ハチ公が死んだのは、焼き鳥の串のせいではなかった
歴史のウソ・ホントNo.150

ハチ公が死んだのは、焼き鳥の串のせいではなかった

本当の死因は、心臓の寄生虫とがんだった。

ウソFALSE

この判定の対象「ハチ公は、胃に入った焼き鳥の串のせいで死んだ」

うなり度 読む時間6分 出典4件 確認した事実10件
もくじ
  1. ハチ公の胃にあった竹串は、死因ではなかった
  2. 1935年の解剖で死因とされたのは、心臓に住む寄生虫の病気
  3. 76年後に臓器を調べなおすと、肺と心臓にがんが見つかった
  4. 深掘り講義
  5. まとめ
  6. 英語で読む(A2・4択5問)
  7. 出典・ウラ取り

1935年(昭和10年)3月8日、午前2時。東京・渋谷駅のあたりで、1匹の秋田犬が死んでいるのが見つかりました。ハチ公です。満11歳でした。

その日の午後3時、ハチ公の体は東京帝国大学(今の東京大学)の農学部に運ばれ、解剖されました。なぜ死んだのかを、詳しく調べるためです。

解剖の記録には、こう書かれています。お腹の中の胃に、竹串が4本。3本は先がとがり、1本は先が丸くなっていました。

ハチ公は焼き鳥が好きだった、という話があります。では、ハチ公は串のせいで死んだのでしょうか。答えは「いいえ」です。そして、ハチ公ががんにもかかっていたと分かったのは、それから76年もあとのことでした。

この記事では、まず胃の竹串が死因とは言えない理由を見ます。次に、1935年の解剖で死因とされた病気を紹介します。最後に、76年後に臓器を調べなおして分かったことを紹介します。

01ハチ公の胃にあった竹串は、死因ではなかった

ハチ公の飼い主は、東京帝国大学農学部の上野英三郎博士です。ハチ公は1923年11月に、秋田県大館市で生まれました。1924年1月に上野博士の家に来ましたが、博士は1925年5月に、突然亡くなってしまいます。ハチ公はそのあとも、渋谷駅に通い続けたと伝えられています。

1935年の解剖の記録を見ると、竹串は確かに胃の中にありました。でも、胃の壁から血が出たあとや、穴が開いたあとは書かれていません。のちにハチ公の臓器を調べなおした東大の研究チームも、竹串が死因に関わったとは考えられない、とまとめています。

では、なぜ胃に竹串があったのでしょう。東大の溝口勝教授は、この解剖の記録を、ハチ公が焼き鳥好きだったことを示す「物的証拠」(形のある証拠)として紹介しています。

溝口教授は、学生のころに先生から聞いた話も書いています。上野博士は、子犬のハチを連れて、渋谷駅前の焼き鳥屋で教え子たちと話しこんでいました。博士たちが話に夢中になっているあいだに、ハチがお腹をすかせてクンクン鳴くと、お店のおじさんが焼き鳥の残り物をあげていた、というのです。

2015年には、子どものころにハチ公に触ったことのある86歳の女性も、焼き鳥にまつわる思い出を話しました。女性が子どものころ、毎日、父に「ハチ公は今日どうしていた?」と聞くと、父は「今日も焼き鳥屋にいたよ」と答えたそうです。

021935年の解剖で死因とされたのは、心臓に住む寄生虫の病気

1935年の解剖で、死因とされたのはフィラリア症でした。フィラリアは、細長い糸のような虫です。犬の心臓や、心臓から肺へ向かう太い血管に住みつきます。

ハチ公の心臓では、右心室(体から戻ってきた血を、肺へ送り出す部屋)から肺の血管にかけて、オスとメスのフィラリアがたくさん見つかりました。

フィラリアがたくさんいたせいで、ハチ公は血のめぐりが悪くなっていました。体じゅうの皮ふの下に水がたまり、とくに後ろ足がむくんでいました。お腹には、約4リットルもの水がたまっていました。2リットルのペットボトル2本分です。肝臓も大きくなって、硬くなっていました。

76年間とっておかれた臓器を、MRIと顕微鏡で調べなおした。
76年間とっておかれた臓器を、MRIと顕微鏡で調べなおした。

0376年後に臓器を調べなおすと、肺と心臓にがんが見つかった

解剖のあと、ハチ公の肺、心臓、食道、肝臓、脾臓は、ホルマリンという、くさらないようにする液に入れられました。そして東大で、ずっととっておかれてきました。2006年からは、東大農学部の資料館で、誰でも見られるようになっています。

2010年12月、東大の研究チームは、この臓器をもう一度調べました。病院で使うMRI(強い磁石で、体の中を輪切りのように写す機械)で、肺と心臓の中のようすを写したのです。さらに、臓器の形を壊さないように、ほんの少しだけ切りとって、顕微鏡で見ました。

