
寝る前に覚えると忘れにくい、は本当だった
有名な実験は、たった2人で行われた。
この判定の対象「寝る前に覚えると、忘れにくい」
もくじ
1924年、アメリカの心理学の雑誌に、ある実験が発表されました。参加者が覚えたのは、「意味のない音節」(意味を持たない、短い音のかたまり)のリストです。覚えたあと、眠った場合と、起きていた場合を比べました。1・2・4・8時間後に、どれだけ覚えているかを調べたのです。結果は、どの時間でも、眠ったほうが忘れにくいというものでした。
この実験は、ジェンキンスとダレンバックという2人の研究者が行いました。「寝る前に覚えると忘れにくい」という話の原点として、よく紹介される実験です。今もよく引用される有名な研究ですが、あまり知られていない事実があります。参加者は、たった2人だったのです。
この記事では、まず、1924年の実験の詳しい中身を紹介します。次に、それより前の研究と、高校生で単語の覚え方を確かめた実験を紹介します。最後に、177本の論文をまとめた分析から、眠ることの効果がどれくらいの大きさなのかを見ていきます。
011924年の実験の参加者2人は、約2か月研究室で暮らしてテストを受けた
2013年に、睡眠と記憶の研究をまとめた大きな論文が出ました。この論文は、1924年の実験を詳しく紹介しています。参加者は、「H.」と「Mc.」と呼ばれる2人でした。2人は約2か月の間、研究室で暮らし、ほぼ毎日、昼も夜もテストを受けました。眠ったか起きていたか、何時間後か、という条件ごとに、6〜8回ずつ繰り返し測ったのです。
2013年の論文には、もう一つの指摘があります。1924年の論文の図には、誤りがあるそうです。図の、起きていた場合の4時間後のところで、データの点が取り違えて描かれているのです。そこで、2013年の論文の著者たちは、元の論文の表の数字から、図を作り直しています。
ジェンキンスとダレンバックは、実験の結果から、こう考えました。忘れるのは、古い記憶が時間とともに薄れるからではない。起きている間に入ってくる新しいものが、古い記憶をじゃまするからだ、と。この考え方を干渉説(かんしょうせつ)といいます。
02眠ると忘れにくいことは、1885年にはもう気づかれていた
「眠ると忘れにくい」ことに最初に気づいたのは、1924年の2人ではありません。1885年、エビングハウス(Hermann Ebbinghaus)は、自分自身を実験台にして、覚えたものをどれだけ忘れるかを調べました。忘れ方は、覚えてから最初の数時間で一番速く、数日たつと緩やかになります。これが、有名な「忘却曲線」です。エビングハウスは、このとき、睡眠をはさむと忘れ方が少ないことにも気づいていました。
さらに1914年には、ローザ・ハイネが6人で実験しました。夜に覚えてから眠った場合と、昼に覚えて起きていた場合を比べたのです。すると、夜に覚えて眠ったほうが、24時間後の忘れ方が少なかったのです。
03高校生の単語の実験では、覚えてすぐ眠った日のほうが忘れにくかった
では、眠ることは、勉強にどれくらい役立つのでしょうか。2006年、ある研究チームが、高校生の単語の暗記で調べました。
1つ目の実験の参加者は、アメリカの高校生12人です。英語が母語で、ドイツ語は知りません。英語の単語と、同じ意味のドイツ語の単語の組を、24組、10分で覚えます。覚える時間は、朝8時か夜8時です。そして、24時間後か36時間後にテストしました。
その結果、朝に覚えた日は、夜に覚えた日より、ずっと多く忘れていました。テストを24時間後にしても36時間後にしても、成績に差はありませんでした。テストを朝にしても夜にしても、成績に差はありません。成績を左右していたのは、覚えてから数時間以内に眠ったかどうかでした。
2つ目の実験では、高校生14人が夜8時に単語を覚えました。そのあと、普通に眠る夜と、徹夜する夜を比べます。徹夜の間は、テレビやゲームはよいけれど、読書は禁止でした。テストは、48時間後に行いました。そのころには、徹夜した人も、ぐっすり眠って回復しています。それでも、覚えた夜に眠った人のほうが、はっきり多く覚えていました。

04177本の論文をまとめると、眠ることの効果は「中くらい」の大きさだった
1924年の2人の実験から始まった研究は、その後どんどん増えました。2021年、2人の研究者が、1967年から2019年までの177本の論文をまとめて分析しました。177本の論文には、参加者のグループが合わせて271あり、眠った場合と起きていた場合などを比べた結果が合わせて823ありました。
分析の結果、眠ることで忘れにくくなる効果の大きさは、「中くらい」でした。ただし、効果がはっきり出た研究ほど論文として発表されやすい、という偏りがあるかもしれません。そこで、その偏りの分を差し引いて計算し直すと、効果は小さくなりました。それでも、効果は確かに残りました。
