ブラックホールに落ちると“スパゲッティ”になる。でも巨大なほど安全という逆説

読む前に予想してみよう!
大きいブラックホールほど、近づいたときに体が引きのばされやすい
境界付近で比べると、小さいブラックホールのほうが重力の「差」が急で、スパゲッティ化しやすい。
- 対象
- ブラックホール周辺の重力(潮汐力)
- 規模
- 理論+多数の潮汐破壊現象の観測
- 研究の種類
- 理論・観測
- 確かさ
- ★★★★☆
ブラックホールに近づくと、頭と足にかかる重力の差で体が細長く引きのばされる。ただし超巨大ブラックホールでは境界を越えるまで無事な場合も。
ひとことで言うとブラックホールに近づくと、体がめんみたいに長くのびちゃう!
もし、ブラックホールに落ちてしまったら?SF映画の定番シーンですが、物理学の答えはなかなか衝撃的です。
体が細長く、細長く、引きのばされていく。まるでスパゲッティのように。
この現象は、英語でスパゲッティフィケーション(スパゲッティ化)と呼ばれています。ふざけた名前のようですが、れっきとした物理現象です。
01犯人は「重力の差」
重力は、近いほど強く、遠いほど弱くなります。
地球の上では、頭と足にかかる重力の差はほとんどゼロ。でもブラックホールの近くは別世界です。重力がものすごく強いうえに、少し距離が違うだけで重力の強さが大きく変わるのです。
たとえば足からブラックホールに落ちていくと……
- 足は頭より強く引っぱられる
- 頭は足より弱く引っぱられる
その結果、体は縦に引きのばされます。さらに、体の左右は中心に向かって寄せられるので、横には押しつぶされる。こうして体はスパゲッティのように細長くなるのです。
この「場所による重力の差」が生む力を、潮汐力(ちょうせきりょく)といいます。地球の潮の満ち引きを起こしているのと、同じ種類の力です。

02大きいブラックホールのほうが“安全”?
ここからが、ちょっと不思議な話です。
ブラックホールには、ここを越えたら光でさえ戻れないという境界があります。これを事象の地平面(イベント・ホライズン)といいます。
実は、事象の地平面のあたりで比べると、小さいブラックホールほど潮汐力が強く、大きいブラックホールほど潮汐力が弱いのです。
- 太陽の数倍〜数十倍ほどの小さめのブラックホール:境界に着くずっと手前でスパゲッティ化
- 銀河の中心にある、太陽の数百万倍〜数十億倍の超巨大ブラックホール:境界を越えるときはまだ体は無事なことも
大きいブラックホールは、境界そのものがとても大きいので、そこでは重力の「差」がゆるやかになるからです。ただし、境界を越えたらもう二度と出られません。結局は中心に向かうにつれて、スパゲッティ化は避けられないと考えられています。
03星がスパゲッティになる瞬間が観測された
人がブラックホールに落ちたことはもちろんありません。でも、星がスパゲッティ化する現象は実際に観測されています。
星がブラックホールに近づきすぎると、潮汐力で引きちぎられ、細長いガスの流れになって吸い込まれていきます。このとき強く輝くのが、潮汐破壊現象(TDE)です。
04まとめ
- ブラックホールに近づくと、重力の差(潮汐力)で体が細長く引きのばされる
- 境界付近では、小さいブラックホールのほうが危険という逆説がある
- 星が引き裂かれる潮汐破壊現象は、実際に観測されている
2019年には、国際チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ」が、銀河M87の中心にある巨大ブラックホールの影を初めて撮影しました。かつて想像の世界だったブラックホールは、いまや「見て、調べる」対象になっているのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerGravity becomes weaker with distance, so near a black hole, your feet would feel a much stronger pull than…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
What would happen if you fell into a black hole feet first? Your body would become long and thin, like spaghetti. Gravity is stronger when you are closer.
