塩味は「おいしい塩」と「しょっぱすぎる塩」で別ルートだった。濃い塩は“警報”を鳴らす

読む前に予想してみよう!
塩辛すぎる味を「イヤだ」と感じるのにも、塩味専用のセンサーだけが使われている
マウスの研究では、濃すぎる塩は酸味と苦味を感じる細胞を使って「イヤ」の信号を出していた。
- 対象
- マウス
- 規模
- 遺伝子改変マウスの実験
- 研究の種類
- 基礎研究(動物実験)
- 確かさ
- ★★★☆☆
マウスの研究で、ほどよい塩味は専用センサーENaCで「おいしい」と感じ、濃すぎる塩は酸味と苦味の細胞が「やめろ」と警報を出していた。
ひとことで言うと塩は「ちょうどいい」と「からすぎ」で、別の見張り役がいた!
おにぎりの塩加減がちょうどいいと「おいしい!」。でも、うっかり塩を入れすぎたスープは「しょっぱっ!」と顔をしかめますよね。
同じ「塩」なのに、量によって「おいしい」と「イヤだ」が正反対になる。これは、ほかの味にはない、塩味だけの不思議な特徴です。
研究によって、この秘密が見えてきました。塩味は、「おいしい塩」と「しょっぱすぎる塩」を、まったく別のルートで感じているらしいのです。
01塩は「必要だけど、とりすぎは危険」
ナトリウムは、体の水分や神経のはたらきを保つのに欠かせないミネラルです。だから動物は、塩を「おいしい」と感じて求めるようにできています。
一方で、とりすぎも危険。体の水分バランスがくずれてしまいます。つまり塩味には、「足りないときは食べたくなる」と「多すぎたら止める」の両方のしくみが必要なのです。
02「おいしい塩」は専用センサーで
つまり、「ちょうどいい塩加減」を感じて「おいしい」と思うのは、ナトリウム専用のセンサーの仕事でした。
2020年には、日本の研究チームが、このナトリウム専用の細胞がどうやって神経に信号を渡しているのかも解明しています。ほかの味細胞とはちがい、電気の信号だけですばやく情報を送っていることがわかりました。
03「しょっぱすぎる塩」は酸味と苦味が警報を鳴らす
では、塩辛すぎる味を「イヤだ」と感じるのは、どの細胞なのでしょうか。
2013年、同じズーカー研究室のチームは驚きの答えを発表しました。濃すぎる塩は、酸味を感じる細胞と苦味を感じる細胞を同時に刺激していたのです。
酸味と苦味は、もともと「腐っているかも」「毒かも」と知らせる警報の味。濃い塩は、この2つの警報を「借りて」、「今すぐやめろ!」というメッセージを送っていたわけです。

さらに驚くのは、酸味と苦味のルートを遺伝子操作で止めたマウスです。このマウスは、ふつうなら絶対に飲まないようなとても塩辛い水でも、どんどん飲み続けたのです。警報がなければ、塩の「おいしい」だけが残ってしまうのですね。
04まとめ
塩味は、「ちょうどいい塩」は専用センサーで「おいしい」、「しょっぱすぎる塩」は酸味と苦味の警報で「イヤだ」という、2段構えのしくみで管理されていました(少なくともマウスでは)。
「おいしい」と「危ない」の境目を、舌がこっそり見張っている。そう思うと、ひとつまみの塩にも、生き物のたくみな知恵が詰まっているように見えてきますね。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerSalt is unusual among tastes.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
A little salt makes food taste good, but too much salt tastes terrible. Why? Studies in mice found two different systems. A special salt sensor finds small amounts of salt and says, "This is good!"
But very salty food turns on the cells for sour and bitter tastes. These cells send a warning. They say, "Stop!" Mice without these warning cells kept drinking very salty water.
66 words ・ CEFR A2
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少しの塩は食べ物をおいしくしますが、塩が多すぎるとひどい味になります。なぜでしょうか。マウスの研究で、2つの異なるしくみが見つかりました。特別な塩のセンサーが少量の塩を見つけて、「これはおいしい!」と伝えます。
しかし、とても塩辛い食べ物は、酸味と苦味の細胞をオンにします。これらの細胞は警告を送ります。「やめろ!」と伝えるのです。この警告の細胞をもたないマウスは、とても塩辛い水を飲み続けました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
少しの塩はおいしく、多すぎるとイヤな味になる理由(2つのしくみ)を説明しているので D。
Q2. Which cells send a warning when food is very salty?
very salty food turns on the cells for sour and bitter tastes. These cells send a warning とあるので A。
Q3. In this passage, "warning" means ...
warning は「警告」、危険を知らせるメッセージなので C。直後の "Stop!" がヒント。
Salt is unusual among tastes. A little makes food delicious, but too much is unpleasant. This makes sense, because sodium is essential for the body, yet too much can upset its water balance. Studies in mice have revealed two separate systems. In 2010, a US team showed that low levels of salt are detected by taste cells with a sodium channel called ENaC.
Mice whose taste cells lacked ENaC lost their liking for salt. In 2013, the same team found that very salty solutions activate the cells that sense sour and bitter tastes, which act as alarms. Amazingly, mice without these alarm pathways kept drinking extremely salty water.
