心理学ホント

同じクッキーなのに"残り2枚"の瓶の方が欲しくなる。「残りわずか」に弱い脳

同じクッキーなのに"残り2枚"の瓶の方が欲しくなる。「残りわずか」に弱い脳

読む前に予想してみよう!

ネット通販の「残りわずか」「あと〇分で終了」の表示は、すべて本当の在庫や期限にもとづいている

研究カード(どんな研究?)
対象
大学生・消費者
規模
実験 百数十人+131研究のメタ分析+約1万1千サイト
研究の種類
実験・メタ分析・ウェブ調査
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

数が少ないものほど価値が高く見える「希少性」の心理。2枚しか入っていない瓶のクッキーは、10枚の瓶より魅力的と評価された。ネット通販の「在庫わずか」にも注意。

ひとことで言うと「あと少ししかない!」と言われると、急に欲しくなっちゃう!

もくじ
  1. クッキー瓶の実験
  2. なぜ「少ない」と欲しくなるのか
  3. どんでん返し:その「残りわずか」、本物?
  4. 希少性に振り回されないために
  5. まとめ

「在庫残りわずか!」「本日23:59まで限定!」「現在14人がこの商品を見ています」

ネット通販でこんな表示を見て、思わず「カートに入れる」を押したことはありませんか? べつに今すぐ必要じゃなかったのに。

それは、あなたの脳が「少ないもの=価値があるもの」と判断するようにできているからかもしれません。心理学ではこれを希少性の原理と呼びます。

01クッキー瓶の実験

この心理をシンプルに示したのが、1975年の有名な「クッキー瓶」の実験です。

味は同じ。違うのは「数」と「減った理由」だけ。それなのに、クッキーの価値の感じ方が変わってしまったのです。

02なぜ「少ない」と欲しくなるのか

希少性が効く理由は、いくつか考えられています。

  1. 「少ない=人気」の近道思考:多くの人が欲しがったから少ないのだろう、と推測する
  2. 失う怖さ:手に入らなくなる「損」を、人は得をするうれしさより強く感じやすい
  3. 自由を奪われる反発:「もう買えない」と言われると、選ぶ自由を取り戻したくなる

こうした研究をまとめた1991年のメタ分析(研究の「まとめ買い」)でも、手に入りにくいものほど価値が高く見積もられる傾向が確認されています。2022年には131の研究をまとめた新しいメタ分析も出て、「人気で品薄」型は実用品に、「数量限定」型は体験型の商品に、「期間限定」型は関与度の高い(じっくり選ぶ)商品に効きやすいなど、どの「少なさ」が効くかは商品によって違うこともわかってきました。

3の「自由を奪われる反発」については、心理的リアクタンスの記事でくわしく紹介しています。

「いつでも買える」が「今しか買えない」に変わると、脳の計算が変わる
「いつでも買える」が「今しか買えない」に変わると、脳の計算が変わる

クッキー実験で「ほかの人が欲しがったから減った」ときに評価が最も高くなったのは、1の「少ない=人気」という推測が、特に強く働いたからだと考えられます。通販の「〇人が見ています」表示は、まさにこの「みんなが欲しがっている」という合図をねらったものです。

03どんでん返し:その「残りわずか」、本物?

希少性はとても強力なので、商売で悪用されることもあります。

2019年、プリンストン大学などの研究チームは、約1万1千の通販サイトを自動で調べ、ユーザーを不利な選択へ誘導するデザイン「ダークパターン」を集計しました。その中には、

  • ページを読み込み直すとまたリセットされるカウントダウンタイマー
  • 実際の在庫と関係なさそうな「残りわずか」表示
  • 本当かどうか確かめようのない「〇人が購入しました」の通知

などが見つかっています。つまり、「少ない」と言われた時点で、それが本当に少ないのかを疑う価値があるのです。

04希少性に振り回されないために

05まとめ

希少性に反応する心は、食べ物や道具が本当に少なかった時代には、生きのびるのに役立ったのかもしれません。

でも今は、「少ない」という情報そのものが演出されうる時代です。「急がなきゃ!」とドキッとしたら、それこそが一呼吸おくタイミング。クッキーの味は、瓶の中の枚数では変わりません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWe tend to think that things in short supply are more valuable. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

We tend to think that things in short supply are more valuable. This is called the scarcity principle. In a famous 1975 experiment, university students tasted chocolate chip cookies from a jar. The cookies were identical, but when the jar held only two, students rated them as more desirable and more expensive than when it held ten.

