よく切ったトランプの並びは、たぶん人類史上はじめての並び
思わず唸るNo.082

よく切ったトランプの並びは、たぶん人類史上はじめての並び

ただし7回はしっかり切る必要がある。

ホントTRUE

この判定の対象「よく切ったトランプの並びは、たぶん人類史上はじめての並びだ」

うなり度 読む時間8分 出典5件 確認した事実17件
もくじ
  1. 52枚のトランプの並べ方の数は、68けたにもなる
  2. 100億人が宇宙の始まりから毎秒切っても、並べ方のほんの一部しか試せない
  3. トランプをよく混ぜるには、2つの山をパラパラ合わせる切り方で約7回切る
  4. 3回しか切らないと、客が選んだカードを手品師に当てられてしまう
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

トランプを1組、よく切って、テーブルに並べてください。その52枚の順番は、たぶん、人類の歴史で一度も現れたことのない並びです。

大げさに聞こえるかもしれません。でも、このことは計算で確かめられます。

ただし、大事な条件が1つあります。トランプを「よく」切ることです。数学者は、どれくらい切れば「よく」切ったことになるのかを、きちんと計算しました。答えは、2つの山をパラパラと合わせる切り方なら、約7回です。

この記事では、まず、52枚の並べ方が68けたの数になることを計算します。次に、その数がどれほど大きいかを、宇宙の年齢と比べます。そのあと、数学者が「約7回」という答えを出したわけを説明します。最後に、カジノのカードを混ぜる機械が、混ぜ方が足りないことを数学者に見抜かれた話を紹介します。

0152枚のトランプの並べ方の数は、68けたにもなる

まず、並べ方が何通りあるかを数えましょう。

1枚目に来るカードは、52枚のどれでもかまいません。2枚目は、残りの51枚のどれか。3枚目は、残りの50枚のどれか。これを最後の1枚まで続けます。

つまり、並べ方の数は、52×51×50×……×2×1 です。これを「52の階乗」といい、52! と書きます。1から52までの数を、全部かけたものです。

計算すると、こうなります。

80658175170943878571660636856403766975289505440883277824000000000000。

68けたの数です。だいたい、8のあとに0が67個並ぶ大きさです。

02100億人が宇宙の始まりから毎秒切っても、並べ方のほんの一部しか試せない

68けたの数がどれほど大きいかを、比べてみます。比べる相手は、ありえないほど多めに見積もった、トランプを切る回数です。

NASAによると、宇宙は約138億年前に始まりました。秒に直すと、約4.35×10の17乗秒です。10の17乗は、1のあとに0が17個並ぶ数です。

仮に、100億人が宇宙の始まりから、1秒に1回ずつトランプを切り続けたとします。それでも、切った回数は約4.4×10の27乗回です。

52の階乗は、この回数の、さらに約1.9×10の40乗倍もあります。つまり、ありえないほど多めに数えても、並べ方のほんの一部しか試せないのです。

では、その中のどこかで、同じ並びが2回出る確率はどれくらいでしょう。計算すると、とても小さな数になります。くわしくは、あとの深掘り講義で説明します。

03トランプをよく混ぜるには、2つの山をパラパラ合わせる切り方で約7回切る

では、どれくらい切れば「よく」切ったことになるのでしょう。

トランプを2つの山に分け、端をパラパラと交互に落として1つにまとめる切り方を、リフルシャッフルといいます。短く「リフル」とも言います。

1992年、2人の数学者、デイブ・ベイヤーとパーシ・ディアコニス(Dave Bayer & Persi Diaconis)が、リフルシャッフルを数学で調べました。2人は、リフルで何回か切ったあと、どの並びがどれくらいの確率で出るかを、式で表しました。

そして、切ったあとの52枚が、完全にでたらめな並び(ランダム)からどれだけずれているかを、0から1の数で表しました。1は「まったく混ざっていない」、0は「完全に混ざった」という意味です。

結果は、こうなりました。4回までは、ずれはずっと1.000でした。5回で0.924、6回で0.614、7回で0.334、8回で0.167です。ずれは5回目から急に減り始め、6回目からは1回ごとにほぼ半分になります。

