褒め言葉10個より悪口1個が刺さる理由。脳の「ネガティビティ・バイアス」

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人は良い出来事と悪い出来事を、同じくらいの強さで覚えている
多くの研究で、悪い出来事のほうが感情や記憶に強く・長く影響することが示されている。
- 対象
- 一般成人・大学生
- 規模
- 多数の研究のレビュー+17か国1,100人あまりの実験
- 研究の種類
- 文献レビュー・生理反応実験・介入研究
- 確かさ
- ★★★★☆
人は良いことより悪いことに強く反応し、長く覚えている。「悪いことは良いことより強い」は心理学で幅広く確認された傾向で、ニュースへの体の反応でも見られた。
ひとことで言うと脳は「イヤなこと」を目立たせる、ちょっと心配性な警報装置!
テストで9問正解して1問まちがえた。なのに、頭に残るのはその1問のことばかり。
友だちに10回褒められても、1回の悪口で一日中モヤモヤする。
これ、あなたの性格が暗いからではありません。人間の脳には、悪いことほど強く反応するクセが組み込まれているんです。心理学では「ネガティビティ・バイアス」と呼ばれます。
01「悪いことは、良いことより強い」
たとえば、
- 悪い第一印象は、良い第一印象よりくつがえりにくい
- 1つの失敗の記憶は、同じ大きさの成功より長く残りやすい
- お金を失う悔しさは、同じ額を得る喜びより大きく感じやすい
最後のものは、経済学で「損失回避」と呼ばれる有名な現象でもあります(ただし損失回避の大きさは、金額の大小や状況によって変わるという指摘もあります)。
一方で、「悪いことがいつでも勝つ」わけでもありません。たとえば、つらい思い出の感情の強さは、楽しい思い出より早く薄れやすいという研究(「感情の色あせバイアス」)もあります。脳は悪いことに敏感だけれど、時間とともに心を回復させるしくみも持っているのです。
02さくらんぼの器にゴキブリ1匹
アメリカの心理学者ロジンさんらは、このバイアスを食べ物のたとえで説明しています。
さくらんぼがいっぱいの器に、ゴキブリが1匹入っていたら? もう全部食べたくないですよね。でも、ゴキブリだらけの器にさくらんぼを1粒入れても、食べたくはなりません。
悪いものは少しでも全体を台無しにするのに、良いものは少し足しても全体を救えない。これがネガティビティ・バイアスの本質です。

03なぜ脳は「悪いこと」を優先するの?
理由として考えられているのが、生き残りのためという説です。
大昔の人類にとって、「おいしい木の実を見逃す」のは残念ですむけれど、「茂みのヘビを見逃す」と命取りになります。だから脳は、危険のサインを見逃さないように、悪い情報を目立たせるようにできた、というわけです。
たとえるなら、脳はちょっと心配性な火災報知器。誤作動が多くても、本物の火事を見逃すよりはマシ、という設計なのです。
04ニュースを見たときの「体の反応」も
2019年、アメリカ・カナダ・イスラエルの研究者のチームは、17か国の1,100人あまりにニュース映像を見せ、皮膚の電気反応(汗腺の働き)や心拍の変動などの体の変化を測りました。
すると、平均すると、ネガティブなニュースのほうが体が強く反応する傾向が見られました。ただし、反応の大きさには個人差がかなりあり、ポジティブなニュースに強く反応する人もいました。ニュースに悪い内容が多い一因も、こうした私たちの体の反応にあるのかもしれません。
05「良いこと3つ」で脳のクセに対抗する
ネガティビティ・バイアスをなくすのは難しいですが、意識してバランスをとることはできます。
2005年、ポジティブ心理学で知られるセリグマンさんらは、オンラインの実験で1週間、寝る前にその日あった良いことを3つ書き出すというシンプルな方法を試しました。すると、続けた人たちは、その後数か月にわたって幸福感が高まり、落ち込みが軽くなる傾向が見られました。
ただし2012年の追試では、幸福感は上がったものの、「自分のポジティブな思い出を書くだけ」の比較グループでも同じくらい上がり、落ち込みへの効果は比較グループを上回りませんでした。「魔法の習慣」というより、良いことに目を向ける時間を持つことそのものに意味がある、と考えるのがよさそうです。
06まとめ
悪いことが頭から離れないのは、脳が危険を見逃さないように働いている証拠。あなたが弱いからではありません。
でも、その警報装置に振り回されっぱなしになる必要もない。良いことを意識して数えるだけで、心のバランスは少しずつ取り戻せます。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhy does one unkind comment stay with us longer than ten compliments?
