
60人のおへそを調べたら、2368種類の細菌が見つかった
全員にいた細菌は、1種類もなかった。
もくじ
2011年1月、アメリカのノースカロライナ州ローリー。科学について発信する人たちの集まりで、参加者が殺菌した綿棒を手に取りました。こすったのは、自分のおへそです。
翌月の2月12日、同じ町の自然科学博物館でも、同じことが行われました。この日は、進化論のダーウィンの誕生日を祝うイベントの日でした。2つの会場で、35人と25人、あわせて60人が、おへその細菌を綿棒にとって提供しました。
ノースカロライナ州立大学の研究チームが、その綿棒についた細菌のDNAを調べました。見つかった細菌は、2368種類。2012年に発表された論文の題名は「中はジャングルだった」でした。
この記事では、まず1人のおへそに何種類の細菌がいたかを見ます。次に、多くの人にいた細菌と、1人にしかいなかった細菌を比べます。最後に、研究チームがおへそを選んだ理由と、細菌の種類の数え方を紹介します。
011人のおへそには、だいたい67種類の細菌がいた
研究チームは、細菌を1つずつ顕微鏡で見分けたわけではありません。綿棒についた細菌のDNAをまとめて読み、似ているものどうしをグループにしました。DNAが3%以上違えば、別の種類として数えます。
60人分をあわせると、細菌は2368種類になりました。この数は、北アメリカにすむ鳥の種類の数の2倍以上です。北アメリカのアリの種類の数と比べても、2倍以上あります。しかも研究チームは、2368種類でも少なめの数だと考えています。調べる人数を増やすと、新しい種類がまだまだ出てきそうだったからです。
1人のおへそだけで見ると、細菌の種類は、多い順に並べてちょうど真ん中の人で67種類でした。いちばん多い人は107種類、いちばん少ない人は29種類。人によって、3倍以上の差がありました。
02おへその細菌のほとんどは、1人にしかいない種類だった
では、みんなのおへそには同じ細菌がいるのでしょうか。答えは「いいえ」でした。
2368種類のうち、2188種類は、1割未満の人にしか見つかりませんでした。その多くは、たった1人のおへそだけにいた種類です。そして、60人全員にいた種類は、1つもありませんでした。
一方で、7割以上の人にいた種類が、8つだけありました。8種類は、2368種類のうちのほんのわずかです。それなのに、細菌の量で見ると、8種類だけで全体の45%、つまり半分近くを占めていました。多くの人に見つかる種類は、見つかったときの量も多かったのです。
多くの人にいた8種類は、ブドウ球菌やコリネバクテリウムなど、皮膚によくいる細菌でした。1975年に同じ地域で人の皮膚を調べた研究とも、細菌の顔ぶれがよく似ていました。

03何年もおふろに入っていない人のおへそから、珍しい生き物が見つかった
おへそから見つかった中には、ふつうの細菌とは別の生き物もいました。アーキア(古細菌)です。アーキアは、見た目は細菌に似ています。けれど、生き物の分け方では、細菌とはまったく別のグループです。ほかの生き物が暮らしにくい、きびしい環境によくいます。
おへそから見つかったアーキアは、3種類でした。論文によると、人の皮膚からアーキアが報告されたのは、これが初めてでした。3種類のうち2種類は、同じ1人から見つかりました。その人は「何年もシャワーもおふろも入っていない」と自分で答えていました。
大学のニュースによると、ふだんは海や外国の土にいる細菌も見つかりました。研究を率いたロブ・ダン(Rob Dunn)は、こう話しています。性別や年齢などを調べても、その人のおへそにどの細菌がいるかは予想できなかった、と。
04研究チームがおへそを選んだのには、3つの理由があった
細菌は皮膚のどこにでもいます。それでも研究チームがおへそを選んだのには、理由がありました。
1つ目は、おへその形は、人による違いが小さいことです。形がだいたい同じ場所なので、人どうしの細菌を比べやすいのです。2つ目は、おへそは毎日ごしごし洗われないことです。手のようによく洗う場所と違い、細菌が落ち着いて暮らせます。3つ目は、おへそと言うだけで、たくさんの人が興味をもってくれることでした。
2009年には別のチームが、人の体の20か所の細菌を調べています。その研究で、おへそは、わきの下やひじの内側と同じ「湿った場所」の仲間に分けられました。そして、おへそは、どんな細菌がいるかが人によって特に大きく違う場所の1つでした。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
細菌の種類は、形ではなくDNAで分けて数える
鳥やアリなら、形を見て種類を分けられます。けれど細菌は小さすぎて、形ではほとんど区別できません。そこで研究者は、どの細菌ももっている遺伝子(16S rRNA遺伝子)の一部を読みます。遺伝子は、4種類の文字がならんだ暗号のようなものです。そして、その文字のならび(配列)が97%以上同じなら、同じグループとします。このグループを系統型(フィロタイプ)と呼びます。
この方法には、注意点があります。「3%以上違えば別のグループ」という線引きは、ゆるめです。そのため、1つの系統型の中に、本当は別の種がいくつも入っている可能性があります。研究チームが「2368は実際の種の数より少ないはずだ」と書いたのは、このためです。
もう1つの注意点は、おへそごとに読みとれたDNAの量が違うことです。たくさんDNAを読めたおへそほど、細菌の種類が多く見えてしまいます。DNAは、短い切れはしを1本ずつ読みとります。そこで研究チームは、どのおへそも、読みとった切れはしを400本分ずつ選び、数をそろえてから比べました。この、量をそろえる操作を希薄化と呼びます。平均67種類という数字は、400本分にそろえたときの値です。
どの細菌が多くの人にいるかは、熱帯林の木と同じように予想できた
この研究のもう1つの柱は、生態学の寡頭種(オリガーク)という考え方です。熱帯林には、何百種類もの木が生えています。それでも、その中には、広い範囲でくり返し見つかり、しかも数が多い、少しの種類の木がいます。こうした木を寡頭種と呼びます。少数の有力者が国を動かす「寡頭政治」にたとえた名前です。
研究チームは、おへその細菌でも同じことが起きると予想しました。ある集まりの人たちのおへそでよく見つかる細菌は、別の集まりの人たちでもよく見つかるはずだ、という予想です。実際に、2つの会場のデータを比べると、よく見つかる種類は予想どおりでした。
さらに、よく見つかる種類どうしは、進化の上で近い親戚であることが多かったのです。皮膚は酸っぱく、乾いていて、体は細菌をやっつける物質(抗菌物質)も出します。こうしたきびしい条件にたえられる、特定の親戚グループの細菌だけが、多くの人にすみついているのかもしれません。
まとめると、「ある人のおへそに何がいるか」を当てるのは難しい。けれど「どの種類が多くの人にいるか」は予測できる。これが、論文の題名の後半「でも予測できる」の意味です。
