ピラミッドを作ったのは、奴隷ではなかった
歴史のウソ・ホントNo.143

ピラミッドを作ったのは、奴隷ではなかった

働いた班には「クフの友」という名前があった。

ウソFALSE

この判定の対象「ピラミッドは奴隷が作った」

うなり度 読む時間8分 出典9件 確認した事実21件
もくじ
  1. 古代ギリシャのヘロドトスが書いたピラミッドの話に、「奴隷」という言葉は出てこない
  2. ピラミッドのそばの砂の下から、働き手たちの町が見つかった
  3. 働き手は牛肉を食べ、けがの手当ても受けていた
  4. 知られている中でいちばん古いパピルスの紙に、ピラミッドの石を運んだ役人の日誌があった
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

大ピラミッドの中、「王の間」の上には、「重力軽減の間」(上にある石の重さを和らげるための部屋という意味)と呼ばれる小部屋がいくつも重なっています。人が出入りすることを考えていない、暗くせまい部屋です。

その石の壁に、赤い絵の具で走り書きが残っています。考古学者マーク・レーナー(Mark Lehner)によると、その1つは作業班の名前でした。意味は「クフの友」。別の場所には、「メンカウラー(クフより後の時代の王)の酔っぱらい」という班の名前もあるそうです。

「ピラミッドはむちで打たれた奴隷が作った」。そんなイメージを持つ人は多いでしょう。けれど、自分たちの班を「王の友」や「酔っぱらい」と名乗る人たちは、奴隷のようには見えません。ただし、だからといって「みんな自分から進んで働いた」とも言い切れません。

この記事では、まず古代ギリシャの記録を読みます。次に、ピラミッドのそばで見つかった働き手の町と、いちばん古いパピルスの日誌を紹介します。最後に、「奴隷」と「税として働くこと」の違いを考えます。

01古代ギリシャのヘロドトスが書いたピラミッドの話に、「奴隷」という言葉は出てこない

ピラミッドの作り手について、いちばん古い記録を残したのは、古代ギリシャのヘロドトス(Herodotus)です。紀元前5世紀に書かれた『歴史』の第2巻に、クフ王(ギリシャ名ケオプス)の話が出てきます。

ヘロドトスによれば、クフ王は神殿を閉じ、「すべてのエジプト人を自分のために働かせた」。人々は10万人ずつの組になり、3か月ごとに交代しました。石を運ぶ道を作るのに10年、ピラミッド本体に20年かかったといいます。

『歴史』の英語訳を読むかぎり、この部分に「奴隷」という言葉は出てきません。書かれているのは、王がエジプトの人々を働かせた、という話です。

ヘロドトスは、もう1つふしぎな記録を残しています。ヘロドトスによると、ピラミッドの石には、労働者が食べた大根・玉ねぎ・にんにくの費用が文字で書かれていました。通訳はその費用を「銀1,600タラントン」(タラントンは昔の重さの単位)と読んだ、というのです。

ただし、ヘロドトスが訪れたのは、ピラミッドができて約2,000年後でした。10万人という数も、聞いた話にもとづく推測だとみられています。

02ピラミッドのそばの砂の下から、働き手たちの町が見つかった

では、本当は誰が作ったのでしょうか。手がかりは、文字の記録ではなく、土の中から見つかりました。

1988年12月、レーナーらの調査団(AERAという研究団体)は、スフィンクスの南400mで発掘を始めました。そこには「カラスの壁」と呼ばれる大きな石の壁がありました。その先から見つかったのは、7ヘクタールをこえる町でした。東京ドーム1個半ほどの広さです。

町は王家が建てたもので、ピラミッドを作るための基地でした。通りには工房、パン焼き場、台所、倉庫が並び、小さな家と、役人の大きな家もありました。メンカウラー王のピラミッドが完成すると、町は片づけられ、使える物は運び出されました。

ピラミッドのすぐ近くに、作り手たちの町があった
ピラミッドのすぐ近くに、作り手たちの町があった

1991年には、パン焼き場が2つ見つかりました。当時知られていた中で、エジプト最古のパン屋です。パンを焼くときに使う、鐘の形をした型は、大きいもので12kgありました。その破片は、町じゅうに何十万個も散らばっていました。