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Your friends say ten nice things to you and one bad thing. Which do you remember? Most people remember the bad thing. This is called the negativity bias.
Our brains react more strongly to bad things than to good things. Long ago, this helped people notice danger and stay alive. One simple idea may help: every night, write down three good things that happened that day.
66 words ・ CEFR A2
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友だちがあなたに良いことを10個、悪いことを1個言います。あなたはどちらを覚えているでしょうか?ほとんどの人は悪いことのほうを覚えています。これはネガティビティ・バイアスと呼ばれます。私たちの脳は、良いことより悪いことに強く反応するのです。
大昔、これは人が危険に気づいて生き延びるのに役立ちました。簡単な方法が役立つかもしれません。毎晩、その日にあった良いことを3つ書き出すのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
悪いことに強く反応するネガティビティ・バイアスとその理由・対策がテーマなので C。
Q2. Why did this bias help people long ago?
this helped people notice danger and stay alive とあるので A。
Q3. In this passage, "react" means ...
react は「反応する」。悪いことに強く反応する、という意味なので A。
Why does one unkind comment stay with us longer than ten compliments? Psychologists call this the negativity bias. In 2001, a group of researchers reviewed studies on relationships, emotions, learning and memory, and found that in most areas, bad events had stronger and longer-lasting effects than good ones. One explanation is survival.
For early humans, missing a tasty fruit was only a small loss, but missing a snake could be deadly. In a 2019 study of more than 1,100 people in 17 countries, people's bodies, on average, reacted more strongly to negative news, although individuals differed a lot. Writing down three good things each night may help us pay more attention to the positive side of life.
117 words ・ CEFR B1
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なぜ1つの意地悪な言葉が、10個の褒め言葉より長く心に残るのでしょうか?心理学者はこれをネガティビティ・バイアスと呼びます。2001年、ある研究者グループが人間関係・感情・学習・記憶についての研究を見直し、ほとんどの分野で、悪い出来事のほうが良い出来事より強く長く続く影響を持つことを発見しました。1つの説明は生き残りです。
初期の人類にとって、おいしい果物を見逃すのは小さな損失にすぎませんでしたが、ヘビを見逃すことは命取りになりえました。17か国の1,100人あまりを対象にした2019年の研究では、平均すると人々の体はネガティブなニュースにより強く反応しましたが、個人差は大きいものでした。毎晩3つの良いことを書き出すことは、人生の良い面にもっと注意を向ける助けになるかもしれません。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the 2001 review find?
in most areas, bad events had stronger and longer-lasting effects than good ones とあるので C。
Q2. In the 2019 study, how did people react to negative news?
on average, reacted more strongly to negative news, although individuals differed a lot とあるので C。
Q3. What is the point of the snake example?
果物を見逃すのは小さな損失だが、ヘビを見逃すと命取り、という対比で危険を見逃すコストの大きさを示している。B。
Ten compliments are easily forgotten, while a single insult can linger all day. Psychologists call this asymmetry the negativity bias. In an influential 2001 review titled "Bad is stronger than good," researchers surveyed work on relationships, emotion, learning and memory. They concluded that negative events generally have stronger and more lasting effects than positive events of equal size.
Another research team put the principle in terms of food. A single cockroach ruins a bowl of cherries, but one cherry cannot redeem a bowl of cockroaches. A common evolutionary explanation is that overlooking a threat cost our ancestors far more than overlooking an opportunity.
The body seems to agree. In 2019, a study of more than 1,100 viewers in 17 countries found stronger average physical responses to negative television news. But averages hide a lot. Individual differences in that study were large, and the bias is not universal.
The intensity of unpleasant memories tends to fade faster than that of pleasant ones, and the robustness of loss aversion is debated. Remedies deserve the same scrutiny. A 2005 experiment suggested that listing three good things each night boosted happiness. When researchers repeated it in 2012, a comparison exercise worked about as well.
