ハンドドライヤーは、ペーパータオルより菌をまき散らすのか
ウラ取りライフハックNo.078

ハンドドライヤーは、ペーパータオルより菌をまき散らすのか

研究の多くには、業界のお金が出ていた。

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この判定の対象「ハンドドライヤーは、ペーパータオルより菌をまき散らす」

うなり度 読む時間7分 出典7件 確認した事実25件
もくじ
  1. 実験では、ジェット式ドライヤーが、手のしぶきと菌を一番遠くまで飛ばした
  2. ドライヤーの風の菌は、中で増えたものではなく、トイレの空気にいた菌だった
  3. トイレで病気がうつった証拠はなく、研究の多くは業界のお金で行われていた
  4. 深掘り講義
  5. まとめ
  6. 英語で読む(A2・4択5問)
  7. 出典・ウラ取り

イギリスの研究室で、ある実験が行われました。手に乳酸菌をたっぷり塗り、「よく洗えていない手」をわざと作ります。その手を、3つの方法で乾かしました。強い風で水を吹き飛ばすジェット式のハンドドライヤー、温かい風で乾かす温風式、そしてペーパータオルです。

乾かしている間、すぐそばの空気を集めて、菌の数を数えました。集めた空気から育った菌のかたまりの数は、ジェット式が70.7個でした。温風式は15.7個、ペーパータオルは2.6個です。ジェット式は、ペーパータオルの27倍の菌を空気中に飛ばしていました。この研究は2014年、病院の感染対策の専門誌に載りました。

ここまで読むと、「ハンドドライヤーは使わないほうがいい」と思うかもしれません。でも、ほかの研究も読むと、そうとは言い切れないことが分かります。

この記事では、まずドライヤーが菌を飛ばすことを示した実験を紹介します。次に、ドライヤーで病気がうつるのかを調べた研究と、研究のお金の出どころを紹介します。最後に、ドライヤーを使うときのコツを紹介します。

01実験では、ジェット式ドライヤーが、手のしぶきと菌を一番遠くまで飛ばした

2014年の研究では、手に絵の具も塗りました。乾かしたときのしぶきの広がり方を、目で見て確かめたのです。一番広くしぶきを飛ばしたのは、やはりジェット式でした。1m離れた場所で集めた菌の数も、ジェット式が一番多くなりました。

2016年には、細菌だけに感染する、人には無害なウイルスを使った実験も行われました。手袋をした手にこのウイルスをつけて乾かしたのです。床からの高さ0.15〜1.65mの範囲で、空気中に飛んだウイルスの量を比べました。ジェット式は、温風式の60倍以上、ペーパータオルの1300倍以上のウイルスをまき散らしていました。使ってから15分たっても、ジェット式の周りの空気には、ウイルスが多く残っていました。

02ドライヤーの風の菌は、中で増えたものではなく、トイレの空気にいた菌だった

2018年には、トイレの温風式ドライヤーが調べられました。場所は、アメリカの大学の医療系の研究施設です。菌を育てる皿をドライヤーの風に30秒当てると、平均で18〜60個の菌のかたまりが育ちました。ドライヤーを止めて、トイレの空気に2分さらしただけの皿では、1個以下でした。

では、菌はドライヤーの中にすみついていたのでしょうか。調べると、ドライヤーの吹き出し口の内側には、菌はほとんどいませんでした。一方、小さな扇風機でトイレの空気を20分当てた皿にも、菌が集まりました。つまり、ドライヤーの中で菌が増えているというより、トイレの空気を大量に手に吹きつけていると考えられます。ドライヤーに、細かいちりをこしとるHEPAフィルターを付けると、皿につく菌の数は約4分の1に減りました。

実験では、ジェット式ドライヤーが手のしぶきや菌を一番遠くまで飛ばした。ただし、ドライヤーの風で病気がうつったという証拠は見つかっていない
実験では、ジェット式ドライヤーが手のしぶきや菌を一番遠くまで飛ばした。ただし、ドライヤーの風で病気がうつったという証拠は見つかっていない

03トイレで病気がうつった証拠はなく、研究の多くは業界のお金で行われていた

ここで大切なのは、「菌が空気に飛ぶ」ことと「病気がうつる」ことは別だという点です。2022年、トイレでの感染についての研究38本をまとめた論文が出ました。この論文は、ドライヤーを使うときやトイレの水を流すときに、微生物が空気に舞う危険はある、としています。でも、トイレで空気を通して腸の病気や新型コロナなどがうつった証拠は、見つかりませんでした。

2021年には、ハンドドライヤーとペーパータオルを比べた研究をまとめた論文(レビュー)も出ました。このレビューは、293本の論文から23本を選んで分析しました。その結果、ペーパータオルのほうがよいとした研究は7本でした。ドライヤーのほうがよいとした研究は2本。結果がまちまち、または差がない研究は9本でした。レビューの結論は、「どちらがより衛生的とは言えない」でした。どちらかの方法が健康によいと言えるデータもない、としています。

