「大人の脳では神経細胞は増えない」は本当? 記憶の中枢・海馬で見つかった“新人の素”

読む前に予想してみよう!
大人の人間の脳では、新しい神経細胞はまったく作られないことが確定している
2025年の研究で、大人の海馬でも神経細胞のもとになる細胞の分裂が確認された。ただし人によって量の差が大きい。
- 対象
- 0〜78歳の人の死後脳(海馬)
- 規模
- 数十人分の脳組織
- 研究の種類
- 死後脳の単一核RNA解析
- 確かさ
- ★★★☆☆
スウェーデンの研究チームが、0〜78歳の脳を最新技術で調べ、大人の海馬でも神経細胞のもとになる細胞が分裂していることを確認した。
ひとことで言うと大人の脳でも、記憶の場所で新しい神経細胞が生まれているらしい!
「脳の神経細胞は、大人になったら減る一方。新しくは生まれない」。学校や本で、そう聞いたことがある人も多いと思います。
実はこの話、脳科学の世界で何十年も続いてきた大論争のテーマでした。「大人でも生まれている」という研究と、「いや、ほとんど見つからない」という研究が、交互に出てきたのです。
2025年、スウェーデンの研究チームが、この論争にかなり強力な証拠を加えました。
01記憶の司令塔「海馬」を最新技術で調べた
使ったのは単一核RNAシーケンスという技術。細胞1つ1つについて「どの遺伝子が働いているか」を読み取り、その細胞が何者なのかを見分けます。そこに機械学習も組み合わせ、膨大な細胞の中から神経細胞のもとになる細胞(神経前駆細胞)を探し出しました。
02大人の脳でも「分裂中」の細胞が見つかった
調べた結果、子どもの脳では、神経細胞が生まれるすべての段階の細胞が見つかりました。
そして大人の脳でも、分裂している神経前駆細胞が見つかったのです。さらに、別の技術で細胞の場所を確かめたところ、それらは海馬の中の歯状回(しじょうかい)という、動物で神経新生が起きることが知られている場所にありました。
フリセンさんは、大人の脳の海馬で神経細胞が作られ続けていることを裏づける結果だ、と話しています。

03長年の論争、なぜ決着がつかなかったの?
2018年には「子どもの時期に神経新生は急減し、大人ではほぼ見えないレベルになる」とする研究が『Nature』に載り、大きな話題になりました。一方で、同じ年に「高齢者でも神経新生は続く」とする研究も出ています。
意見が割れた大きな理由は、人の脳を調べる方法の難しさです。亡くなった後の脳は、保存の仕方や時間によって目印となるタンパク質が見えにくくなることがあります。今回は、細胞ごとの遺伝子の働きを読む方法で、そうした弱点を補おうとしたわけです。
04核実験の「炭素」で年齢を測った研究も
実は人の神経新生については、ユニークな方法で調べた研究もあります。2013年、同じカロリンスカ研究所のチームは、1950〜60年代の核実験で大気中に増えた放射性炭素が、その時期に作られた細胞のDNAに取りこまれていることを利用し、細胞の「生まれ年」を推定しました。
その結果、大人の海馬では、左右それぞれで毎日700個ほどの新しい神経細胞が加わっていると見積もられました。今回の研究は、その「新人」がどこから生まれてくるのかという出発点の細胞を、直接とらえたことに意味があります。
05まとめ
「大人の脳は新しくならない」という常識は、どうやら書き換えが必要になりそうです。
なぜ人によって差があるのか、運動や睡眠などの生活習慣で増やせるのか――。研究チームは、この先の研究が、うつ病や認知症などの治療のヒントにつながることを期待しています。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerFor a long time, many people believed that the adult human brain cannot produce new nerve cells.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many people believe that adults cannot make new brain cells. Scientists have argued about this for many years. In 2025, a team in Sweden studied the brains of people aged 0 to 78. They looked at the hippocampus, a part of the brain for memory.
Even in adult brains, they found cells that were dividing to make new brain cells. But the number of these cells was very different from person to person.
73 words ・ CEFR A2
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大人は新しい脳の細胞を作れないと、多くの人が信じています。科学者たちは、このことについて何年も議論してきました。2025年、スウェーデンのチームが0歳から78歳の人の脳を調べました。彼らは、記憶のための脳の部分である海馬に注目しました。
大人の脳でも、新しい脳の細胞を作るために分裂している細胞が見つかりました。しかし、こうした細胞の数は人によって大きく違っていました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
大人の脳でも新しい脳細胞のもとが分裂していた、という研究がテーマなので A。
Q2. How old were the people whose brains were studied?
the brains of people aged 0 to 78 とあるので C。
Q3. In this passage, "dividing" means ...
divide は「分ける・分かれる」。細胞が分裂して数を増やすという意味なので D。
For a long time, many people believed that the adult human brain cannot produce new nerve cells. In fact, scientists have debated this question for decades. In 2025, a research team at the Karolinska Institute in Sweden studied donated brain tissue from people aged 0 to 78. They focused on the hippocampus, which plays a key role in memory.
Using a technique that reads which genes are active in each single cell, together with machine learning, they searched for progenitor cells, the cells that later become neurons. In adult brains, they found progenitor cells that were dividing, in the same area where new neurons are known to form in animals. However, the number of these cells varied greatly between individuals.
