伝票にアメを添えるとチップが増えた。でも最強は「戻ってきてもう1個」だった

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小さなプレゼントをもらうと、相手のことを特に好きでなくても、お返しをしたくなることがある
好き嫌いとは別に、「もらったら返す」心理が働くことが実験で示されている。
- 対象
- レストランの客・大学生
- 規模
- 各実験 数十〜百数十(組または人)
- 研究の種類
- フィールド実験・実験室実験
- 確かさ
- ★★★☆☆
何かをもらうと「お返ししなきゃ」と感じる返報性。レストランで伝票にアメを添えるとチップが増え、「あなたたちだけ特別に」ともう1個渡すと、さらに増えた。
ひとことで言うともらったら、お返ししたくなる。アメ1個でも心は動く!
スーパーの試食で一口もらったら、なんとなく買わないと悪い気がする。
旅行のお土産をもらったら、次の旅行で何か買ってこなきゃと思う。
この「もらったら、お返ししなきゃ」という気持ちを、心理学では返報性(へんぽうせい)と呼びます。社会学者のグールドナーは1960年、このルールがほとんどの社会に共通して見られると論じました。人間の社会を回している、見えない歯車のようなものです。
01アメ1個で、チップは増えるのか
アメリカの心理学者デイヴィッド・ストロメッツらは、チップ文化のあるアメリカのレストランで、この心理を実験しました。
同じ「アメ2個」でも、まとめて渡すより「あなたたちのために、わざわざ戻ってきた」と感じさせる渡し方の方が効いたのです。研究者たちは、これを「気分が良くなったから」や「店員の印象が良くなったから」だけでは説明しきれず、返報性が強く関わっていると考えました。
ただし、この研究は限られたレストランで、少数の店員が行った小規模な実験です。その後、アメリカの店員1,000人以上へのアンケート調査(Lynn & McCall, 2009)では、こうした「チップが増える行動」をよくする店員ほどチップが多いと報告されましたが、こちらは自己申告の相関データです。「アメ作戦」がどの店でも同じだけ効くとまでは言えません。
02好きじゃない人にも、お返ししてしまう
返報性のパワーを示す、もうひとつの古典的な実験があります。
1971年、心理学者デニス・リーガンの実験では、参加者が「美術の評価」の作業をしている途中、仲間のふりをした仕掛け人が、休憩のついでに頼まれてもいないのにコーラを1本買ってきてくれます。
その後、仕掛け人が「くじ券を買ってくれない?」と頼むと、コーラをもらった人は、もらわなかった人より多くのくじ券を買いました。しかも、その傾向は仕掛け人のことをあまり好きでない人でも見られたのです。

03返報性は「人間関係の接着剤」
返報性は、もともと悪いものではありません。助けてもらったら助け返す。このルールがあるから、人は安心して他人に親切にできます。
ただ、その心理をわざと利用する場面もあります。
- 無料サンプルや試食のあとの購入のお願い
- 「特別に」「あなただけに」と強調されるおまけ
- 頼んでもいないのに届く小さな贈り物と、その後の寄付のお願い
返報性がやっかいなのは、もらった物の値段と、お返しの大きさがつり合わなくても働いてしまうところです。リーガンの実験でも、コーラ1本の値段より、くじ券に払った金額の方が大きくなりがちでした。小さな「借り」の気持ちが、大きな「お返し」を引き出してしまうことがあるのです。
相手が損をしない形での「お返し」なら問題はありません。でも、もらった物の価値よりずっと大きなお返しをさせられそうなら、立ち止まるサインです。
「大きなお願いを断ったら、小さなお願いはOKしてしまう」のも、お互いに譲り合う返報性の一種です。くわしくはお願いの2大テクニックの記事へ。
04まとめ
アメ1個でも人の行動が動くのは、私たちが「借りを返したい」と感じる、まっとうな心を持っているからです。
だからこそ、その心を守るために、感謝は言葉で、お金は自分の判断で。それが、返報性と上手につき合うコツです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerReciprocity is the feeling that we should return a favor.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
When someone gives us something, we often want to give something back. This is called reciprocity. In a study at American restaurants, servers gave candy to customers with the check.
Customers who got candy left bigger tips. The biggest tips came when the server walked away, came back, and gave one more piece "just for you." Even one small candy can change what people do.
65 words ・ CEFR A2
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誰かに何かをもらうと、私たちはしばしば何かお返しをしたくなります。これは返報性と呼ばれます。アメリカのレストランでの研究で、店員は伝票と一緒にお客さんにアメを渡しました。
アメをもらったお客さんは、より多くのチップを置いていきました。最も多いチップが出たのは、店員がいったん立ち去り、戻ってきて「皆さんだけに」ともう1個渡したときでした。小さなアメ1個でも、人の行動を変えることがあるのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
もらったらお返ししたくなる「返報性」がテーマなので B。
Q2. When did customers leave the biggest tips?
The biggest tips came when the server walked away, came back, and gave one more piece とあるので D。
Q3. In this passage, "give something back" means ...
give something back は「お返しをする」。親切に親切で返す、なので A。
Reciprocity is the feeling that we should return a favor. In 1960, a sociologist argued that this rule exists in almost every society. In a 2002 restaurant study, servers gave customers candy with the check. Tips increased with one piece and increased more with two.
The largest increase came when the server gave one piece, started to leave, then returned and offered an extra piece "just for this table." The customers seemed to feel the server had made a special effort for them. In a 1971 experiment, people who received an unexpected bottle of cola from a stranger bought more raffle tickets from him later, even if they did not like him very much.
