
「ひなに人がさわると親鳥が見捨てる」はウソだが、においをかぎ分ける鳥もいる
親鳥は、ひなをにおいで見分けているわけではない。
この判定の対象「ひなに人がさわると、親鳥がそのひなを見捨てる」
もくじ
日本野鳥の会によると、4月から7月には、ひなについての問い合わせがたくさん届くそうです。よくある質問の一つは、「ひなを見つけたときは、どうしたらよいのか」です。
ひなを見つけたとき、多くの人が思い出す言い伝えがあります。「ひなに人がさわると、人のにおいがついて、親鳥がひなを見捨ててしまう」というものです。
結論から言うと、この話はウソです。親鳥は、ひなをにおいで見分けているわけではありません。ところが、よく一緒に語られる「鳥は鼻がきかないから」という説明も、単純すぎるかもしれないことが、研究から見えてきました。
この記事では、まず、鳥の専門家がこの言い伝えをどう説明しているかを紹介します。次に、鳥のにおいの感じ方について、研究で分かってきたことを見ます。最後に、ひなを見つけたときに本当に気をつけたいことを紹介します。
01鳥の専門家は「人がさわっても、においで見捨てることはない」と言う
アメリカのコーネル大学には、鳥を専門に研究する鳥類学研究所があります。2011年、科学ニュースサイト『ライブサイエンス』の取材に、この研究所の生物学者ミヨコ・チューが答えています。
チューは、言い伝えを「間違い」だと説明しました。鳥はあまり鋭い嗅覚(においを感じる力)を持っていないので、親を警戒させるようなにおいは残らない、というのです。記事によると、たいていの親鳥は、人が少しさわったくらいではひなを見捨てません。チューは、鳥は普通、子育てにとても熱心で、簡単には子育てをやめないと言います。
2015年には、『ナショナル ジオグラフィック』のウェブサイトが、同じ研究所の助言を紹介しました。助言の中には、はっきりこう書かれています。親鳥はひなをにおいで見分けていない。だから、人がさわったひなを見捨てることはない。
02「鳥は鼻がきかない」という説明も、単純すぎるかもしれない
では、鳥は本当に、においがほとんど分からないのでしょうか。
2008年、ある研究チームが、9種類の鳥のにおいを感じる遺伝子を調べました。研究チームによると、それまで鳥は、主に目と耳にたよる動物だと広く考えられてきました。遺伝子の中には、壊れていて働かないものもあります。以前の研究では、ニワトリの祖先の鳥(セキショクヤケイ)で、においを感じる遺伝子の多くが働かないものだと報告されていました。ところが2008年の研究で9種類の鳥を調べてみると、見つかったにおいを感じる遺伝子の多くが、働く可能性のある遺伝子でした。研究チームは、鳥にとって嗅覚は、一般に考えられているより大切な感覚かもしれないと結論づけています。
この研究は、脳の中でにおいを受け持つ「嗅球」という部分の大きさも比べています。嗅球の大きさは、においを感じる力の目安になるかもしれないと考えられています。そして、嗅球の大きさは、鳥の種類によって大きく違います。この研究では、嗅球のいちばん長い差しわたしが、大脳(脳の大きな部分)の片側のいちばん長い差しわたしの何%に当たるかで表しています。カナリアは6.0%、アオガラは9.7%でした。一方、海鳥のユキドリは37.0%、夜に活動するキーウィは34.0%でした。ユキドリの嗅球の割合は、カナリアの約6倍です。
03アオガラは、巣箱の中の捕食者のにおいに気づいた
小鳥のにおいの力を、実験で確かめた研究もあります。2008年に発表された研究では、小鳥のアオガラを調べました。
研究チームは、生後8日のひなにえさを運んでいるアオガラの巣箱に、3種類のにおいのどれかを置きました。1つ目は、鳥をおそう動物であるイタチの仲間のにおい。2つ目は、ウズラのにおい。3つ目は、においのない水です。
イタチの仲間のにおいを置いた巣箱では、ウズラのにおいや水のときと比べて、親鳥の行動が変わりました。巣箱に入るのがおそくなりました。入り口にとまったまま、中に入らないことも多くなりました。えさを運んだときに巣箱の中にいる時間も、短くなりました。アオガラは、においで危険に気づいていたのです。
