「ホッチキス」は、日本で最初に売られた紙とじ器に刻まれていた会社の名前
言葉と語源No.286

「ホッチキス」は、日本で最初に売られた紙とじ器に刻まれていた会社の名前

明治の小説の「ホチキス」は、機関砲のことだった。

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もくじ
  1. 1903年、大阪の伊藤喜商店がアメリカ製の紙とじ器を売り始めた
  2. 紙とじ器に刻まれた「HOTCHKISS」が、呼び名になった
  3. 「機関銃の発明者が考えた」という話は、確かめられていない
  4. 明治の小説には、「ホチキス」が機関砲の名前として出てくる
  5. 小型のホッチキスを広めたのは、戦闘機の部品を作っていた会社だった
  6. 深掘り講義
  7. まとめ
  8. 英語で読む(A2・4択5問)
  9. 出典・ウラ取り

外国の文房具店で「ホッチキスをください」と言っても、たぶん通じません。英語では、紙をとじるあの道具を「ステープラー(stapler)」と呼ぶからです。

ホッチキスを作っている日本の会社マックスも、自社のサイトでこう書いています。ホッチキスは、国語辞典にも載っていて、誰もが知っている文房具。なのに、外国で言ってもさっぱり意味が通じない、不思議な道具だ、と。

では、なぜ日本では「ホッチキス」と呼ぶのでしょうか。答えは、明治時代に輸入された紙とじ器の本体に、刻まれていました。

この記事では、まず「ホッチキス」という呼び名がどこから来たのかを紹介します。次に、よく聞く「機関銃の発明者が考えた」という説を確かめます。最後に、小型のホッチキスを広めた会社が、もともと何を作っていたかを紹介します。

011903年、大阪の伊藤喜商店がアメリカ製の紙とじ器を売り始めた

マックスの説明によると、日本で初めて紙とじ器を売ったのは、伊藤喜商店です。今のオフィス家具の会社、イトーキのもとになった店です。

イトーキの歴史のページによると、伊藤喜商店は、1890年12月1日に、伊藤喜十郎が大阪で始めました。発明品や特許の品を広めることを目指した店でした。事務用品の販売を増やし、西日本では「平野町のハイカラ屋」として知られたそうです。

伊藤喜商店がとくに大当たりさせたのが、2つの品でした。今ではどのオフィスにもあるゼムクリップと、紙とじ器です。どちらも、1903年(明治36年)に輸入して売り始めました。

02紙とじ器に刻まれた「HOTCHKISS」が、呼び名になった

マックスの説明によると、輸入した紙とじ器はアメリカ製でした。本体には、大きく「HOTCHKISS No・1」と刻まれていました。E・H・ホッチキス社が作った製品で、会社の名前と型の番号を刻んでいたのです。

マックスは、こう考えています。当時の日本には、この道具を呼ぶ決まった名前がありませんでした。そこで、誰が言い出したともなく、刻まれた文字のとおり「ホッチキス」と呼ぶようになった、というのです。

この製品には「HOTCHKISS PAPER FASTNER」という文字も読み取れました。ペーパーファスナーは「紙をとめる物」という意味です。当時のアメリカでは、こちらが道具のふつうの呼び名だったのかもしれない、とマックスは書いています。

E・H・ホッチキス社が、アメリカのどこにあったのかも分かります。1910年にアメリカで認められた特許に、手がかりがあります。紙とじ器の仕組みの特許です。権利を持つ会社は「コネチカット州ノーウォークのE・H・ホッチキス社」でした。この紙とじ器は、つながった帯の形の針を少しずつ送り出し、1回押すごとに1本ずつ打ちこむものでした。

1903年、伊藤喜商店は輸入した紙とじ器を売り始めた(イメージ)。
1903年、伊藤喜商店は輸入した紙とじ器を売り始めた(イメージ)。

03「機関銃の発明者が考えた」という話は、確かめられていない

「ホッチキスは、機関銃の発明者が考えた道具だ」という話があります。

この話の主人公は、ベンジャミン・B・ホッチキス(Benjamin B. Hotchkiss)です。アメリカの兵器の発明家でした。『ブリタニカ国際大百科事典』によると、1826年にアメリカのコネチカット州で生まれました。亡くなったのは、1885年のパリです。『世界大百科事典』によると、1872年に、5本の砲身を回しながら弾を続けて撃つ機関砲の特許をとりました。この砲は、1分間に60発を撃てました。

