シャンパンを発明したのは、ドン・ペリニヨンではなかった
都市伝説ファクトチェックNo.057

シャンパンを発明したのは、ドン・ペリニヨンではなかった

泡の作り方を先に書いたのは、イギリスの医者。

ウソFALSE

この判定の対象「シャンパンを発明したのは、修道士ドン・ペリニヨンだ」

うなり度 読む時間8分 出典6件 確認した事実25件
もくじ
  1. 「泡を発明した」「目が見えなかった」「舌が鋭かった」というペリニヨンの話は、古い記録と合わない
  2. 本物のペリニヨンが得意だったのは、泡を出すことではなく、ワインを混ぜること
  3. ペリニヨンのころのシャンパーニュでは、ワインの泡のガスで瓶が割れ、大きな損になっていた
  4. 「ペリニヨンが泡の秘密を見つけた」という証言は、彼が亡くなって100年以上あとに出た
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

1662年12月17日、ロンドン。できたばかりの王立協会という科学者の集まりで、ひとりの医者が短い報告を読みました。名前はクリストファー・メレット(Christopher Merrett)。題は「ワインの扱い方についての観察」です。

その中に、こんな一文がありました。「近ごろのワイン職人は、ワインを泡立たせて生き生きした飲み口にするため、大量の砂糖と糖蜜を使う」(メレットの報告より・筆者訳)。糖蜜は、砂糖を作るときに残る、黒くて甘いみつです。

ワインに砂糖を足すと、ワインの中の酵母(パンやお酒を作る、目に見えない小さな生き物)がもう一度働いて、泡のもとになるガスを出します。砂糖を足して泡を出すやり方は、今のシャンパンと同じしくみです。そしてメレットの報告は、「シャンパンの発明者」とされる修道士ドン・ペリニヨンが、酒蔵の係になるより6年も前のものでした。

この記事では、まず「ペリニヨンがシャンパンを発明した」という話を、古い記録と比べます。次に、本物のペリニヨンが何をした人だったかを紹介します。最後に、「発明者」の話がいつ、どうやって生まれたかをたどります。

01「泡を発明した」「目が見えなかった」「舌が鋭かった」というペリニヨンの話は、古い記録と合わない

よく聞く話はこうです。フランスのシャンパーニュ地方の修道士ドン・ペリニヨンが、泡の出るワインを発明した。彼は目が見えなかった。そのぶん舌と鼻がとても鋭く、味やにおいを細かく感じ分けられた。

1998年、アメリカの眼科医ジョン・ブロック(John D. Bullock)らが、この話を調べました。3つがそろったこの話を、ブロックらは「3点セットの伝説」と呼んでいます。調べた結果は、眼科の雑誌に論文として載りました。結論は、この伝説は歴史の事実と合わない、というものでした。泡の出るワインは彼より前からあったことを示す、古い記録があるからです。

しかも、シャンパン作りには、測ったり、重さを量ったり、記録をつけたりする作業がたくさんあります。研究チームは、ペリニヨンが酒蔵でさかんに仕事をしていたころに、目が見えなかったとは考えにくい、と書いています。

02本物のペリニヨンが得意だったのは、泡を出すことではなく、ワインを混ぜること

ピエール・ペリニヨン(Pierre Pérignon)は1638年の生まれです。1668年から、1715年に亡くなるまで、オーヴィレール修道院のブドウ畑と酒蔵の係をつとめました。

フランスの研究機関、高等研究実習院(EPHE)の研究計画書が、ペリニヨンと同じ時代の人の証言をまとめています。証言で彼がほめられているのは、ブドウの混ぜ方の腕前です。泡を出すこと、厚いガラス瓶、コルクの栓。こうしたものを、同じ時代の人は彼の手柄にしていません。ペリニヨンが泡のワインを作ったことさえ、確かではないといいます。

シャンパーニュ地方のワイン団体(シャンパーニュ委員会)の公式の歴史ページも、彼の功績を「ブレンド」だと説明しています。ブレンドとは、いくつかのワインを混ぜ合わせることです。違う畑のワインを組み合わせると、おたがいの良さを引き出せる。ペリニヨンはそのことにいち早く気づき、よく考えてワインを混ぜるようになりました。