108 words ・ CEFR B1
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塩は味の中でも珍しい存在です。少しなら食べ物をおいしくしますが、多すぎると不快になります。これは理にかなっています。ナトリウムは体に欠かせない一方、多すぎると体の水分バランスをくずすことがあるからです。マウスの研究で、2つの別々のしくみが明らかになりました。2010年、アメリカのチームは、低い濃度の塩は、ENaCというナトリウムの通り道をもつ味細胞で感知されることを示しました。
味細胞にENaCがないマウスは、塩を好まなくなりました。2013年、同じチームは、とても塩辛い溶液は、酸味と苦味を感じる細胞を活性化し、それらが警報の役割を果たしていることを発見しました。驚いたことに、この警報のルートをもたないマウスは、極端に塩辛い水を飲み続けたのです。
4択リーディングクイズ
Q1. Why does it make sense for salt to have two systems?
sodium is essential for the body, yet too much can upset its water balance とあり、必要だがとりすぎは危険なので A。
Q2. What happened to mice whose taste cells lacked ENaC?
Mice whose taste cells lacked ENaC lost their liking for salt. とあるので D。A は警報ルートをなくしたマウス。
Q3. What can we infer from the mice that kept drinking extremely salty water?
警報(酸味・苦味)のルートがないと、塩辛すぎる水を止めるものがなくなると推測できるので B。
Salt occupies a peculiar position among tastes: at low concentrations it is attractive, while at high concentrations it becomes strongly aversive. This dual response makes biological sense, since sodium is essential for fluid balance and nerve function, yet excessive intake is dangerous. Research in mice has shown that the two responses rely on different cells.
In 2010, a team including Chandrashekar and Zuker reported in Nature that low salt is detected by taste cells carrying ENaC, a sodium channel; when ENaC was removed from taste cells, mice lost their attraction to salt and their nerve responses to sodium disappeared. In 2013, the same group found that high salt recruits two existing alarm systems, the cells that detect sour and bitter tastes.
When both pathways were genetically blocked, mice continued drinking extremely salty water that normal mice would reject. A 2020 Japanese study added that the sodium-sensing cells transmit signals purely electrically, unlike other taste cells. However, these findings come from mice, and whether human salt taste works in exactly the same way is still under investigation. Some evidence suggests that the human version of ENaC may play a different role.
190 words ・ CEFR B2
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塩は味の中で独特な位置を占めています。低い濃度では魅力的なのに、高い濃度では強い嫌悪を起こすのです。この二重の反応は生物学的に理にかなっています。ナトリウムは体液のバランスや神経のはたらきに欠かせない一方、とりすぎは危険だからです。
マウスの研究で、この2つの反応は別々の細胞に頼っていることが示されました。2010年、チャンドラシェカールさんやズーカーさんらのチームは、低い濃度の塩はナトリウムの通り道であるENaCをもつ味細胞で感知されることを『Nature』で報告しました。味細胞からENaCを取り除くと、マウスは塩への好みを失い、ナトリウムへの神経の反応も消えました。
2013年、同じグループは、高濃度の塩が既存の2つの警報システム、つまり酸味と苦味を感知する細胞を動員していることを発見しました。両方のルートを遺伝的に遮断すると、マウスはふつうのマウスなら拒否するような極端に塩辛い水を飲み続けました。2020年の日本の研究は、ナトリウムを感知する細胞は、ほかの味細胞とはちがい、電気だけで信号を伝えていることを付け加えました。しかし、これらの発見はマウスによるもので、ヒトの塩味がまったく同じしくみではたらいているかは、まだ研究中です。ヒトのENaCは異なる役割を果たしているかもしれないことを示す証拠もあります。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
低濃度の塩はENaC細胞、高濃度の塩は酸味・苦味の細胞と、別々の細胞が担当していることが中心なので D。
Q2. What did the 2013 study find about high salt?
high salt recruits two existing alarm systems, the cells that detect sour and bitter tastes とあるので A。
Q3. What limitation does the writer point out?
these findings come from mice, and whether human salt taste works in exactly the same way is still under investigation とあるので C。
重要単語
- saltyA2形容詞塩辛いThis soup is too salty.
salt(塩)+-y。sweet / sour / bitter / salty / savory(うま味のある)と味の形容詞をセットで。 - sodiumB2名詞ナトリウムTable salt contains sodium.
英語では「ナトリウム」ではなく sodium(ソウディアム)。元素記号 Na はラテン語 natrium から。 - aversiveC1形容詞嫌悪を起こすVery bitter tastes are aversive.
aversion(嫌悪)の形容詞形。have an aversion to ~「~が大嫌いだ」。 - appetiteB1名詞欲求、食欲Animals have an appetite for salt.
an appetite for ~「~への欲求」。比喩的にも使える。 - concentrationB2名詞濃度The salt concentration was very high.
「集中(力)」の意味のほうが有名。科学文では「濃度」と訳すのが定番。 - essentialB1形容詞欠かせない、不可欠なSodium is essential for the body.
be essential for / to ~「~に不可欠だ」。essence(本質)と同じ語源。
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塩味は1種類じゃなかったらしい。マウスの研究で、ちょうどいい塩加減は専用センサーで「おいしい」、濃すぎる塩は“酸味”と“苦味”の細胞が警報を出していた。警報を止めたマウスは超しょっぱい水もゴクゴク。
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出典・参考文献(3件)タップで表示
- Chandrashekar et al. (2010) The cells and peripheral representation of sodium taste in mice, Naturedoi.org
- Oka et al. (2013) High salt recruits aversive taste pathways, Naturedoi.org
- Nomura et al. (2020) All-Electrical Ca2+-Independent Signal Transduction Mediates Attractive Sodium Taste in Taste Buds, Neurondoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。