つまり、においが分かる鳥はいます。それでも、人がさわったひなが見捨てられないのは、親鳥がひなをにおいで見分けていないからです。においが分かることと、においで自分の子を見分けることは、別の話なのです。

深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
本当に気をつけたいのは、においより「人がそばにいること」
人がさわっても、においのせいで見捨てられることはありません。では、ひなに近づいても問題はないのでしょうか。
日本野鳥の会によると、巣立ったばかりのひなはあまり動きません。そして親鳥は、人がひなの近くにいると警戒して、近づくことができません。だから、ひなを見つけたら、その場を離れるほうがよい、と説明しています。
カリフォルニア大学デービス校の鳥類学者トム・ハーンは、別の危険をあげています。人が巣のまわりで動き回ると、その動きが、ひなをねらう動物の注意を引くかもしれません。その動物が、あとでひなを食べに来るおそれがある、というのです。ハーンは、こちらのほうがずっと大きな危険だと述べています。
人が見つけるひなの多くは、巣から落ちたのではなく、自分で巣を出たひな
ひなには、大きく2つの時期があります。コーネル大学鳥類学研究所の助言によると、人が見つけるひなの多くは「巣立ちびな」です。羽が生えていて、ぴょんぴょん跳べるひなです。巣立ちびなは、一度巣を出るとほとんど巣にもどりません。巣にもどしても、また跳び出してしまいます。
もう1つは、羽がまばらで、跳ぶことも、指にしっかりつかまることもできないひなです。こちらは、まだ巣の中で育つ時期のひなです。助言では、巣が見つかれば、できるだけ早く巣にもどすようすすめています。
コーネル大学のチューも、若い鳥が、うまく飛べるようになる前に巣を出るのはよくあることだと言います。取り残されたように見えても、親が近くにかくれていることがあります。離れて見ていると、多くの場合、親がもどってきて、えさをやり、ひなを守るそうです。
ひなが親鳥と過ごす短い期間に学ぶこと
日本野鳥の会によると、巣立ったひなは、しばらく親鳥と一緒に行動します。その間に、飛び方やえさのとり方を身につけます。巣立ってから親鳥と過ごすのは、1週間から1か月ほどの短い期間です。ひなはこの間に、何が食べ物で、何が危険かを学んで、ひとり立ちします。
そのため、人がひなを拾って育てても、そのひなが自然の中で生きていけるとは限りません。日本野鳥の会は、誤って保護され、親鳥と引き離されてしまうひなが後を絶たないと書いています。そこで30年以上、「野鳥の子育て応援(ヒナを拾わないで)キャンペーン」を続けてきました。日本鳥類保護連盟などと協力して、毎年約10万枚以上のポスターを作り、動物園や公園などに、はってもらうようお願いしています。
言い伝えの理由は間違いだが、「むやみに手を出さない」は専門家のすすめと重なる
「さわると見捨てられる」という言い伝えは、理由が間違っています。それでも、ひなにむやみに手を出さないという行動そのものは、日本野鳥の会のすすめと重なります。日本野鳥の会は、ネコやカラスが心配なら、ひなを近くの茂みに移せばよいと説明しています。親鳥は、姿が見えなくても、ひなの声で気づけるからです。けがをしているひなや、めずらしい種類のひななど、そのままにできないときは、自治体などに相談するようすすめています。
04まとめ
「ひなに人がさわると、親鳥が見捨てる」はウソです。親鳥は、ひなをにおいで見分けていません。ただし、「鳥は鼻がきかない」という説明も、正しいとは言い切れません。アオガラの親は、巣箱の中の捕食者のにおいに気づいて、入るのをためらいました。
本当に気をつけたいのは、人がそばにいて、親鳥がひなに近づけないことです。人が見つけるひなの多くは、巣立ったばかりのひなです。春から夏にひなを見つけたら、まずはその場を離れて、少し遠くから親鳥がもどってくるか見てみてください。
人に話すなら、こう言おう
ひなに人がさわると親鳥が見捨てるって、ウソなんだって。親はひなをにおいで見分けていないらしい。でも、イタチの仲間のにおいに気づいて巣箱に入りしぶる鳥もいるんだって。
英語で読む
Will a Mother Bird Leave a Baby You Touched?
