サンディエゴの店に初めて並びました。

03最初は7人の社員が、車のトランクに缶を積んで売り歩いた
店に並んだあとも、しばらくは小さな会社のままでした。1960年、社員はやっと7人に増えます。会社のページによると、7人は車のトランクに缶を積んで、金物屋やスポーツ用品店を回りました。こうして売れたのは、1日に平均45ケース(箱)でした。
大きな注文が来たのは、1961年です。この年、メキシコ湾岸をハリケーン・カーラがおそいました。水につかった車や機械を手入れするために、トラック1台分という大きな注文が初めて入ります。社員は土曜日にも出てきて、缶につめる前の液(原液)を追加で作りました。
1968年には、ベトナムにいた兵士たちに、WD-40の入ったキットが送られました。銃を、しめり気から守るためです。
04よく売れるようになり、会社の名前も「WD-40社」に変わった
WD-40が売れるにつれて、会社の名前も変わりました。会社は、ただ1つの製品の名前に合わせて「WD-40社」になります。1973年には、だれでも会社の株を買えるようにしました(株式の公開)。その初日に、株価は61%上がりました。
1983年には、1年間の売上が5,020万ドルになりました。人気が出ると、にせ物も出てきました。青と黄色の缶に赤いキャップという見た目まで、まねた商品があったそうです。会社の発表では、1993年には、アメリカの5軒に4軒の家にWD-40がありました。また、プロとして仕事をしている人の81%が、WD-40を使っていました。売れた数は、1週間に100万缶以上でした。
おなじみの赤くて細いストローにも、話があります。会社に来る苦情で一番多かったのは、「小さなストローをなくす」でした。そこで2005年、ストローが缶にくっついたタイプが出ました。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
WD-40の会社は、配合を特許にせず秘密にしている
WD-40の会社は、60年以上たった今も、配合は秘密だと説明しています。「中身が明かされた」という情報は不正確だ、とも書いています。会社が公開しているのは、中身の50%がミネラルスピリット(石油をきれいにして作った、物をとかす液体)だということくらいです。あとは、潤滑油やさび止めなどがまざっている、と書いているだけです。
発明を守るやり方には、大きく2つあります。1つは特許です。アメリカの特許商標庁によると、特許の権利はふつう、申しこんだ日から最長20年で切れます。しかも、申しこんだ内容はふつう18か月後に公開されます。認められた特許も公開されます。つまり、特許は「中身を世の中に見せるかわりに、決まった期間だけ独り占めできる」しくみです。
もう1つは、営業秘密です。営業秘密とは、会社が外にもらさずに守っている大切な情報のことです。特許商標庁の説明では、いくつかの条件がそろえば、営業秘密が法律で守られる期間に上限はありません。条件とは、たとえば、知られていないことに価値があることや、秘密を守る努力をしていることです。そのかわり、会社は秘密を守り続ける努力をしなくてはなりません。
WD-40の会社が、なぜ配合を秘密にしているのか。その理由は、今回調べた会社の資料には書かれていませんでした。ただ、もし配合を特許にしていたら、中身は公開されていたはずです。そして、20年ほどで、だれでも同じ物を作れるようになっていたはずです。
WD-40の会社の2つのサイトでも、年や書き方がずれている
この記事のおもな出典は、WD-40の会社自身のページです。製品のサイトと、会社のサイトの2つがあります。2つを読み比べると、細かいずれが見つかります。
- 会社の名前が変わった年:製品のサイトは1969年、会社のサイトは1970年としています。
- 株式の公開:株をどこで売り出したかの書き方がちがいます。製品のサイトは「店頭市場(証券取引所を通さずに株を売り買いする場)」と書いています。会社のサイトは「1973年1月16日に、アメリカの株式市場NASDAQで」と書いています。
- 「40」の意味:「40回の試み」と書く文と、「40番目の配合」と書く文があります。どちらも「40番目でできた」という点は同じです。
会社のページには、うわさを正すコーナーもあります。たとえば、ケン・イーストという人は、本社で15年以上もWD-40の原液を調合していました。彼は「醸造長(液を仕こむ係のリーダー)」と呼ばれていたため、創業者だとまちがえられることがあったそうです。有名な商品ほど、まちがった話が広まりやすくなります。会社の記録も、ほかの記録も、比べながら読むことが大切です。
WD-40の家での使い道は、作った会社ではなく、使う人が見つけた
WD-40は、ミサイルを作る工場のための液体でした。それが家庭に広まったきっかけは、社員が自分の家で使ったことでした。作った人が考えていなかった使い方を、使う人が先に見つけたのです。会社のページには、ユーザーが見つけた「2000以上の使い道」のリストまであります。
WD-40の会社は、名前の付け方も変わっています。会社は、ただ1つの製品の名前を、そのまま会社の名前にしました。その後、1995年には、1894年に生まれた古い潤滑油のブランド「3-IN-ONE」を買い取ります。1つの製品から始まった会社が、ほかのブランドも持つ会社へと育っていきました。それでも、会社の名前は、実験ノートに書かれた「WD-40」のままです。「40」という番号は、その前に39回うまくいかなかったことを表しています。
