「人とバナナのDNAは60%同じ」の60%は、DNAが同じ割合ではない
思わず唸るNo.203

「人とバナナのDNAは60%同じ」の60%は、DNAが同じ割合ではない

人とバナナの「60%同じ」は、DNAではなく遺伝子の話。

グレーGRAY

この判定の対象「人とバナナのDNAは60%同じ」

うなり度 読む時間8分 出典8件 確認した事実28件
もくじ
  1. 60%という数字は、論文ではなく博物館の動画のための計算から出たと見られる
  2. 比べたのはDNAの文字ではなく、遺伝子から予想したタンパク質の並び
  3. 人の遺伝子の約6割に、バナナにも「似た遺伝子」が見つかった
  4. 似た遺伝子どうしでも、タンパク質の並びは平均約40%しか一致しない
  5. 人のDNAのうち、タンパク質を作る遺伝子の部分は約1%しかない
  6. 深掘り講義
  7. まとめ
  8. 英語で読む(A2・4択5問)
  9. 出典・ウラ取り

「人とバナナのDNAは60%同じ」。テレビやネットで、一度は聞いたことがあるかもしれません。50%と言われることもあります。

でも、何が60%なのでしょうか。DNAは、4種類の化学物質が文字のようにずらりと並んだ、長い暗号のようなものです。人とバナナのDNAを並べて、文字の6割が同じだった、という意味ではありません。

この数字の計算に関わったのは、ローレンス・ブロディ(Lawrence Brody)博士です。博士は、アメリカの国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)の研究者です。博士が取材に答えた説明によると、60%は人の遺伝子のうち、バナナにも似た遺伝子が見つかった割合です。しかも、この計算は論文として発表されていません。

この記事では、まず60%という数字がどこから出たのかを見ます。次に、何と何を比べた数字なのかを、順番に説明します。最後に、「何%同じ」という数字が、数え方でどれほど変わるかを考えます。

0160%という数字は、論文ではなく博物館の動画のための計算から出たと見られる

アメリカの科学解説サイト、HowStuffWorksの記事(2021年に更新)が、ブロディ博士に直接取材しています。

記事によると、この数字は、2013年にNHGRIで行われた取り組みから出たと見られます。ほかの場所で似た計算が行われた可能性もある、とも書いています。取り組みの中心になったのが、ブロディ博士でした。

科学の研究の多くは、論文として発表されます。ところが博士によると、この計算は論文になっていません。アメリカのスミソニアン自然史博物館の、教育用の動画「The Animated Genome」のために作られたものでした。

その動画では、人とバナナのDNAは「41%似ている」と紹介されたそうです。60%でも50%でもなく、41%です。同じ話なのに、41%、50%、60%と、いくつもの数字が出回っているのです。ブロディ博士は記者に、この比べ方の話がこれほど広まったのは面白い、と話しています。

02比べたのはDNAの文字ではなく、遺伝子から予想したタンパク質の並び

計算の中身を見る前に、言葉を2つ確かめておきます。

遺伝子は、親から子へ受け継がれる、DNAでできた情報の単位です。遺伝子の中には、タンパク質の作り方が書かれたものがあります。この記事で話題にするのは、このタンパク質を作る遺伝子です。

タンパク質は、細胞の中のほとんどの仕事をする物質です。アミノ酸という小さな部品が、何百、何千と鎖のようにつながってできています。

取材記事で博士が説明した手順によると、ブロディ博士たちは、次の順番で計算しました。

  1. バナナの遺伝子の配列から、そこで作られるはずのタンパク質のアミノ酸の並びを予想した。
  2. 人のすべての遺伝子でも、同じことをした。
  3. バナナの遺伝子1つ1つのタンパク質を、人のすべての遺伝子のタンパク質と比べた。
  4. 偶然とは思えないほど似ている組み合わせだけを残した。

比べた回数は、全部で400万回をこえました。つまり、比べたのはDNAの文字そのものではありません。遺伝子から予想した、タンパク質のアミノ酸の並びだったのです。

ブロディ博士たちが比べたのは、DNAの文字ではなく、遺伝子から予想したタンパク質のアミノ酸の並びだった
ブロディ博士たちが比べたのは、DNAの文字ではなく、遺伝子から予想したタンパク質のアミノ酸の並びだった