マックスによると、この人が機関銃の弾を送る仕組みをヒントに、紙とじ器を考えた、という説があります。1989年、日本テレビの番組が、ベンジャミンの出身地のコネチカット州を取材しました。地元の人は、弾を送る仕組みと針を送る仕組みは、バネを使う点でまったく同じだ、と話したそうです。でも、文献で証明することはできませんでした。

1994年には、フジテレビの番組が別の説を紹介しました。E・H・ホッチキス社を起こしたのは、ベンジャミンの弟のイーライ・H・ホッチキスだ、というのです。でも、マックスによると、こちらも文献での証明はできていません。マックスは、ホッチキスの発明者は今もはっきりしない、とまとめています。

イーライ・ハベル・ホッチキス(Eli Hubbell Hotchkiss)という人は、実際に紙とじ器の針の特許をとっています。1911年にアメリカで認められた特許です。たくさんの針を細い背骨のような部分でつないだ「針の帯」を、改良するものでした。ただ、この特許から、この人がベンジャミンの弟かどうかまでは分かりません。

04明治の小説には、「ホチキス」が機関砲の名前として出てくる

「ホッチキス」には、もう1つの顔がありました。『日本国語大辞典』は、「ホッチキス」の意味を2つ挙げています。

1つ目は、機関銃の一種です。発明者のアメリカのB・ホッチキスにちなむ名前です。古い例として、1909年の徳富蘆花の小説『寄生木』の一文が挙がっています。「機関砲はホチキス式で」というものです。

『世界大百科事典』によると、ホッチキス社が作った機関銃は、世界で広く使われました。旧日本陸軍も、1904〜05年ごろにこの機関銃を「保式機関銃」として採用し、日露戦争で使いました。

2つ目が、紙をとじる道具です。辞典は、1919年(大正8年)の新しい言葉の辞典に、この意味が出てくることを示しています。辞典が挙げる例で見るかぎり、明治の終わりの小説では、「ホチキス」は機関砲の名前として書かれていたのです。

05小型のホッチキスを広めたのは、戦闘機の部品を作っていた会社だった

手のひらに収まる小型のホッチキスを広めたのは、マックスという会社です。

マックスの説明によると、この会社は1942年に「山田航空工業」という名前で始まりました。零式戦闘機(ゼロ戦)の、尾翼の部品を作る会社でした。戦争が終わると、社名を「山田興業」に変えました。そして、「平和産業に徹し、文化に貢献する」ことを掲げて、紙とじ器を作り始めました。終戦から半年後の1946年には、もう卓上の紙とじ器を作っていました。

転機は、1952年7月でした。山田興業は、小型のホッチキス「SYC・10(シック・10)」を売り出しました。部品はわずか8点で、指先の力でとじられます。値段は200円で、それまで売っていた卓上型「ヤマコースマート」の半値以下でした。

それまでの紙とじ器は、会社の部や課で買う、大きくて重い道具でした。小型で安いSYC・10は、オフィスから学生や家庭へと広まりました。1954年、社名がマックスに変わると、製品の名前も「MAX・10」になりました。文房具店には、「マックスください」と言ってホッチキスを買いに来る人が増えたそうです。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

「ホッチキス」「ホチキス」「ステープラ」:呼び方に正式な決まりはない

マックスによると、この道具の呼び方には、実は正式な決まりがありません。

  • 新聞社などが使う用字用語集では「ホチキス」
  • 日本の工業の規格(JIS)では「ステープラ」
  • ふだんの会話では「ホッチキス」

マックスによると、「ホッチキス」は、マックスを含め、どの会社の登録商標でもありません。登録商標とは、ある会社だけが使えるように国に登録した商品名のことです。地域によっては「ジョイント」や「ガッチャンコ」とも呼ばれます。イタリアでは「クチトリッチ」と言うそうです。

「ホチキス」は、かつて商標だったとされる

資料をさかのぼると、話が少し変わります。イトーキの歴史のページによると、1903年に輸入販売を始めたゼムクリップとホチキスは、どちらも伊藤喜商店の登録商標であったとされています。また、『デジタル大辞泉』は、ホッチキスを「ステープラーの商標名」と説明しています。