イギリスの王立内科医協会の記事は、さらにくわしく書いています。ペリニヨンに求められた仕事には、ワインをよくすることに加えて、泡を防ぐことも入っていた、というのです。当時のシャンパーニュでは、泡はまだ、わざと出すものではありませんでした。

03ペリニヨンのころのシャンパーニュでは、ワインの泡のガスで瓶が割れ、大きな損になっていた

ペリニヨンのころ、シャンパーニュの人たちは、ワインの泡をうまく扱えませんでした。公式の歴史ページによると、泡の出かたは瓶に詰めた日によって変わり、結果はばらばらでした。瓶がよく割れて、大きな損になりました。逆にガスが全部ぬけて、泡のないワインになることもありました。

泡のワインを作るための道具がそろうのにも、時間がかかりました。コルクの栓がこの地方に入ったのは1685年です。ずっと厚いガラスの新しい瓶ができたのは1770年でした。

一方、メレットの報告を紹介した王立内科医協会の記事は、こう説明しています。「イギリスでは、より丈夫なガラス瓶が、泡のワイン作りを助けた」。わざと泡を出すことについては、フランスのシャンパーニュより、イギリスのほうが先を行っていたわけです。

昔のシャンパーニュでは、瓶の中で泡のもとのガスがたまりすぎて、瓶が割れることがよくあった。
昔のシャンパーニュでは、瓶の中で泡のもとのガスがたまりすぎて、瓶が割れることがよくあった。

04「ペリニヨンが泡の秘密を見つけた」という証言は、彼が亡くなって100年以上あとに出た

では、「ペリニヨンがシャンパンを発明した」という話は、いつ生まれたのでしょうか。EPHE の研究計画書が、この話が生まれて広がるまでの流れを追っています。

まず1722年、ある本の第2版に「ドン・ペリニヨンの秘密」が出てきます。でも、その中身は泡の出ないワインをおいしくするためのレシピでした。泡の話ではありません。

次に1821年です。修道院の最後の会計係だったジャン=バティスト・グロサール(Jean-Baptiste Grossard)が、証言を残しました。ペリニヨンこそ「泡の出る白ワインも、出ない白ワインも作る秘密」を見つけた人だ、というのです。今の栓のしかたも彼の発明だとしています。ペリニヨンが亡くなってから、100年以上たってからの証言です。

グロサールの証言のあと、ペリニヨンの伝説は、19世紀を通じてどんどんふくらみます。ついには目が見えなかったことにされ、細長いシャンパングラスまで彼が作ったことにされました。1888年には、画家ジョゼ・フラッパ(José Frappa)が「盲目の酒蔵係ドン・ペリニヨン」がブドウを味見する絵を描いています。この絵は、今はシャンパンの会社モエ・エ・シャンドンが持っています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

シャンパンの泡は、瓶の中で起こる2回目の発酵から生まれる

今のシャンパンの泡は、瓶の中で起こる2回目の発酵から生まれます。ふつうのワイン(ベースワイン)を瓶に入れ、酵母と砂糖を足して、ふたをします。2023年のフランスの研究によると、足す砂糖は1リットルあたりおよそ22〜24グラムです。

酵母は砂糖を食べて、アルコールと二酸化炭素を出します。ふたがあるので、ガスは外に逃げられません。行き場のないガスは、ワインに溶けこんでいきます。この発酵はふつう2か月ほどで終わります。そのとき、瓶の中の圧力は約6気圧(12℃のとき)になります。

発酵が終わったとき、ワインに溶けている二酸化炭素は、1リットルあたり約11.5グラムです。この量が1リットルあたり2.5グラムくらいまで減ると、グラスに注いでも泡はもうできなくなります。2023年の研究では、25〜47年寝かせた古いシャンパンも調べました。すると、1.5リットルの大きな瓶(マグナム)のほうが、ふつうの瓶より、溶けた二酸化炭素をよく保っていました。

グラスの中の泡は、どこから出てくるのでしょうか。2008年に出た、それまでの研究のまとめ(総説)によると、泡の始まりは、ごく小さな空気のすき間です。ワインを注ぐとき、グラスの中にある目に見えないほど小さな粒に、ごく小さな空気のすき間が閉じこめられます。このすき間が「泡の種」になります。そこへワインに溶けていたガスが流れこんで、泡が育っていきます。