05まとめ
WD-40の「40」は、40番目にできた配合の番号です。1953年、3人の会社が、飛行機やロケットを作る工場のためのさび止めとして作りました。WD-40が最初に使われたのは、アトラス・ミサイルの外側をさびから守る仕事でした。
会社の説明では、家庭に広まったきっかけは、よく効くので社員が弁当箱に入れて持ち帰ったことです。WD-40は1958年にスプレー缶で店に並びました。配合は、今も秘密のままです。工具箱にある青と黄色の缶の「40」という数字は、その前に39回うまくいかなかったことを表しています。
人に話すなら、こう言おう
WD-40の40って、40回目の配合でやっと完成したって意味なんだって。最初はミサイルのさび止めで、社員が弁当箱に入れて家に持って帰ったのが家庭用になったきっかけらしいよ。
英語で読む
The Fortieth Try
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
In 1953, three people at a small company in San Diego were working in a lab.1953年、サンディエゴの小さな会社の3人が、研究室で作業をしていました。 They wanted to make a liquid that could stop rust on airplanes and rockets.彼らは、飛行機やロケットのさびを止められる液体を作りたいと思っていました。 Their first try did not work, and neither did the next one.最初の試みはうまくいかず、次の試みもだめでした。 They finally got it right on the 40th try.40回目の試みで、ついにうまくいきました。
They named it WD-40.彼らはそれを WD-40 と名づけました。 WD means "water displacement," which is a way of pushing water away from metal.WD は「水の置換」という意味で、金属から水を押しのけるやり方のことです。 The number 40 came straight from the chemist's lab notebook.40という数字は、化学者の実験ノートからそのまま取られました。
The first company to use it was Convair.最初にそれを使った会社は、コンベアでした。 Convair used it to protect the outside of the Atlas missile from rust.コンベアは、アトラス・ミサイルの外側をさびから守るためにそれを使いました。 The company says it worked so well that some workers hid cans in their lunchboxes.会社によると、それはとてもよく効いたので、何人かの作業員が缶を弁当箱に隠しました。 They took them home and used them there.彼らはそれを家に持ち帰り、そこで使いました。
This gave the company's founder, Norm Larsen, an idea.このことが、会社の創業者ノーム・ラーセンにアイデアをあたえました。 He put WD-40 into spray cans for people to use at home.彼は、人々が家で使えるように、WD-40 をスプレー缶に入れました。 In 1958, it appeared in stores in San Diego for the first time.1958年、それはサンディエゴの店に初めて並びました。 In 1960, seven workers sold it from the trunks of their cars.1960年、7人の社員が車のトランクからそれを売りました。 On average, they sold 45 boxes of cans each day.彼らは、1日に平均45箱の缶を売りました。
Today, many homes have the blue and yellow can.今では、多くの家にあの青と黄色の缶があります。 The company says the recipe is still a secret after more than 60 years.会社は、その配合が60年以上たった今も秘密だと言っています。 But the name tells one part of the story.でも、名前が物語の一部を教えてくれます。 Before the success, there were 39 failures.成功の前には、39回の失敗があったのです。
4択問題 Reading Quiz
-
Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B How WD-40 was made and became popular
第1段落で WD-40 ができるまで、第3〜5段落で家庭に広まるまでを述べているので正解はB。Aのロケットは使い道の一つとして出てくるだけ。
-
Q2When did WD-40 first appear in stores?
