心理学ビミョー

誰も選ばない「おとり」が選択を動かす? 雑誌の購読プランで見るおとり効果

誰も選ばない「おとり」が選択を動かす? 雑誌の購読プランで見るおとり効果

読む前に予想してみよう!

誰も選ばない選択肢は、取り除いても他の選択に影響しない

研究カード(どんな研究?)
対象
消費者・学生
規模
実験室研究多数+実購買データ約360万件
研究の種類
実験室実験・大規模追試・実データ分析
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

誰も選ばない「明らかに損な選択肢」を加えると、特定の選択肢が選ばれやすくなる。ただし大規模な検証では、効果が出ない条件も多く見つかっている。

ひとことで言うと「誰も選ばない選択肢」が、こっそりあなたの選択を動かしているかも!

もくじ
  1. 雑誌の購読プランで起きた「マジか」
  2. なぜ「おとり」に引っかかるの?
  3. ただし、いつも効くわけではない
  4. まとめ

映画館のポップコーン、S・M・Lのうち、なぜかいつもLを選んでしまう。

それ、もしかすると「おとり」に誘導されているのかもしれません。

心理学や行動経済学では、誰も選ばないような選択肢を1つ加えるだけで、ほかの選択肢の人気が変わることが知られています。これを「おとり効果」と呼びます。

01雑誌の購読プランで起きた「マジか」

おとり効果の例として有名なのが、アメリカの行動経済学者アリエリーさんが著書『予想どおりに不合理』で紹介した、イギリスの経済誌『エコノミスト』の購読プランです。

「紙版のみ125ドル」は、同じ値段で紙+ネットが手に入るのだから、誰も選びません。実際に0人でした。

ところが、その誰も選ばない選択肢を消しただけで、いちばん高いプランを選ぶ人は84人から32人に激減。「紙版のみ」は、セットプランをお得に見せるための「おとり」として働いていたのです。

02なぜ「おとり」に引っかかるの?

この現象を最初に実験で示したのは、1982年のアメリカの研究者ヒューバーさんらです。

ポイントは、人は選択肢の絶対的な価値を判断するのが苦手で、比べやすいもの同士を比べてしまうことです。

「紙版のみ」と「紙+ネット」は比べやすい。しかも、セットのほうが明らかに上。すると脳は「セットはお得だ!」という気持ちになり、比べにくい「ネット版のみ」は印象が薄くなってしまうのです。

たとえるなら、引き立て役のいる写真。となりに少しだけ見劣りする人がいると、主役がいつもよりかっこよく見える、あの感じです。

少し見劣りする「おとり」がとなりにあると、主役が輝いて見える
少し見劣りする「おとり」がとなりにあると、主役が輝いて見える

03ただし、いつも効くわけではない

ここで、記事のタイトルの「?」を回収しましょう。実はおとり効果は、思ったほど万能ではないことがわかってきています。

2014年、アメリカの研究者ヤンさんとリンさんは、おとり効果を出そうとする実験を91回(23種類の商品)行いましたが、はっきり効果が出たのはわずか11回でした。商品を写真や言葉で具体的に説明すると、効果は偶然レベルまで下がりました。同じ年、フレデリックさんらも「数値で比べる抽象的な問題でないと効果が出にくい」と報告しています。

これに対しヒューバーさんらは、「元の実験と同じ条件をそろえれば効果は再現される」と反論。おとり効果は「起きる条件と起きない条件がある」というのが、今の落ち着きどころです。

2025年には、イギリスのスーパーで売られたワイン約360万件の購入データを分析した研究も登場。おとり効果らしき傾向は見られましたが、その大きさは約1%ほどと、実験室よりずっと控えめでした。

選択肢が多すぎると選べなくなる話は、ジャムの選択肢の記事もどうぞ。

04まとめ

誰も選ばない「おとり」は、ほかの選択肢を引き立てて、人の選択を動かすことがあります。ただし、その効果は条件しだいで、いつでも大きく効く魔法ではありません。

判定は「ビミョー」。でも、「この選択肢、何のためにあるんだろう?」と一歩引いて考えるクセは、どんな買い物でも役に立ちます。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn a popular book, behavioral economist Dan Ariely described a classroom demonstration using magazine… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In a popular book, behavioral economist Dan Ariely described a classroom demonstration using magazine subscription plans. When 100 students saw three options, an online plan for $59, a print plan for $125, and a print-plus-online plan for $125, no one chose print only, and 84 chose the combined plan. When the print-only option was removed, only 32 chose the combined plan.