効果が大きくなる条件も分かりました。一つめは、一度だけでなく、何回か学んだときです。二つめは、手がかりなしで単語を思い出すテストのときです。三つめは、昼寝ではなく、夜の普通の睡眠のときです。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
眠りは記憶をじゃまから守るだけか、記憶そのものを強くするのか
ジェンキンスとダレンバックの考えでは、睡眠は、記憶が一時的に逃げこむ「避難所」でした。眠っている間は、新しいものが入ってこないので、記憶がじゃまされない。眠りの役目はそれだけだ、という考え方です。
しかし、それだけでは説明できない結果が出てきます。2009年の研究では、眠ったあとに、わざとじゃまになる別の単語リストを覚えさせました。もし睡眠が避難所にすぎないなら、起きてからじゃまが入れば、眠った人と起きていた人の差は消えるはずです。ところが実際には、その差はかえって大きくなりました。眠りが記憶そのものを強くし、じゃまに負けにくくしていると考えられます。このように、眠っている間に記憶が強められるという考え方を、能動的な固定化といいます。
一方で、2023年の研究のように、眠ると忘れにくいのは「記憶がじゃまから守られるから」で説明できる、とする報告もあります。この研究は、物語の中で、単語の新しい意味を覚える実験です。覚えてすぐ眠り、起きてすぐテストした条件が、最もよい成績でした。研究者たちは、起きている間に聞くたくさんの言葉が、記憶のじゃまになる、と考えました。二つの考え方は、どちらか一方だけが正しいというより、両方が関わっている可能性があります。
深い眠りの間に、覚えたときと同じ香りをかがせると、よく思い出せた
能動的な固定化の証拠として有名なのが、2007年の香りの実験です。参加者は、バラの香りの中で、カードの位置を覚えました。そのあと眠ります。そして、徐波睡眠(じょはすいみん:脳波がゆっくり大きくなる深い眠り)の間に、同じ香りをかがせました。本人は、香りに気づいていませんでした。
起きてからテストすると、香りをかいだ人は、カードの位置をよく思い出せました。一方、レム睡眠中や起きている間にかいでも、効果はありませんでした。覚えるときに香りがなかった人にも、効果はありませんでした。脳の画像では、記憶に関わる海馬(かいば)という部分が、香りに反応して活動していました。眠っている脳が、香りをきっかけに昼間の記憶を呼び起こし、「復習」していると考えられます。ただし、体で覚える動きの記憶には、効果がありませんでした。
参加者2人の実験の結論は、その後100年の研究で確かめられた
1924年の実験は、参加者が2人で、図には誤りまでありました。今の基準で見れば、とても小さな研究です。それでも、「眠ると忘れにくい」という結論は、100年かけてたくさんの研究で確かめられました。
科学の結論の強さは、一つの有名な実験では決まりません。何度も繰り返し試された研究の数で決まります。2021年の分析は、その研究の積み重ねを数字で示しました。同時に、発表の偏りを差し引くと、効果が小さくなることも示しました。「本当かどうか」だけでなく、「どれくらい効くか」まで見ることが大切です。
効果の大きさを表す「0.44」は、中くらいに近い効果という意味
2021年の分析が出した0.44は、「効果量」と呼ばれる数字です。眠った人たちと起きていた人たちの成績の差を、成績のばらつきの大きさで割った値です。0.2ぐらいなら小さい、0.5ぐらいなら中くらい、0.8ぐらいなら大きい、と読むのがよく使われる目安です。この目安は、統計学者のコーエンが示した、おおまかなものです。
0.44は「中くらいに近い」効果で、偏りを差し引いた0.28は「小さめ」になります。つまり、一人ひとりで見れば、眠っても忘れる人もいるし、起きていても覚えている人もいる、ということです。
05まとめ
「寝る前に覚えると忘れにくい」の原点とされる1924年の実験は、参加者がたった2人でした。でも、その後の高校生の単語実験や、177本の論文のまとめでも、眠ると忘れにくくなる効果は確かにありました。効果の大きさは「中くらい」です。
今夜からできるのは、覚えたいことを寝る前の数時間に復習し、そのまま夜ふかしせずに眠ることです。2006年の実験で成績を左右していたのは、覚えてから数時間以内に眠ったかどうかでした。
人に話すなら、こう言おう
寝る前に覚えると忘れにくいって話、一番有名な実験は参加者がたった2人だったんだって。でもその後100年分の研究をまとめても、効果はちゃんとあったらしいよ。
英語で読む
Two People, One Famous Sleep Study