このレビューは、研究のお金の出どころも調べています。多くの研究は、結果によって得や損をする業界から、お金を受けていました。結果の一部にでもペーパータオルに有利な内容を含む研究は、13本ありました。そのうち5本は、欧州ティッシュ・シンポジウムという団体の資金でした。この記事の最初に紹介した2014年と2016年の研究も、この5本に入ります。ほかの5本も、別の民間の資金を受けていました。一方、結果の一部にでもドライヤーに有利な内容を含む研究は7本でした。そのうち4本も、民間の資金を一部受けていました。そして、このレビュー自体も、ハンドドライヤーのメーカーから一部の資金を受けていました。著者の一人も、同じメーカーから研究資金を受けたと申告しています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

温風の下で手をこすると、菌が増える理由

皮ふの菌には2種類あります。外から手についた一時的な菌と、皮ふのしわや毛穴の奥にすみついている常在菌です。手洗いで落ちやすいのは、主に一時的な菌です。

2005年の研究では、温風の下で手をこすると、手のひらと指の菌の数がかえって増えました。2011年の研究も、こすると菌の数が減りにくいことを示しました。こする動きで、皮ふの奥にいた菌が表面に出てくる可能性が考えられます。どちらの研究も、手を動かさずに乾かすほうが菌が減るという点で一致しています。なお、2005年の研究では、ペーパータオル3枚でふいても、手のひらと指の菌は減りませんでした。指先の菌は減りました。どの乾かし方にも、菌がよく減る場所と、減りにくい場所があるのです。

手をぬれたままにすると、菌をほかの物に移しやすい

手の乾かし方を比べるときに忘れられがちなのが、手を乾かさないことの危険です。2021年のレビューは、ぬれた手は乾いた手より、菌をほかの物に移しやすいという研究をいくつも紹介しています。ドライヤーをきらって手をぬれたままにすると、別の問題が生まれるかもしれません。

研究にお金を出した会社がいると、結果がかたよるおそれがある

研究者が、結果によって得や損をする立場にあることを利益相反といいます。たとえば、ある製品の会社がお金を出した研究では、その製品に有利な結果が出やすいのではないか、と心配されます。だから論文には、資金の出どころや利益相反を書く決まりがあります。

ハンドドライヤーの研究は、利益相反の分かりやすい例です。2021年のレビューによると、ペーパータオルに有利な研究の多くも、ドライヤーに有利な研究の多くも、民間の資金を受けていました。欧州ティッシュ・シンポジウムの資金による5本のうち4本は、同じ研究者グループによるものでした。さらにレビュー自体も、ドライヤーメーカーから一部の資金を受けていました。

ここで大事なのは、資金の出どころだけで、研究が間違いだと決めつけないことです。2014年や2016年の実験も、方法や数字は論文として公開され、ほかの人が確かめられます。読む側にできるのは、資金を確かめたうえで、実験の条件をよく見ることです。たとえば、「手にどれだけ菌をつけたか」「本当のトイレに近い条件か」を確かめます。そして、立場の違う複数の研究を並べて判断することです。

菌が空気に飛んでも、それで病気になるとはかぎらない

実験で菌が多く飛んでも、それで人が病気になるとはかぎりません。病気になるには、その菌が病原体であること、十分な量が体に入ること、などの条件がそろう必要があります。2018年の研究では、ドライヤーの風から、病気の原因になりうる菌も見つかりました。HEPAフィルターを付けても、その菌はなくなりませんでした。ただし、そのせいで実際に病気になった人がいるかどうかは、調べられていません。2021年のレビューは、手の乾かし方と健康の関係を数字で評価する方法(微生物のリスク評価)を使うべきだ、と提案しています。

04まとめ

実験室では、ジェット式のハンドドライヤーが、ペーパータオルより多くの菌を空気中に飛ばしました。でも、トイレで空気を通して病気がうつった証拠は見つかっていません。そして、どちら側の研究にも業界のお金が入っていました。

今日からできるのは、乾かし方のコツです。温風式ドライヤーを使うときは、手をこすらず、じっとかざしましょう。日本の研究では、こすると菌がかえって増えていました。

人に話すなら、こう言おう

ジェット式のハンドドライヤーは、ペーパータオルの27倍も菌を空気に飛ばしたって実験があるんだって。でも研究のお金の出どころを調べると、紙の側にもドライヤーの側にも業界のお金が入ってたらしいよ。
READ IN ENGLISH

英語で読む

Hand Dryers, Paper Towels, and Who Paid

CEFR A2227 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

In a lab in the United Kingdom, scientists put bacteria on people's hands on purpose.イギリスのある研究室で、科学者たちはわざと人の手に細菌をつけました。 Then they dried the hands in three ways.そして、3つの方法で手を乾かしました。 They used a jet air dryer, a warm air dryer, and paper towels.ジェット式のドライヤー、温風式のドライヤー、そしてペーパータオルです。

