「宇宙は無音」なのに、NASAがブラックホールの“音”を公開した理由

読む前に予想してみよう!
宇宙空間ではどこでも、音は絶対に伝わらない
星間ガスや銀河団のガスのように物質があれば、とても低い圧力の波(音波)が伝わることがある。
- 対象
- ペルセウス座銀河団の高温ガス
- 規模
- 単一の銀河団(チャンドラX線観測)
- 研究の種類
- 観測+データの可聴化
- 確かさ
- ★★★★☆
銀河団のガスにはブラックホールが起こした圧力の波が実際にある。ただし人間に聞こえないほど低いため、NASAは音程を大幅に上げて“聞こえる音”にした。
ひとことで言うとブラックホールのまわりには、ものすごく低い“音の波”があるんだって。
「宇宙では、叫んでもだれにも聞こえない」。1979年の映画『エイリアン』のキャッチコピーにもあるように、宇宙は無音の世界だと言われます。
ところが2022年、NASAはSNSで「ブラックホールの音」を公開しました。不気味にうなるような低い音に、「宇宙は無音じゃなかったの?」と世界中がざわつきました。
いったい、あの“音”の正体は何だったのでしょうか。
01そもそも音って何?
音の正体は、空気などの物質がゆれて伝わる“圧力の波”です。太鼓をたたくと皮がふるえ、周りの空気が押されたり引かれたりして、その波が耳まで届きます。
宇宙空間の多くはほぼ真空(物質がほとんどない状態)なので、ゆらす物質がない。だから音は伝わりにくい──これが「宇宙は無音」と言われる理由です。
でも、宇宙は完全な空っぽではありません。場所によっては、うすいガスが大量にただよっています。
02ペルセウス座銀河団の「本物の音波」
地球から約2億4000万光年かなたにあるペルセウス座銀河団。ここには何千もの銀河が集まっていて、その間は数千万度もの高温ガスで満たされています。
この波紋は、ブラックホールが周りのガスを押しのけて泡を作るときに生まれる、本物の圧力の波=音波だと考えられています。その音の高さは、ピアノの真ん中の「ド」より57オクターブも低いシ♭に相当すると見積もられ、「宇宙で見つかった中でいちばん低い音」として話題になりました。

03人間に聞こえるように「57オクターブ上げた」
とはいえ、57オクターブも低い音は、もちろん人間の耳には聞こえません。1回ゆれるのに約1000万年もかかるような、とてつもなくゆっくりした波だからです。
そこでNASAのチームは、観測データから読みとった波を、57〜58オクターブ上げて人間に聞こえる高さにしました。こうしてできたのが、2022年に公開された“ブラックホールの音”です。
このように、データを音に変えて表現する手法をソニフィケーション(可聴化)といいます。目の見えない人や見えにくい人にも宇宙の姿を届けられる方法として、天文学で注目されています。イタリアのザネッラらが2022年に学術誌『Nature Astronomy』で発表したレビューでは、天文学のソニフィケーションの取り組みが世界で数多く生まれている一方、「どう聞かせれば正しく伝わるか」の評価はまだ発展途上だと指摘されています。
04「音」が銀河の運命を左右している?
この低い音波は、ただの珍現象ではありません。
銀河団のガスは、本来なら時間とともに冷えて、新しい星がたくさん生まれるはず。ところが実際には、思ったほど冷えていません。その理由のひとつとして、ブラックホールが生み出す音波や泡がガスを温め続けている可能性が考えられています。フェビアンは2012年のレビュー論文で、こうしたブラックホールからのエネルギーの注入(AGNフィードバック)が銀河団ガスの冷却を抑えているという観測的な証拠をまとめています。
ブラックホールの「歌声」が、銀河の成長にブレーキをかけているのかもしれないのです。
05まとめ
- 宇宙の多くは真空だが、銀河団のガスには本物の音波がある
- その音は「ド」より57オクターブ低いとされ、人間には聞こえない
- NASAは音程を大幅に上げるソニフィケーションで、“聞こえる音”にした
「宇宙は無音」は半分正解、半分まちがい。宇宙は、私たちの耳では聞こえないほど低い声で、ずっと歌っているのかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerSound is a pressure wave that needs matter, such as air, to travel through.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
People often say that space is silent. Sound is a wave that moves through air or other matter, and most of space is almost empty.