泡をねらって出せるようになるまでに、約200年かかった

こうした泡のしくみが分かったのは、ペリニヨンの時代よりずっと後のことです。公式の歴史ページによると、瓶に砂糖を足すやり方がシャンパーニュで始まったのは18世紀の終わりでした。19世紀のはじめには、瓶の中にたまったおり(にごりのもとになるかす)を、瓶の口に集める台(動瓶台)が生まれます。

1837年には、薬剤師のジャン=バティスト・フランソワが、足す砂糖の量を正しくはかる方法を作りました。砂糖をお酒に変えるのが酵母だとパスツールが見つけたのは、1860年です。つまり「泡の作り方」は、ひとりがある日発明したものではありません。約200年かけて、少しずつ組み立てられた技術でした。

ペリニヨンの話は、あとの時代に書かれたものほど、大げさになっていた

歴史学では、ある話が「いつ、だれによって、最初に書かれたか」を確かめます。これを史料批判と呼びます。ペリニヨンについての話を、書かれた順にならべると、次のようになります。

  • 生きていたころの証言:ほめられているのはブレンドの腕前
  • 1722年:「ペリニヨンの秘密」が登場。ただし泡のないワインのレシピ
  • 1821年:グロサールが「泡の秘密」と「栓のしかた」を彼の手柄にする
  • 19世紀:盲目、グラスの発明などが足される。1888年の絵
  • 1935年:「ドン・ペリニヨン」という名前のシャンパンが作られる

時代が新しくなるほど、話はくわしく、ドラマチックになっています。古い記録ほど、地味です。これは、あとから作られた伝説によく見られるパターンです。

シャンパンが売れるようになると、「ひとりの発明者」の物語が求められた

EPHE の計画書は、19世紀にシャンパンの生産と輸出が急に増えたことを指摘しています。商品がよく売れるようになると、「どうやって生まれたか」という物語が求められるようになります。ペリニヨンがいた修道院とブドウ畑は、1794年からモエ社のものになっていました。モエ社にとって、修道院にいた名人の物語は、商品を売るための大切な看板になったと考えられます。

技術の歴史では、たくさんの人の工夫が、あとからひとりの名前にまとめられることがよくあります。そのほうが分かりやすく、語りやすいからです。ペリニヨンの物語は、その分かりやすい例の1つです。

05まとめ

「シャンパンはドン・ペリニヨンが発明した」は、記録で見るかぎりウソです。砂糖を足してワインを泡立たせる方法は、1662年のロンドンで、医者メレットが報告していました。

本物のペリニヨンは、ブドウの混ぜ方の名人でした。「泡の発明者」「盲目の修道士」という話は、主に19世紀になってからふくらんだものです。ちなみにメレットのほうは、のちに王立協会の会費を払わず、1685年に除名されています。

人に話すなら、こう言おう

シャンパンを発明したのはドン・ペリニヨンって言うけど、砂糖を足して泡立たせる方法は、その6年前にイギリスの医者が報告してたんだって。「目が見えなかった」って話も、後から足された伝説らしいよ。
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英語で読む

The Monk Who Did Not Invent Champagne

CEFR A2226 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Many people say a French monk named Dom Perignon invented champagne.ドン・ペリニヨンというフランスの修道士がシャンパンを発明した、と多くの人が言います。 But old records tell a different story.でも、古い記録はちがう話を伝えています。

On December 17, 1662, a doctor named Christopher Merrett gave a talk to a new group of scientists in London.1662年12月17日、クリストファー・メレットという医者が、ロンドンのできたばかりの科学者の集まりで発表をしました。 He said that English wine makers added a lot of sugar to their wine.イギリスのワイン職人は、ワインにたくさんの砂糖を加えている、と彼は言いました。 The sugar made the wine bubbly.その砂糖がワインを泡立たせたのです。 This was six years before Perignon started his famous job.これは、ペリニヨンが有名な仕事を始める6年前のことでした。

In 1668, Perignon became the cellarer, the person in charge of wine, at an abbey in France.1668年、ペリニヨンはフランスの修道院で、ワインの係である酒蔵係になりました。 He kept this job until he died in 1715.彼は1715年に亡くなるまで、この仕事を続けました。 People at that time praised his skill at blending, or mixing different wines.当時の人々は、ちがうワインを混ぜ合わせる、ブレンドの腕前をほめました。 They did not say that he made the bubbles.彼が泡を作ったとは言っていません。 Bubbles were often a problem then.当時、泡はよく困りものになりました。 Bottles sometimes broke because of the gas inside.中のガスのせいで、瓶が割れることがあったのです。

