心理学ビミョー

「日本の若者は自己肯定感が世界最低レベル」は本当? 53か国調査に隠れた"答え方のクセ"

「日本の若者は自己肯定感が世界最低レベル」は本当? 53か国調査に隠れた"答え方のクセ"

読む前に予想してみよう!

自己肯定感のアンケートの点数が低い国の人は、実際に自分を嫌っている

研究カード(どんな研究?)
対象
53か国の大学生・一般成人
規模
約1万7000人
研究の種類
国際横断調査・文化比較研究
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

53か国の自尊感情調査で日本の平均は最も低い水準。でも「どちらでもない」を選びやすい答え方のクセや、謙遜の文化も影響していて、単純な比較は難しかった。

ひとことで言うと「自己肯定感が低い国」に見えるのは、答え方のクセのせいもある。

もくじ
  1. 53か国で同じアンケートをしてみた
  2. 「自分をほめない」のは文化かもしれない
  3. 自尊感情は10代でどう変わる?
  4. どんでん返し:それでも「低くていい」わけではない
  5. まとめ

「日本の子どもは自己肯定感が低い」。ニュースや教育の本で、何度も見かける言葉です。国の国際比較調査でも、日本の若者は「自分自身に満足している」と答える割合が、欧米などに比べて低い傾向が続いています。

でも、ちょっと待ってください。国ごとのアンケートの点数を、そのまま比べていいのでしょうか。心理学者たちは、この問いにかなり慎重な答えを出しています。

0153か国で同じアンケートをしてみた

点数が低い=自分を嫌っている、とは限らない。ここがポイントです。

02「自分をほめない」のは文化かもしれない

カナダ出身の心理学者Heineさんと、京都大学の北山忍さんらは1999年、『Psychological Review』誌で、「人は誰でも自分を肯定的に見たいものだ」という欧米の心理学の前提に疑問を投げかけました。

北米では「自分の良いところに注目し、自信を持つ」ことが大切にされます。一方、日本では「自分の足りないところに目を向け、改善する」ことが良い生き方とされやすい。こうした文化では、アンケートで自分を高く評価しないのは、謙遜や向上心の表れでもありうるのです。

「自分をどう映すか」は、文化によって少しずつちがう
「自分をどう映すか」は、文化によって少しずつちがう

03自尊感情は10代でどう変わる?

国の違いとは別に、年齢による変化もあります。スイス・ベルン大学のOrthさんらは2018年、4〜94歳を追跡した研究をまとめたメタ分析で、自尊感情は4〜11歳で上がり、11〜15歳ごろはほぼ横ばい、その後30歳ごろまで大きく上がって60歳ごろにピークを迎えるという傾向を示しました。

つまり、中高生の時期の自尊感情は、平均的にはこれから大人になるにつれて伸びていく途中にあるのです。

04どんでん返し:それでも「低くていい」わけではない

ここまで読むと、「じゃあ日本の自己肯定感の低さは気にしなくていいの?」と思うかもしれません。でも、そう単純でもありません。

答え方のクセでは説明しきれない部分もあり、自分を強く否定する気持ちが心の不調と結びつくことも知られています。研究が教えてくれるのは、「低いから大問題」でも「文化だから問題なし」でもなく、数字の中身を丁寧に読む必要があるということです。

05まとめ

「日本の若者は自己肯定感が世界最低レベル」という話には、半分の真実と、半分の誤解が含まれています。点数が低いのは事実でも、それには謙遜の文化や答え方のクセが入り込んでいます。

ランキングに振り回されず、「自分は昨日の自分と比べてどうか」。そんな物差しを持っておくのが、一番健康的なのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIt is often said that Japanese young people have very low self-esteem. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

It is often said that Japanese young people have very low self-esteem. In 2005, two psychologists gave the same self-esteem questionnaire, translated into 28 languages, to about 17,000 people in 53 countries. Every country's average was above the middle of the scale, so seeing yourself positively seems to be universal. Japan's average was among the lowest.

However, the researchers noticed that people in collectivist cultures tended to choose neutral answers, and that negative statements were understood differently in different countries. They concluded that directly comparing countries with this scale has limited value. Other researchers point out that in Japan, focusing on your weaknesses in order to improve is often seen as a good way to live.

116 words ・ CEFR B1

和訳を見る

日本の若者は自己肯定感がとても低いとよく言われます。2005年、2人の心理学者が、28の言語に翻訳した同じ自尊感情のアンケートを、53か国の約1万7000人に実施しました。どの国の平均も尺度の真ん中より上だったので、自分を肯定的に見ることは世界共通のようです。日本の平均は最も低い部類でした。

しかし研究者たちは、集団主義的な文化の人々は中立的な答えを選ぶ傾向があることや、否定的な文の受け取り方が国によって違うことに気づきました。彼らは、この尺度で国どうしを直接比べることの価値は限られていると結論づけました。また別の研究者たちは、日本では、向上するために自分の弱点に目を向けることが、良い生き方とされることが多いと指摘しています。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the researchers conclude about comparing countries?

Q2. What was true of every country's average score?

Q3. What can be inferred from the last sentence?

重要単語

  • self-esteemB2
    名詞自尊感情・自己肯定感Self-esteem is how you feel about yourself. esteem は「尊重(する)」。hold A in high esteem「A を高く評価する」も覚えたい。
  • modestyB2
    名詞謙遜・控えめさModesty is valued in many cultures. 形容詞 modest は「謙虚な」のほか「(量が)ささやかな」の意味もあり、a modest increase のように使う。
  • response biasC1
    名詞(句)回答のクセ(偏り)A neutral response bias can lower scores. bias は「偏り・偏見」。アンケート研究の限界を述べるときの重要語。
  • collectivistC1
    形容詞集団主義的なJapan is often described as a collectivist culture. 反対は individualist(個人主義的な)。文化比較の長文で対になって登場する。
  • self-criticismC1
    名詞自己批判Self-criticism can motivate people to improve. criticize(批判する)の名詞 criticism に self- が付いた形。形容詞は self-critical。
  • comparisonB1
    名詞比較Direct comparison between countries is difficult. 動詞 compare A with B「A を B と比べる」。in comparison with ~「~と比べると」も頻出。
「日本の若者は自己肯定感が低い」とよく言われる。たしかに53か国・約1万7000人の調査で日本の平均は最も低い水準だった。でも研究者自身が「この尺度での国際比較は価値が限られる」と書いていたらしい。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Schmitt & Allik (2005) Simultaneous Administration of the Rosenberg Self-Esteem Scale in 53 Nations: Exploring the Universal and Culture-Specific Features of Global Self-Esteem, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
  2. Heine et al. (1999) Is there a universal need for positive self-regard?, Psychological Reviewdoi.org
  3. Orth, Erol & Luciano (2018) Development of self-esteem from age 4 to 94 years: A meta-analysis of longitudinal studies, Psychological Bulletindoi.org