脳と心理ホント

マラソンを走ると、脳は「配線のカバー」を燃料にしていた? 2か月で元通りに

マラソンを走ると、脳は「配線のカバー」を燃料にしていた? 2か月で元通りに

読む前に予想してみよう!

マラソン後に減ったミエリンの信号は、2か月たっても戻らなかった

研究カード(どんな研究?)
対象
マラソンを走った成人ランナー
規模
10人(追跡は2〜6人)
研究の種類
前後比較の観察研究(MRI)
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

マラソン完走から1〜2日後のランナー10人の脳をMRIで調べると、神経のカバー「ミエリン」の量を示す信号が12の領域で減少。2か月後には回復していた。

ひとことで言うとマラソンのあと、脳の「電線のカバー」が一時的に減って、また元に戻った!

もくじ
  1. 神経の電線には「カバー」がある
  2. 走った1〜2日後、一部の領域で大きく減少
  3. 脳の「非常食」としてのミエリン?
  4. まとめ

42.195キロを走りきったあと、体はヘトヘト。でも実は、脳の中でも大変なことが起きていたようです。

2025年、スペインの研究チームが、マラソンを走ったランナーの脳をMRIで調べたところ、神経の「電線のカバー」が一時的に減っていることを見つけました。

しかも、2か月後にはちゃんと元に戻っていたのです。

01神経の電線には「カバー」がある

脳の神経細胞は、長いケーブルのような突起で情報を送り合っています。このケーブルを包んでいるのがミエリン(髄鞘)という脂肪の多い膜。電線のビニールカバーのように、信号を速く、正確に伝える役割があります。

ミエリンの多くは脂質(脂肪)でできています。研究チームが注目したのは、「エネルギーが足りなくなったとき、脳はこの脂質を燃料にするのでは?」という可能性でした。

02走った1〜2日後、一部の領域で大きく減少

結果、レースの1〜2日後のランナーの脳では、ミエリンの量を示す信号が、白質の12の領域で減っていました。減っていたのは、運動の調整や、感覚・感情の統合に関わる領域です。

そして、

  • 2週間後:かなり回復したが、まだ元のレベルには届かない
  • 2か月後:ほぼ元のレベルに回復

という経過をたどりました。

ミエリンは減っても、2か月で元に戻っていた
ミエリンは減っても、2か月で元に戻っていた

03脳の「非常食」としてのミエリン?

マラソンでは、体の主な燃料である糖(グリコーゲン)が底をつきかけます。研究チームは、そのとき脳がミエリンの脂質を予備のエネルギー源として使っている可能性を考えています。

これは、ネズミを使った最近の研究で示されてきた「ミエリンの脂質は、栄養が足りないときの予備のエネルギーになる」という考えとも一致します。

ミエリンが一時的に減って、また戻るというのは、これまで知られていなかった性質です。研究チームは、ミエリンが減ってしまう病気(多発性硬化症など)の理解にもつながるかもしれないと考えています。

ちなみに、ミエリンの量は「ミエリン水分率」というMRIの指標で推定されています。ミエリンの層の間に閉じこめられた水の割合を測ることで、ミエリンがどれくらいあるかの目安にする方法です。

04まとめ

脳は、ピンチのときに自分の一部を燃料にしてでも働き続ける、かなりタフな臓器なのかもしれません。

そして大事なのは、ちゃんと元に戻るということ。マラソンのあとは、しっかり食べて、しっかり休む。それが脳にとっても「回復期間」になっているのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerNerve cells send signals through long fibers, and many of these fibers are wrapped in myelin, a fatty layer… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Nerve cells send signals through long fibers, and many of these fibers are wrapped in myelin, a fatty layer that helps signals travel quickly. In 2025, a research team in Spain used MRI to examine the brains of ten amateur marathon runners. They scanned the runners before the race and one or two days after it, and scanned some runners again two weeks and two months later.

After the race, the signal that reflects myelin had dropped in 12 areas of white matter, including areas involved in controlling movement. After two weeks it had partly recovered, and after two months it was almost back to normal. The researchers think the brain may burn myelin fats for energy when its usual fuel runs low.

123 words ・ CEFR B1

和訳を見る

神経細胞は長い線維を通して信号を送っており、その線維の多くは、信号を速く伝えるのを助ける脂肪の多い層「ミエリン」に包まれています。2025年、スペインの研究チームはMRIを使って、10人の市民マラソンランナーの脳を調べました。彼らはレースの前と、レースの1〜2日後にランナーを撮影し、一部のランナーは2週間後と2か月後にも再び撮影しました。

レース後、ミエリンを反映する信号は、運動の調整に関わる領域を含む白質の12の領域で低下していました。2週間後には一部回復し、2か月後にはほぼ元通りになっていました。研究者たちは、いつもの燃料が足りなくなると、脳がミエリンの脂肪をエネルギーとして燃やすのではないかと考えています。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main role of myelin?

Q2. When were the runners scanned after the race?

Q3. According to the researchers, why might the brain use myelin fats?

重要単語

  • myelinC1
    名詞ミエリン(神経を包むカバー)Myelin helps signals travel quickly along nerves. 発音は /ˈmaɪəlɪn/(マイエリン)。日本語では「髄鞘(ずいしょう)」。
  • enduranceB2
    名詞持久力Marathons are a test of endurance. endure(耐える)の名詞形。endurance sports(持久系スポーツ)はよく使う組み合わせ。
  • reversibleB2
    形容詞元に戻せる、可逆的なThe change in the brain was reversible. reverse(逆にする)+-ible(できる)。反対は irreversible(元に戻せない)で、環境問題の長文でも頻出。
  • depleteC1
    動詞使い果たすLong races deplete the body's sugar stores. 名詞は depletion。ozone depletion(オゾン層の破壊)は入試の環境テーマで定番。
  • white matterC1
    名詞(句)白質(脳の配線が集まる部分)White matter connects different brain regions. ミエリンが白く見えることから。神経細胞の本体が集まる gray matter(灰白質)と対になる。
  • insulateB2
    動詞絶縁する、断熱するPlastic insulates the copper wire. insula(島)が語源で「孤立させる」イメージ。名詞 insulation(断熱材・絶縁)。

4コマでわかる

マラソンを走ると、脳は「配線のカバー」を燃料にしていた? 2か月で元通りにの4コマ漫画
マラソンを走った1〜2日後のランナーの脳をMRIで調べたら、神経の電線を包むカバー「ミエリン」の信号が脳の12か所で減っていたらしい。でも2か月後には元通り。脳がピンチのときの「非常食」として使っている可能性。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Ramos-Cabrer et al. (2025) Reversible reduction in brain myelin content upon marathon running, Nature Metabolismdoi.org
  2. Nature Metabolism (2025) Reversible reduction in brain myelin content after endurance exercise(解説記事)doi.org
  3. Asadollahi et al. (2024) Oligodendroglial fatty acid metabolism as a central nervous system energy reserve, Nature Neurosciencedoi.org