03人の遺伝子の約6割に、バナナにも「似た遺伝子」が見つかった

取材記事によると、この比べ方で、人の遺伝子の約60%に、バナナの中に「これだ」と分かる相手の遺伝子が見つかりました。ブロディ博士も、この「6割の遺伝子」を前提にして説明しています。これが、60%という数字の中身です。

人の遺伝子は、いくつあるのでしょうか。アメリカ国立医学図書館のMedlinePlusによると、タンパク質を作る人の遺伝子は約1万9900個です。この数で計算すると、その6割は約1万2000個です。

  • 1万9900個 × 0.6 = 1万1940個

なぜ、人とバナナにこんなに似た遺伝子があるのでしょうか。ブロディ博士は、人とバナナは、酸素を使うことなど、同じやり方でしていることが多いからだと説明しています。そうした遺伝子の多くは、生きるための基本の遺伝子なのです。

一方で、博士は、人の遺伝子にもバナナの遺伝子にも、相手が見つからないものがたくさんある、とも話しています。

04似た遺伝子どうしでも、タンパク質の並びは平均約40%しか一致しない

「相手が見つかった」は、「まったく同じ」という意味ではありません。

ブロディ博士によると、相手が見つかった6割の遺伝子でも、人とバナナで中身はかなり違います。その遺伝子から作られるタンパク質のアミノ酸の並びを比べると、同じなのは平均でだいたい40%でした。言いかえると、似た遺伝子どうしでも、平均するとアミノ酸の並びの半分以上が違っているのです。

博士によると、この40%は、タンパク質どうしが似ている度合いの平均です。遺伝子そのもの(DNA)の数字ではない、と博士ははっきり言っています。記事は、人々がこの数字を「DNAが似ている割合」として広めているけれど、実際に調べたのはタンパク質が似ている度合いだった、と説明しています。博士は、その取り違えを、かなり小さな間違いだと話しています。人とバナナとジャガイモとマツに共通するものがある、という部分は本当だ、とも言っています。

05人のDNAのうち、タンパク質を作る遺伝子の部分は約1%しかない

もう一つ、大事な数字があります。MedlinePlusによると、人のDNAのうち、タンパク質を作る遺伝子の部分は約1%です。残りの約99%は、タンパク質を作らない部分です。

ブロディ博士たちが比べたのは、この約1%の部分から予想したタンパク質でした。残りの99%のDNAは、比べていません。

NHGRIによると、人のDNAは約30億の文字でできています。HowStuffWorksの記事は、人とバナナのDNAの文字をそのまま並べて比べても、そろわないと説明しています。「DNAが60%同じ」という言い方は、比べてもいない残りの99%まで同じように聞こえてしまうのです。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

バナナの遺伝子の数は、人の2倍近くある

ゲノムとは、1つの生き物がもつDNAの全部のことです。2012年、フランスの研究機関のドント(Angélique D'Hont)らのチームが、野生のバナナの仲間、ムサ・アクミナータのゲノムを読み取りました。

ゲノムの大きさは、5億2300万塩基対でした。塩基対は、DNAの文字の数の単位です。人のゲノムの約30億塩基対と比べると、約6分の1の大きさです。

ところが、タンパク質を作る遺伝子の候補は、3万6542個見つかりました。人の約1万9900個の、2倍近い数です。DNAの量は人よりずっと少ないのに、遺伝子の数はバナナのほうが多いのです。つまり、DNAの量が多い生き物ほど遺伝子の数も多い、とは言えません。

チームは、バナナの祖先の系統で、ゲノムが丸ごと2倍になる出来事が3回あったことも見つけました。

ハエについても、genome.govは「遺伝子の約60%」という数字を使っている

NHGRIのウェブサイトgenome.govは、ショウジョウバエ(果物によく集まる小さなハエ)について説明しています。ハエと人の遺伝子の約60%は、共通している(進化の中で保たれてきた)というのです。