ずれが急に小さくなる7回前後が、「十分に混ざった」と言える境目です。2人より前の研究も、52枚にはおよそ7回が必要だと見積もっていました。この結果は、のちに「7回シャッフルの定理」と呼ばれるようになりました。

切る回数が増えると、ある回数から急に混ざり始める。
切る回数が増えると、ある回数から急に混ざり始める。

043回しか切らないと、客が選んだカードを手品師に当てられてしまう

並びに偏りが残ると、何が困るのでしょう。手品師は、その偏りを使って、カードを当ててしまいます。

ベイヤーとディアコニスの論文には、ジョーダンという手品師の「プレモ」という手品が紹介されています。

まず、客がトランプをカットして(束を上下2つに分けて入れかえて)、リフルで切ります。これをもう一度繰り返します。次に、一番上のカードを見て、束のどこかに差し込みます。最後に、もう一度カットして切り、さらにカットします。それでも手品師は、客が見たカードを当てるのです。

この手品のしかけは、上昇列です。上昇列とは、束の中で、1、2、3……と順番どおりに並んでいるカードの列のことです。間にほかのカードがはさまっていてもかまいません。

切る前の束が、1から52まで順番に並んでいたとします。このとき、束の全部が1本の上昇列です。リフルで1回切ると、上昇列は2本になります。切るたびに、上昇列の数はだいたい倍になっていきます。

3回切ると、上昇列は普通8本で、1本の長さは平均6.5枚です。そこに客がカードを1枚差し込むと、そのカードだけが、どの列にも合わない「9本目」として目立ちます。だから、手品師は客のカードを見つけられるのです。論文によると、上昇列のことは、20世紀の初めに手品師たちが見つけていました。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

100億人が宇宙の始まりから毎秒切っても、同じ並びが2回出る確率は1兆分の1より小さい

「100億人が宇宙の始まりから毎秒切る」としても、切る回数は約4.4×10の27乗回です。では、その中のどこかで、同じ並びが2回出る確率はどれくらいでしょう。

この問題は、「誕生日問題」と同じ形をしています。誕生日問題とは、こういう話です。クラスに23人いると、誕生日が同じ2人がいる確率は、50%を超えます。23人は365日よりずっと少ないのに確率が高くなるのは、2人の組み合わせの数が多いからです。2人の組み合わせの数は、人数の2乗に近い速さで増えます。

トランプでも同じ考え方を使うと、同じ並びが2回出る確率は、だいたい「切った回数×切った回数÷(2×並べ方の数)」になります。計算すると、約1.2×10のマイナス13乗です。これは、1兆分の1よりもさらに小さい数です。ありえないほど多めに数えても、同じ並びはまず出ないのです。

「何回切れば十分に混ざるか」の答えは、混ざり具合の測り方で変わる

ベイヤーとディアコニスは、完全にでたらめな並びからのずれを、「全変動距離」という方法で測りました。

全変動距離は、次のように求めます。たとえば「一番上がエース」のような、束についてのいろいろなできごとを考えます。それぞれのできごとが起きる確率を、切った束と、完全にでたらめな束とで比べます。その確率の差がいちばん大きくなるときの値が、全変動距離です。

2000年、トレフェセンら2人の研究者(L. N. Trefethen & L. M. Trefethen)は、別の測り方を使いました。情報理論の「エントロピー」を使う方法です。この方法では、切ったあとの束の並びについて、まだ「分かってしまう情報」がどれくらい残っているかを測ります。

エントロピーで測ると、残る情報をほぼ0にするには、カードの枚数を n として、log2 n 回ほど切ればよいことが分かりました。log2 n は、「2を何回かけると n になるか」を表す数です。52枚なら約5.7回です。

一方、全変動距離では、目安の式はおよそ(3/2)log2 n 回で、52枚なら約8.6回になります。ただし、ベイヤーとディアコニスの表の値で見ると、ずれは7回前後で急に下がります。