調べなおした結果、1935年の解剖では誰も気づかなかったことが分かりました。肺のほぼ全体と、心臓のあちこちに、悪性の腫瘍(がん)が広がっていたのです。肺には、直径が約3cmになるしこりもありました。

研究チームによると、このがんは肺にでき、心臓へ移った可能性が高いそうです。たちの悪いがんで、血管の中にも入りこんでいました。研究チームは、このがんも、ハチ公が死んだ大きな原因の1つだったと考えています。フィラリアとがん。ハチ公は、2つの重い病気を抱えていたのです。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

臓器を残しておいたから、76年後に新しい方法で調べなおせた

2010年に調べなおしができたのは、76年前の人たちが、ハチ公の臓器を捨てずに残していたからです。1935年には、MRIはありませんでした。顕微鏡で詳しく調べることも、まだ一般的ではなかったと、東大の研究室は説明しています。

でも、標本(調べるために保存した体の一部)さえ残っていれば、後の時代の新しい技術で調べなおせます。研究チームは論文の最後で、標本を正しく保管しておけば、新しく生まれる技術で、何の病気だったかを確かめなおせるかもしれない、と書いています。博物館や大学が、すぐには役に立たない標本を大切にとっておくのは、ハチ公の臓器のように、後で調べなおせるからです。

がんの種類は、古い臓器からは決めきれなかった

ただし、古い標本では分からないこともあります。普通、がんの種類を決めるときは「免疫染色」という方法を使います。細胞がもつ目印のたんぱく質に色をつけて、どんな細胞かを見分ける方法です。

ハチ公の臓器では、76年間ホルマリンに漬かっていたため、このたんぱく質がほとんど傷んでいました。そのため、がんの種類は決めきれませんでした。研究室は、肺にできた「癌肉腫」という種類のがんが、心臓へ移った可能性が高い、としています。「ここまでは分かった」「ここからは分からない」を分けて書くのも、科学の大事な決まりです。

100年のあいだに、犬のおもな死因は感染症からがんへ変わった

ハチ公の死因を見ると、その時代の犬がどんな病気で死んでいたかも見えてきます。東大の研究グループは、東大に1902年からたまっている動物の解剖記録を調べました。解剖された犬の、死んだときの年齢を小さい順に並べます。ちょうど真ん中にくる年齢は、明治・大正時代(1903〜1914年の記録)が2歳、昭和(1956〜1969年の記録)が3歳、平成・令和が10歳でした。

時代が進むにつれて、寄生虫をふくむ感染症で死ぬ犬は減り、がんで死ぬ犬が増えました。えさや住まい、衛生、動物の医療がよくなり、犬が長生きするようになったためと考えられています。

ハチ公は、感染症とがんの両方を抱えていました。当時いちばんよくある病気だったフィラリア症と、長生きした犬に多いがんです。明治・大正の2歳、昭和の3歳という数字と比べると、満11歳まで生きたハチ公は、長く生きたほうだったと言えそうです。

「忠犬ハチ公」の物語と、解剖で分かった事実

ハチ公の話は、1932年に新聞記事で広まり、1934年には小学校の修身(道徳)の教科書に載りました。同じ年、渋谷駅前に銅像も立ちました。溝口教授は、ハチ公の話は、日本が戦争に向かう時代に、国の宣伝に使われた面もある、と書いています。

研究チームは論文で、ハチ公の物語は大切に語り継がれていくだろう、とした上で、事実を科学的に明らかにして後の世に正しく伝えることも大切だ、と述べています。物語と事実の、どちらかを捨てる必要はありません。両方を知ると、ハチ公がどんな犬だったかが、もっとよく分かります。

04まとめ

ハチ公の胃には、竹串が4本ありました。でも胃は傷ついておらず、串は死因ではありません。1935年の解剖では、心臓に住みついたフィラリアが死因とされました。

そして76年後、東大に残されていた臓器をMRIと顕微鏡で調べると、肺と心臓にがんが広がっていたことが分かりました。ハチ公の臓器は、今も東大農学部の資料館で見ることができます。

人に話すなら、こう言おう

ハチ公って、解剖したら胃から竹串が4本出てきたんだって。焼き鳥好きだったって話もあるけど、死因は串じゃないの。東大に残ってた臓器を調べたら、心臓の寄生虫と、肺と心臓のがんが見つかったんだよ。
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英語で読む

What Really Killed Hachiko?