WD-40 が初めて店に並んだのはいつですか。
正解:D In 1958
第4段落3文目に In 1958, it appeared in stores in San Diego for the first time とあるので正解はD。1953年は研究をしていた年、1960年は車で売り歩いた年。
-
Q3Why did some workers hide cans in their lunchboxes?
何人かの作業員は、なぜ缶を弁当箱に隠したのですか。
正解:A Because they wanted to use WD-40 at home
第3段落3〜4文目に、とてもよく効いたので缶を隠し、家に持ち帰って使ったとあるので正解はA。売るためという話は本文にない。
-
Q4In paragraph 3, the word "protect" is closest in meaning to ...
第3段落の protect という語に最も意味が近いのはどれですか。
正解:B keep safe
第3段落2文目の protect ... from rust は「さびから守る」という意味なので、「安全に保つ」のBが正解。Dの break は反対の意味。
-
Q5Which is true about WD-40?
WD-40 について正しいものはどれですか。
正解:C The number 40 comes from the 40th try.
第1段落4文目と第2段落3文目から、40は40回目の試みで、実験ノートの番号だとわかるので正解はC。配合は秘密なのでBはちがい、最初はロケットなどのさび止めなのでDもちがう。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
-
rust名詞・動詞さび/さびる
My old bike is covered in rust.
私の古い自転車はさびだらけだ。
💡 形容詞は rusty(さびた)。
-
liquid名詞液体
Water is a liquid at room temperature.
水は室温では液体だ。
💡 solid(固体)、gas(気体)とセットで覚える。
-
metal名詞金属
This spoon is made of metal.
このスプーンは金属でできている。
💡 発音は「メタル」。形容詞は metallic。
-
missile名詞ミサイル
The missile was very long and thin.
そのミサイルはとても長くて細かった。
💡 アメリカ英語の発音は「ミッスル」に近い。
-
lunchbox名詞弁当箱
I forgot my lunchbox at home.
弁当箱を家に忘れた。
💡 lunch + box。packed lunch は「お弁当」。
-
founder名詞創業者、創設者
The founder of the school was a teacher.
その学校の創設者は教師だった。
💡 動詞 found(設立する)+ -er。find の過去形 found とは別の語。
-
recipe名詞配合、作り方、レシピ
My grandmother keeps her cake recipe secret.
祖母はケーキの作り方を秘密にしている。
💡 料理だけでなく「成功の秘訣」の意味でも使う。a recipe for success。
-
failure名詞失敗
One failure is not the end.
一度の失敗で終わりではない。
💡 動詞は fail。反対は success(成功)。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 22件)。
- WD-40 History(WD-40 Company, wd40.com)wd40.com
- Our History(WD-40 Company, wd40company.com)wd40company.com
- Myths, Legends & Fun Facts(WD-40 Company)wd40.com
- Trade secret policy(米国特許商標庁 USPTO)uspto.gov
- Patent essentials(米国特許商標庁 USPTO)uspto.gov
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
NEXT TRIVIAこの雑学にうなった人は、これにもうなる
No.001グレーGRAY付箋は、最初の試験販売ではほとんど売れなかった
付箋は最初、あまり売れなかった。
No.002瞬間接着剤の蒸気を当てると、指紋が白く浮かび上がる
瞬間接着剤は、指紋を調べる道具にもなる。
No.003電子レンジの発明者は、ポップコーンを作る特許も取っていた
電子レンジの最初の特許は、ベルトコンベア式。
No.258ホントTRUE太陽にいちばん近い水星の北極では、氷が黒っぽい層の下に隠れていた
水星の氷は、日が一度も差さないクレーターの底にある。
No.222「イクラ」はロシア語で、サケに限らず魚の卵ならどれでも指す言葉
ロシアでは、キャビアも「黒いイクラ」と呼ぶ。
No.033英語で「検疫」を表す quarantine は、「40日」という意味の言葉
世界で最初の検疫は、40日ではなく30日だった。