ここでも「60%」は、遺伝子の数の割合です。DNAの文字が60%同じという意味ではありません。

ブロディ博士は、とても遠い生き物どうしでも、共通の祖先のゲノムのしるしが見つかる、と話しています。博士の説明は、こうです。何十億年も前に生きていた生き物のゲノムには、細胞が生きて増えるのを助ける遺伝子があった。その同じ遺伝子が、私たちにも植物にも残っている。

「何%同じ」は、何を数えるかで数字が大きく変わる

人とチンパンジーのように近い生き物どうしなら、DNAの文字を1文字ずつ並べて比べられます。2005年、チンパンジーのゲノムを読んだ研究チームは、人と比べて、約3500万か所の1文字の違いを見つけました。ほかに、文字が入り込んだり、抜け落ちたりした所が約500万か所ありました。これは、2つのDNAを並べて、文字を比べた結果です。

HowStuffWorksの記事によると、人とバナナの場合は、DNAを並べても、そろいません。ブロディ博士たちが比べたのは、遺伝子から予想したタンパク質でした。同じ「何%」でも、次のように、数えている物がまったく違います。

  • 文字の違い:並べたDNAの文字のうち、何か所が違うか
  • 遺伝子の数:人の遺伝子のうち、相手が見つかったのはいくつか
  • タンパク質の一致:相手が見つかったタンパク質どうしで、アミノ酸の並びが何%同じか

取材記事には、もう一つ数字が出てきます。比べた結果、いちばん似た組み合わせが約7000組見つかった、というものです。人の遺伝子の6割なら約1万2000個なので、約7000組という数字とどうつながるのかは、記事の説明だけでは分かりません。計算が論文になっていないので、細かい手順をたどって確かめることもできないのです。

「何%同じ」という数字を聞いたら、何を、どうやって数えた数字なのかを確かめる必要があります。60%の話は、そのよい例です。

06まとめ

「人とバナナのDNAは60%同じ」の60%は、人の遺伝子のうち、バナナにも似た遺伝子が見つかった割合です。DNAの文字が6割同じという意味ではありません。

似た遺伝子どうしでも、タンパク質のアミノ酸の並びが同じなのは、平均で約40%でした。比べたのは、人のDNAのうち約1%しかない、タンパク質を作る遺伝子の部分です。そして、この計算は論文にはなっておらず、博物館の動画のために行われたものでした。

ブロディ博士によると、人とバナナに似た遺伝子が多いのは、どちらも酸素を使うなど、生きるための基本のしくみに同じところが多いからです。博士は、何十億年も前の生き物がもっていた遺伝子が、私たちの中にも植物の中にも残っている、と話しています。

人に話すなら、こう言おう

「人とバナナのDNAは60%同じ」って、DNAが6割同じって意味じゃないんだって。人の遺伝子の6割くらいに、バナナにも似た遺伝子があるって話で、その計算は論文にもなってないらしいよ。
READ IN ENGLISH

英語で読む

What Do We Really Share with Bananas?

CEFR A2225 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

You may have heard that people and bananas share 60 percent of their DNA.人とバナナはDNAの60%が同じ、と聞いたことがあるかもしれません。 Some people say 50 percent.50%だと言う人もいます。 But what does this number really mean?でも、この数字は本当は何を意味しているのでしょうか。

The number seems to come from a study at a U.S. science institute in 2013.この数字は、2013年にアメリカの科学研究所で行われた調査から出たと見られています。 A scientist named Lawrence Brody led the work.ローレンス・ブロディという科学者が、その作業の中心でした。 But it was never published as a scientific paper.でも、その調査は科学の論文として発表されたことはありません。 It was made for an educational video for a museum.それは、博物館の教育用の動画のために行われたものでした。 In the video, the number was 41 percent.その動画では、数字は41%でした。

First, the team looked at banana genes.まず、チームはバナナの遺伝子を調べました。 Genes are parts of DNA that tell the body how to make proteins.遺伝子とは、体にタンパク質の作り方を伝える、DNAの一部です。 The team used the genes to guess the order of small parts in each protein.チームは遺伝子を使って、それぞれのタンパク質の小さな部品の並び方を予想しました。 Then they compared each banana protein with every human protein.それから、バナナのタンパク質1つ1つを、人のすべてのタンパク質と比べました。 They made more than 4 million comparisons.比べた回数は400万回をこえました。

