心理学ホント

「成功率90%」と「死亡率10%」、同じ意味なのに選ぶ答えが変わるのはなぜ?

「成功率90%」と「死亡率10%」、同じ意味なのに選ぶ答えが変わるのはなぜ?

読む前に予想してみよう!

「赤身75%のひき肉」と「脂身25%のひき肉」は、同じくらいおいしそうに感じられる

研究カード(どんな研究?)
対象
大学生・患者・医師
規模
各数百人+多国籍の大規模追試
研究の種類
質問紙実験・メタ分析・大規模追試
確かさ
★★★★★
3秒でわかる

中身が同じでも、「助かる」と「亡くなる」のどちらで伝えるかで人の選択は大きく変わる。1981年の有名な実験では、多数派の選択がほぼ逆転した。

ひとことで言うと同じ話でも「言い方」を変えるだけで、人の選ぶ答えが変わる!

もくじ
  1. 600人を救う「2つの案」
  2. 30年以上たっても再現された「本物」の効果
  3. なぜ言い方で選択が変わるの?
  4. お医者さんも、お肉選びも
  5. まとめ

あなたが手術を受けるかどうか迷っているとします。医師がこう言いました。

「この手術の成功率は90%です」

なんだか安心しますよね。では、こう言われたら?

「この手術の死亡率は10%です」

…ちょっと怖くなりませんか? でも、この2つはまったく同じ意味です。

このように、中身は同じなのに伝え方(フレーム)で判断が変わってしまう現象を、心理学では「フレーミング効果」と呼びます。

01600人を救う「2つの案」

フレーミング効果を世界に知らしめたのが、1981年に科学誌『Science』に載った、トヴェルスキーさんとカーネマンさんの実験です。

よく見ると、案Aと案C、案Bと案Dは中身がまったく同じです。なのに、「助かる」と言われると確実な案を選び、「亡くなる」と言われると賭けに出る。多数派の選択がほぼ逆転したのです(参加者は各150人ほどの大学生)。

0230年以上たっても再現された「本物」の効果

心理学では近年、有名な実験が追試で再現できない「再現性の危機」が問題になっています。でもこの実験は、2014年に世界36の研究室・6000人以上が同じ手順で確かめた大規模追試「Many Labs」でも、しっかり再現されました。

ただし、効果の大きさはオリジナルほど劇的ではなく、多くの研究をまとめたメタ分析(Kühberger, 1998)でも、小〜中くらいの効果とされています。「言い方で多数派がひっくり返る」ほどの強さは、問題の作り方しだいで変わるのです。

03なぜ言い方で選択が変わるの?

カーネマンさんたちは、人の心は「得をする話」では慎重になり、「損をする話」では一発逆転を狙ってリスクをとりやすくなると説明しました。

たとえるなら、同じコップの水を「半分も入っている」と言うか「半分しか入っていない」と言うかで、気持ちが変わるのと同じ。脳は数字そのものより、その数字がどんな「枠」に入っているかに反応してしまうのです。

天気予報で「降水確率30%」と聞くと傘を持とうか迷うのに、「70%の確率で降らない」と言われると、置いていきたくなりませんか? 毎日の小さな判断も、知らないうちにフレームに動かされているのかもしれません。

中身は同じ。でも「枠」がちがうと、受け取り方が変わる
中身は同じ。でも「枠」がちがうと、受け取り方が変わる

04お医者さんも、お肉選びも

フレーミング効果は、架空の問題だけで起きるわけではありません。

1982年、アメリカの研究チームが、肺がんの治療法(手術と放射線療法)の選択について、データを「生存率」で示すか「死亡率」で示すかを変えて質問しました。すると、患者だけでなく医師や学生でも、表現によって選ばれる治療法の割合が大きく変わりました。専門家でもフレームから自由ではない、ということです。

もっと身近な例も。1988年の研究では、同じひき肉を「赤身75%」と表示した場合と、「脂身25%」と表示した場合で比べると、「赤身75%」のほうがおいしそう・質が良さそうと評価されました。面白いのは、実際に食べた後だと、その差が小さくなったこと。自分の舌で確かめる体験は、フレームの影響を弱めてくれるようです。

