心理学ホント

褒め言葉10個より悪口1個が刺さる理由。脳の「ネガティビティ・バイアス」

褒め言葉10個より悪口1個が刺さる理由。脳の「ネガティビティ・バイアス」

読む前に予想してみよう!

人は良い出来事と悪い出来事を、同じくらいの強さで覚えている

研究カード(どんな研究?)
対象
一般成人・大学生
規模
多数の研究のレビュー+17か国1,100人あまりの実験
研究の種類
文献レビュー・生理反応実験・介入研究
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

人は良いことより悪いことに強く反応し、長く覚えている。「悪いことは良いことより強い」は心理学で幅広く確認された傾向で、ニュースへの体の反応でも見られた。

ひとことで言うと脳は「イヤなこと」を目立たせる、ちょっと心配性な警報装置!

もくじ
  1. 「悪いことは、良いことより強い」
  2. さくらんぼの器にゴキブリ1匹
  3. なぜ脳は「悪いこと」を優先するの?
  4. ニュースを見たときの「体の反応」も
  5. 「良いこと3つ」で脳のクセに対抗する
  6. まとめ

テストで9問正解して1問まちがえた。なのに、頭に残るのはその1問のことばかり。

友だちに10回褒められても、1回の悪口で一日中モヤモヤする。

これ、あなたの性格が暗いからではありません。人間の脳には、悪いことほど強く反応するクセが組み込まれているんです。心理学では「ネガティビティ・バイアス」と呼ばれます。

01「悪いことは、良いことより強い」

たとえば、

  • 悪い第一印象は、良い第一印象よりくつがえりにくい
  • 1つの失敗の記憶は、同じ大きさの成功より長く残りやすい
  • お金を失う悔しさは、同じ額を得る喜びより大きく感じやすい

最後のものは、経済学で「損失回避」と呼ばれる有名な現象でもあります(ただし損失回避の大きさは、金額の大小や状況によって変わるという指摘もあります)。

一方で、「悪いことがいつでも勝つ」わけでもありません。たとえば、つらい思い出の感情の強さは、楽しい思い出より早く薄れやすいという研究(「感情の色あせバイアス」)もあります。脳は悪いことに敏感だけれど、時間とともに心を回復させるしくみも持っているのです。

02さくらんぼの器にゴキブリ1匹

アメリカの心理学者ロジンさんらは、このバイアスを食べ物のたとえで説明しています。

さくらんぼがいっぱいの器に、ゴキブリが1匹入っていたら? もう全部食べたくないですよね。でも、ゴキブリだらけの器にさくらんぼを1粒入れても、食べたくはなりません。

悪いものは少しでも全体を台無しにするのに、良いものは少し足しても全体を救えない。これがネガティビティ・バイアスの本質です。

良いものの山に、悪いものが1つ。それだけで全体の印象が変わってしまう
良いものの山に、悪いものが1つ。それだけで全体の印象が変わってしまう

03なぜ脳は「悪いこと」を優先するの?

理由として考えられているのが、生き残りのためという説です。

大昔の人類にとって、「おいしい木の実を見逃す」のは残念ですむけれど、「茂みのヘビを見逃す」と命取りになります。だから脳は、危険のサインを見逃さないように、悪い情報を目立たせるようにできた、というわけです。

たとえるなら、脳はちょっと心配性な火災報知器。誤作動が多くても、本物の火事を見逃すよりはマシ、という設計なのです。

04ニュースを見たときの「体の反応」も

2019年、アメリカ・カナダ・イスラエルの研究者のチームは、17か国の1,100人あまりにニュース映像を見せ、皮膚の電気反応(汗腺の働き)や心拍の変動などの体の変化を測りました。

すると、平均すると、ネガティブなニュースのほうが体が強く反応する傾向が見られました。ただし、反応の大きさには個人差がかなりあり、ポジティブなニュースに強く反応する人もいました。ニュースに悪い内容が多い一因も、こうした私たちの体の反応にあるのかもしれません。

05「良いこと3つ」で脳のクセに対抗する

ネガティビティ・バイアスをなくすのは難しいですが、意識してバランスをとることはできます。

2005年、ポジティブ心理学で知られるセリグマンさんらは、オンラインの実験で1週間、寝る前にその日あった良いことを3つ書き出すというシンプルな方法を試しました。すると、続けた人たちは、その後数か月にわたって幸福感が高まり、落ち込みが軽くなる傾向が見られました。