120 words ・ CEFR B1
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長い間、大人の人間の脳は新しい神経細胞を作れないと多くの人が信じてきました。実際、科学者たちはこの問題を何十年も議論してきました。2025年、スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究チームは、0歳から78歳までの人から提供された脳組織を調べました。彼らは記憶で重要な役割を果たす海馬に注目しました。
細胞1つ1つでどの遺伝子が働いているかを読み取る技術と機械学習を組み合わせて、のちに神経細胞になる「前駆細胞」を探しました。大人の脳でも、動物で新しい神経細胞が生まれることが知られているのと同じ場所で、分裂している前駆細胞が見つかりました。しかし、こうした細胞の数は個人によって大きく異なっていました。
4択リーディングクイズ
Q1. What question have scientists debated for decades?
第1文で示された「大人の脳は新しい神経細胞を作れない」という考えを指して scientists have debated this question とあるので B。
Q2. What did the team use to find progenitor cells?
a technique that reads which genes are active in each single cell, together with machine learning とあるので D。
Q3. What can be inferred from the last sentence?
varied greatly between individuals(個人差が大きい)から、ほとんど持たない人もいると推測できるので A。
In 2018, two research teams asked the same question and reached opposite answers. One study, published in Nature, reported that the birth of new neurons in the human brain drops sharply in childhood to undetectable levels.
Another, published the same year, concluded that this process, called neurogenesis, continues into old age. Much of the disagreement comes from the difficulty of analyzing post-mortem tissue. Protein markers in the tissue can fade, depending on how the brain was preserved and for how long. In 2025, a team at the Karolinska Institute in Sweden published a study in Science that tried to get around this problem.
The researchers examined hippocampal tissue from donors aged 0 to 78, using single-nucleus RNA sequencing together with machine learning. In adults, they identified dividing neural progenitor cells and confirmed that these sat in the dentate gyrus, the same region where neurogenesis occurs in animals. The study had only a modest number of brain samples, and the adults differed widely, with some showing almost no progenitor cells. Whether the newly formed neurons do anything for memory is a question the data could not answer.
186 words ・ CEFR B2
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2018年、二つの研究チームが同じ問いに取り組み、正反対の答えを出しました。『Nature』に発表された一方の研究は、人間の脳で新しい神経細胞が生まれることは子ども時代に急減し、検出できないレベルになると報告しました。
同じ年に発表されたもう一方の研究は、神経新生と呼ばれるこの過程が高齢になっても続くと結論づけました。意見の対立の多くは、死後の組織を分析する難しさから生じています。組織の中の目印となるたんぱく質は、脳がどのように、どれくらいの期間保存されていたかによって見えにくくなることがあるのです。2025年、スウェーデンのカロリンスカ研究所のチームは、この問題を回避しようとした研究を『Science』に発表しました。
研究者たちは、0歳から78歳の提供者の海馬組織を、単一核RNAシーケンスと機械学習を組み合わせて調べました。そして大人でも分裂中の神経前駆細胞を特定し、それが動物で神経新生が起こるのと同じ領域、歯状回にあることを確認しました。この研究の脳サンプルの数は多くなく、大人どうしの差も大きく、前駆細胞がほとんど見られない人もいました。新しく生まれた神経細胞が記憶に何か役立っているのかどうかは、このデータでは答えられない問いでした。
4択リーディングクイズ
Q1. According to the passage, why did earlier studies disagree?
Much of the disagreement comes from the difficulty of analyzing post-mortem tissue. Protein markers in the tissue can fade とあるので C。
Q2. Where were the dividing progenitor cells found?
confirmed that these sat in the dentate gyrus とあるので B。大人の脳でも見つかっているので C は誤り。
Q3. Which of the following is NOT presented as a limitation of the study?
本文が挙げる限界は、サンプル数が多くないこと(only a modest number of brain samples)、個人差(the adults differed widely)、記憶への役割に答えられないこと。機械学習は方法として紹介されているだけなので D。
重要単語
- neurogenesisC1名詞神経新生(新しい神経細胞が生まれること)Exercise may support neurogenesis in animals.
neuro-(神経)+genesis(誕生)。genesis は旧約聖書の「創世記」と同じ語。 - hippocampusC1名詞海馬(記憶に関わる脳の部位)The hippocampus helps us store new memories.
ギリシャ語で「タツノオトシゴ」。形が似ていることから名づけられた。複数形は hippocampi。 - progenitor cellC1名詞(句)前駆細胞(ある細胞のもとになる細胞)Progenitor cells can divide and become neurons.
progenitor は「祖先・先駆者」。pro-(前に)+gen(生む)。 - controversyB2名詞論争The study added new evidence to a long controversy.
形容詞は controversial(物議をかもす)。アクセントは CON にある(イギリス英語では -TRO- も)。 - variationB2名詞ばらつき、個人差There was large variation between individuals.
vary(変わる・異なる)の名詞形。vary from person to person「人によって異なる」もセットで。 - persistentB2形容詞長く続く、しつこいIt was one of the most persistent debates in science.
persist(持続する・固執する)の形容詞形。a persistent cough「しつこい咳」。
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「大人になったら脳の神経細胞は減る一方」と思っていたら、0〜78歳の脳を最新技術で調べたスウェーデンの研究で、大人の記憶の中枢「海馬」にも、分裂中の“神経細胞の素”が見つかったらしい。長年の大論争に新しい証拠。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Dumitru et al. (2025) Identification of proliferating neural progenitors in the adult human hippocampus, Sciencedoi.org
- Boldrini et al. (2018) Human Hippocampal Neurogenesis Persists throughout Aging, Cell Stem Celldoi.org
- Sorrells et al. (2018) Human hippocampal neurogenesis drops sharply in children to undetectable levels in adults, Naturedoi.org
- Spalding et al. (2013) Dynamics of Hippocampal Neurogenesis in Adult Humans, Celldoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