So your feet would be pulled much harder than your head. This difference in gravity is called a tidal force. Strangely, the edge of a very big black hole is safer than the edge of a small one. Scientists have even seen stars torn apart by black holes.
76 words ・ CEFR A2
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もし足からブラックホールに落ちたら、どうなるでしょうか。体はスパゲッティのように長く細くなってしまいます。重力は近いほど強くなります。
そのため、足は頭よりもずっと強く引っぱられるのです。この重力の差は潮汐力と呼ばれます。不思議なことに、とても大きなブラックホールの境界は、小さなブラックホールの境界より安全です。科学者たちは、星がブラックホールに引き裂かれるところまで観測しています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
ブラックホールに落ちると体が引きのばされる話が中心なので C。spaghetti はたとえとして使われているだけ。
Q2. Why would your feet be pulled harder than your head?
Gravity is stronger when you are closer. So your feet would be pulled much harder とあり、足のほうが近いからなので A。
Q3. In this passage, "torn apart" means ...
tear apart は「引き裂く」。torn は tear の過去分詞。星がばらばらに引き裂かれるという意味なので D。
Gravity becomes weaker with distance, so near a black hole, your feet would feel a much stronger pull than your head. Your body would be stretched vertically and squeezed from the sides. Scientists call this "spaghettification," and the force behind it is a tidal force. Small black holes are actually more dangerous.
A black hole only a few times heavier than the Sun would stretch you long before you reached its event horizon, the border that even light cannot escape from. At a supermassive black hole, however, you might cross that border safely, although you could never come back. This process also happens to stars. When a star is torn apart by a black hole, it shines brightly in a "tidal disruption event."
123 words ・ CEFR B1
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重力は距離とともに弱くなるので、ブラックホールの近くでは、足は頭よりもずっと強い引力を感じます。体は縦に引きのばされ、左右から押しつぶされます。科学者はこれを「スパゲッティ化」と呼び、その原因となる力が潮汐力です。実は、小さいブラックホールのほうが危険です。
太陽の数倍しか重さのないブラックホールでは、光でさえ逃げられない境界である事象の地平面にたどり着くずっと前に、体が引きのばされてしまいます。ところが超巨大ブラックホールなら、二度と戻ってはこられないものの、その境界を無事に越えられるかもしれません。この現象は星にも起こります。星がブラックホールに引き裂かれると、「潮汐破壊現象」として明るく輝くのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What causes spaghettification?
足のほうが頭より強く引っぱられる、つまり場所による重力の差(潮汐力)が原因なので B。
Q2. What is the event horizon?
its event horizon, the border that even light cannot escape from と同格で説明されているので C。
Q3. What can we infer from the passage?
you might cross that border safely, although you could never come back とあり、無事に越えても戻れないことが読み取れるので D。A は always が言い過ぎ。
Because gravity weakens with distance, an object falling toward a black hole is pulled harder at its nearer end than at its farther end. This difference, a tidal force, stretches the object lengthwise and squeezes it from the sides. The process is vividly nicknamed "spaghettification." Oddly, the danger at the event horizon is greater for small black holes. Tidal acceleration scales roughly with mass divided by the cube of the distance.
The horizon's radius grows in proportion to mass, so the tidal force at the horizon falls with the square of the mass. A black hole a few times the Sun's mass would tear a person apart well outside its horizon. Above roughly 100 million solar masses, even a Sun-like star could be swallowed whole. What happens inside the horizon is a prediction of general relativity that nobody can observe directly.
When a black hole rips a star apart, the result is a tidal disruption event, theoretically predicted by Martin Rees in 1988. Models still disagree on exactly how these events produce their light. Even so, a 2021 review by Gezari counted dozens of observed cases, and they have become valuable probes of black holes that would otherwise stay hidden.