The highest ratings came when a jar of ten was reduced to two because other people had wanted them. Online stores often use this tendency. In 2019, researchers examined about 11,000 shopping websites and found countdown timers that reset when the page was reloaded and "low stock" messages that might not be true.

110 words ・ CEFR B1

和訳を見る

私たちは、量が少ないものほど価値があると考えがちです。これは希少性の原理と呼ばれます。1975年の有名な実験で、大学生たちは瓶から出したチョコチップクッキーを味見しました。クッキーは同じものでしたが、瓶に2枚しか入っていないとき、学生たちは10枚入っているときよりも、それをより魅力的で値段が高そうだと評価しました。

最も高い評価が出たのは、10枚の瓶が、ほかの人たちが欲しがったために2枚に減ったときでした。ネットショップはこの傾向をよく利用します。2019年、研究者たちは約1万1千の通販サイトを調べ、ページを読み込み直すとリセットされるカウントダウンタイマーや、本当ではないかもしれない「在庫わずか」の表示を見つけました。

4択リーディングクイズ

Q1. When did the cookies receive the highest ratings?

Q2. What did the 2019 researchers find?

Q3. What can we infer from the passage?

重要単語

  • scarcityC1
    名詞希少性、不足Scarcity can make ordinary things seem special. 形容詞 scarce(乏しい)、副詞 scarcely(ほとんど~ない=hardly)は入試の否定語として頻出。
  • limitedB1
    形容詞限定の、限られたThis is a limited edition. limited edition(限定版)、for a limited time(期間限定で)。limit(制限)の過去分詞形。
  • demandB1
    名詞・動詞需要/要求するDemand for masks rose sharply. supply and demand=需要と供給(日本語と語順が逆)。demand that S (should) 原形 も頻出。
  • dark patternC1
    名詞(句)ダークパターン(利用者をだます設計)A fake timer is a common dark pattern. Web デザイン用語。解約しにくい画面や偽の在庫表示など。消費者保護の文脈で時事英語に出る。
  • impulse buyingB2
    名詞(句)衝動買いSales signs often lead to impulse buying. impulse(衝動)。buy on impulse でも「衝動買いする」。impulsive は形容詞。
  • desirableB2
    形容詞望ましい、魅力的なThe rare cookies seemed more desirable. desire+-able。反対は undesirable。It is desirable that S (should) 原形 の構文も。
  • manipulativeC1
    形容詞人を操ろうとする、ごまかしのThe ad used manipulative tricks. 動詞 manipulate(操作する・操る)。データ操作にも人心操作にも使う。
同じクッキーを「10枚入りの瓶」と「2枚入りの瓶」から出して評価させたら、2枚の瓶の方が「もっと食べたい」「高そう」と評価されたらしい。通販の「残りわずか!」が効く理由、これ。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Worchel, Lee & Adewole (1975) Effects of supply and demand on ratings of object value, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
  2. Brock (1968) Implications of commodity theory for value change, Psychological Foundations of Attitudesdoi.org
  3. Lynn (1991) Scarcity effects on value: A quantitative review of the commodity theory literature, Psychology & Marketingdoi.org
  4. Barton, Zlatevska & Oppewal (2022) Scarcity tactics in marketing: A meta-analysis of product scarcity effects on consumer purchase intentions, Journal of Retailingdoi.org
  5. Mathur et al. (2019) Dark patterns at scale: Findings from a crawl of 11K shopping websites, Proceedings of the ACM on Human-Computer Interactiondoi.org