昆布とかつお節を合わせると、うま味は「足し算」じゃなく「かけ算」になっていた

読む前に予想してみよう!
昆布とかつお節のうま味は、合わせると「足し算」以上に強く感じる
グルタミン酸とイノシン酸が同じ受容体に同時に結合し、反応を大きく強める「相乗効果」が知られている。
- 対象
- 培養細胞・動物・ヒトの味覚研究
- 規模
- 基礎研究多数
- 研究の種類
- 受容体の分子研究+官能評価
- 確かさ
- ★★★★☆
昆布のグルタミン酸とかつお節のイノシン酸を合わせると、うま味の受容体が強くはたらき、うま味がぐんと増す。日本の「合わせだし」は分子レベルの理にかなっていた。
ひとことで言うと昆布とかつお節はうま味の「名コンビ」。合わせると味が何倍にも!
みそ汁やお吸い物の「だし」。昆布だけ、かつお節だけでも作れますが、和食の世界では昔から両方を合わせる「合わせだし」が定番です。
実はこれ、ただの好みや伝統ではありませんでした。2種類のうま味成分を合わせると、舌のセンサーの反応が「足し算」ではなく「かけ算」のように強くなることが、分子レベルで説明されているのです。
01うま味は、日本の化学者が見つけた「5つ目の味」
1908年、東京帝国大学の化学者・池田菊苗は、湯豆腐の昆布だしの味がどこから来るのかを調べ、昆布からグルタミン酸を取り出しました。彼はこの味を「うま味」と名づけ、翌1909年に論文として発表しています。
その後、日本の研究者たちが次々にうま味成分を見つけました。かつお節からはイノシン酸、干ししいたけからはグアニル酸。うま味の主要な3成分は、すべて日本で発見されたのです。
ところが欧米では長いあいだ「うま味は塩味などの組み合わせにすぎない」と考えられ、独立した基本味として国際的に広く認められたのは20世紀の終わりごろでした。
022002年、ついに「うま味センサー」が見つかった
決め手になったのが、舌の上でうま味をキャッチする受容体の発見です。
ちなみに、甘味の受容体はT1R2とT1R3のペア。甘味とうま味は、センサーの部品を半分共有しているというのもおもしろいポイントです。
03センサーの「フタ」をしっかり閉じるコンビ技
では、なぜ2つを合わせると強くなるのでしょうか。2008年の研究は、その仕組みを分子のレベルで描き出しました。
うま味受容体のT1R1には、二枚貝やハエトリグサのようにパカッと開いたり閉じたりする部分があります。グルタミン酸はこの「ちょうつがい」の近くに入り込み、フタを閉じさせます。ここでイノシン酸がやって来ると、フタの入り口付近にもう一か所くっついて、閉じた状態をがっちり固定すると考えられています。

日本のうま味研究の歴史をまとめた2015年の総説によると、ヒトではグルタミン酸とイノシン酸を混ぜたときの反応は、グルタミン酸だけのときの約8倍にもなると見積もられています。
04まとめ
昆布とかつお節を合わせる知恵は、同じセンサーに2種類の成分が一緒にくっついてフタを固定するという、分子の世界のコンビ技でした。100年以上前に日本で見つかった「うま味」は、21世紀になってようやく受容体の姿まで明らかになったのです。
次にだしを取るときは、鍋の中で起きている「かけ算」を想像してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1908, the Japanese chemist Kikunae Ikeda discovered glutamate in kombu and named its taste "umami."…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In Japanese cooking, people often make soup stock with both kombu and dried bonito flakes. Why use both? Kombu has glutamate, and bonito has inosinate. Both give umami taste.
When they are mixed, the umami sensor on your tongue reacts much more strongly. It is not like adding one plus one. It is more like multiplying. That is why mixed dashi tastes so rich.
64 words ・ CEFR A2
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日本料理では、昆布とかつお節の両方を使ってだしを取ることがよくあります。なぜ両方を使うのでしょうか。昆布にはグルタミン酸が、かつお節にはイノシン酸があります。どちらもうま味を与えます。
それらを混ぜると、舌のうま味センサーがずっと強く反応します。それは1足す1のような足し算ではありません。むしろかけ算に近いのです。だから合わせだしは、とても豊かな味がするのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
昆布とかつお節を合わせるとうま味がずっと強くなる理由を説明しているので A。
Q2. What does bonito have?
bonito has inosinate とあるので C。グルタミン酸は昆布。
Q3. In this passage, "multiplying" is used to show that the effect is ...
足し算ではなくかけ算のように、単純に足すよりずっと大きな効果になる、という比喩なので B。
In 1908, the Japanese chemist Kikunae Ikeda discovered glutamate in kombu and named its taste "umami." Later, other Japanese researchers found inosinate in dried bonito and guanylate in dried shiitake. For a long time, many Western scientists did not accept umami as a basic taste.
Then, in 2002, US research teams found the umami receptor, a pair of proteins called T1R1 and T1R3. This receptor responded to glutamate, and its response became much stronger when inosinate was added. This matches the traditional Japanese practice of combining kombu and bonito to make dashi. The two ingredients are not just added together; they boost each other's effect.