200 words ・ CEFR B2
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10個の褒め言葉はすぐに忘れられるのに、たった1つの侮辱は一日中尾を引くことがあります。心理学者はこの非対称性をネガティビティ・バイアスと呼びます。「悪いことは良いことより強い」と題された影響力のある2001年のレビューで、研究者たちは人間関係・感情・学習・記憶に関する研究を調べました。そして、ネガティブな出来事は一般に、同じ大きさのポジティブな出来事よりも強く長続きする影響を及ぼすと結論づけました。
別の研究チームは、この原理を食べ物でたとえました。ゴキブリ1匹でさくらんぼの器は台無しになるが、さくらんぼ1粒ではゴキブリの器を救えない、というのです。よくある進化的な説明は、私たちの祖先にとって、脅威を見逃すことは機会を見逃すことよりはるかに高くついた、というものです。
体もこれに同意しているようです。2019年、17か国の1,100人あまりの視聴者を対象にした研究で、ネガティブなテレビニュースに対して平均的により強い体の反応が見つかりました。しかし、平均は多くのことを隠します。その研究では個人差が大きく、このバイアスは普遍的なものではありません。
不快な記憶の強さは快い記憶よりも速く薄れる傾向があり、損失回避の頑健さも議論されています。対策にも同じくらい厳しい目が必要です。2005年の実験は、毎晩3つの良いことを書き出すと幸福感が高まることを示唆しました。2012年に研究者たちがこれをくり返したところ、比較用の課題でもほぼ同じくらいの効果がありました。
4択リーディングクイズ
Q1. What does the cockroach-and-cherries example illustrate?
ゴキブリ1匹で器全体が台無しになるが、さくらんぼ1粒ではゴキブリの器を救えない、という対比なので D。
Q2. Which of the following is given as evidence that the negativity bias is NOT universal?
the bias is not universal に続いて、The intensity of unpleasant memories tends to fade faster than that of pleasant ones とあるので B。
Q3. What does the 2012 replication suggest about the "three good things" exercise?
a comparison exercise worked about as well とあり、比較用の課題でもほぼ同じ効果があったので、その方法特有の効果とは言いにくいと推論できる。C。
重要単語
- negativityB2名詞否定的なこと、悪い面Too much negativity can ruin a team's mood.
negative+-ity。対になる positivity も覚える。negativity bias は心理学の定番用語。 - biasB2名詞偏り、先入観We all have some bias in how we judge others.
cognitive bias=認知バイアス。have a bias against / toward ~ の形で使う。 - criticismB2名詞批判She took the criticism calmly.
動詞 criticize、形容詞 critical(批判的な・重大な)。critic は「批評家」。 - loss aversionC1名詞(句)損失回避Loss aversion makes people hate losing money.
aversion は「嫌悪」。have an aversion to ~=~が大嫌いだ。行動経済学の頻出語。 - surviveB1動詞生き残るEarly humans had to watch for danger to survive.
他動詞で survive the war(戦争を生き延びる)、survive 人(~より長生きする)も入試頻出。 - complimentB2名詞・動詞褒め言葉/褒めるHe paid me a compliment on my English.
pay 人 a compliment で「~を褒める」。complement(補完)とつづり違いに注意。 - asymmetryC1名詞非対称性There is an asymmetry between gains and losses.
a-(否定)+symmetry(対称)。形容詞 asymmetric。
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褒められた10個より、言われた悪口1個のほうがずっと頭に残る。心理学では「悪いことは良いことより強い」として、たくさんの研究で確認されている傾向らしい。17か国の実験でも、悪いニュースのほうに体が強く反応したとか。
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- Baumeister et al. (2001) Bad is stronger than good, Review of General Psychologydoi.org
- Rozin & Royzman (2001) Negativity bias, negativity dominance, and contagion, Personality and Social Psychology Reviewdoi.org
- Soroka, Fournier & Nir (2019) Cross-national evidence of a negativity bias in psychophysiological reactions to news, PNASdoi.org
- Seligman et al. (2005) Positive psychology progress: Empirical validation of interventions, American Psychologistdoi.org
- Mongrain & Anselmo-Matthews (2012) Do positive psychology exercises work? A replication of Seligman et al. (2005), Journal of Clinical Psychologypubmed.ncbi.nlm.nih.gov
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。