ハーバード大学の研究サイト「デジタル・ギザ」は、こうまとめています。ピラミッドは奴隷が作ったのではない。働き手は、おそらく2万〜3万人のエジプト人だった。まだお金のない時代なので、報酬は主にパンとビールだった。

03働き手は牛肉を食べ、けがの手当ても受けていた

町からは、17万5,000点をこえる動物の骨が見つかりました。調べたのは、動物の骨の専門家リチャード・レディング(Richard Redding)たちです。

骨は、牛、羊、ヤギのものでした。その量は、数千人が毎日食べても、一世代(親から子へ代わるくらいの年月)以上もつほどでした。1歳半の雄牛からとれる肉は、同じ年の雄羊の10〜12倍あります。この地域では、ふだん肉は特別な日のごちそうでした。それを考えると、これは大変な量です。

ギザの周りだけでは、これだけの家畜は育てられません。エジプト各地で育てた牛や羊を、ナイル川で運んできたと考えられています。

働き手の墓の作りには、立場による差がありました。下の立場の監督は、丘のふもとの泥れんがの小さな墓。上の立場の監督や職人は、坂の上の石の墓です。ピラミッドの近くに自分の墓を持てた人たちを、ただの奴隷とは呼びにくいでしょう。

04知られている中でいちばん古いパピルスの紙に、ピラミッドの石を運んだ役人の日誌があった

2013年、ピラミッドから遠く離れた紅海の岸で、大発見がありました。フランスの研究者ピエール・タレ(Pierre Tallet)が、ワディ・エル・ジャルフという港の跡で、パピルス(紙の一種)を見つけたのです。それは、知られている中で最古のパピルスでした。

その中に、メレル(Merer)という役人の日誌がありました。メレルは約200人の組を率いて、エジプトの端から端まで行き来し、物を運んでいました。時間を半日ごとに区切って記録しています。

日誌には、トゥーラの石切り場で石を積み、ナイル川でギザまで運んだことが書かれていました。トゥーラの白い石灰岩は、ピラミッドの外側をおおう化粧石に使われた石です。メレルは、クフ王の異母兄弟(父が同じで、母が違う兄弟)アンクハフに報告していました。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

「奴隷」と「税として働かされること」は同じではない

ピラミッドの働き手を考えるとき、いちばん注意したいのは、「奴隷」と「強制」という言葉の区別です。奴隷とは、人が持ち主の財産として売り買いされる身分のことです。一方、国が人々に一定期間の労働を求める制度もあります。こちらは、税を労働で払う形です。

レーナーは、アメリカの科学番組NOVAのインタビューで、こう話しています。完全な強制ではなかったかもしれない。けれど、誰もが、働くという形で税を納める義務を負っていたようだ。村の若者が王の役人に呼ばれ、交代で現場に入り、また村へ帰っていった、という見方です。

つまり「奴隷ではない」は、「みんな好きで来た」と同じではありません。人々が働くという形で税を納めていたのなら、ヘロドトスの「王がエジプト人を働かせた」という書き方も、全部が作り話とは言えないのです。

ヘロドトスの記録は、ピラミッドの約2,000年後に聞いた話

ヘロドトスは貴重な記録者ですが、ピラミッドの時代の人ではありません。彼の時代から見ても、ピラミッドは約2,000年前の建物でした。彼は現地の案内人や通訳から話を聞いて書いています。

大根や玉ねぎの「費用の碑文」(石に刻まれた文)も、その例です。通訳が石の文字を読んで聞かせた、とヘロドトスは書きます。けれど、今の研究者がその碑文を確かめたという話は、この記事で調べた範囲では見つかりませんでした。「銀1,600タラントン」という数字が正しいかどうかより、「働き手に食べ物を配っていた」という記憶が残っていた点に注目する読み方もできます。

動物の骨と作業班の落書きから分かること

文字の記録が少ない時代には、ゴミや骨が大事な証拠になります。レディングたちが骨を数えると、羊とヤギの割合は3対1で、羊のほうが多いことが分かりました。家畜が何歳で死んだかも調べました。牛は半分が生後16か月までに、羊とヤギも半分が16か月をこえる前に死んでいます。若いうちに肉にされたということです。そして、これだけの家畜はギザの周りでは育てられません。国が各地から集めて運んだ、という見方の根拠になっています。

