タコには心臓が3つあり、ジェット噴射で泳ぐと心臓が止まる
生き物No.050

タコには心臓が3つあり、ジェット噴射で泳ぐと心臓が止まる

だからタコは、長くは泳げない。

うなり度 読む時間8分 出典6件 確認した事実25件
もくじ
  1. タコの心臓は3つ。2つはエラに血を送り、1つは全身に血を送る
  2. タコがジェット噴射で泳ぐと、心臓が止まる
  3. タコの血が青いのは、酸素を運ぶ物質が銅を含むから
  4. 脳と心臓をつなぐ神経を切っても、タコの心臓は動き続けた
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

タコが逃げるときの姿を、思いうかべてください。体の袋(外套膜:がいとうまく)に海水をためて、ろうとと呼ばれる管から一気に吹き出します。そして、ロケットのように後ろ向きに飛んでいきます。これがジェット噴射です。

ところが、1987年にM. J. ウェルズ(M. J. Wells)らが発表した論文には、こう書いてあります。ジェット噴射で泳ぐと、タコの心臓は止まる。 さらに論文は、タコはジェット噴射では数メートルより先へは進めない、とも書いています。タコの体は、酸素が足りないまま動ける量(あとで返す酸素の「借り」)が、とても小さいからです。

タコには心臓が3つあり、血は青い。ここまでは、雑学としてよく知られています。けれども、3つの心臓がどう動き、いつ止まるのかは、ほとんど知られていません。タコの血がなぜ青いのかも、同じです。

この記事では、まず3つの心臓の役目を説明します。次に、ジェット噴射で心臓が止まる話を紹介します。そのあと、血が青い理由と、脳とつながっていなくても動く心臓の実験を見ていきます。

01タコの心臓は3つ。2つはエラに血を送り、1つは全身に血を送る

タコやイカの仲間(頭足類)の体では、3つの心臓が血をめぐらせています。2つは、左右のエラとセットになった「エラ心臓」です。残りの1つは、全身に血を送り出す「体心臓」です。

心臓のほかに、自分で縮む静脈も、血を押し流しています。タコの血管は全身でつながっていて、血は血管の中だけを流れます。この仕組みを「閉じた循環系」と呼びます。タコの血圧も、背骨のない動物(無脊椎動物)としては高めです。

ウェルズは、水槽の中で自由に動き回るマダコの仲間(Octopus vulgaris)で、心臓が1分に打つ回数(心拍)と血圧を測りました。

体重500gほどのタコを、22℃の水で飼ったときの結果です。じっとしているときの心拍は、1分に40〜50回でした。大動脈(心臓から全身へ血を送る太い血管)の血圧は、心臓が縮むときで水柱40cm、緩むときで15cmほどでした。水柱40cmとは、水を40cmの高さまで押し上げる強さの圧力です。

タコが動き回ると、平均の血圧、脈の強さ、血の流れる量が、じっとしているときと比べてどれも約2倍にはね上がりました。

ただし、心拍数は、運動してもほとんど変わりませんでした。むしろ、少し下がることさえありました。タコは心拍数を上げる代わりに、体心臓が1回に送り出す血の量を増やして、必要な血を送っていたのです。

02タコがジェット噴射で泳ぐと、心臓が止まる

では、ジェット噴射で泳いでいるときは、心臓はどうなるのでしょうか。1987年の論文の答えは、「心臓が止まる」でした。

ジェット噴射をするとき、タコは外套膜を強くしぼります。すると、体の中の圧力がぐっと上がります。論文によると、このとき静脈は、高くなった圧力にさからって、血を心臓へ戻すことができないと考えられます。これは、体の中の圧力と、静脈の脈を測った結果からの推定です。つまり、噴射しているあいだは、心臓が止まるうえに、血も心臓へ戻りにくくなっているのです。

例えるなら、全力で走りながら、息を止めているようなものです。

人の筋肉は、酸素が足りないときでも、しばらくは動けます。足りなかった分の酸素は、あとで息を荒くして「返済」します。この、あとで返す酸素の借りを「酸素負債」と呼びます。

タコがためておける酸素負債は、体重1kg当たり約22mLしかなく、とても小さいものでした。そのため論文は、ジェット噴射で数メートルより先へ進むことは不可能だと結論しています。