200 words ・ CEFR B2
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重力は距離とともに弱くなるため、ブラックホールに向かって落ちる物体は、遠い側の端より近い側の端のほうが強く引っぱられます。この差が潮汐力で、物体を縦方向に引きのばし、横から押しつぶします。この過程には「スパゲッティ化」という印象的なあだ名がついています。意外なことに、事象の地平面での危険は、小さいブラックホールのほうが大きいのです。潮汐加速度はおおよそ質量を距離の3乗で割った値に比例します。
地平面の半径は質量に比例して大きくなるので、地平面での潮汐力は質量の2乗に反比例して弱まります。太陽の数倍の質量のブラックホールは、地平面のはるか外側で人を引き裂いてしまいます。太陽の約1億倍を超える質量なら、太陽のような星でさえ丸ごと飲み込まれうるのです。地平面の内側で何が起きるかは一般相対性理論の予言であり、誰も直接観測することはできません。ブラックホールが星を引き裂くと、潮汐破壊現象が起こります。
これはマーティン・リースが1988年に理論的に予測していました。こうした現象が具体的にどう光を生むのかについては、モデル間でまだ見解が分かれています。それでも、ジェザリによる2021年のレビューでは観測例が数十にのぼり、ふだんは隠れているブラックホールを調べる貴重な手がかりになっています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
潮汐力によるスパゲッティ化と、大きいブラックホールほど地平面での潮汐力が弱いという逆説が中心なので A。C は「数十の観測例」と矛盾。
Q2. According to the passage, what can happen at a black hole above roughly 100 million solar masses?
above roughly 100 million solar masses even a Sun-like star could be swallowed whole とあるので B。
Q3. Which limitation does the author mention?
Models still disagree on exactly how these events produce their light とあるので C。
重要単語
- tidal forceC1名詞(句)潮汐力Tidal forces can tear a star apart.
tide(潮の満ち引き)の形容詞が tidal。海の潮を起こす月の力と同じ種類の力。 - event horizonC1名詞(句)事象の地平面Nothing can escape once it crosses the event horizon.
horizon は「地平線・水平線」。その先が見えない境界というイメージ。broaden one's horizons「視野を広げる」も頻出。 - stretchB1動詞引きのばす・のびるThe black hole would stretch your body.
運動の「ストレッチ」と同じ。stretch out「(手足を)のばす」、a stretch of road「ひと続きの道」も覚えたい。 - supermassiveC1形容詞超巨大な(超大質量の)A supermassive black hole sits at the center of our galaxy.
super-(超)+massive(大量の・巨大な)。massive は mass(質量)の形容詞形。 - tidal disruption eventC1名詞(句)潮汐破壊現象Astronomers observed a tidal disruption event in a nearby galaxy.
disruption は dis-(ばらばらに)+rupt(壊す)。interrupt, erupt, bankrupt も同じ rupt の仲間。略称 TDE。 - counterintuitiveC1形容詞直感に反するIt is counterintuitive that bigger black holes are safer at the edge.
counter-(反対の)+intuitive(直感的な)。難関大の科学系長文で「意外な結果」を表す定番語。 - compressB2動詞圧縮する・押し縮めるThe tidal force compresses the body from the sides.
com-(共に)+press(押す)。ファイルの「圧縮」も compress。名詞は compression。
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- Black Holes(NASA Science)science.nasa.gov
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ブラックホールに足から落ちると、足と頭にかかる重力の差で体が細長く引きのばされる。通称「スパゲッティ化」。ところが超巨大ブラックホールほど、境界を越えるまでは平気らしい。大きいほうが安全という逆説。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Rees (1988) Tidal disruption of stars by black holes of 10^6–10^8 solar masses in nearby galaxies, Naturedoi.org
- Nicholl et al. (2020) An outflow powers the optical rise of the nearby, fast-evolving tidal disruption event AT2019qiz, MNRASdoi.org
- Gezari (2021) Tidal Disruption Events, Annual Review of Astronomy and Astrophysicsdoi.org
- Event Horizon Telescope Collaboration (2019) First M87 Event Horizon Telescope Results. I. The Shadow of the Supermassive Black Hole, The Astrophysical Journal Lettersdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。