作業班の落書きも、同じくらい大事です。レーナーによれば、班は2つの組に分かれ、さらに5つの小さな単位に分かれていました。ギリシャ語では「フュレー」(部族)と訳された単位です。重力軽減の間のような、人の目にふれない場所に残された班の名前は、人に見せるために書かれたものではありません。だからこそ、工事の現場の実際の姿を伝えていると考えられます。

ピラミッドは何人いれば作れるかを、石の数から計算する

レーナーは、必要な働き手の人数を、石の数から逆に計算する方法も紹介しています。1日に積む必要がある石は約340個。10時間働くなら1時間に34個です。NOVAの実験では、12人で1.5トンの石を、すべりやすくした地面の上で楽に引けました。

この計算から、石切り場に1,200人、運び手に2,000人ほど、という見積もりが出てきます。ここに石を積む人、道具を作る人、パンを焼く人などが加わります。ヘロドトスの「10万人」より、ずっと少ない数でも足りるわけです。

ピラミッド作りは、エジプトという国の仕組みを育てたかもしれない

AERAは、ピラミッド作りが、世界で最も早くできた国の1つであるエジプトの発達にどう関わったかを調べています。ピラミッドを作るには、何万人もの食べ物を集め、運び、配らなければなりません。石を切り出し、船で運び、記録をつける必要もあります。メレルの日誌を見ると、こうした仕事が、文字で記録をつけながら進められていたことが分かります。ピラミッドは、王の墓であると同時に、国を動かす仕組みを育てる場でもあったのかもしれません。

05まとめ

「ピラミッドは奴隷が作った」は、今の研究ではウソとされています。働き手は2万〜3万人のエジプト人とみられ、パンとビールで報われ、牛肉も食べ、けがの手当ても受けていました。古代ギリシャのヘロドトスも、英訳では「奴隷」ではなく「すべてのエジプト人を働かせた」と書いています。

ただし、「奴隷ではない」は「みんな好きで来た」という意味ではありません。誰もが、働くという形で税を納めていた、という見方もあります。大ピラミッドの暗い小部屋に残る「クフの友」という赤い文字は、「奴隷」とも「ボランティア」とも言い切れない働き手たちの姿を、4,500年後の今に伝えています。

人に話すなら、こう言おう

ピラミッドって奴隷が作ったイメージだけど、石に残る作業班の名前は「クフの友」とか「メンカウラーの酔っぱらい」なんだって。牛肉も食べてたらしい。ただ、みんなが労働の「税」を払ってたって考えもあるんだよ。
READ IN ENGLISH

英語で読む

The Friends of Khufu

CEFR A2206 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

High inside the Great Pyramid, there are small dark rooms that no visitor was meant to see.大ピラミッドの高いところに、だれにも見られるはずのなかった小さく暗い部屋があります。 On their stones, workers wrote the names of their teams in red paint.その石に、働き手たちは自分の班の名前を赤い絵の具で書きました。 One name means "Friends of Khufu."その1つは「クフの友」という意味です。

Many people think that slaves built the pyramids.多くの人は、ピラミッドは奴隷が作ったと思っています。 But the Greek writer Herodotus did not use that word.でも、ギリシャの作家ヘロドトスはその言葉を使いませんでした。 In English translations, he says the king made all the Egyptians work for him.英訳では、彼は王がすべてのエジプト人を自分のために働かせたと書いています。 He visited Egypt about 2,000 years after the pyramids were built.彼がエジプトを訪れたのは、ピラミッドができてから約2,000年後でした。

In 1988, archaeologists started to dig near the pyramids.1988年、考古学者たちはピラミッドの近くで発掘を始めました。 They found a lost town with bakeries, kitchens, and houses.彼らは、パン焼き場や台所や家がある、忘れられた町を見つけました。 They also found more than 175,000 animal bones.17万5,000点をこえる動物の骨も見つかりました。 The workers ate bread, drank beer, and even had beef.働き手たちはパンを食べ、ビールを飲み、牛肉まで食べていました。 Their bones show signs of hard work and broken bones, but many breaks healed well.骨には重労働や骨折のあとがありますが、多くの骨折はきれいに治っていました。