So where did the legend come from?では、この伝説はどこから来たのでしょうか。 In 1821, a man who once worked at the same abbey wrote about him.1821年、かつて同じ修道院で働いていた人が、彼について書き残しました。 He said that Perignon found the secret of bubbly white wine.ペリニヨンが泡立つ白ワインの秘密を見つけた、とその人は書きました。 This was more than 100 years after Perignon died.それは、ペリニヨンが亡くなってから100年以上たってからのことでした。 Later stories made him blind.後の話では、彼は目が見えなかったことにされました。 In 1888, an artist even painted him as a blind monk.1888年には、ある画家が彼を盲目の修道士として描きさえしました。

Today, champagne gets its bubbles from a second fermentation in the bottle.今日、シャンパンの泡は、瓶の中で起きる2回目の発酵から生まれます。 Yeast eats sugar and makes gas.酵母が砂糖を食べて、ガスを作ります。 The gas cannot get out, so the pressure in the bottle gets very high.ガスは外に出られないので、瓶の中の圧力はとても高くなります。 But the bubbles were not his invention.でも、泡は彼の発明ではなかったのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When did Merrett talk about adding sugar to wine?

    メレットがワインに砂糖を加えることについて話したのはいつですか。

  3. Q3Why did bottles sometimes break?

    なぜ瓶がときどき割れたのですか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "praised" is closest in meaning to

    第3段落の praised という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about Perignon?

    ペリニヨンについて正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • monk名詞
    修道士

    The monk lived a quiet life in the mountains.

    その修道士は山の中で静かな生活を送った。

    💡 女性の場合は nun(修道女)。monastery(修道院)も一緒に覚える。

  • invent動詞
    発明する

    Who invented the telephone?

    電話を発明したのはだれですか。

    💡 名詞は invention(発明)、人は inventor(発明者)。

  • legend名詞
    伝説

    There is an old legend about this lake.

    この湖には古い伝説がある。

    💡 「伝説的な人」は a legend とも言う。形容詞は legendary。

  • blind形容詞
    目の見えない

    The old dog became blind, but it still knew the way home.

    その老犬は目が見えなくなったが、家までの道はまだわかっていた。

    💡 go blind で「目が見えなくなる」。blind spot は「死角」。

  • abbey名詞
    修道院

    We visited an old abbey near the river.

    私たちは川の近くの古い修道院を訪ねた。

    💡 ロンドンのウェストミンスター寺院は Westminster Abbey。

  • blend動詞・名詞
    混ぜ合わせる/混ぜたもの

    This tea is a blend of two kinds of leaves.

    このお茶は2種類の葉を混ぜたものだ。

    💡 コーヒーの「ブレンド」と同じ語。mix よりも「うまく調合する」感じ。

  • fermentation名詞
    発酵

    Fermentation turns milk into yogurt.

    発酵によって牛乳はヨーグルトになる。

    💡 動詞は ferment(発酵する)。パン・みそ・ワインなどに使う。

  • pressure名詞
    圧力

    Check the air pressure in your bike tires.

    自転車のタイヤの空気圧を確かめなさい。

    💡 press(押す)から。under pressure で「プレッシャーを受けて」。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 25件)。

  1. Christopher Merrett and the beginnings of champagne(Royal College of Physicians, 2017)history.rcp.ac.uk
  2. Champagne and its history(Comité Champagne 公式)champagne.fr
  3. Sallé, P.-M. (2023) Dom Pérignon et le champagne : la construction d'une figure et d'une légende(EPHE-PSL LabEx HaStec 研究計画)labexhastec.ephe.psl.eu
  4. Bullock, J. D., Wang, J. P. & Bullock, G. H. (1998) Was Dom Perignon really blind?, Survey of Ophthalmologydoi.org
  5. Liger-Belair, G. et al. (2023) Losses of yeast-fermented carbon dioxide during prolonged champagne aging, ACS Omegadoi.org
  6. Liger-Belair, G., Polidori, G. & Jeandet, P. (2008) Recent advances in the science of champagne bubbles, Chemical Society Reviewsdoi.org

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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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