つまり、「何回切れば十分か」の答えは、どんな状態を「混ざった」と呼ぶかで変わるのです。それでも、3回や4回で十分だと言える測り方はありません。

カジノのカードを混ぜる機械は、混ぜ方が足りないと数学者に見抜かれた

カードの混ざり方の数学は、実際のカジノでも役に立ちました。2013年の論文で、ディアコニスたちは、こんな話を報告しています。カジノ用品のメーカーから、新しいシャッフル機(カードを混ぜる機械)がよく混ぜられるかどうか、調べてほしいと頼まれたのです。

その機械は、中に10段の棚がある箱でした。機械は、カードを1枚ずつ、でたらめに選んだ棚に置いていきます。置く場所は、その棚の山の上か下かのどちらかです。最後に、棚の山を全部重ねて、1つの束にします。

計算の結果、10段では、混ざり方がまったく足りないと分かりました。棚を50段にしても、十分とは言えませんでした。機械のしくみを知っている客なら、機械で混ぜたあとの52枚のうち、約9.5枚を当てられます。よく混ざった束なら、どんな作戦を使っても、当てられるのは約4.5枚です。

研究者たちは、カードを機械に2回通すことを提案しました。2回通すと、200段の機械と同じになります。これは、普通のリフルシャッフル8〜9回分に当たります。メーカーは、この助言を受け入れました。

束から少しずつ手に重ねていく切り方は、パラパラ合わせる切り方よりずっと混ざりにくい

束から少しずつカードを取り、反対の手に重ねていく切り方があります。英語でオーバーハンド・シャッフルといいます。

1989年、ペマントル(R. Pemantle)は、オーバーハンド・シャッフルで十分に混ざる回数を調べました。そして、その回数が、ある範囲の中にあることを示しました。範囲の下は「カードの枚数の2乗」くらい、上は「枚数の2乗に、さらに log(枚数)をかけた数」くらいです。2006年、ヨナソン(J. Jonasson)が、答えは上の「2乗に log をかけた数」のほうだと証明しました。

リフルシャッフルなら、カードの枚数が倍になっても、必要な回数は1.5回ほどしか増えません。オーバーハンド・シャッフルでは、枚数が倍になると、必要な回数は4倍以上に増える計算です。手で少しずつ重ねるだけの切り方では、なかなか混ざらないのです。

05まとめ

52枚のトランプの並べ方は、68けたの数です。100億人が宇宙の始まりから毎秒切り続けても、そのほんの一部しか試せません。だから、よく切ったトランプの並びは、たぶん人類の歴史で初めての並びです。

ただし、「よく切る」には、リフルシャッフルで約7回が目安です。次にトランプで遊ぶときは、パラパラと7回、数えながら切ってみてください。

人に話すなら、こう言おう

トランプをよく切った並びって、たぶん人類で初めての並びなんだって。並べ方の数が68けたもあるかららしいよ。でも数学的には、パラパラ切るのを7回くらいやらないと、ちゃんと混ざらないんだって。
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英語で読む

A Card Order Nobody Has Ever Seen

CEFR A2229 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Take a deck of 52 playing cards and shuffle it well.52枚のトランプを1組手に取って、よく切ってください。 The order you get has probably never appeared before in human history.できた並びは、たぶん人類の歴史で一度も現れたことがありません。

The first card can be any of 52 cards, the second can be any of the other 51, and so on.1枚目は52枚のどれでもよく、2枚目は残り51枚のどれでもよく、と続きます。 So the number of possible orders is 52 times 51 times 50, down to 1.だから、ありうる並びの数は、52×51×50×……と1までかけたものです。 This number has 68 digits.この数は68けたあります。 Even 10 billion people shuffling every second since the universe began could try only a tiny part.宇宙の始まりから100億人が毎秒切りつづけても、ほんの一部しか試せません。