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
In 1924, two scientists wrote about a famous study on sleep and memory in an American journal.1924年、2人の科学者が、睡眠と記憶についての有名な研究をアメリカの雑誌に発表しました。 People learned lists of syllables with no meaning.参加者は、意味のない音節のリストを覚えました。 Then they either slept or stayed awake for 1, 2, 4, or 8 hours.そのあと、1、2、4、8時間のあいだ、眠るか起きているかしました。 After sleep, they forgot less.眠ったあとのほうが、忘れることが少なかったのです。
But here is a fact that few people know.でも、あまり知られていない事実があります。 Only two people took part in the study.この研究に参加したのは、たった2人でした。 They lived in the lab for about two months and took tests day and night.2人は約2か月間研究室で暮らし、昼も夜もテストを受けました。 Today, a study with only two people would seem very small.今なら、たった2人の研究はとても小さく見えるでしょう。
Later studies used more people.その後の研究では、もっと多くの人が参加しました。 In 2006, American high school students learned 24 pairs of English and German words.2006年、アメリカの高校生が、英語とドイツ語の単語24組を覚えました。 Some days they learned at 8 in the morning, and other days at 8 in the evening.朝8時に覚える日もあれば、夜8時に覚える日もありました。 When they learned in the evening and slept soon after, they forgot much less.夜に覚えて、そのあとすぐに眠ったときは、忘れる量がずっと少なかったのです。
In 2021, two researchers put together 177 studies from 1967 to 2019.2021年、2人の研究者が、1967年から2019年までの177本の研究をまとめました。 They found that sleep helps memory, but the effect is medium, not huge.睡眠は記憶を助けるが、その効果はとても大きいわけではなく中くらいだ、と分かりました。 The effect was bigger when people studied something more than once.何かを2回以上学んだときは、効果が大きくなりました。
Scientists think the sleeping brain may review what we learned during the day.科学者たちは、眠っている脳が、昼間に学んだことを復習しているのかもしれないと考えています。 So here is a simple plan for tonight.だから、今夜できる簡単な計画があります。 Review your words before bed, and then go to sleep.寝る前に単語を復習して、そのまま眠りましょう。 Do not stay up late.夜ふかしはしないでください。 Your brain may keep working while you rest.あなたが休んでいる間も、脳ははたらき続けてくれるかもしれません。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:C Research on sleep and memory
第1段落から第4段落まで、1924年・2006年・2021年の睡眠と記憶の研究を紹介しているので正解はC。Aのドイツ語は2006年の実験で使われた単語にすぎない。
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Q2How many people took part in the 1924 study?
