心理学ホント

「ほら、やっぱりね」は記憶の書き換えだった。後知恵バイアスのこわい話

「ほら、やっぱりね」は記憶の書き換えだった。後知恵バイアスのこわい話

読む前に予想してみよう!

結果を知ったあとでも、人は自分が事前に何を予想していたかを正確に思い出せる

研究カード(どんな研究?)
対象
大学生・専門家など
規模
各実験 数十〜数百人+100件近い研究のメタ分析
研究の種類
実験・メタ分析
確かさ
★★★★★
3秒でわかる

結果を知ったあと、人は「最初からわかっていた」と感じ、自分の過去の予想まで書き換えてしまう。1970年代の実験で示され、その後も数多く確認されている。

ひとことで言うと「知ってたよ」は、脳がこっそり記憶を書き直しているのかも!

もくじ
  1. 大統領の外遊で確かめた実験
  2. 「知っていた気がする」は3段階ある
  3. 後知恵バイアスがこわい理由
  4. 「もし逆の結果だったら?」で対抗する
  5. まとめ

サッカーの試合が終わったあと、「ほら、やっぱり後半で逆転すると思ったんだよ」と言う人。

テストが返ってきてから、「この問題、出ると思ってたんだよな〜」と言う友だち。

ちょっとイラッとしますよね。でも、この人たちは嘘をついているわけではないかもしれません。結果を知ったとたん、本気で「最初からわかっていた」と思い込んでしまう。それが「後知恵バイアス」です。

01大統領の外遊で確かめた実験

つまり、結果を知ったことで、自分の過去の予想の記憶まで、当たった方向に書き換わっていたのです。

02「知っていた気がする」は3段階ある

アメリカの心理学者ローズさんとヴォースさんは2012年、後知恵バイアスには3つのレベルがあると整理しました。

  1. 記憶のゆがみ:「自分はそう予想していた」と、過去の予想を書き換えて思い出す
  2. 必然だった感:「こうなるのは当然だった」と感じる
  3. 予測できた感:「自分なら(誰でも)予測できたはずだ」と感じる

たとえるなら、ミステリー小説を最後まで読んだあとに最初のページに戻ると、犯人の手がかりがやたら目立って見える感覚。読む前は、まったく気づかなかったのに。

結末を知ってから読み返すと、手がかりは「最初から明らかだった」ように見える
結末を知ってから読み返すと、手がかりは「最初から明らかだった」ように見える

03後知恵バイアスがこわい理由

「ちょっとした思い込みでしょ?」と思うかもしれません。でも、このバイアスは大事な判断をゆがめます。

  • 失敗した人への評価が厳しくなる:「そんなの予測できたはずだ」と、当時は誰にもわからなかったことで人を責めてしまう
  • 自分の予想力を過信する:「自分は前からわかっていた」と思うと、次の予想にも自信を持ちすぎる
  • 失敗から学べない:「当然の結果」と思うと、本当の原因を振り返らなくなる

たとえば医療事故や裁判の場面では、結果を知っている人が、結果を知らなかった当時の判断を評価することになります。後知恵バイアスが入り込むと、当時は妥当だった判断まで「ミスだ」と見なされてしまうおそれがあるのです。

数多くの研究をまとめたメタ分析(Guilbault ら, 2004)でも、後知恵バイアスは効果の大きさこそ「小〜中くらい」ですが、多くの研究で安定して見られる現象であることが確認されています。専門家だからといって免れるわけではありません。1970年代から何度も確認されてきた、頑健な現象のひとつです。

04「もし逆の結果だったら?」で対抗する

後知恵バイアスを完全に消すのはむずかしいですが、弱める工夫はあります。

よく紹介されるのが、「もし逆の結果になっていたら、どんな理由が考えられた?」と自分に問いかける方法です。1988年には、神経心理学者(脳の検査の専門家)を対象に、結果(正しい診断)を知らされたあとで「どの診断も正しい可能性があった理由」を挙げてもらうと、後知恵バイアスに陥る人が減った、という実験も報告されています。逆の結果の理由も思いつくなら、その結果は「当然」ではなかったとわかります。