この研究は、研究者でない人たちが参加して進められた
この研究は、ふつうの人が研究に参加する市民科学の例でもあります。参加者は、自分で綿棒をこすっただけではありません。ツイッターやコメントで、仮説づくりにも加わりました。そして、自分のおへその細菌を育てた写真を受け取りました。論文で調べたのは60人ですが、研究チームはこのプロジェクト全体で、半年で500人以上からおへその細菌を集めています。
ただし、会場に来た人だけを調べると、調べる人が特定の地域や、特定のことに関心をもつ人に偏ります。「1人にしかいない種類」がこれほど多いという結果も、別の国や年齢層で調べれば変わるかもしれません。論文も、人数を増やせば種類はまだ増えるだろうと書いています。
1人にしかいない細菌の役割は、まだ分かっていない
1人にしかいない細菌は、たまたま服や手から来て、すぐいなくなる「通りすがり」かもしれません。一方で、論文はこう述べています。もし皮膚の細菌の種類の多さが、免疫やアレルギーに関わっているなら、大事なのは、多くの人にいる種類ではなく、珍しい種類のほうかもしれない。これは、まだ確かめられていない考え(仮説)の段階です。
05まとめ
60人のおへそから見つかった細菌は、2368種類でした。そのほとんどは1人にしかいない種類で、全員にいた種類はありませんでした。それなのに、7割以上の人にいた8種類だけで、細菌の量の半分近くを占めていました。
おへそは、1人ひとり違う「自分だけのジャングル」です。何年もおふろに入らなかった人のおへそからは、人の皮膚では初めて報告されるアーキアまで見つかっています。
人に話すなら、こう言おう
アメリカで60人のおへそを綿棒で調べたら、細菌が2368種類も見つかったんだって。ほとんどは1人にしかいない種類で、何年もおふろに入ってない人からは、人の皮膚からは初めて見つかった種類の生き物まで出てきたらしいよ。
英語で読む
A Jungle in Your Belly Button
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
In early 2011, sixty people in North Carolina did something strange.2011年のはじめ、ノースカロライナ州の60人が、ちょっと変わったことをしました。 They rubbed the inside of their belly buttons with cotton swabs.綿棒で、自分のおへその中をこすったのです。 Then scientists read the DNA of the bacteria on the swabs.それから科学者たちが、綿棒についた細菌のDNAを読みました。
They found 2,368 different types of bacteria.見つかった細菌は2368種類でした。 That is more than twice the number of bird species in North America.これは北アメリカにいる鳥の種類の2倍以上です。 A typical belly button had about 67 types.ふつうのおへそ1つには、およそ67種類がいました。 The richest one had 107, and the poorest one had 29.いちばん多いおへそは107種類、いちばん少ないおへそは29種類でした。
Most types lived in only one person's belly button.ほとんどの種類は、1人のおへそにしかいませんでした。 Not one type was found in all sixty people.60人全員にいた種類は、1つもありませんでした。 But eight types lived in more than 70 percent of the people.でも、8つの種類は7割以上の人にいました。 These eight made up almost half of all the bacteria.この8種類が、細菌全体の半分近くをしめていました。 They were common skin bacteria.それらは、皮膚によくいる細菌でした。
The team also found three types of archaea.チームは、3種類のアーキアも見つけました。 Archaea are tiny living things that look like bacteria, but they belong to a different group.アーキアは細菌に似た小さな生き物ですが、別のグループに入ります。 They often live in extreme places.アーキアは、きびしい環境にすんでいることが多いのです。 Two of the three came from one person who said they had not taken a shower or a bath for years.3種類のうち2種類は、何年もシャワーもおふろも入っていないと言った1人から見つかりました。
Why did the scientists choose the belly button?なぜ科学者たちはおへそを選んだのでしょうか。 People do not wash it very often, so bacteria can live there quietly.おへそはあまり洗われないので、細菌が静かに暮らせるからです。 Also, it is a fun place to study, and many people want to join.それに、おへそは調べて楽しい場所で、参加したい人がたくさんいるからです。 So next time you take a bath, remember that a small jungle lives in your belly.だから次におふろに入るときは、おなかに小さなジャングルがあることを思い出してください。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B The many kinds of bacteria in belly buttons
第1段落でおへその細菌を調べたことを紹介し、第2〜4段落で見つかった細菌の種類について述べているので正解はB。Cの鳥は数を比べるために出てきただけ。Aは本文に書かれていない。
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Q2How many types of bacteria did the scientists find in all?