論文は、イカの場合とも比べています。そのうえで、貝などと同じ軟体動物の体のつくりのまま、活発に動く動物が血をめぐらせるのは難しい、と論じています。

ジェット噴射のあいだは、タコの心臓が止まる。そのため噴射で進めるのは数メートルまでだ、と論文は書いている
ジェット噴射のあいだは、タコの心臓が止まる。そのため噴射で進めるのは数メートルまでだ、と論文は書いている

03タコの血が青いのは、酸素を運ぶ物質が銅を含むから

人の血が赤いのは、赤血球の中のヘモグロビンが、鉄を含んでいるからです。一方、タコの血の中で酸素を運ぶのは、ヘモシアニンというタンパク質です。ヘモシアニンは、鉄ではなく銅を含んでいます。

ヘモシアニンは、酸素と結びつくと青くなり、酸素を手放すとほぼ無色になります。

ヘモグロビンとの違いは、もう一つあります。血の中のどこにあるか、です。ヘモグロビンは、赤血球という細胞の中にあります。ヘモシアニンは細胞には入らず、血の液体の部分に、そのまま溶けています。

ヘモシアニンが血に溶けている量は、とても多いです。南極のタコの一種では、血1mL当たり89mgあります。ヨーロッパのヤリイカの仲間では、160mgを超えます。

ヘモシアニンの働きは、温度の影響を強く受けます。2015年、ドイツのアルフレッド・ヴェーゲナー研究所などのチームが、3つの海に住むタコの血を比べました。南極、オーストラリア南東部、地中海のタコです。

南極のタコでは、0℃のとき、ヘモシアニンが酸素をうまく手放せませんでした。その足りない分を、血の液体にそのままたくさん溶けこんでいる酸素が補っていました。チームは、ヘモシアニンの働きが、タコがどこまで寒さに耐えられるかの限界を決める、一因になっていると考えています。

04脳と心臓をつなぐ神経を切っても、タコの心臓は動き続けた

1980年、ウェルズは、もう一つの実験を発表しました。手術で、脳と心臓をつなぐ神経を切ってみたのです。それでも、3つの心臓は止まらず、力強く、調子をそろえて動き続けました。

この実験から、脳と心臓をつなぐ神経の役目は、2つあるようだと分かりました。1つは、運動のときに、送る血の量を増やすこと。もう1つは、外套膜の動きが止まったときに、心臓を止めることです。

では、心臓のリズムは、どこで作られているのでしょうか。ウェルズは、エラ心臓と、そのそばにある心臓神経節(神経細胞の集まり)が作っていると考えました。体心臓は、血で満たされたときにだけ縮みます。心臓のそばの神経節を全部取りのぞいたタコでも、何時間も生きていました。

ウェルズは、この結果について、次のように書いています。自由に動くタコで分かった仕組みは、取り出した心臓などを使った実験から考えられていた姿と、大きく違う。だから、これまでの定説は、大きく見直す必要があるかもしれない。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

タコは、ゆっくり動く貝と同じ仲間の体のつくりのまま、素早く動いている

タコやイカ(頭足類)は、貝やカタツムリと同じ、軟体動物の仲間です。軟体動物のもともとの体のつくりは、ゆっくり動く動物に合ったものでした。タコやイカは、その体のつくりのまま、素早く泳いで狩りをする暮らしをしています。

1987年のウェルズらの論文は、次の問題を正面から論じています。体の中でたくさんのエネルギーを使う(代謝の高い)動物が、軟体動物のもともとの体のつくりで、どうやって血をめぐらせるのか、という問題です。

3つの心臓がどう役目を分けているかは、1980年の実験から手がかりが得られます。エラ心臓の側にある神経節を取りのぞくと、体心臓が打つ回数が減り、大動脈の血圧が下がりました。体心臓は、エラ心臓が送ってくる血にたよっているのです。

ヘモシアニンは、細胞に入らず、血の液体に溶けて酸素を運ぶ

ヘモシアニンは、細胞の外で、血の液体に溶けています。そのため、たくさん溶かすほど、血はどろっと粘ります。南極の海のように水が冷たいと、ヘモシアニンが多くなくても、血は粘りやすくなります。それでも南極のタコは、ヘモシアニンの濃さを高めています。なぜ濃くしているのかを、2015年の論文は、いくつかの仮説で説明しようとしています。