05まとめ

「ほら、やっぱりね」は、脳が結果に合わせて過去の記憶をこっそり書き換えたサインかもしれません。

未来は、起きる前はいつも不確か。予想はメモに残す。それだけで、自分にも他人にも、ちょっとフェアになれます。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerHindsight bias is the feeling that we "knew it all along" once we learn how something turned out. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Hindsight bias is the feeling that we "knew it all along" once we learn how something turned out. In a classic study, students estimated the chances of various events before US President Nixon visited China and the Soviet Union in 1972. After the trip, they were asked to recall their original estimates. For events that had actually happened, they tended to remember giving higher chances than they really had.

So knowing the result changed their memories. This bias can be harmful. It can make us judge other people's mistakes too harshly and trust our own predictions too much. One way to fight it is to write down your predictions before you know the outcome.

114 words ・ CEFR B1

和訳を見る

後知恵バイアスとは、物事がどうなったかを知ったとたんに「最初からわかっていた」と感じることです。古典的な研究で、学生たちは1972年にアメリカのニクソン大統領が中国とソ連を訪問する前に、さまざまな出来事が起こる確率を見積もりました。訪問の後、彼らは最初の見積もりを思い出すよう求められました。実際に起きた出来事については、本当に答えたよりも高い確率をつけていたと思い出す傾向がありました。

こうして、結果を知ったことが記憶を変えたのです。このバイアスは害になりえます。他人の失敗を厳しく判断しすぎたり、自分の予想を信じすぎたりする原因になるからです。これに対抗する方法の1つは、結果を知る前に予想を書き留めておくことです。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the classic study show?

Q2. For events that actually happened, how did students remember their estimates?

Q3. Why might writing down predictions help?

重要単語

  • hindsightC1
    名詞後知恵、あとから振り返ることIn hindsight, I should have studied more. hind(後ろの)+sight。in hindsight / with hindsight で「今にして思えば」。対義語は foresight(先見の明)。
  • predictB1
    動詞予測するNobody can predict the future perfectly. pre-(前に)+dict(言う)。名詞 prediction、形容詞 predictable / unpredictable。
  • outcomeB2
    名詞結果The outcome of the game surprised everyone. come out(結果として出る)の名詞化。result とほぼ同義だが、研究・試合・選挙の「最終結果」に好まれる。
  • inevitableC1
    形容詞避けられない、必然のAfter the storm, the delay seemed inevitable. in-(否定)+evit(避ける)+-able。It is inevitable that ~ の構文が評論文で頻出。
  • distortC1
    動詞ゆがめるStrong emotions can distort our memories. dis-(離れて)+tort(ねじる)。torture(拷問)と同語源。distort the facts=事実をねじ曲げる。
  • foreseeC1
    動詞予見するNo one could have foreseen the result. fore-(前もって)+see。活用 foresee–foresaw–foreseen。形容詞 foreseeable(予見できる)。
  • immuneC1
    形容詞免れている、免疫のあるExperts are not immune to bias. be immune to ~ で「~の影響を受けない」。immune system(免疫系)でもおなじみ。
試合の後に「ほら、やっぱり勝つと思った」と言う人。実は本気でそう思い込んでいる可能性がある。結果を知ると、人は「自分は前からそう予想していた」と記憶まで書き換えてしまうらしい。心理学でいう後知恵バイアス。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Fischhoff (1975) Hindsight is not equal to foresight: The effect of outcome knowledge on judgment under uncertainty, Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performancedoi.org
  2. Fischhoff & Beyth (1975) "I knew it would happen": Remembered probabilities of once-future things, Organizational Behavior and Human Performancedoi.org
  3. Roese & Vohs (2012) Hindsight bias, Perspectives on Psychological Sciencedoi.org
  4. Guilbault et al. (2004) A meta-analysis of research on hindsight bias, Basic and Applied Social Psychologydoi.org
  5. Arkes et al. (1988) Eliminating the hindsight bias, Journal of Applied Psychologydoi.org