The useless option worked as a "decoy," making the combined plan look like a bargain. People find absolute value hard to judge, so they compare options that are easy to compare. However, the decoy effect is not always strong. In 2014, researchers ran 91 tests and found a clear effect in only 11. A 2025 study of real wine sales found an effect of only about 1 percent.

129 words ・ CEFR B1

和訳を見る

行動経済学者のダン・アリエリーは、人気の著書の中で、雑誌の購読プランを使った授業でのデモを紹介しました。100人の学生が3つの選択肢、つまり59ドルのネット版、125ドルの紙版、125ドルの紙版+ネット版を見たとき、紙版のみを選んだ人はおらず、84人がセットのプランを選びました。紙版のみの選択肢を取り除くと、セットのプランを選んだのは32人だけでした。

役に立たない選択肢が「おとり」として働き、セットのプランをお得に見せていたのです。人は絶対的な価値を判断するのが苦手なので、比べやすい選択肢同士を比べてしまいます。しかし、おとり効果はいつも強いわけではありません。2014年、研究者たちは91回の検証を行いましたが、はっきりした効果が見られたのは11回だけでした。実際のワインの販売を調べた2025年の研究では、効果はわずか約1パーセントでした。

4択リーディングクイズ

Q1. Why did the print-only option work as a decoy?

Q2. According to the passage, why do people fall for decoys?

Q3. What do the 2014 and 2025 studies suggest?

重要単語

  • decoyC1
    名詞おとりThe cheap-looking option was just a decoy. もとは鳥をおびき寄せる「おとりの模型」。decoy effect「おとり効果」。
  • optionB1
    名詞選択肢We have three options for lunch. 形容詞 optional「任意の」。have no option but to do「~するしかない」。
  • inferiorC1
    形容詞劣ったThis phone is inferior to the newer model. inferior to ~(than ではなく to)。反対は superior to ~。入試の語法問題で頻出。
  • subscriptionB2
    名詞定期購読、サブスクI canceled my music subscription. subscribe to ~「~を定期購読する」。「サブスク」はこの略。
  • robustC1
    形容詞(結果が)頑健な、安定したA robust finding appears again and again. 日常では「たくましい・丈夫な」。研究では条件を変えても崩れない結果を指す。
  • bargainB2
    名詞お買い得品、取引The combined plan looked like a bargain. a real bargain「掘り出し物」。動詞で「交渉する」の意味もある。
  • irrationalC1
    形容詞不合理なShoppers can make irrational choices. ir-(否定)+rational(合理的な)。行動経済学のキーワード。

動画でもっと知る

4コマでわかる

誰も選ばない「おとり」が選択を動かす? 雑誌の購読プランで見るおとり効果の4コマ漫画
雑誌の購読プラン「ネット版59ドル」「紙版125ドル」「紙+ネット125ドル」。誰も選ばない「紙版のみ」を消すと、一番高いプランを選ぶ人が84%から32%に激減したらしい。ただし「おとり効果」は出ないことも。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Huber, Payne & Puto (1982) Adding asymmetrically dominated alternatives: Violations of regularity and the similarity hypothesis, Journal of Consumer Researchdoi.org
  2. Yang & Lynn (2014) More evidence challenging the robustness and usefulness of the attraction effect, Journal of Marketing Researchdoi.org
  3. Frederick, Lee & Baskin (2014) The limits of attraction, Journal of Marketing Researchdoi.org
  4. Huber, Payne & Puto (2014) Let's be honest about the attraction effect, Journal of Marketing Researchdoi.org
  5. Devine et al. (2025) How decoy options ferment choice biases in real-world consumer decision-making, npj Science of Learningdoi.org