「アインシュタインは数学で落第した」はウソ
都市伝説ファクトチェックNo.058

「アインシュタインは数学で落第した」はウソ

数学の成績は、ほぼずっと最高点だった。

ウソFALSE

この判定の対象「アインシュタインは数学で落第した」

うなり度 読む時間8分 出典6件 確認した事実27件
もくじ
  1. アインシュタインの数学の成績は、13歳ごろからずっと最高点だった
  2. 「この子はろくな者にならない」とアインシュタインをしかったのは、数学ではなくギリシャ語の先生だった
  3. アインシュタインは、16歳で受けた工科大学の入試には、本当に落ちていた
  4. アインシュタインが通ったスイスの学校では、在学中に「1が最高点」から「6が最高点」に変わった
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

1896年9月5日、スイスの町アーラウ。州立学校の校長が、卒業する生徒たちの最終成績に署名しました。その中に、アルベルト・アインシュタインの欄があります。将来学ぶものの欄には「物理」とあります。

成績は、代数が6、幾何も6です。このころのこの学校では、6がいちばん上の点でした。その月の終わりには卒業試験がありました。卒業試験の筆記での、アインシュタインの平均点は、6点満点で5と3分の1。クラスでいちばん高い平均点でした。

「アインシュタインは数学が苦手で、落第した」という話は、今でもよく聞きます。でも、残っている記録を見るかぎり、数学で落ちこぼれた時期は見つかりません。ただし、彼が「試験に落ちた」こと自体は、1回だけ本当にありました。

この記事では、まずドイツのミュンヘンの学校での、数学の成績を見ます。次に、16歳で落ちた大学の入試で、何ができなかったのかを紹介します。最後に、スイスの学校で「1が最高点」から「6が最高点」に変わったことが、誤解のもとになったかもしれない、という話をします。

01アインシュタインの数学の成績は、13歳ごろからずっと最高点だった

アインシュタインの資料は、『アインシュタイン全集』として、アメリカのプリンストン大学の出版部から出ています。その第1巻には、子ども時代の記録がまとめられています。

1886年8月1日、母パウリーネはしんせきへの手紙にこう書きました。「アルベルトは成績表をもらって、また1番だった」。小学校の2年生を終えたころのことです。

1888年10月1日、彼はミュンヘンのルイトポルト・ギムナジウム(大学をめざす中高一貫の学校)に入りました。この学校の成績は、1がいちばん上で、4がいちばん下です。全集の注によると、アインシュタインの数学の成績は、低学年では1か2でした。5年生からは、ずっと1でした。

彼は12歳のころから、数学を自分で先に勉強していました。妹マヤが書いた伝記の下書きによると、教科書の証明を写すのではなく、自分で証明を考えたといいます。ピタゴラスの定理も、新しいやり方で証明しました。このことは、アインシュタイン本人ものちに書いています。

02「この子はろくな者にならない」とアインシュタインをしかったのは、数学ではなくギリシャ語の先生だった

ただ、アインシュタインが学校の先生に悪く言われたことがあるのは、本当です。妹マヤが書いた伝記の下書きによると、ある日、彼がひどいできの提出物を出したときのことです。ギリシャ語の先生が怒って、「この子は一生ろくな者にならない」と言いはなちました。全集の編集者は、このギリシャ語の先生は、おそらく担任の先生だろうと注をつけています。

妹の下書きには、もう1つ気になることが書かれています。算数の文章の問題では、彼はよく計算のミスをしました。そのせいで、先生の目には「とくに才能のある子」には見えなかった、というのです。

アインシュタインは、考え方は深いのに、計算はときどき間違えました。それを見た人が「この子は数学ができない」と思ったとしても、ふしぎではありません。ただ、成績表の数字を見ると、数学の点はとても高かったのです。

03アインシュタインは、16歳で受けた工科大学の入試には、本当に落ちていた

1895年の秋、アインシュタインはチューリッヒにある連邦工科大学(今のETH)の入試を受けました。まだ16歳でした。この大学に入学できるのは、ふつう18歳からです。それに、彼には高校の卒業資格もありませんでした。家族の知り合いの助けで、とくべつに受けさせてもらったのです。