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
Many people believe an old story about baby birds.多くの人が、鳥のひなについての古い言い伝えを信じています。 If you touch a baby bird, the parents will smell you on it.ひなにさわると、親鳥がひなについたあなたのにおいに気づく。 Then they will leave the baby and never come back.そして、親鳥はひなを置き去りにして、二度ともどってこない、というものです。
Scientists say this story is wrong.科学者たちは、この言い伝えは間違いだと言います。 A bird scientist in the United States said that parent birds are usually very devoted to their young.アメリカの鳥の科学者は、親鳥はふつう子どもにとても熱心だと言いました。 They usually do not stop caring for a baby after a little human touch.人が少しさわったくらいで、ふつうはひなの世話をやめません。 Also, parent birds do not know their babies by smell.それに、親鳥はひなをにおいで見分けていません。
But the idea that birds cannot smell may be too simple.しかし、鳥はにおいが分からないという考えは、単純すぎるかもしれません。 In 2008, a study looked at the smell genes of nine kinds of birds.2008年、ある研究が9種類の鳥のにおいの遺伝子を調べました。 Many of the genes seemed to work.その遺伝子の多くは、働いているようでした。 Another study put the smell of a weasel-like animal inside the nest boxes of small birds called blue tits.別の研究では、アオガラという小鳥の巣箱の中に、イタチのような動物のにおいを置きました。 The parents waited longer before going in, and they stayed inside for a shorter time.親鳥は、中に入るまでに長く待ち、中にいる時間も短くなりました。
So what should you do if you find a baby bird?では、ひなを見つけたらどうすればよいのでしょうか。 Most baby birds that people find have already left the nest.人が見つけるひなの多くは、すでに巣を出たひなです。 Their parents may be close by.その親鳥は、近くにいるかもしれません。 A bird group in Japan says that parents cannot come near when people are close.日本の野鳥の団体は、人が近くにいると親鳥は近づけないと言っています。 The best thing is often to walk away and watch from far away.多くの場合、いちばんよいのは、その場を離れて遠くから見守ることです。
Young birds spend one week to one month with their parents after they leave the nest.若い鳥は、巣を出たあと1週間から1か月、親鳥と一緒に過ごします。 During this short time, they learn what to eat and what is dangerous.この短い期間に、何を食べればよいか、何が危険かを学ぶのです。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B Whether parent birds leave babies that people touched
第1段落で「さわると見捨てられる」という言い伝えを紹介し、第2段落でそれが間違いだと説明しているので正解はB。Aの巣箱は第3段落で実験の場所として出てくるだけ。
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Q2How many kinds of birds did the 2008 study look at?
2008年の研究は、何種類の鳥を調べましたか。
正解:D Nine
第3段落の2文目に「9種類の鳥のにおいの遺伝子を調べた」とあるので正解はD。
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Q3What did blue tit parents do when they found the weasel-like smell?
アオガラの親は、イタチのような動物のにおいに気づいたとき、何をしましたか。
正解:A They waited longer before going into the nest box.
第3段落の最後の文に、親鳥は中に入るまでに長く待ち、中にいる時間も短くなったとあるので正解はA。Bの「二度ともどらない」は第1段落の言い伝えの内容で、実験の結果ではない。
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Q4In paragraph 2, the word "devoted" is closest in meaning to ...
第2段落の devoted という語にいちばん近い意味はどれですか。
正解:C caring very much
第2段落で、親鳥は devoted なので、少しさわられたくらいでは世話をやめないと続いているので、「とても大切に思っている(熱心な)」の意味で正解はC。
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Q5Which is true according to the story?
本文の内容に合うものはどれですか。
正解:D Young birds learn what is dangerous from their parents.
第5段落に、巣を出たあと親鳥と過ごす間に何が危険かを学ぶとあるので正解はD。Aは第3段落の実験、Bは第2段落の最後の文、Cは第4段落の2文目と合わない。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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parent名詞親
Both parents took care of the baby.
両親がそろって赤ちゃんの世話をした。
💡 parents(両親)と複数形でよく使う。
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smell動詞・名詞においをかぐ/におい
I can smell bread in the kitchen.
台所でパンのにおいがする。
💡 sense of smell で「嗅覚」。
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devoted形容詞熱心な、愛情深い
She is a devoted teacher.
彼女は熱心な先生だ。
💡 be devoted to ~ で「~に尽くしている」。
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gene名詞遺伝子
Eye color is passed down through genes.
目の色は遺伝子を通して受けつがれる。
💡 発音は「ジーン」。ジーンズの jeans と同じ音。
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nest名詞巣
A bird made a nest in the tree.
鳥が木に巣を作った。
💡 nest box は「巣箱」。
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weasel名詞イタチ
A weasel ran across the field.
イタチが野原を走って横切った。
💡 小さな肉食の動物。
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dangerous形容詞危険な
It is dangerous to swim here.
ここで泳ぐのは危険だ。
💡 名詞は danger(危険)。反対は safe(安全な)。
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close by熟語すぐ近くに
There is a park close by.
すぐ近くに公園がある。
💡 close はここでは「近い」の意味で、発音は「クロウス」。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 20件)。
- Eveleth, R. (2011) Do Birds Really Abandon Their Chicks If Humans Touch Them?, Live Sciencelivescience.com
- Engelhaupt, E. (2015) Should You Put a Baby Bird Back in the Nest?, National Geographicnationalgeographic.com
- Steiger, S. S. et al. (2008) Avian olfactory receptor gene repertoires: evidence for a well-developed sense of smell in birds?, Proceedings of the Royal Society Bdoi.org
- Amo, L. et al. (2008) Predator odour recognition and avoidance in a songbird, Functional Ecologydoi.org
- 野鳥の子育て応援キャンペーン(日本野鳥の会)wbsj.org
公式ページで見てみよう
- 野鳥の子育て応援キャンペーン(日本野鳥の会)wbsj.org
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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