114 words ・ CEFR B1
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返報性とは、親切にはお返しをすべきだという気持ちです。1960年、ある社会学者は、このルールはほとんどすべての社会に存在すると論じました。2002年のレストランの研究では、店員が伝票と一緒にお客さんにアメを渡しました。チップは1個で増え、2個でさらに増えました。最も大きく増えたのは、店員が1個渡して立ち去りかけ、戻ってきて「このテーブルだけに」ともう1個差し出したときでした。
お客さんは、店員が自分たちのために特別な努力をしてくれたと感じたようです。1971年の実験では、見知らぬ人から思いがけずコーラを1本もらった人は、後でその人からくじ券を多く買いました。その人のことをあまり好きでない場合でもそうだったのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the 1960 sociologist argue?
this rule exists in almost every society と論じたので C。
Q2. In the 1971 experiment, who bought more raffle tickets?
people who received an unexpected bottle of cola ... bought more raffle tickets とあるので A。
Q3. Why was "coming back with an extra piece" so effective?
The customers seemed to feel the server had made a special effort for them. とあるので C。
Reciprocity, the norm that a favor should be returned, is so widespread that a sociologist argued in 1960 that it is found in nearly every society. A 2002 field experiment in American restaurants examined how far a small gift could go. When servers handed customers candy along with the bill, tips rose; two pieces produced larger tips than one, and the largest increase occurred when the server gave one piece, began to walk away, then returned with an extra piece "just for you."
The researchers argued that improved mood or a better impression of the server could not fully explain this pattern, and that the personal, deliberate nature of the gesture strengthened the urge to reciprocate. A 1971 laboratory study showed that the norm can work even without liking: participants who received an unrequested cola from a confederate bought more raffle tickets from him, often spending more than the drink was worth. However, the restaurant study was small, involved only a few servers who knew the conditions, and has rarely been directly replicated. A later survey of over 1,000 servers linked such tactics to higher tips, but it relied on self-reported, correlational data.
193 words ・ CEFR B2
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親切にはお返しをすべきだという規範である返報性は非常に広く見られるため、1960年にある社会学者は、それがほぼすべての社会に存在すると論じました。2002年にアメリカのレストランで行われたフィールド実験は、小さな贈り物がどこまで効果を持つかを調べました。店員が伝票と一緒にお客さんにアメを手渡すとチップが上がり、2個のほうが1個よりチップが多く、最も大きく増えたのは、店員が1個渡して立ち去りかけ、それから「皆さんだけに」ともう1個持って戻ってきたときでした。
研究者たちは、気分が良くなったことや店員の印象が良くなったことだけではこのパターンを十分に説明できず、その行為が個人的で意図的であることがお返しをしたいという衝動を強めたのだと論じました。1971年の実験室研究は、この規範が好意なしでも働きうることを示しました。仕掛け人から頼んでもいないコーラをもらった参加者は、その人からくじ券を多く買い、しばしば飲み物の値段以上のお金を使ったのです。しかし、レストランの研究は小規模で、条件を知っていた少数の店員だけが関わっており、直接の追試はほとんど行われていません。その後の1,000人以上の店員への調査は、こうした工夫とチップの多さを結びつけましたが、それは自己申告の相関データに頼ったものでした。
4択リーディングクイズ
Q1. Which statement best summarizes the passage?
返報性の規範とアメ・コーラの実験を紹介し、最後に研究の限界を述べているので D。
Q2. What did the 1971 study show?
the norm can work even without liking とあるので C。
Q3. Which is a limitation of the restaurant study mentioned in the passage?
involved only a few servers who knew the conditions, and has rarely been directly replicated とあるので B。
重要単語
- reciprocityC1名詞返報性、お返しの原則Reciprocity helps people build trust.
形容詞 reciprocal(相互の)、動詞 reciprocate(お返しをする)。norm of reciprocity=返報性の規範。 - tipA2名詞・動詞チップ、心付け/チップを渡すIn the US, people usually leave a tip at restaurants.
leave a tip がコロケーション。「先端」「助言(tips)」の意味もある多義語。 - favorB1名詞親切な行為、頼みごとCan I ask you a favor?
ask 人 a favor / do 人 a favor。in favor of ~(~に賛成して)も頻出。英国つづり favour。 - obligationB2名詞義務感、恩義He felt an obligation to repay her kindness.
動詞 oblige。be obliged to do(~せざるを得ない)、I'm much obliged.(大変感謝します)。 - in returnB1熟語お返しにShe helped me, so I helped her in return.
in return for ~(~のお返しに)。in turn(順番に・今度は)と混同しやすいので注意。 - reciprocateC1動詞お返しをする、報いるShe smiled, and he reciprocated.
reciprocate a favor / feelings。恋愛では「(好意に)応える」の意味でも使う。 - deliberateB2形容詞意図的な、慎重なIt was a deliberate choice, not an accident.
副詞 deliberately(わざと)。動詞(熟考する)は発音が異なり /dɪˈlɪbəreɪt/。
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レストランで伝票と一緒にアメを渡すとチップが増える実験。でもいちばん効いたのは、1個渡して去りかけてから戻ってきて「皆さんには特別にもう1個」とするパターンだったらしい。返報性の心理、アメ1個でも侮れない。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Strohmetz et al. (2002) Sweetening the till: The use of candy to increase restaurant tipping, Journal of Applied Social Psychologydoi.org
- Regan (1971) Effects of a favor and liking on compliance, Journal of Experimental Social Psychologydoi.org
- Gouldner (1960) The norm of reciprocity: A preliminary statement, American Sociological Reviewdoi.org
- Lynn & McCall (2009) Techniques for increasing servers' tips: How generalizable are they?, Cornell Hospitality Quarterlydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