In 2013, the oldest known papyrus was found by the Red Sea.2013年、知られている中で最古のパピルスが紅海のそばで見つかりました。 It was the diary of an official named Merer.それはメレルという役人の日誌でした。 His team carried white limestone by boat to the Great Pyramid.彼の班は、白い石灰岩を船で大ピラミッドまで運びました。

So were the workers free volunteers?では、働き手たちは自由なボランティアだったのでしょうか。 Not exactly.そうとも言えません。 One expert says that everybody probably owed a labor tax.ある専門家は、だれもがおそらく労働の税を負っていたと言います。 Young men came from their villages, worked for a while, and then went home.若者たちは村からやって来て、しばらく働き、そして家に帰りました。 They were not slaves, but they were not completely free either.彼らは奴隷ではありませんでしたが、完全に自由でもなかったのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When was the oldest known papyrus found?

    知られている中で最古のパピルスが見つかったのはいつですか。

  3. Q3Why does the story say the workers were "not completely free"?

    なぜ働き手は「完全に自由ではなかった」と書かれているのですか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "healed" is closest in meaning to ...

    第3段落の healed という語に最も意味が近いのは…

  5. Q5Which is true about Herodotus?

    ヘロドトスについて正しいものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • slave名詞
    奴隷

    In the past, some people were sold as slaves.

    昔は、奴隷として売られた人々がいた。

    💡 slavery で「奴隷制」。

  • archaeologist名詞
    考古学者

    The archaeologist found an old coin in the sand.

    その考古学者は砂の中から古い硬貨を見つけた。

    💡 archaeology(考古学)。ch は「k」と読む。

  • bakery名詞
    パン屋、パン焼き場

    I buy bread at the bakery near the station.

    私は駅の近くのパン屋でパンを買う。

    💡 bake(焼く)+-ery(場所)。

  • bone名詞
    骨

    He broke a bone in his arm.

    彼は腕の骨を折った。

    💡 break a bone で「骨折する」。

  • heal動詞
    治る、治す

    The cut on my finger healed in a week.

    指の切り傷は1週間で治った。

    💡 health(健康)と同じ語源。

  • papyrus名詞
    パピルス(古代エジプトの紙)

    The ancient letter was written on papyrus.

    その古代の手紙はパピルスに書かれていた。

    💡 英語の paper(紙)の語源。

  • volunteer名詞
    ボランティア、志願者

    Many volunteers cleaned the beach.

    たくさんのボランティアが海岸を掃除した。

    💡 動詞としても使う。volunteer to do で「進んで~する」。

  • tax名詞
    税

    People pay tax to the government.

    人々は政府に税金を払う。

    💡 pay tax で「税を払う」。labor tax は「労働で払う税」。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 21件)。

  1. Herodotus, The Histories 2.124-125(A. D. Godley 英訳, Perseus Digital Library, タフツ大学)perseus.tufts.edu
  2. Lost City of the Pyramids(Ancient Egypt Research Associates)aeraweb.org
  3. Redding, R., Hunt, B. V. Pyramids and Protein(Ancient Egypt Research Associates)aeraweb.org
  4. Feeding Pyramid Workers(Ancient Egypt Research Associates)aeraweb.org
  5. Workers' Town and Cemetery(エジプト観光・考古省)egymonuments.gov.eg
  6. Frequently Asked Questions(Digital Giza, ハーバード大学)giza.fas.harvard.edu
  7. Who Built the Pyramids?(PBS NOVA, マーク・レーナーへのインタビュー)pbs.org
  8. Smith, W. 編 (1849) Herodotus, Dictionary of Greek and Roman Biography and Mythology(Perseus Digital Library, タフツ大学)perseus.tufts.edu
  9. Stille, A. (2015) The World's Oldest Papyrus and What It Can Tell Us About the Great Pyramids, Smithsonian Magazinesmithsonianmag.com

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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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