But in 2022, NASA shared the "sound" of a black hole. Around a giant black hole in the Perseus galaxy cluster, there is a lot of hot gas, and this gas carries real waves. The waves are much too low for people to hear. So NASA made them 57 to 58 octaves higher.
78 words ・ CEFR A2
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宇宙は無音だとよく言われます。音は空気などの物質の中を伝わる波であり、宇宙のほとんどはほぼ空っぽだからです。
しかし2022年、NASAはブラックホールの「音」を公開しました。ペルセウス座銀河団にある巨大ブラックホールの周りには高温のガスがたくさんあり、このガスが本物の波を運んでいます。その波は低すぎて、人には聞こえません。そこでNASAは、それを57〜58オクターブ高くしました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
宇宙は無音と言われるのに、NASAがブラックホールの「音」を公開した、という話が中心なので B。
Q2. What did NASA do to the waves?
最終文 NASA made them 57 to 58 octaves higher. とあるので A。
Q3. In this passage, "silent" means ...
silent は「静かな・音のない」。直後で音が伝わるしくみを説明しているので D。
Sound is a pressure wave that needs matter, such as air, to travel through. Because most of space is almost a vacuum, it is usually silent. However, the Perseus galaxy cluster is filled with extremely hot gas. In 2003, a team led by Andrew Fabian reported data from NASA's Chandra X-ray Observatory showing ripples in this gas, like the rings that spread when you throw a stone into a pond. These ripples are real sound waves created by a giant black hole.
Their pitch is estimated to be a B-flat 57 octaves below middle C, far too low for humans to hear. In 2022, NASA raised the pitch by 57 to 58 octaves. This method of turning data into sound is called sonification.
123 words ・ CEFR B1
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音は圧力の波であり、空気のような物質がなければ伝わりません。宇宙のほとんどはほぼ真空なので、ふつうは無音です。しかし、ペルセウス座銀河団はきわめて高温のガスで満たされています。2003年、アンドリュー・フェビアンが率いるチームは、NASAのチャンドラX線観測衛星のデータから、池に石を投げたときに広がる輪のような波紋がこのガスにあることを報告しました。これらの波紋は、巨大ブラックホールが生み出した本物の音波です。
その音の高さは、ピアノの真ん中のドより57オクターブ低いシ♭と見積もられており、人間には低すぎて聞こえません。2022年、NASAはその音程を57〜58オクターブ上げました。このようにデータを音に変える手法は、ソニフィケーション(可聴化)と呼ばれます。
4択リーディングクイズ
Q1. Why is space usually silent?
Because most of space is almost a vacuum, it is usually silent. と理由が書かれているので C。
Q2. What did Fabian's team find in the Perseus galaxy cluster?
showing ripples in this gas とあり、銀河団の高温ガスの波紋を見つけたので B。
Q3. What can we infer about the sound NASA shared in 2022?
本物の波は人間には低すぎるため、NASAは音程を57〜58オクターブ上げた。つまり公開された音は本物の波を大幅に高くしたものなので D。
Sound requires a medium, and since most of space is close to a vacuum, the idea that space is silent is largely correct. Galaxy clusters, however, are an exception. The Perseus cluster, more than 200 million light-years away, contains thousands of galaxies surrounded by gas heated to tens of millions of degrees. Chandra X-ray observations reported by Fabian and colleagues in 2003 revealed ripples in this gas, interpreted as pressure waves produced when the central black hole inflates bubbles.
Each oscillation is thought to take about ten million years, a pitch some 57 octaves below middle C. NASA's 2022 release shifted these signals up by 57 to 58 octaves so that people could hear them. The waves may also matter for galaxy evolution: the gas cools less than expected, and Fabian's 2012 review summarized evidence that energy from black holes helps prevent it from cooling and forming stars. Caution is needed, though. The famous pitch is an estimate based on the spacing of the ripples, how efficiently the waves heat the gas depends on the model, and the 2022 audio was built from brightness variations rather than recorded waveforms.