1924年の研究に参加したのは何人ですか。
正解:A Two
第2段落2文目に「参加したのはたった2人」とあるので正解はA。Bの24は2006年の実験の単語の組の数、Cの177はまとめられた研究の数。
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Q3When did the high school students forget much less?
高校生たちが忘れる量がずっと少なかったのは、どんなときですか。
正解:C When they learned in the evening and slept soon after
第3段落4文目に「夜に覚えて、そのあとすぐに眠ったときは、忘れる量がずっと少なかった」とあるので正解はC。Aの朝に覚えた日は、むしろ多く忘れていた。
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Q4In paragraph 4, the words "put together" are closest in meaning to ...
第4段落の "put together" に最も意味が近いのはどれですか。
正解:B collected and combined
第4段落1文目で、177本の研究を put together して全体の結果を出しているので、「集めてまとめた」のBが正解。Cの「初めて書いた」では、すでにある研究を数えたことと合わない。
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Q5Which is true about the story?
この話の内容と合っているのはどれですか。
正解:D The two people in 1924 lived in the lab for about two months.
第2段落3文目に「2人は約2か月間研究室で暮らした」とあるので正解はD。Bは第4段落2文目の「効果は中くらいで、とても大きいわけではない」と合わない。Cは第4段落3文目と逆。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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memory名詞記憶、思い出
I have a good memory of that trip.
あの旅行にはよい思い出がある。
💡 動詞は memorize(暗記する)。
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syllable名詞音節
The word "banana" has three syllables.
banana という語は3つの音節からできている。
💡 ba-na-na のように、ひとまとまりで発音する音の単位。
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awake形容詞目がさめている
I was awake until midnight.
真夜中まで起きていた。
💡 stay awake で「起きたままでいる」。反対は asleep。
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take part in熟語〜に参加する
Many students took part in the race.
たくさんの生徒がそのレースに参加した。
💡 join とほぼ同じ意味。
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forget動詞忘れる
Don't forget your homework.
宿題を忘れないでね。
💡 過去形 forgot、過去分詞 forgotten。
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effect名詞効果、影響
The medicine had a good effect.
その薬はよく効いた。
💡 動詞の affect(影響する)とつづりが似ているので注意。
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review動詞復習する、見直す
Let's review the new words.
新しい単語を復習しよう。
💡 名詞では「見直し、批評」。
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stay up句動詞(寝ないで)起きている
I stayed up late to watch the game.
試合を見るために夜おそくまで起きていた。
💡 stay up late で「夜ふかしする」。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 19件)。
- Jenkins, J. G., Dallenbach, K. M. (1924) Obliviscence during Sleep and Waking, American Journal of Psychology 35doi.org
- Rasch, B., Born, J. (2013) About Sleep's Role in Memory, Physiological Reviews 93doi.org
- Gais, S., Lucas, B., Born, J. (2006) Sleep after learning aids memory recall, Learning & Memory 13doi.org
- Ellenbogen, J. M. ほか (2009) The sleeping brain's influence on verbal memory: boosting resistance to interference, PLoS ONE 4doi.org
- Rasch, B., Büchel, C., Gais, S., Born, J. (2007) Odor cues during slow-wave sleep prompt declarative memory consolidation, Science 315doi.org
- Berres, S., Erdfelder, E. (2021) The sleep benefit in episodic memory: An integrative review and a meta-analysis, Psychological Bulletin 147doi.org
- Hulme, R. C., Rodd, J. M. (2023) The Role of Sleep in Learning New Meanings for Familiar Words through Stories, Journal of Cognitiondoi.org
公式ページで見てみよう
- Rasch & Born (2013) About Sleep's Role in Memory(PubMed Central)pmc.ncbi.nlm.nih.gov
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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