また、ブリタニカ百科事典によると、頭足類のヘモシアニンは、周りの酸素がまだ比較的多いうちに、酸素を手放します(酸素の分圧が高いうち、と言います)。つまりヘモシアニンは、酸素をため込むためではなく、運ぶための色素だということです。

自由に動くタコで測ると、それまでの説明と違う結果が出た

ウェルズの研究の特徴は、水槽の中で自由に動いているタコで、心臓を測ったことです。

1979年の論文では、心拍が水温の影響を強く受けることが分かりました。7〜27℃の範囲では、水温が10℃上がると、心拍は約3倍になりました。

水の中の酸素が減ると、心拍は遅くなりました。水に溶けた酸素が約2.5ppm(100万分の2.5)まで下がると、心臓は止まりました。ただし、少なくとも短い時間なら、酸素が戻ると、心臓はまた動き出しました。

それまで、タコの心臓の調節は、体から切り出した心臓や、手術した直後の動物を使った実験をもとに説明されていました。1980年の論文で、ウェルズはこう書いています。自由に動く、ほぼ無傷のタコで見えてきた仕組みは、そうした実験から考えられていた姿とまったく違う。だから、頭足類の心臓の調節についての通説は、大きく見直す必要があるかもしれない。

同じタコの心臓でも、取り出して測るか、自由に動くタコで測るかによって、違う結果が出ることがあるのです。

タコの神経細胞の5分の3は、脳ではなく腕にある

1963年、J. Z. ヤング(J. Z. Young)は、マダコの仲間の神経細胞の数を、体の部分ごとに見積もりました。全部で、約5億個ありました。そのうち3億個は、脳ではなく、腕の中の神経節にありました。神経細胞の5分の3が、腕に散らばっていることになります。

心臓の話とあわせると、タコの体のつくりの特徴が見えてきます。

  • 心臓のリズムは、心臓のそばの神経節が作る。
  • 脳は、心臓に「もっと強く」「止まれ」と調整するだけ。
  • 神経細胞の半分以上は、腕にある。

中央の脳が全てを細かく命令するのではなく、体のそれぞれの部分に、かなりの仕事をまかせるつくりだ、と見ることもできます。

ただし、腕の神経細胞が、具体的に何をどこまで決めているのかは、この記事の出典からは分かりません。神経細胞の「数」が分かることと、その「働き」が分かることは、別の問題です。

05まとめ

タコには、エラ心臓2つと体心臓1つ、合わせて3つの心臓があります。タコは運動するとき、心拍数ではなく、1回に送る血の量を増やして対応します。けれども、ジェット噴射で泳ぐと、心臓が止まります。体の中の圧力が上がるせいで、血も心臓へ戻りにくくなります。そのため、噴射で進めるのは数メートルまでだと、論文は書いています。

タコの血が青いのは、酸素を運ぶヘモシアニンが銅を含むからです。ヘモシアニンは、酸素を手放すとほぼ無色になります。また、タコの神経細胞約5億個のうち、3億個は腕の中にあります。心臓は、脳とつながる神経を切られても動き続けます。タコは、心臓も神経も、私たちとはまるで違う配置で生きているのです。

人に話すなら、こう言おう

タコって心臓が3つあるけど、ジェット噴射で泳ぐと心臓が止まっちゃうんだって。だからジェット噴射では数メートルしか進めないらしい。しかも青い血は、酸素がなくなるとほとんど無色になるんだよ。
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英語で読む

Three Hearts and a Short Swim

CEFR A2215 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

An octopus has three hearts.タコには心臓が3つあります。 Two of them are next to its gills, and one sends blood to the whole body.2つはエラのそばにあり、1つは全身に血を送ります。 Many people know this fact, but few people know what happens when an octopus swims.このことを知っている人は多いですが、タコが泳ぐと何が起きるかを知っている人はほとんどいません。

An octopus can swim fast like a jet.タコはジェット機のように速く泳ぐことができます。 It fills its body with water and pushes the water out hard.体に水をため、その水を強く押し出すのです。 But in 1987, a team of scientists found that its heart stops during this jet swimming.しかし1987年、ある科学者のチームが、このジェット噴射の間は心臓が止まることを見つけました。 Scientists think the pressure inside the body gets too high, so the blood cannot go back to the heart.科学者たちは、体の中の圧力が高くなりすぎて、血が心臓に戻れなくなるのだと考えています。 The octopus cannot go long without fresh oxygen, so it cannot jet for more than a few meters.タコは新しい酸素なしでは長く持たないので、ジェット噴射で数メートルより先へは進めません。