試験は10月8日に始まり、14日に結果が出ました。試験の中身は、2つの部に分かれていました。1つは、いろいろな分野の知識を問う「教養」の部です。文学の歴史、政治の歴史、自然についての知識、ドイツ語の作文などが出ました。もう1つは、理系の専門の部です。算数、代数、幾何、物理、化学などが出ました。

結果は不合格でした。全集の編集者は、落ちたのは主に教養の部ができなかったためらしい、と書いています。一方で、理系の部はよくできたはずだ、とも書いています。そう考える理由は、物理のウェーバー教授が「チューリッヒに残るなら、自分の講義を聞きに来てよい」と言ってくれたことです。

本人は晩年、この入試をふり返って書いています。「落ちたのは、まったく当然のことだと感じた」(1955年の回想より・筆者訳)。入試の準備が足りないことを、自分でもよく分かっていたのです。

1895年の秋、16歳のアインシュタインは、決まりより2歳若くスイスの工科大学の入試に挑んだ。
1895年の秋、16歳のアインシュタインは、決まりより2歳若くスイスの工科大学の入試に挑んだ。

04アインシュタインが通ったスイスの学校では、在学中に「1が最高点」から「6が最高点」に変わった

不合格のあと、工科大学の学長は、スイスの高校で1年学ぶよう、アインシュタインに助言しました。そこで彼は、チューリッヒから約50km西の町アーラウの州立学校に入ります。

アーラウの学校は、成績のつけ方が少し変わっていました。1895〜96年度は、授業の成績は「1がいちばん上、6がいちばん下」です。ところが卒業試験だけは、逆に「6がいちばん上」でした。そして1896年度の新学期から、すべての成績が「6がいちばん上」に切りかえられたのです。

アインシュタインの成績記録を見ると、代数や幾何は、1年目に「1」がついています。卒業のときの成績は「6」です。数字だけ見ると、大きく変わったように見えます。でも、どちらもそのときの最高点です。

「どちらが上の点か」を知らないでこの記録を見れば、「1から6に下がった」と読めてしまいます。この読み間違えが、「数学が苦手だった」という誤解のもとになった、と説明されることもあります。ただ、その説明を最初にしたのがだれかは、確かめられませんでした。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

同じ「1」でも、学校と時期によって、最高点にも最低点にもなる

成績の数字は、どの学校の、どの時期のつけ方なのかを知らないと読めません。アインシュタインの記録には、3つのつけ方が出てきます。

  • ミュンヘンのギムナジウム:1が最高、4が最低
  • アーラウの学校(1895〜96年度の授業):1が最高、6が最低
  • アーラウの卒業試験と、1896年度からのすべての成績:6が最高、1が最低

同じ「1」が、あるときは最高点、あるときは最低点になります。国や時代が違う記録を比べるときは、数字より先に、成績のつけ方を確かめる必要があります。

入試の結果について、妹の下書きは「合格」、全集の注は「不合格」と食い違う

全集の第1巻には、妹マヤが書いた兄の伝記の下書きがのっています。そこには、1895年の入試について「理系では最高の結果、語学と歴史では不十分な結果で、試験に合格した」と書かれています。

ところが全集の編集者は、注で「実際には、アインシュタインは入試に落ちた」と正しています。根拠の1つは、本人が1955年に書いた回想です。

家族の思い出は、くわしくて生き生きしています。でも、身内に都合のよい方向へ少しずれることがあります。一方、役所や学校の記録は地味ですが、書いた人の気持ちが入りにくい資料です。歴史を調べるときは、種類の違う資料を組み合わせて、どちらが正しいかを確かめます。この確かめ方を史料批判と呼びます。