CEFR A2222 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Hachiko is the famous dog who waited at Shibuya Station in Tokyo.ハチ公は、東京の渋谷駅で待ちつづけた有名な犬です。 His owner, a professor, died in 1925, but Hachiko kept going to the station.飼い主の教授は1925年に亡くなりましたが、ハチ公は駅に通いつづけました。 Hachiko was found dead near the station early on March 8, 1935.1935年3月8日の早朝、ハチ公は駅の近くで死んでいるのが見つかりました。 He was 11 years old.11歳でした。

That afternoon, doctors at a university in Tokyo examined his body.その日の午後、東京のある大学の医師たちがハチ公の体を調べました。 In his stomach, they found four bamboo sticks.胃の中から、竹の串が4本見つかりました。 Some people believe they were sticks from yakitori, grilled chicken, because they say Hachiko loved it.ハチ公は焼き鳥が大好きだったと言われるので、それは焼き鳥の串だったと考える人もいます。 But the sticks did not hurt his stomach, so they did not kill him.でも串は胃を傷つけていなかったので、死因ではありませんでした。

The doctors found many long, thin worms in his heart.医師たちは、ハチ公の心臓に細長い虫がたくさんいるのを見つけました。 These worms are called heartworms.この虫はフィラリア(犬糸状虫)と呼ばれます。 They made it hard for his blood to move around his body.この虫のせいで、血が体をめぐりにくくなっていました。 There was also a lot of water in his belly, about 4 liters.おなかにも、約4リットルもの水がたまっていました。

The university kept some of Hachiko's organs in special liquid for 76 years.大学は、ハチ公の臓器の一部を特別な液に入れて76年間保管していました。 In December 2010, researchers looked at them again with an MRI machine and a microscope.2010年12月、研究者たちはそれをMRIの機械と顕微鏡でもう一度調べました。 They found cancer in his lungs and his heart.すると、肺と心臓にがんが見つかりました。 The cancer probably started in his lungs and then moved to his heart.がんはおそらく肺でできて、それから心臓へうつったと考えられます。 So Hachiko had two serious illnesses, heartworms and cancer.つまりハチ公は、フィラリアとがんという2つの重い病気をかかえていたのです。

The researchers said that old samples can teach us new things if we keep them well.研究者たちは、古い標本もきちんと保管しておけば新しいことを教えてくれる、と述べました。 You can still see Hachiko's organs at a small museum at the University of Tokyo.ハチ公の臓器は、今も東京大学の小さな資料館で見ることができます。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How many bamboo sticks were in Hachiko's stomach?

    ハチ公の胃には竹串が何本ありましたか。

  3. Q3Why do the researchers say the sticks did not kill Hachiko?

    研究者たちはなぜ、串がハチ公を死なせたのではないと言うのですか。

  4. Q4In paragraph 4, the word "serious" is closest in meaning to ...

    第4段落の "serious" に最も意味が近いのは…

  5. Q5What can we learn from the story?

    この話から何がわかりますか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • owner名詞
    飼い主、持ち主

    The owner of this bike is my brother.

    この自転車の持ち主は私の兄だ。

    💡 own(所有する)+ -er(人)。

  • examine動詞
    調べる、診察する

    The doctor examined my throat.

    医者は私ののどを診察した。

    💡 名詞は examination(試験、検査)。exam はその短い形。

  • stomach名詞
    胃、おなか

    My stomach is full after dinner.

    夕食のあと、おなかがいっぱいだ。

    💡 発音は「スタマック」。ch を「ク」と読む。

  • bamboo名詞
    竹

    Pandas eat a lot of bamboo.

    パンダは竹をたくさん食べる。

    💡 a bamboo stick で「竹の棒、竹串」。

  • worm名詞
    (細長い)虫

    A bird found a worm in the garden.

    鳥が庭でミミズを見つけた。

    💡 heartworm は犬の心臓にすむ寄生虫フィラリア。

  • organ名詞
    臓器、器官

    The heart is an important organ.

    心臓は大切な臓器だ。

    💡 楽器の「オルガン」と同じつづり。

  • cancer名詞
    がん

    Smoking can cause lung cancer.

    たばこは肺がんの原因になることがある。

    💡 lung cancer で「肺がん」。

  • sample名詞
    標本、見本

    The scientist kept the water samples in the fridge.

    その科学者は水のサンプルを冷蔵庫に保管した。

    💡 free sample は「試供品」。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 10件)。

  1. 内田和幸・藤原玲奈・佐々木伸雄・中山裕之 (2011) 新たに判明した忠犬ハチ公の死因に関する病理学的所見, 日本獣医師会雑誌 64: 754-758jvma-vet.jp
  2. 新たに判明した忠犬ハチ公の死因について(東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医病理学研究室)vm.a.u-tokyo.ac.jp
  3. ハチ公生誕100周年「ハチ公学〜ハチから広がる学の世界〜」講演要旨集(東京大学農学部, 2023)a.u-tokyo.ac.jp
  4. Nakayama, H. et al. (2023) Chronological transition of necropsy cases of animals in Tokyo, Japan, J Vet Med Sci 85(1)doi.org

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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