The jet air dryer sent the most bacteria into the air.ジェット式のドライヤーが、いちばん多くの細菌を空気中に飛ばしました。 In the air near the dryer, there were 27 times more bacteria than with paper towels.ドライヤーの近くの空気には、ペーパータオルの27倍の細菌がいました。 This study came out in 2014.この研究は2014年に発表されました。 But bacteria in the air do not always make people sick.でも、空気中の細菌が、いつも人を病気にするわけではありません。 A 2022 review found no proof that people caught illnesses through the air in public toilets.2022年のレビューは、公共のトイレで空気を通して病気がうつった証拠を見つけられませんでした。

There is another problem.もう一つ問題があります。 A 2021 review looked at who paid for these studies.2021年のレビューは、これらの研究にだれがお金を出したかを調べました。 A group called the European Tissue Symposium paid for 5 studies that favored paper towels.欧州ティッシュ・シンポジウムという団体が、ペーパータオルに有利な研究5本にお金を出していました。 Private companies also helped pay for 4 studies that favored dryers.民間の会社も、ドライヤーに有利な研究4本に、お金の一部を出していました。 Even one author of the review got money from a dryer company.レビューの著者の一人も、ドライヤーの会社からお金を受けていました。

The review said we cannot say which method is cleaner.そのレビューは、どちらの方法がより清潔かは言えない、と述べました。 Still, there is one easy tip.それでも、一つ簡単なコツがあります。 In 2005, a team in Japan tested warm air dryers.2005年、日本の研究チームが温風式ドライヤーを調べました。 When people rubbed their hands under the warm air, the number of bacteria on their palms went up.温風の下で手をこすると、手のひらの細菌の数が増えました。 When they held their hands still, the number went down.手を動かさずにいると、その数は減りました。

So next time you use a warm air dryer, do not rub your hands.だから次に温風式ドライヤーを使うときは、手をこすらないでください。 Just hold them still and let the air do the work.ただ手をじっとかざして、風に仕事をさせましょう。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How many times more bacteria were near the jet air dryer than with paper towels?

    ジェット式ドライヤーの近くには、ペーパータオルの何倍の細菌がいましたか。

  3. Q3Why is it hard to trust many of these studies completely?

    なぜ、これらの研究の多くを完全には信用しにくいのですか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "favored" is closest in meaning to ...

    第3段落の "favored" に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話の内容と合っているのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • bacteria名詞
    細菌

    Some bacteria are good for our stomach.

    胃や腸によい細菌もいる。

    💡 複数形の名詞。1つなら bacterium。

  • on purpose熟語
    わざと

    He broke the window on purpose.

    彼はわざと窓を割った。

    💡 反対は by accident(偶然に)。

  • dry動詞・形容詞
    乾かす/乾いた

    Dry your hair before you go to bed.

    寝る前に髪を乾かしなさい。

    💡 dryer は「乾かす機械」。hair dryer は「ヘアドライヤー」。

  • proof名詞
    証拠

    Do you have any proof?

    何か証拠はあるの?

    💡 動詞は prove(証明する)。

  • review名詞
    (研究の)まとめ、レビュー

    She wrote a review of the new book.

    彼女は新しい本の批評を書いた。

    💡 re(もう一度)+ view(見る)。見直してまとめたもの。

  • favor動詞
    〜に有利である、〜を好む

    The rules favor the home team.

    そのルールは地元チームに有利だ。

    💡 名詞では「親切な行い」。Can I ask you a favor? で「お願いがあるんだけど」。

  • rub動詞
    こする

    Do not rub your eyes.

    目をこすらないで。

    💡 rub A together で「Aをこすり合わせる」。

  • palm名詞
    手のひら

    She held the bird in her palm.

    彼女は手のひらに小鳥をのせていた。

    💡 palm tree(ヤシの木)と同じつづり。l は発音しない。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 25件)。

  1. Best, E. L., Parnell, P., Wilcox, M. H. (2014) Microbiological comparison of hand-drying methods: the potential for contamination of the environment, user, and bystander, Journal of Hospital Infection 88doi.org
  2. Kimmitt, P. T., Redway, K. F. (2016) Evaluation of the potential for virus dispersal during hand drying: a comparison of three methods, Journal of Applied Microbiology 120doi.org
  3. Huesca-Espitia, L. C. ほか (2018) Deposition of Bacteria and Bacterial Spores by Bathroom Hot-Air Hand Dryers, Applied and Environmental Microbiology 84doi.org
  4. Yamamoto, Y., Ugai, K., Takahashi, Y. (2005) Efficiency of hand drying for removing bacteria from washed hands, Infection Control & Hospital Epidemiology 26doi.org
  5. Snelling, A. M. ほか (2011) Comparative evaluation of the hygienic efficacy of an ultra-rapid hand dryer vs conventional warm air hand dryers, Journal of Applied Microbiology 110doi.org
  6. Reynolds, K. A. ほか (2021) Comparison of electric hand dryers and paper towels for hand hygiene: a critical review of the literature, Journal of Applied Microbiology 130doi.org
  7. Vardoulakis, S. ほか (2022) Transmission of COVID-19 and other infectious diseases in public washrooms: A systematic review, Science of The Total Environment 803doi.org

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