スーパーの「90%カット」や「10人に9人が満足」といった表示も、同じ情報をどの面から見せるかを工夫したものかもしれません。

05まとめ

「成功率90%」と「死亡率10%」。中身は同じでも、言い方ひとつで人の判断は簡単に動きます。

フレーミングに振り回されないコツは、聞いた情報を一度ひっくり返して見てみること。コインの裏側を確かめるクセが、あなたを賢い決断に近づけてくれます。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1981, the psychologists Amos Tversky and Daniel Kahneman showed that the way a choice is described can… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 1981, the psychologists Amos Tversky and Daniel Kahneman showed that the way a choice is described can change people's decisions. Students imagined a disease that was expected to kill 600 people. When one plan was described as "200 people will be saved," about 72% chose it over a risky plan.

But when the same plan was described as "400 people will die," about 78% chose the risky plan instead. The facts were identical, yet the majority's choice was almost reversed. This is called the framing effect. The researchers explained that people tend to be careful when they think about gains but take risks when they think about losses. Later studies found the same pattern even among doctors.

118 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1981年、心理学者のエイモス・トヴェルスキーとダニエル・カーネマンは、選択肢の説明の仕方が人の決定を変えうることを示しました。学生たちは、600人が亡くなると予想される病気を想像しました。ある案が「200人が助かる」と説明されると、約72%が危険な案よりもそちらを選びました。

しかし、同じ案が「400人が亡くなる」と説明されると、約78%が代わりに危険な案を選んだのです。事実はまったく同じなのに、多数派の選択はほぼ逆転しました。これはフレーミング効果と呼ばれます。研究者たちは、人は得について考えるときは慎重になり、損について考えるときはリスクをとる傾向があると説明しました。その後の研究では、医師の間でさえ同じパターンが見つかりました。

4択リーディングクイズ

Q1. What did Tversky and Kahneman show?

Q2. When the plan was described as "400 people will die," what did most people do?

Q3. What can we infer from the last sentence?

重要単語

  • frameB2
    名詞・動詞枠組み/(ある見方で)表現するThe question was framed in a positive way. 写真の「フレーム(枠)」から。be framed as ~「~として表現される」は論説文の頻出形。
  • survival rateB1
    名詞(句)生存率The survival rate for this surgery is high. survive(生き延びる)の名詞形 survival。rate は「割合・率」で birth rate(出生率)なども。
  • mortalityC1
    名詞死亡率、死すべき運命Mortality from the disease has fallen sharply. mort-(死)が語根。mortal(死ぬ運命の)、immortal(不死の)とセットで。infant mortality=乳児死亡率。
  • risk-averseC1
    形容詞リスクを避けたがるMany investors become risk-averse after a loss. averse は「嫌って」。be averse to ~ の形も。対義は risk-seeking(リスクを求める)。
  • gambleB1
    名詞・動詞賭け/賭けるChoosing that plan was a gamble. take a gamble で「一か八かやってみる」。比喩的にも使える。
  • equivalentB2
    形容詞・名詞同等の/同等のものTen percent mortality is equivalent to ninety percent survival. equi-(等しい)+valent(価値)。be equivalent to ~ の前置詞 to がポイント。
  • identicalB2
    形容詞まったく同じThe two descriptions contained identical facts. identical twins=一卵性双生児。identity(同一性)と同語源。same より「完全一致」を強調。

4コマでわかる

「成功率90%」と「死亡率10%」、同じ意味なのに選ぶ答えが変わるのはなぜ?の4コマ漫画
「600人中200人が助かる」と「600人中400人が亡くなる」。同じ意味なのに、前者だと7割超がその案を選び、後者だと8割近くがもう一方の賭けを選んだ。言い方ひとつで判断がひっくり返る「フレーミング効果」。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Tversky & Kahneman (1981) The framing of decisions and the psychology of choice, Sciencedoi.org
  2. McNeil et al. (1982) On the elicitation of preferences for alternative therapies, New England Journal of Medicinedoi.org
  3. Levin & Gaeth (1988) How consumers are affected by the framing of attribute information before and after consuming the product, Journal of Consumer Researchdoi.org
  4. Kühberger (1998) The influence of framing on risky decisions: A meta-analysis, Organizational Behavior and Human Decision Processesdoi.org
  5. Klein et al. (2014) Investigating variation in replicability: A "Many Labs" replication project, Social Psychologydoi.org