ただし2012年の追試では、幸福感は上がったものの、「自分のポジティブな思い出を書くだけ」の比較グループでも同じくらい上がり、落ち込みへの効果は比較グループを上回りませんでした。「魔法の習慣」というより、良いことに目を向ける時間を持つことそのものに意味がある、と考えるのがよさそうです。

06まとめ

悪いことが頭から離れないのは、脳が危険を見逃さないように働いている証拠。あなたが弱いからではありません。

でも、その警報装置に振り回されっぱなしになる必要もない。良いことを意識して数えるだけで、心のバランスは少しずつ取り戻せます。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhy does one unkind comment stay with us longer than ten compliments? 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Why does one unkind comment stay with us longer than ten compliments? Psychologists call this the negativity bias. In 2001, a group of researchers reviewed studies on relationships, emotions, learning and memory, and found that in most areas, bad events had stronger and longer-lasting effects than good ones. One explanation is survival.

For early humans, missing a tasty fruit was only a small loss, but missing a snake could be deadly. In a 2019 study of more than 1,100 people in 17 countries, people's bodies, on average, reacted more strongly to negative news, although individuals differed a lot. Writing down three good things each night may help us pay more attention to the positive side of life.

117 words ・ CEFR B1

和訳を見る

なぜ1つの意地悪な言葉が、10個の褒め言葉より長く心に残るのでしょうか?心理学者はこれをネガティビティ・バイアスと呼びます。2001年、ある研究者グループが人間関係・感情・学習・記憶についての研究を見直し、ほとんどの分野で、悪い出来事のほうが良い出来事より強く長く続く影響を持つことを発見しました。1つの説明は生き残りです。

初期の人類にとって、おいしい果物を見逃すのは小さな損失にすぎませんでしたが、ヘビを見逃すことは命取りになりえました。17か国の1,100人あまりを対象にした2019年の研究では、平均すると人々の体はネガティブなニュースにより強く反応しましたが、個人差は大きいものでした。毎晩3つの良いことを書き出すことは、人生の良い面にもっと注意を向ける助けになるかもしれません。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the 2001 review find?

Q2. In the 2019 study, how did people react to negative news?

Q3. What is the point of the snake example?

重要単語

  • negativityB2
    名詞否定的なこと、悪い面Too much negativity can ruin a team's mood. negative+-ity。対になる positivity も覚える。negativity bias は心理学の定番用語。
  • biasB2
    名詞偏り、先入観We all have some bias in how we judge others. cognitive bias=認知バイアス。have a bias against / toward ~ の形で使う。
  • criticismB2
    名詞批判She took the criticism calmly. 動詞 criticize、形容詞 critical(批判的な・重大な)。critic は「批評家」。
  • loss aversionC1
    名詞(句)損失回避Loss aversion makes people hate losing money. aversion は「嫌悪」。have an aversion to ~=~が大嫌いだ。行動経済学の頻出語。
  • surviveB1
    動詞生き残るEarly humans had to watch for danger to survive. 他動詞で survive the war(戦争を生き延びる)、survive 人(~より長生きする)も入試頻出。
  • complimentB2
    名詞・動詞褒め言葉/褒めるHe paid me a compliment on my English. pay 人 a compliment で「~を褒める」。complement(補完)とつづり違いに注意。
  • asymmetryC1
    名詞非対称性There is an asymmetry between gains and losses. a-(否定)+symmetry(対称)。形容詞 asymmetric。

動画でもっと知る

褒められた10個より、言われた悪口1個のほうがずっと頭に残る。心理学では「悪いことは良いことより強い」として、たくさんの研究で確認されている傾向らしい。17か国の実験でも、悪いニュースのほうに体が強く反応したとか。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Baumeister et al. (2001) Bad is stronger than good, Review of General Psychologydoi.org
  2. Rozin & Royzman (2001) Negativity bias, negativity dominance, and contagion, Personality and Social Psychology Reviewdoi.org
  3. Soroka, Fournier & Nir (2019) Cross-national evidence of a negativity bias in psychophysiological reactions to news, PNASdoi.org
  4. Seligman et al. (2005) Positive psychology progress: Empirical validation of interventions, American Psychologistdoi.org
  5. Mongrain & Anselmo-Matthews (2012) Do positive psychology exercises work? A replication of Seligman et al. (2005), Journal of Clinical Psychologypubmed.ncbi.nlm.nih.gov