脳と心理ホント

ゴマ粒より小さなハエの脳、約14万個の神経細胞の"全配線図"が完成した

ゴマ粒より小さなハエの脳、約14万個の神経細胞の"全配線図"が完成した

読む前に予想してみよう!

ショウジョウバエの成虫の脳の神経細胞は、約300個しかない

研究カード(どんな研究?)
対象
ショウジョウバエ(成虫のメス)
規模
1匹の脳(約14万個の神経細胞)
研究の種類
電子顕微鏡画像の解析・計算モデル
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

ショウジョウバエの成虫の脳にある約14万個の神経細胞と約5,000万のつながりを全部たどった地図が2024年に完成。AIと世界中の協力者による成果だ。

ひとことで言うとハエの脳の「全部の配線」がついにわかった。地図があれば仕組みが読める!

もくじ
  1. 「コネクトーム」とは
  2. 1匹の脳を何千枚にも薄切り
  3. 細胞の種類は8,000以上
  4. 配線図から「行動」を予測できた
  5. 人の脳の地図はいつできる?
  6. まとめ

台所の果物のまわりを飛んでいる、小さなハエ。ショウジョウバエです。

その脳は、ゴマ粒よりも小さいほど。でもその中には、約14万個もの神経細胞が詰まっています。そして2024年、この小さな脳のすべての神経細胞と、そのつながりをたどった「全配線図」が、科学誌『Nature』に発表されました。

01「コネクトーム」とは

脳の神経細胞が、どの細胞とどうつながっているかを全部書き出した地図を、コネクトームと呼びます。電気回路でいえば「配線図」です。

最初に完成したコネクトームは、1986年に発表された線虫(C. elegans)のもの。神経細胞は302個で、つながり(シナプス)は数千ほどでした。それから約40年、ついにショウジョウバエの成虫の全脳の地図が完成したのです。

021匹の脳を何千枚にも薄切り

人の手だけでたどるのは、とても無理な量です。そこで研究チームは——

  1. AI(機械学習)で、画像から神経細胞の形を自動で切り出す
  2. 世界中の研究者や市民科学者が、オンラインでAIの間違いを一つずつ修正する

という方法をとりました。最終的には、プリンストン大学とイギリスのケンブリッジ大学のチームを中心に、すべての神経細胞がチェックされました。

AIが下書きし、人が仕上げた"脳の配線図"
AIが下書きし、人が仕上げた"脳の配線図"

03細胞の種類は8,000以上

同時に発表された研究では、14万個の神経細胞を形やつながり方で分類し、8,453種類の細胞タイプに整理しました。そのうち4,581種類は、これまで知られていなかった新しいタイプでした。

04配線図から「行動」を予測できた

配線図ができると、何がうれしいのでしょう?

2024年の別の研究では、この配線図をもとに、ハエの脳全体のコンピュータモデルを作りました。そして、甘い味や水の味を感じる神経をモデルの中で刺激すると、どの神経細胞が反応するかを予測。実際のハエの実験で確かめると、エサを食べる行動を始めるのに必要な神経細胞を正しく言い当てていました。

配線図だけで、行動の仕組みの一部を読み解けたのです。

05人の脳の地図はいつできる?

ただし、ハエの脳から人の脳までの道のりは、とてつもなく遠いものです。

人の脳の神経細胞は約860億個。ハエの60万倍以上です。しかも、配線図だけでは、神経細胞がどれくらい強く、どんなタイミングで信号を送るかまではわかりません。それでも、ハエのコネクトームは「全部の配線を知ると何がわかるか」を教えてくれる大切な一歩です。

06まとめ

ゴマ粒より小さなハエの脳にある約14万個の神経細胞と約5,000万のつながり。その全配線図が、AIと世界中の協力でついに完成しました。

「脳の地図」があれば、行動の仕組みを配線から読み解ける。小さなハエの脳が、私たち自身の脳を理解するための大きな手がかりになろうとしています。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerA map of all the connections between nerve cells in a brain is called a connectome. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

A map of all the connections between nerve cells in a brain is called a connectome. The first one, published in 1986, was for a tiny worm with only 302 neurons. In 2024, an international team called FlyWire completed the connectome of an adult fruit fly's brain. They sliced one fly's brain extremely thin, photographed it with an electron microscope, and traced 139,255 neurons and about 50 million synapses.

Because this was too much work for people alone, AI first outlined the cells, and then researchers and citizen scientists corrected its mistakes online. Using the map, another team built a computer model that correctly predicted which neurons are needed for a fly to start feeding.

115 words ・ CEFR B1

和訳を見る

脳の中の神経細胞どうしのつながりをすべて描いた地図は、コネクトームと呼ばれます。1986年に発表された最初のものは、神経細胞がわずか302個しかない小さな線虫のものでした。2024年、FlyWireという国際チームが、ショウジョウバエの成虫の脳のコネクトームを完成させました。彼らは1匹のハエの脳を極めて薄くスライスし、電子顕微鏡で撮影して、139,255個の神経細胞と約5,000万のシナプスをたどりました。

人の手だけではとても無理な量だったので、まずAIが細胞の輪郭を描き、その後、研究者や市民科学者がオンラインでその間違いを修正しました。この地図を使って、別のチームがコンピューターモデルを作り、ハエが食べ始めるのに必要な神経細胞を正しく予測しました。

4択リーディングクイズ

Q1. What was the first connectome, published in 1986?

Q2. How was the huge amount of work handled?

Q3. What does the computer model show about the value of the map?

重要単語

  • connectomeC1
    名詞コネクトーム(神経のつながりの全体図)A connectome shows how every neuron is connected. connect+-ome(全体)。genome(ゲノム=遺伝情報の全体)にならった造語。
  • synapseC1
    名詞シナプス(神経細胞のつなぎ目)Signals pass from neuron to neuron at synapses. ギリシャ語で「結合」。形容詞 synaptic。
  • electron microscopeC1
    名詞(句)電子顕微鏡The electron microscope can see very tiny structures. 光の代わりに電子線を使う。microscope は micro(小さい)+scope(見る)。
  • wiring diagramC1
    名詞(句)配線図The wiring diagram helps us understand the circuit. wiring(配線)+diagram(図)。脳の比喩として科学記事でよく使われる。
  • citizen scientistB2
    名詞(句)市民科学者Citizen scientists helped check the data online. 専門家でない一般の人が研究に参加すること。citizen science(市民科学)。
  • traceB2
    動詞たどる、追跡するThe team traced each neuron through thousands of images. 「なぞる」「(起源を)さかのぼる」の意味も。trace back to ~「~にさかのぼる」。

4コマでわかる

ゴマ粒より小さなハエの脳、約14万個の神経細胞の"全配線図"が完成したの4コマ漫画
ゴマ粒より小さなショウジョウバエの脳。その約14万個の神経細胞と約5,000万のつながりをたどった「全配線図」が2024年に完成した。AIで下書きし、研究者や市民科学者が手作業でチェックしたらしい。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Dorkenwald et al. (2024) Neuronal wiring diagram of an adult brain, Naturedoi.org
  2. Schlegel et al. (2024) Whole-brain annotation and multi-connectome cell typing of Drosophila, Naturedoi.org
  3. Shiu et al. (2024) A Drosophila computational brain model reveals sensorimotor processing, Naturedoi.org
  4. White et al. (1986) The structure of the nervous system of the nematode Caenorhabditis elegans, Philosophical Transactions of the Royal Society Bdoi.org