脳と心理ホント

脳の中の「小人」の地図が約90年ぶりに描き直された。運動の地図に"全身の司令室"が隠れていた

脳の中の「小人」の地図が約90年ぶりに描き直された。運動の地図に"全身の司令室"が隠れていた

読む前に予想してみよう!

脳の運動野は、足から顔まで体の部位がすき間なく順番に並んでいるだけだ

研究カード(どんな研究?)
対象
健康な成人・子ども・新生児・乳児・サル
規模
少数の精密計測+大規模データ3つ
研究の種類
fMRI研究
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

足から顔まで順に並ぶと考えられてきた脳の運動の地図。実は足・手・口のエリアのあいだに、全身の動きを計画するネットワークがはさまっていた。

ひとことで言うと脳の「体の地図」に、全身をまとめて動かす司令室が見つかった!

もくじ
  1. 始まりは、起きている患者の脳を刺激した外科医
  2. 最新のMRIで一人ずつ「精密に」測った
  3. "あいだの領域"は何をしているの?
  4. 古い地図は「間違い」だったの?
  5. まとめ

理科や保健の教科書で、こんな不思議な絵を見たことはありませんか?

手と唇と舌が異様に大きく、胴体や脚がやけに小さい人の姿。これは「ホムンクルス(脳の中の小人)」と呼ばれる図で、脳のどの場所が体のどこを担当しているかを表しています。手や口は細かい動きや感覚が必要なので、脳の中で大きな面積を占めている、というわけです。

この有名な地図が、2023年、約90年ぶりに大きく描き直されました。

01始まりは、起きている患者の脳を刺激した外科医

その結果描かれたのが、ホムンクルスです。脳の頭頂部から耳のほうへ向かって、足 → 胴体 → 手 → 顔 → 口と、体の部位が順番に並んでいるように見えました。この地図は、それ以来ずっと教科書の定番になりました。

02最新のMRIで一人ずつ「精密に」測った

2023年、アメリカ・ワシントン大学(セントルイス)のゴードン(Gordon)さんらのチームが『Nature』に発表した研究は、この地図に新しいページを加えました。

研究チームは、同じ人の脳を何時間もかけてくり返しMRIで撮る「精密fMRI」という方法で、一人ひとりの脳の地図を細かく描きました。すると——

  • 足・手・口を担当するエリアは、それぞれ同心円のようなまとまりを作っていた
  • そのあいだに、どの部位にも特化しない別の領域が、交互にはさまっていた
  • この"あいだの領域"どうしは強く結びつき、さらに行動の計画・覚醒・体の内側の調整に関わる脳のネットワークとつながっていた

研究チームはこれを、「体性認知行動ネットワーク(SCAN)」と名づけました。

足・手・口のエリアのあいだに、"全身の司令室"がはさまっていた
足・手・口のエリアのあいだに、"全身の司令室"がはさまっていた

03"あいだの領域"は何をしているの?

実験で、指だけ・つま先だけを動かすような単独の動きでは、SCANはあまり反応しませんでした。

ところが、手と足を協調させる動きを計画するときや、おなかや眉など体の中心に近い部分を動かすときに、SCANがそろって活動していたのです。

研究チームは、運動の地図には2つの仕組みが組み合わさっていると考えています。

  • 部位ごとのエリア:指や唇などを、それぞれ細かく動かす
  • SCAN:体全体の動きをまとめ、計画する

さらに、大規模な3つのMRIデータでも同じパターンが確認され、サルや新生児・乳児のデータでも似た構造の手がかりが見つかりました。

04古い地図は「間違い」だったの?

ペンフィールドの地図が完全に間違っていたわけではありません。足から口へという大まかな並びは、今回の研究でも確かめられています。

2017年の論文では、ホムンクルスの絵がどのように生まれ、改良されてきたかの歴史がまとめられています。電極で刺激できる場所や、当時の技術の限界の中で描かれた「その時代の最良の地図」だったのです。

05まとめ

約90年間、教科書に載り続けた「脳の中の小人」。最新の技術で調べ直すと、その地図のすき間に、全身の動きをまとめる司令室が隠れていました。

科学の"常識"は、終わりではなく、次の発見のスタート地点。教科書の図も、いつか描き直されるかもしれないと思うと、ちょっとワクワクしませんか?

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe homunculus is a famous drawing of a little man with huge hands and lips, showing how much of the brain… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

The homunculus is a famous drawing of a little man with huge hands and lips, showing how much of the brain controls each body part. It comes from work in the 1930s, when the surgeon Penfield stimulated the brains of awake patients and recorded which body parts moved. His map suggested that the parts were arranged in order, from the foot to the mouth.

In 2023, however, a team in the United States scanned the same people for many hours using a precise MRI method. They found that the foot, hand and mouth areas were separated by other regions. These regions were active when people planned movements that combined their hands and feet.

113 words ・ CEFR B1

和訳を見る

ホムンクルスは、手と唇がとても大きい小人の有名な絵で、脳のどれだけの部分が体の各部を制御しているかを示しています。これは1930年代の研究から生まれたもので、外科医ペンフィールドが起きている患者の脳を刺激し、体のどの部分が動くかを記録しました。彼の地図は、体の部分が足から口まで順番に並んでいることを示していました。

しかし2023年、アメリカのチームが精密なMRIの方法を使って、同じ人の脳を何時間もかけて撮影しました。その結果、足・手・口のエリアが別の領域によって区切られていることがわかりました。これらの領域は、人が手と足を組み合わせた動きを計画するときに活動していました。

4択リーディングクイズ

Q1. How did Penfield make his map?

Q2. What was special about the 2023 MRI method?

Q3. When were the newly found regions active?

重要単語

  • motor cortexC1
    名詞(句)運動野The motor cortex sends commands to our muscles. motor は「運動の」。motor skills「運動技能」。「モーター(電動機)」と同語源で「動かすもの」。
  • homunculusC1
    名詞ホムンクルス(脳の中の小人の図)The homunculus has huge hands and lips. ラテン語で「小さな人」。homo(人)+-unculus(小さい)。
  • mapA2
    名詞地図The brain contains maps of the body. 脳科学では body map「体の地図」、動詞 map(位置を特定する)もよく使われる。
  • interruptB1
    動詞中断する、途切れさせるThe map is interrupted by other regions. inter-(間に)+rupt(破る)。Sorry to interrupt, but ~「お話し中すみませんが」。
  • coordinateB2
    動詞(動きを)調整する、協調させるWe coordinate our hands and feet when we walk. co-(共に)+ordinate(並べる)。名詞 coordination。形容詞 coordinated「協調した」。
  • precisionB2
    名詞精密さ、精度Precision fMRI maps each person's brain in detail. 形容詞 precise。with precision「正確に」。accuracy(正確さ)との違いは「ばらつきの小ささ」。

4コマでわかる

脳の中の「小人」の地図が約90年ぶりに描き直された。運動の地図に"全身の司令室"が隠れていたの4コマ漫画
教科書でおなじみ、手と唇が巨大な「脳の中の小人(ホムンクルス)」。この運動の地図を最新のMRIで一人ずつ精密に調べたら、足・手・口のエリアのあいだに「全身の動きを計画する別のネットワーク」がはさまっていたらしい。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Penfield & Boldrey (1937) Somatic motor and sensory representation in the cerebral cortex of man as studied by electrical stimulation, Braindoi.org
  2. Catani (2017) A little man of some importance, Braindoi.org
  3. Gordon et al. (2023) A somato-cognitive action network alternates with effector regions in motor cortex, Naturedoi.org