But you have to shuffle well.でも、よく切らなければなりません。 In 1992, two mathematicians, Dave Bayer and Persi Diaconis, studied the riffle shuffle.1992年、デイブ・ベイヤーとパーシ・ディアコニスという2人の数学者が、リフルシャッフルを研究しました。 In this shuffle, you cut the deck into two piles and let the cards fall together.この切り方では、束を2つの山に分け、カードをパラパラと落として合わせます。 They found that the cards are not mixed well after 3 or 4 shuffles.2人は、3回や4回切ったあとでは、カードはよく混ざっていないことを見つけました。 The cards start to mix suddenly after about 5 shuffles, and about 7 shuffles are enough.カードは5回ほどで急に混ざりはじめ、約7回で十分になります。

If a deck is shuffled only 3 times, some of the old order is still there.3回しか切られていない束には、もとの順番がまだ一部残っています。 A clever magician can use it to find the card you chose.かしこい手品師は、それを使ってあなたが選んだカードを見つけられます。

One casino company asked Diaconis and his team to test a new shuffling machine.カジノ用品のある会社が、ディアコニスたちに新しいシャッフル機を調べてほしいとたのみました。 They found that a smart player could guess about 9.5 cards correctly, but only about 4.5 in a well mixed deck.彼らは、かしこい客なら約9.5枚を当てられるが、よく混ざった束では約4.5枚しか当たらないことを見つけました。 Their advice was simple: use the machine twice.彼らの助言はかんたんでした。機械を2回使うことです。 So next time you play cards, count your shuffles up to seven.だから次にトランプで遊ぶときは、7回まで数えながら切りましょう。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How many digits does the number of possible orders have?

    ありうる並びの数は何けたですか。

  3. Q3Why can a magician find your card after only 3 shuffles?

    3回しか切っていないと、手品師があなたのカードを見つけられるのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 5, the word "advice" is closest in meaning to ...

    第5段落の "advice" に最も近い意味はどれですか。

  5. Q5Which is true about the shuffling machine?

    シャッフル機について、正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • shuffle動詞・名詞
    (カードを)切る、切ること

    Please shuffle the cards before the game.

    ゲームの前にカードを切ってください。

    💡 音楽プレーヤーの「シャッフル再生」も同じ語。

  • deck名詞
    (トランプの)1組

    A deck has four kinds of cards.

    トランプ1組には4種類のカードがある。

    💡 a deck of cards で「トランプ1組」。船の「甲板」の意味もある。

  • possible形容詞
    ありうる、可能な

    Is it possible to finish this today?

    これを今日終わらせることはできますか。

    💡 反対は impossible。as soon as possible は「できるだけ早く」。

  • digit名詞
    (数の)けた、数字

    My phone number has eleven digits.

    私の電話番号は11けただ。

    💡 digital(デジタル)と同じ語源。もとは「指」の意味。

  • mathematician名詞
    数学者

    The mathematician solved a very old problem.

    その数学者はとても古い問題を解いた。

    💡 math(数学)+ -ician(〜の専門家)。musician と同じ形。

  • pile名詞
    (積み重ねた)山

    There is a pile of books on my desk.

    私の机の上に本の山がある。

    💡 a pile of ~ で「~の山、たくさんの~」。

  • clever形容詞
    かしこい、頭のよい

    The clever dog opened the door by itself.

    そのかしこい犬は自分でドアを開けた。

    💡 smart とほぼ同じ。イギリス英語でよく使う。

  • guess動詞
    推測する、言い当てる

    Can you guess my age?

    私の年を当てられますか。

    💡 guess right で「言い当てる」。名詞で「推測」の意味もある。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 17件)。

  1. Bayer, D. & Diaconis, P. (1992) Trailing the Dovetail Shuffle to its Lair, The Annals of Applied Probability 2(2): 294-313doi.org
  2. Diaconis, P., Fulman, J. & Holmes, S. (2013) Analysis of casino shelf shuffling machines, The Annals of Applied Probability 23(4): 1692-1720doi.org
  3. Trefethen, L. N. & Trefethen, L. M. (2000) How many shuffles to randomize a deck of cards?, Proceedings of the Royal Society A 456: 2561-2568doi.org
  4. Jonasson, J. (2006) The overhand shuffle mixes in Θ(n² log n) steps, The Annals of Applied Probability 16(1)doi.org
  5. Universe(NASA Science)science.nasa.gov

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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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