189 words ・ CEFR B2
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音には伝える媒体が必要であり、宇宙のほとんどは真空に近いので、「宇宙は無音」という考えはおおむね正しいと言えます。しかし、銀河団は例外です。2億光年以上離れたペルセウス座銀河団には何千もの銀河があり、その周りは数千万度に熱せられたガスに包まれています。フェビアンらが2003年に報告したチャンドラのX線観測によって、このガスに波紋があることが明らかになりました。これは、中心のブラックホールが泡をふくらませるときに生じる圧力の波だと解釈されています。1回の振動には約1000万年かかると考えられ、その音の高さは真ん中のドより約57オクターブ低くなります。
NASAが2022年に公開した音は、人々が聞けるように、これらの信号を57〜58オクターブ高くしたものです。この波は銀河の進化にも関係しているかもしれません。銀河団のガスは予想ほど冷えておらず、フェビアンの2012年のレビューは、ブラックホールからのエネルギーがガスの冷却と星の誕生を妨げているという証拠をまとめました。ただし注意も必要です。有名な音の高さは波紋の間隔に基づく推定値であり、波がガスをどれだけ効率よく温めるかはモデルによって異なります。また、2022年の音源は録音された波形ではなく、明るさのゆらぎから作られたものです。
4択リーディングクイズ
Q1. According to the passage, why are galaxy clusters an exception to the silence of space?
銀河団は数千万度のガスに包まれており、そのガスに圧力の波(音波)が伝わるため例外とされているので A。
Q2. What role might the waves play in galaxy evolution?
energy from black holes helps prevent it from cooling and forming stars とあるので C。A は逆の内容。
Q3. Which statement would the author most likely agree with?
最終部分で、音の高さは推定値、加熱効率はモデル依存、音源は明るさのゆらぎから作ったと述べている。本物の波に基づくが細部は推定、という D が筆者の立場。
重要単語
- sound waveB1名詞(句)音波Sound waves cannot travel through a vacuum.
音は「圧力の波」。light wave(光波)、radio wave(電波)など wave の仲間で覚えると便利。 - vacuumB2名詞真空Most of outer space is close to a vacuum.
u が2つ続くつづりに注意。vacant(空いている)と同語源。vacuum cleaner は「掃除機」。 - sonificationC1名詞可聴化(データを音に変えること)Sonification lets people hear data from telescopes.
son-(音、sonic と同じ)+-ification(~化)。visualization(可視化)の「音」版と覚える。 - galaxy clusterC1名詞(句)銀河団A galaxy cluster can contain thousands of galaxies.
cluster は「房・集団」。a cluster of grapes(ブドウの房)のように日常でも使う。 - octaveB2名詞オクターブRaising a note by one octave doubles its frequency.
octo-(8)が語源。octopus(8本足のタコ)、October(もとは8番目の月)と同じ。 - pitchB1名詞音の高さ・音程NASA raised the pitch so that people could hear it.
野球の「投球」、サッカーの「ピッチ」と同じつづり。音楽では high pitch / low pitch と言う。 - mediumB2名詞媒体・媒質Sound needs a medium such as air or water.
複数形は media。「中間の」という意味から、何かを伝える「間に入るもの」。mass media の media と同じ語。
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- A Universe of Sound(NASA Chandra X-ray Center)chandra.harvard.edu
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「宇宙は無音」のはずなのに、NASAがブラックホールの“音”を公開。実はペルセウス座銀河団のガスには、ブラックホールが起こした本物の圧力の波がある。低すぎて聞こえないので57〜58オクターブ上げたらしい。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Fabian et al. (2003) A deep Chandra observation of the Perseus cluster: shocks and ripples, MNRASdoi.org
- Fabian (2012) Observational Evidence of Active Galactic Nuclei Feedback, Annual Review of Astronomy and Astrophysicsdoi.org
- Zanella et al. (2022) Sonification and sound design for astronomy research, education and public engagement, Nature Astronomydoi.org
- NASA Chandra X-ray Center, A Universe of Sound, NASA/CXCchandra.harvard.edu
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。