入試には高校の科目がひととおり出たが、アインシュタインは数学を中心に独学していた

この入試は、高校の卒業資格をもたない人のための試験でした。だから、高校で習うはずの科目が、ひととおり出たのです。教養の部には、文学の歴史や政治の歴史も入っていました。アインシュタインは、ミュンヘンのギムナジウムを途中でやめています。その後はイタリアで、ほとんど独学で準備しました。独学で深めたのは、とくに数学でした。独学だと、好きな科目はどこまでも深く学べます。でも、試験に出る科目の全部を、まんべんなくおさえるのは難しくなります。

アーラウの卒業試験も、ちゃんと記録が残っています。数学の筆記は3問で、幾何が2問、代数が1問でした。対数表(かけ算などを楽にするための数の表)を使ってよいことになっていました。口頭試験はだれでも見に来られる公開のもので、工科大学からも2人の先生が立ち会いました。そのうちの1人は、学長のヘルツォークです。前の年、アインシュタインを落とした入試にもかかわった人でした。試験の前に出した届けに、アインシュタインは工科大学で数学と物理を学ぶつもりだと書いています。受けた9人は全員合格し、彼はその後、工科大学へ進みました。

「天才も昔は落ちこぼれだった」という話は、聞く人を勇気づけるので広まりやすい

「すごい人も、昔は勉強ができなかった」という話は、聞く人を勇気づけます。だから広まりやすく、広まるうちに細かいところが少しずつ変わっていきます。「入試に落ちた」が「数学で落第した」に変わったのは、そうした変化のよい例です。

本当の記録から分かるのは、もっと具体的なことです。得意な分野をとことん深めた人も、苦手な分野をほうっておくと試験では落ちる。そして、1年かけて足りないところを補い、卒業試験に受かれば、次の年には入学できる。勇気づけられるのは、むしろこちらの話かもしれません。

05まとめ

「アインシュタインは数学で落第した」は、記録で見るかぎりウソです。数学の成績は、ミュンヘンでは5年生から、スイスでもずっと、その学校の最高点でした。

本当に落ちたのは、16歳で受けた工科大学の入試です。原因は主に教養の部だったとみられ、本人も「落ちて当然」とふり返っています。そして1年後、卒業試験の筆記で、クラス最高の平均点を取りました。その試験のフランス語の作文には、「4」を意味する quatre を quatttre と書き間違えて、自分で上に書き直したあとが残っています。

人に話すなら、こう言おう

アインシュタインが数学で落第したってウソなんだって。数学は13歳ごろからずっと最高点。でも16歳で大学の入試に落ちたのは本当で、原因は歴史や語学なんかの教養の部だったらしいよ。通ってた学校、途中で成績の1と6が逆になったんだって。
READ IN ENGLISH

英語で読む

Did Einstein Fail Math?

CEFR A2228 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Many people say that Albert Einstein was bad at math.アルベルト・アインシュタインは数学が苦手だった、と多くの人が言います。 Some even say he failed math at school.学校で数学を落第した、と言う人までいます。 But his school records tell a different story.でも、彼の学校の記録はちがう話を伝えています。

In Munich, Germany, a grade of 1 was the best.ドイツのミュンヘンでは、成績の1がいちばん上でした。 From his fifth year, Einstein always got a 1 in math.5年生から、アインシュタインは数学でいつも1を取りました。 He also studied geometry alone from age 12.彼は12歳から、幾何学を自分で勉強してもいました。 He even found his own proof for a famous math rule.ある有名な数学の決まりについて、自分なりの証明まで見つけました。

But Einstein did fail one test.でも、アインシュタインが一つの試験に落ちたのは本当です。 In 1895, at the age of 16, he took the entrance exam for a top college in Zurich.1895年、16歳のとき、彼はチューリッヒの一流の大学の入学試験を受けました。 He was two years younger than the usual starting age.彼は、ふつうの入学年齢より2歳若かったのです。 Records suggest that he did well in science but poorly in general subjects like history and languages.記録からは、理系の科目はよくできたものの、歴史や語学のような一般の科目はできなかったようです。 Later, he wrote that his failure was fair.のちに彼は、落ちたのは当然だったと書いています。