ここから、次のような流れが読み取れます。アメリカの会社の名前が、日本の店の商標になったとされ、やがて誰でも使うふつうの言葉になった。今では、マックスのようなメーカーも、この言葉を自由に使っています。

日本の紙とじ器の歴史は、輸入から国産へ

マックスの説明では、日本人による紙とじ器の発明は、特許の記録では1912年が最初です。垣内清八の「自働紙綴器」と、天野修一の「A式綴紙器」でした。「A式綴紙器」は、ホッチキス社の製品とよく似ていたそうです。

1914〜15年ごろには、アメリカ製の別の紙とじ器も輸入されました。そのころの針は、鉄の板をプレスで打ちぬいた、ムカデのような形のものでした。1918年になると、伊藤喜商店の「ハト印」などが、国内で作られるようになりました。イトーキの説明では、ハト印は、鳩の姿をかたどったしゃれたデザインで、大ヒットしたそうです。

「機関銃の発明者が考えた」という説を、年代から確かめてみる

ここで、この記事で確かめた年を並べてみます。ベンジャミン・B・ホッチキスが亡くなったのは、1885年です。一方、この記事で紹介した2つのアメリカの特許は、1910年と1911年に認められたものです。どちらも、ベンジャミンが亡くなってから25年以上あとです。

もちろん、この2つの特許の年だけで、ベンジャミンが紙とじ器にまったく関わらなかった、とは言えません。もっと古い特許や記録が、どこかにあるかもしれません。ただ、少なくとも今回確かめた2つの特許には、ベンジャミンの名前は出てきません。説を確かめるには、名前が似ているという話ではなく、誰がいつ何を作ったかを示す記録が必要なのです。

「マックス」と「ホッチキス」は、どちらも名前が道具の名前になった

マックスの小型ホッチキスは、その後もよく売れ続けました。値段は少しずつ下がり、1959年には定価が100円になりました。100円の定価は、1970年まで11年間続きました。累計の販売台数は、1977年に1億台を超え、2018年には5億台に達しました。

アメリカの会社の名前が「ホッチキス」という道具の名前になり、日本の会社の名前「マックス」も、同じ道具の呼び名のように使われました。どちらも、名前が刻まれた製品が広く使われたことから始まっています。道具の呼び名は、その道具を最初に、あるいはいちばん多く人々に届けた製品の名前から生まれることがあるのです。

06まとめ

「ホッチキス」は、1903年に大阪の伊藤喜商店が輸入した、アメリカ製の紙とじ器に刻まれていた名前です。作ったのは、コネチカット州のE・H・ホッチキス社でした。「機関銃の発明者が考えた」という話は、メーカーのマックスも文献で証明できていないとしています。一方、明治の小説では、「ホチキス」は機関砲の名前として使われていました。そして戦後、戦闘機の部品を作っていた会社が、200円の小型ホッチキスを売り出し、学生や家庭にまで広めました。英語で頼むなら、「ステープラー」と言いましょう。

人に話すなら、こう言おう

ホッチキスって、アメリカの会社の名前なんだって。明治時代に輸入された紙とじ器に「HOTCHKISS」って刻んであって、それが呼び名になったらしい。英語では通じなくて、ステープラーって言うんだよ。
READ IN ENGLISH

英語で読む

A Name on a Machine

CEFR A2224 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

In Japan, people call a small tool for joining paper a "hotchkiss."日本では、紙をとじる小さな道具を「ホッチキス」と呼びます。 But if you say this word in an English-speaking country, people may not understand you.でも、英語を話す国でこの言葉を言っても、通じないかもしれません。 In English, the tool is called a stapler.英語では、この道具はステープラーと呼ばれます。

So where did the Japanese name come from?では、日本の呼び名はどこから来たのでしょうか。 In 1903, a shop in Osaka started to sell an American paper fastener.1903年、大阪のある店が、アメリカ製の紙とじ器を売り始めました。 The words "HOTCHKISS No. 1" were on the body of the machine.その機械の本体には、「HOTCHKISS No. 1」という文字がありました。 It was the name of the company that made it, the E. H. Hotchkiss Company.それは、この機械を作った会社、E・H・ホッチキス社の名前でした。 The tool had no special name in Japan then, so people probably just read the name on it.当時の日本には、この道具の決まった呼び名がなかったので、人々は刻まれた名前をそのまま読んだのだろう、と考えられています。