105 words ・ CEFR B1
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1908年、日本の化学者池田菊苗は昆布からグルタミン酸を発見し、その味を「うま味」と名づけました。その後、ほかの日本の研究者たちが、かつお節からイノシン酸を、干ししいたけからグアニル酸を見つけました。長い間、多くの欧米の科学者たちは、うま味を基本味として認めていませんでした。
そして2002年、アメリカの研究チームが、T1R1とT1R3という2つのたんぱく質のペアであるうま味受容体を発見しました。この受容体はグルタミン酸に反応し、イノシン酸を加えるとその反応がずっと強くなりました。これは、昆布とかつお節を組み合わせてだしを取るという日本の伝統的なやり方と一致しています。2つの材料は単に足し合わされているのではなく、互いの効果を高め合っているのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What did Kikunae Ikeda discover in 1908?
discovered glutamate in kombu and named its taste "umami" とあるので D。
Q2. What did the 2002 research show about the umami receptor?
its response became much stronger when inosinate was added とあるので A。
Q3. What does the writer mean by "they boost each other's effect"?
boost each other's effect は「互いの効果を高め合う」。組み合わせると単独の足し算以上に強くなる、という意味なので C。
Japanese cooks have long combined kombu and dried bonito flakes to make dashi, and molecular research now explains why. In 1908, the chemist Kikunae Ikeda isolated glutamate from kombu and named its taste umami; other Japanese scientists later identified inosinate in bonito and guanylate in dried shiitake.
Even so, umami was not widely accepted internationally as an independent basic taste until the late twentieth century. A decisive step came in 2002, when US teams showed that a receptor formed by two proteins, T1R1 and T1R3, responds to glutamate, and that adding inosinate markedly strengthens the response, exactly matching the long-observed synergy. The sweet receptor shares T1R3, so sweet and umami sensors share half their parts.
A 2008 study proposed a mechanism: part of T1R1 opens and closes like a Venus flytrap. Glutamate settles near the hinge and helps close it, while inosinate binds near the opening and locks the closed shape in place. A 2015 review estimated that in humans the mixture can produce roughly eight times the response of glutamate alone. This figure, however, depends on concentrations, and receptor sensitivity differs between mice and humans, so animal data must be applied cautiously.
193 words ・ CEFR B2
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日本の料理人は昔から昆布とかつお節を組み合わせてだしを取ってきましたが、分子の研究がいまその理由を説明しています。1908年、化学者池田菊苗は昆布からグルタミン酸を取り出し、その味をうま味と名づけました。ほかの日本の科学者たちは、後にかつお節からイノシン酸を、干ししいたけからグアニル酸を特定しました。
それでも、うま味が独立した基本味として国際的に広く認められたのは、20世紀の終わりごろになってからでした。決定的な一歩は2002年に訪れました。アメリカのチームが、T1R1とT1R3という2つのたんぱく質でできた受容体がグルタミン酸に反応し、イノシン酸を加えるとその反応が著しく強まることを示したのです。これは長い間観察されてきた相乗効果とぴったり一致していました。
甘味の受容体もT1R3を共有しているので、甘味とうま味のセンサーは部品の半分が共通です。2008年の研究は、その仕組みを提案しました。T1R1の一部はハエトリグサのように開いたり閉じたりします。グルタミン酸はちょうつがいの近くに収まって閉じるのを助け、一方イノシン酸は入り口付近に結合して、閉じた形をその場に固定するのです。2015年の総説は、ヒトでは混合物がグルタミン酸単独のおよそ8倍の反応を生みうると見積もりました。ただし、この数字は濃度によって変わり、受容体の感度はマウスとヒトで異なるので、動物のデータは慎重に当てはめなければなりません。
4択リーディングクイズ
Q1. What does the 2008 study suggest about how the synergy works?
Glutamate ... helps close it, while inosinate binds near the opening and locks the closed shape in place とあるので B。
Q2. Which statement about the umami and sweet receptors is true?
the sweet receptor shares T1R3 とあるので D。
Q3. Why does the writer say animal data "must be applied cautiously"?
receptor sensitivity differs between mice and humans とあり、種差があるため慎重に当てはめる必要があるので A。
重要単語
- umamiB2名詞うま味Umami is now known as the fifth basic taste.
日本語がそのまま英語になった語。savory(風味のよい)で説明されることも多い。 - synergyC1名詞相乗効果The synergy between the two ingredients makes the soup rich.
syn-(共に)+erg(はたらき)。ビジネスでも「シナジー」として使われる。 - glutamateC1名詞グルタミン酸(塩)Kelp contains a lot of glutamate.
MSG(monosodium glutamate)=グルタミン酸ナトリウム。 - receptorC1名詞受容体Each taste has its own receptor on the tongue.
receive(受け取る)から。taste receptor「味覚受容体」。 - enhanceB2動詞強める、高めるA small amount of fish flakes can enhance the flavor.
improve より「質や強さを高める」ニュアンス。enhance the quality of life は頻出表現。 - isolateB2動詞(成分を)取り出す、分離するIkeda isolated glutamate from kombu.
「孤立させる」の意味でも頻出。科学では「単離する」の意味。名詞は isolation。
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昆布だし+かつおだしの「合わせだし」、実は分子レベルの裏ワザだった。2種類のうま味成分が同じセンサーに一緒にくっつくと、センサーの「フタ」がしっかり閉じて、うま味が足し算以上に強くなるらしい。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Ikeda (2002) New Seasonings(池田菊苗1909年論文の英訳), Chemical Sensesdoi.org
- Nelson et al. (2002) An amino-acid taste receptor, Naturedoi.org
- Li et al. (2002) Human receptors for sweet and umami taste, PNASdoi.org
- Zhang et al. (2008) Molecular mechanism for the umami taste synergism, PNASdoi.org
- Kurihara (2015) Umami the Fifth Basic Taste: History of Studies on Receptor Mechanisms and Role as a Food Flavor, BioMed Research Internationaldoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