So he spent a year at a school in the Swiss town of Aarau.そこで彼は、スイスのアーラウという町の学校で1年間過ごしました。 This school had a strange grading system.この学校には、変わった成績のつけ方がありました。 At first, 1 was the best grade for classes.はじめは、授業の成績は1がいちばん上でした。 Then, in 1896, the school changed the rule, and 6 became the best.ところが1896年、学校は決まりを変え、6がいちばん上になりました。 Einstein's math grades went from 1 to 6, but both were top grades.アインシュタインの数学の成績は1から6に変わりましたが、どちらも最高の成績でした。

In September 1896, he got his final grades.1896年9月、彼は最終の成績を受け取りました。 He got a 6 in algebra and a 6 in geometry.代数で6、幾何で6を取りました。 His French was weaker, with a 3.フランス語は苦手で、3でした。 Later that month, his written exam average was the highest in his class.その月の終わりの卒業試験では、筆記の平均点がクラスでいちばん高いものでした。 After that, he entered the college in Zurich.その後、彼はチューリッヒの大学に入学しました。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How old was Einstein when he took the entrance exam?

    入学試験を受けたとき、アインシュタインは何歳でしたか。

  3. Q3Why did Einstein fail the entrance exam?

    アインシュタインはなぜ入学試験に落ちたのですか。

  4. Q4In paragraph 4, the word "strange" is closest in meaning to

    第4段落の strange という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about Einstein's grades?

    アインシュタインの成績について正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • grade名詞
    成績、評価

    She got a good grade on her English test.

    彼女は英語のテストでよい成績を取った。

    💡 アメリカ英語では「学年」の意味もある(in the fifth grade)。

  • fail動詞
    (試験に)落ちる、失敗する

    He failed the driving test the first time.

    彼は1回目の運転免許の試験に落ちた。

    💡 名詞は failure(失敗)。反対は pass(合格する)。

  • entrance exam名詞
    入学試験

    My brother is studying hard for his entrance exam.

    兄は入学試験に向けて一生けんめい勉強している。

    💡 entrance は enter(入る)の名詞形。exam は examination の短い形。

  • geometry名詞
    幾何学(図形の数学)

    In geometry class, we learned about triangles.

    幾何の授業で、三角形について習った。

    💡 geo(土地)+ metry(測ること)。もとは「土地を測る学問」。

  • proof名詞
    証明、証拠

    Do you have any proof that he was there?

    彼がそこにいたという証拠はありますか。

    💡 動詞は prove(証明する)。waterproof は「防水の」。

  • subject名詞
    科目、教科

    Science is my favorite subject.

    理科は私のいちばん好きな科目だ。

    💡 「話題」「主語」の意味もある。

  • algebra名詞
    代数(文字を使う数学)

    In algebra, we use letters like x and y.

    代数では、xやyのような文字を使う。

    💡 アラビア語 al-jabr から来た語。

  • average名詞・形容詞
    平均(の)

    The average age of the class is 15.

    そのクラスの平均年齢は15歳だ。

    💡 on average で「平均して」。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 27件)。

  1. The Collected Papers of Albert Einstein, Vol. 1(Princeton University Press)p. lx–lxi:妹マヤの伝記の下書きと編集注(アーカイブ)web.archive.org
  2. 同 Vol. 1, editorial note "ETH Entrance Examination and Aargau Kantonsschule"(アーカイブ)web.archive.org
  3. 同 Vol. 1, Doc. 8 注3(アーラウの学校の成績のつけ方)(アーカイブ)web.archive.org
  4. 同 Vol. 1, Doc. 10(アーラウの成績記録・フランス語の「抗議」)(アーカイブ)web.archive.org
  5. 同 Vol. 1, Doc. 19–20(1896年の最終成績とマトゥーラ)(アーカイブ)web.archive.org
  6. Einstein: Formative Years II(American Institute of Physics)history.aip.org

公式ページで見てみよう

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

NEXT TRIVIAこの雑学にうなった人は、これにもうなる