About 60 percent of human genes had a similar gene in the banana.人の遺伝子の約60%に、バナナの中にも似た遺伝子がありました。 So the 60 percent is about genes, not about all of our DNA.つまり、60%は遺伝子の話で、私たちのDNA全体の話ではないのです。 Even these similar proteins were only about 40 percent the same on average.しかも、似ているタンパク質どうしでも、同じなのは平均で約40%だけでした。 Many other human genes had no partner in the banana at all.人のほかの多くの遺伝子には、バナナの中に相手がまったくいませんでした。

Also, genes that make proteins are only about 1 percent of human DNA.また、タンパク質を作る遺伝子は、人のDNAの約1%にすぎません。 Brody says that people and bananas do many basic things in the same way, like using oxygen.ブロディ博士は、人とバナナは、酸素を使うことなど、基本的なことの多くを同じやり方でしていると言います。 So we do share something with bananas, but it is not 60 percent of our DNA.だから、私たちにはバナナと共通するものが確かにあります。でもそれは、DNAの60%ではないのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is the story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How many comparisons did the team make?

    チームは何回比べましたか。

  3. Q3What did the team do after they guessed the order of the parts in each protein?

    チームは、それぞれのタンパク質の部品の並び方を予想した後、何をしましたか。

  4. Q4In paragraph 2, the word "published" is closest in meaning to

    第2段落の published という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話の内容と合っているのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • share動詞
    共有する、同じものをもつ

    My sister and I share a bedroom.

    姉と私は寝室を共有している。

    💡 share A with B で「AをBと分け合う」。名詞で「分け前」の意味もある。

  • gene名詞
    遺伝子

    Eye color is passed down through genes.

    目の色は遺伝子を通して受けつがれる。

    💡 形容詞は genetic(遺伝の)。genome(ゲノム)も同じ仲間の語。

  • protein名詞
    タンパク質

    Eggs and beans have a lot of protein.

    卵や豆にはタンパク質がたくさん含まれている。

    💡 発音は「プロウティーン」。食べ物の栄養の話でもよく使う。

  • institute名詞
    研究所、機関

    She works at a science institute in Tokyo.

    彼女は東京の科学研究所で働いている。

    💡 大学名にも使われる(Massachusetts Institute of Technology など)。

  • publish動詞
    発表する、出版する

    The writer published her first book last year.

    その作家は昨年、最初の本を出版した。

    💡 public(公の)と同じ語源。「みんなに向けて出す」と覚える。

  • compare動詞
    比べる

    Let's compare the prices at the two shops.

    2つの店の値段を比べてみよう。

    💡 compare A with B で「AとBを比べる」。名詞は comparison(比較)。

  • similar形容詞
    似ている

    Your bag is similar to mine.

    あなたのかばんは私のと似ている。

    💡 be similar to 〜 で「〜に似ている」。the same(同じ)との違いに注意。

  • average名詞
    平均

    On average, I sleep seven hours a night.

    平均すると、私は一晩に7時間眠る。

    💡 on average で「平均して」。テストの「平均点」は the average score。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 28件)。

  1. Hoyt, A. (2021) Do People and Bananas Really Share 50 Percent of the Same DNA?, HowStuffWorks(NHGRI のブロディ博士への取材。2023年の保存版)web.archive.org
  2. What is noncoding DNA?(MedlinePlus Genetics, 米国国立医学図書館)medlineplus.gov
  3. What is a gene?(MedlinePlus Genetics, 米国国立医学図書館)medlineplus.gov
  4. What are proteins and what do they do?(MedlinePlus Genetics, 米国国立医学図書館)medlineplus.gov
  5. A Brief Guide to Genomics(NHGRI)genome.gov
  6. D'Hont, A. et al. (2012) The banana (Musa acuminata) genome and the evolution of monocotyledonous plants, Nature 488doi.org
  7. Comparative Genomics Fact Sheet(NHGRI)genome.gov
  8. Chimpanzee Sequencing and Analysis Consortium (2005) Initial sequence of the chimpanzee genome and comparison with the human genome, Nature 437doi.org

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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