Some people say a man who made machine guns, Benjamin Hotchkiss, invented the stapler.機関銃を作ったベンジャミン・ホッチキスという人が、紙とじ器を発明したと言う人もいます。 But MAX, a big Japanese maker of staplers, says nobody has found papers to prove it.でも、日本の大きな紙とじ器メーカーであるマックスは、それを証明する文書は見つかっていない、と言っています。 Also, in a Japanese novel from 1909, "Hochikisu" was the name of a machine gun.また、1909年の日本の小説では、「ホチキス」は機関銃の名前でした。

After World War II, the small stapler became popular in Japan.第二次世界大戦のあと、小型の紙とじ器が日本で広まりました。 MAX started in 1942 as a company that made parts for fighter planes.マックスは、1942年に、戦闘機の部品を作る会社として始まりました。 After the war, it began to make staplers instead.戦争のあと、その会社は代わりに紙とじ器を作り始めました。 In 1952, it sold a small stapler for 200 yen.1952年、その会社は小型の紙とじ器を200円で売り出しました。 It had only eight parts.部品はわずか8つでした。 By 2018, the company had sold 500 million of them.2018年までに、その会社はそれを5億台売りました。

Today, some people in Japan say "hotchkiss" and some say "stapler."今、日本では「ホッチキス」と言う人もいれば、「ステープラー」と言う人もいます。 But when you travel, remember the English word: stapler.でも、旅行するときは、英語の言葉を覚えておきましょう。ステープラーです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When did a shop in Osaka start to sell the American paper fastener?

    大阪の店がアメリカ製の紙とじ器を売り始めたのはいつですか。

  3. Q3Why did people in Japan start to call the tool "hotchkiss"?

    日本の人々がこの道具を「ホッチキス」と呼び始めたのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "prove" is closest in meaning to ...

    第3段落の prove という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about MAX?

    マックスについて、正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • stapler名詞
    ホッチキス(紙とじ器)

    Can I use your stapler?

    あなたのホッチキスを使ってもいい?

    💡 針は staple。動詞 staple で「ホッチキスでとめる」。

  • tool名詞
    道具

    A hammer is a useful tool.

    金づちは役に立つ道具だ。

    💡 toolbox は「道具箱」。

  • company名詞
    会社

    My father works for a car company.

    父は自動車会社で働いている。

    💡 「仲間・一緒にいること」の意味もある(keep me company 一緒にいて)。

  • invent動詞
    発明する

    Who invented the telephone?

    誰が電話を発明したの?

    💡 名詞は invention(発明)、inventor(発明者)。

  • prove動詞
    証明する

    Can you prove that you were at home?

    家にいたことを証明できますか。

    💡 名詞は proof(証拠)。

  • machine gun名詞
    機関銃

    The museum shows an old machine gun.

    その博物館には古い機関銃が展示されている。

    💡 弾を続けて撃てる銃。gun(銃)の一種。

  • part名詞
    部品、一部

    This toy has many small parts.

    このおもちゃには小さな部品がたくさんある。

    💡 part of ... で「〜の一部」。

  • million名詞
    100万

    The city has two million people.

    その市の人口は200万人だ。

    💡 500 million は「5億」。million に s はつけない(two million)。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 20件)。

  1. なぜホッチキスと呼ばれているの?/発明者は誰?/日本とホッチキスの出会い/ホッチキスの変遷(マックス株式会社「ホッチキス物語」)max-ltd.co.jp
  2. イトーキの歩み(株式会社イトーキ)itoki.jp
  3. ホッチキス(精選版 日本国語大辞典/デジタル大辞泉/改訂新版 世界大百科事典 ほか、コトバンク)kotobank.jp
  4. Jessup, W. C. & Muth, J. US Patent 971,130 "Stapling-machine"(1910、E. H. Hotchkiss Co.)patents.google.com
  5. Hotchkiss, E. H. US Patent 995,677 "Staple-strip"(1911)patents.google.com

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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