Octopus blood is also unusual.タコの血も変わっています。 Our blood is red because it uses iron to carry oxygen.私たちの血が赤いのは、酸素を運ぶのに鉄を使っているからです。 Octopus blood uses copper instead, in a protein called hemocyanin.タコの血は代わりに、ヘモシアニンというタンパク質の中の銅を使います。 It turns blue when it carries oxygen.ヘモシアニンは、酸素を運んでいるときに青くなります。 When it lets the oxygen go, it becomes almost clear.酸素を手放すと、ほとんど無色になります。

The hearts have another secret.心臓には、もう一つ秘密があります。 In 1980, a scientist cut the nerves between the brain and the hearts.1980年、ある科学者が脳と心臓をつなぐ神経を切りました。 The three hearts did not stop.3つの心臓は止まりませんでした。 They kept beating strongly together.力強く、そろって動き続けたのです。

An octopus also has about 500 million nerve cells.タコには、神経細胞も約5億個あります。 About 300 million of them are in its arms, not in its brain.そのうち約3億個は、脳ではなく腕の中にあります。 So the octopus is built in a very different way from us.つまりタコの体は、私たちとはまったくちがうつくりなのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2What happens to an octopus's heart during jet swimming?

    ジェット噴射で泳いでいる間、タコの心臓はどうなりますか。

  3. Q3Why can't the blood go back to the heart during jet swimming?

    ジェット噴射の間、血が心臓に戻れないのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "clear" is closest in meaning to

    第3段落の clear という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about an octopus?

    タコについて正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • octopus名詞
    タコ

    The octopus hid under a rock.

    タコは岩の下にかくれた。

    💡 ギリシャ語の「8本の足」から。複数形は octopuses がふつう。

  • heart名詞
    心臓、心

    My heart beats fast when I run.

    走ると心臓がどきどきする。

    💡 learn by heart は「暗記する」。

  • gill名詞
    エラ

    Fish breathe through their gills.

    魚はエラで呼吸する。

    💡 ふつう複数形 gills で使う。

  • pressure名詞
    圧力

    The air pressure is low today.

    今日は気圧が低い。

    💡 動詞 press(押す)の名詞形。「精神的な重圧」の意味でも使う。

  • oxygen名詞
    酸素

    Plants give us oxygen.

    植物は私たちに酸素をくれる。

    💡 元素記号は O。発音は「アクシジェン」に近い。

  • copper名詞
    銅

    This old coin is made of copper.

    この古い硬貨は銅でできている。

    💡 iron(鉄)、gold(金)、silver(銀)とあわせて覚える。

  • nerve名詞
    神経

    The doctor checked the nerves in my hand.

    医者は私の手の神経を調べた。

    💡 nerve cell は「神経細胞」。lose one's nerve は「おじけづく」。

  • beat動詞
    (心臓が)鼓動する、打つ

    A baby's heart beats faster than an adult's.

    赤ちゃんの心臓は大人より速く打つ。

    💡 「(相手を)負かす」の意味も重要。過去形も beat。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 25件)。

  1. Wells, M. J. ほか (1987) Blood Flow and Pressure Changes in Exercising Octopuses (Octopus vulgaris), Journal of Experimental Biology 131:175-187doi.org
  2. Wells, M. J. (1979) The Heartbeat of Octopus vulgaris, Journal of Experimental Biology 78:87-104doi.org
  3. Wells, M. J. (1980) Nervous Control of the Heartbeat in Octopus, Journal of Experimental Biology 85:111-128doi.org
  4. Young, J. Z. (1963) The number and sizes of nerve cells in Octopus, Proceedings of the Zoological Society of London 140:229-254doi.org
  5. Oellermann, M. ほか (2015) Blue blood on ice: modulated blood oxygen transport facilitates cold compensation and eurythermy in an Antarctic octopod, Frontiers in Zoology 12:6doi.org
  6. Hemocyanin(Encyclopaedia Britannica)britannica.com

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