科学者たちは全部で何種類の細菌を見つけましたか。
正解:C 2,368
第2段落1文目に "They found 2,368 different types of bacteria" とあるので正解はC。Aの67はふつうのおへそ1つにいた種類の数、Bの107はいちばん多かったおへその数。
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Q3Why did the scientists choose the belly button?
科学者たちはなぜおへそを選んだのですか。
正解:A Because people do not wash it very often
第5段落2文目に "People do not wash it very often, so bacteria can live there quietly" とあるので正解はA。Bは本文と逆で、たくさんの細菌がいた。CとDは本文に書かれていない。
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Q4In paragraph 4, the word "extreme" is closest in meaning to ...
第4段落の "extreme" に最も近い意味はどれですか。
正解:D very hard to live in
第4段落で、アーキアは細菌とは別のグループで、"extreme places" によくいると説明されている。extreme は「極端な、きびしい」という意味なので正解はD。Aは逆の意味。
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Q5Which is true about the eight common types?
よくいる8種類について正しいものはどれですか。
正解:B They made up almost half of all the bacteria.
第3段落4文目に "These eight made up almost half of all the bacteria" とあるので正解はB。Dは第3段落2文目「全員にいた種類は1つもない」と合わない。Cは、8種類は皮膚によくいる細菌だったので誤り。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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bacteria名詞細菌
Some bacteria help us digest food.
食べ物の消化を助ける細菌もいる。
💡 複数形。1つは bacterium。
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belly button名詞おへそ
The baby laughed when I touched her belly button.
おへそをさわると赤ちゃんが笑った。
💡 belly は「おなか」。医学用語では navel。
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cotton swab名詞綿棒
The nurse used a cotton swab to clean the cut.
看護師は綿棒で切り傷をきれいにした。
💡 swab は動詞で「(綿棒で)ぬぐう」。
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type名詞種類、型
What type of music do you like?
どんな種類の音楽が好きですか。
💡 kind や sort とほぼ同じ意味。
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species名詞(生物の)種
Many species of fish live in this river.
この川には多くの種類の魚がすんでいる。
💡 単数も複数も species。special と同じ語源。
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common形容詞よくある、ありふれた
Sato is a common name in Japan.
佐藤は日本でよくある名前だ。
💡 反対は rare(珍しい)。
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extreme形容詞極端な、きびしい
Some animals can live in extreme cold.
極端な寒さの中で生きられる動物もいる。
💡 extreme sports(危険をともなうスポーツ)という言い方も。
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almost副詞ほとんど、もう少しで
I almost missed the bus this morning.
今朝はもう少しでバスに乗り遅れるところだった。
💡 almost half で「半分近く」。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 27件)。
- Hulcr, J. ほか (2012) A Jungle in There: Bacteria in Belly Buttons are Highly Diverse, but Predictable, PLOS ONE 7:e47712doi.org
- Belly Button Biodiversity(ノースカロライナ州立大学ニュース、2012年11月7日)news.ncsu.edu
- Grice, E. A. ほか (2009) Topographical and Temporal Diversity of the Human Skin Microbiome, Science 324:1190-1192doi.org
- Steinhauser, G. (2009) The nature of navel fluff, Medical Hypotheses 72:623-625doi.org
- Deepu, P. (2018) Modeling the production of belly button lint, Scientific Reports 8:14472doi.org
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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